著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権等譲渡契約の対象に商標権が含まれるかが争われた事例
「『宇宙戦艦ヤマト』商標登録抹消請求事件」
平成120928日東京地方裁判所(平成11()18820 

【コメント】以下の判示中、「破産法59条」は現53条に、「破産法72条」は現160条に、それぞれ相当します。

[破産法53条(双務契約)1]

双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。

[破産法160条(破産債権者を害する行為の否認11]

次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。 


 [前提となる事実関係(当事者間に争いがない。)]
 
【A】に対して、平成9227日に債権者から東京地方裁判所に破産の申立てがされ、同年916日、同裁判所により【A】の破産決定がされ、弁護士【B】が破産管財人に選任された(以下、【A】を「破産者」といい、その破産管財人を「管財人」という。)。
 
破産者が有していた別紙目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)について、同年122日から同年319日にかけて、破産者の長男である被告名義への移転登録の申請がされ、同年310日ないし526日付で同目録記載の移転登録がされている。また、破産者は、平成81220日、参加人との間で、劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」の著作権等を対象とする著作権等譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結していた
 
そこで、管財人は、平成105月に、被告に対して、破産者による本件商標権の被告への譲渡を破産法725号又は同条1号に基づき否認する旨の内容証明郵便を送付した。他方、本件譲渡契約については、参加人から譲渡代金支払の申出があったことから、管財人は、破産法591項に基づき履行の選択を行った
 
そして、管財人は、右を前提として、被告に対して本件商標権の譲渡について否認権を行使して移転登録の抹消を求め、参加人に対して本件譲渡契約に基づく譲渡代金の支払を求める訴訟を提起した。これが@事件である。
 @事件において、管財人と参加人との間で、本件商標権が本件譲渡契約の対象に含まれていることを認め、参加人が管財人に右譲渡の代金を支払い、管財人が本件商標権について参加人への移転登録手続を行うことなどを内容とする裁判上の和解が成立した。
 
参加人は、右和解が成立したことから、被告に対して、本件商標権についての移転登録の抹消を求めて、@事件に独立当事者参加をした。これがA事件である。
 
A事件が提起された後、管財人は、被告の承諾を得て、@事件から脱退した。
 
(略)
 
[否認権行使の可否について]
 
…によれば、本件商標権の譲渡は、本件商標権の移転登録の申請がされた平成9122日から同年319日ころに行われたものと認められ、破産者がその有する重要な財産である商標権を他へ譲渡するというもので、破産債権者を害する行為というべきである。しかも、右譲渡については、被告から破産者に対して何らかの対価が支払われたことをうかがわせる証拠は存在しない。被告は、破産者の長男であり、右譲渡の行われた当時23ないし24歳という若年であり、自身が固有の財産を有していたということはもちろん、一定の職に就いていたという証拠さえ存しないものであるところ、管財人の当法廷における供述によれば、破産直後における管財人からの質問に対して、破産者は、本件商標権につき被告への移転登録をした理由として、破産者が今後また作品を作るに当たって商標は大切なものであるから、他人に渡したくない旨を述べており、また、管財人が本件商標権の移転登録の抹消を求めて被告と折衝した際に、被告から、何らかの対価を支払った旨の対応はされなかったというのである。これらを総合すれば、本件商標権の譲渡は無償のものと認めるのが相当である。そうすると、前記時期に行われた本件商標権の譲渡に対し、管財人は否認権を行使し得、これにより、本件商標権の譲渡は、その効力を失ったものというべきである。
 
[本件譲渡契約の対象について]
 
…によれば、以下の事実が認められる。
 
破産者は、平成81220日、参加人との間で、自らが関与する訴外株式会社ウエスト・ケープ・コーポレーション、同株式会社ボイジャーエンターテインメント(以下、「訴外両会社」という。)をも当事者として、劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」等の著作権などを対象とする本件譲渡契約を締結した。本件譲渡契約は、その14項において、当該契約の「対象権利」は、「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする一切の権利」と定義している。管財人は、右契約に基づき、参加人に対して財産権移転の義務を負っていたことから、破産法591項により双務契約の義務の履行を選択し、マスターテープ等の素材の引渡しを行った。
 
@事件において、管財人は、平成111126日、参加人(この時点では@事件被告)と裁判上の和解をした。右和解条項において、管財人は、本件譲渡契約14項の対象権利の中には対象作品の商標権が含まれており、本件商標権はこれに含まれることを認め、本件商標権につき参加人への移転登録手続を行う旨の意思表示をし、また、@事件における被告に対する本件商標権の移転登録の抹消請求を参加人に承継させる趣旨で、参加人によるA事件提起の後、@事件から脱退する旨を確認した。
 
本件譲渡契約は、11項ないし3項において、破産者が著作権を有する劇場用映画「宇宙戦艦ヤマト」等の映像著作物を「現存作品」と、破産者が将来完成させる「YAMATO 2520 VOL.47」等の映像著作物を「将来作品」と、現存作品及び将来作品を併せたものを「対象作品」と定義した上で、同条4項において、「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする権利」を「対象権利」と定義している。そして、2条において、破産者は参加人に対して、対象権利及びこれを収録したフィルム、テープ等の所有権の一切を譲渡すること、ただし、対象権利及びそのフィルム、テープ等のうち将来作品に関するものは、その完成を条件に破産者から参加人に譲渡することを定めている。また、4条においては、破産者及び訴外両会社が対象作品について第三者との間で締結した契約について、契約上の地位を参加人に譲渡する旨を定めているところ、右契約によって第三者に許諾した権利の中には、対象作品の登場人物等のキャラクター権、プラモデル権等が含まれている
 
そうすると、本件譲渡契約における譲受人がその後の事業を展開する中では、単に対象作品の作品としての利用のみにとどまらず、キャラクターの商品化等の様々な利用形態が考えられるのであるから、譲受人によるこのような対象作品の利用のためには対象作品に関する著作権以外のすべての権利、すなわち商標権、意匠権等を含めた権利を、本件譲渡契約の対象として譲受人に移転する必要があり、他方、このような権利を譲渡人において留保する実益はなく、かえって、これらの権利が第三者に譲渡された場合には譲受人の権利行使を阻害する結果となる。このような点を考えると、本件譲渡契約の対象には、対象作品の著作権のみならず、これに関する商標権、意匠権等も含まれると解するのが、契約当事者の合理的な意思に合致するものというべきである。
 
この点に関して、被告は、本件譲渡契約に新たな映像作品を制作する権利や買戻権が被告に留保されていることなどを根拠に、本件譲渡契約は、映画著作物等を参加人に売り切る形のものでなく、映画著作物等を信託的に譲渡し、運用する契約であり、商標権を含むものではない旨を主張する。しかしながら、本件譲渡契約の内容を全体として検討しても、原告主張のような趣旨での契約とは解されず、本件譲渡契約に譲渡人に買戻権を認める条項があることは、同契約14項の「対象権利」を限定する根拠とはならない。この点についての被告の主張は、採用できない。のみならず、そのように限定する解釈は、参加人における「対象権利」の有効かつ円滑な利用の妨げとなるので、契約当事者の意思に反するものというべきで、採用できない。
 
そうすると、参加人は、右契約により、破産者から本件商標権をも譲り受けたと解すべきであり、その履行が行われなかったため、破産宣告後、管財人がこれを履行することを選択した場合、破産管財人の履行により、当該商標権も参加人に移転されたと解すべきである。
 
[結論]
 
以上検討の結果を踏まえると、否認権は、私法上の形成権として、破産管財人が訴状若しくは準備書面の相手方への送達又は口頭弁論期日における意思表示をしたことにより効力を生じるものであるから、@事件における管財人の否認権の行使により、破産者から被告への本件商標権の譲渡はその効力を失い、本件商標権は、破産財団に復帰したものであるところ、本件譲渡契約について管財人が破産法591項に基づき履行の選択を行っているのであるから、本件商標権は破産財団から参加人に移転したものというべきである。したがって、本件商標権についての権利を管財人から承継した参加人が、被告に対してその移転登録の抹消手続を求めるA事件における請求は、理由がある。











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