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商標権侵害の主張が権利濫用に当たると認定された事例(2)
「ゲームソフト『ぼくは航空管制官』事件」平成140531日東京地方裁判所(平成13()7078 

【コメント】本件は、原告が、被告に対して、原告の有する商標権に係る商標と同一の標章を付してゲームソフトを販売する被告の行為が商標権を侵害するとして損害賠償を請求した事案です。
 
本件における事実関係は、次のとおりです。
原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する。
 
「指定商品」…「家庭用テレビゲームおもちゃ」
 
「登録商標」…「ぼくは航空管制官」(標準文字)
被告は、平成13321日から、ゲームボーイアドバンス(携帯用ゲーム機)版ビデオゲーム用ソフト(「被告ソフト」)を販売している。被告ソフトの外箱には「ぼくは航空管制官」との文字が表記されている(以下、「ぼくは航空管制官」の標章を被告標章という場合がある。)。被告標章は、本件商標と同一である。 


 [商標的使用の有無,商標権の効力の範囲について]
(1) 事実認定
 
…によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
 
被告ソフトは,プレーヤーが,実在する複数の空港を想定して,飛行機離発着等に関する管制業務を担当する航空管制官の業務を体験するシミュレーションゲームであり,携帯ゲーム機であるゲームボーイアドバンス版として開発・販売されたゲームソフトである。被告ソフトは,実際の空港や航空機などをデフォルメした画像を通して,各空港における滑走路の状況,気象条件や各航空会社の運行スケジュールなどを考慮しながら,航空管制官としていかに正確かつ適切な運営を行うことができるかを競うものである。
 
被告ソフトは,約8センチメートル(縦)×約13センチメートル(横)×約2センチメートル(高さ)の大きさの外箱に入れられて販売されている。箱表面の右中央には,上から順に,@「航空管制シミュレーションゲーム」との文字が紺色で小さく,Aその下方に,「ぼくは航空管制官」の文字が,約1センチメートル(縦)×約75センチメートル(横)の範囲にオレンジ色で大きく,Bその下方に,滑走路の図柄が直線上に小さく,それぞれ表記されている。箱表面のその他の部分には,「ゲームボーイアドバンス」との文字,著作権者としてTechnoBrainCO,LTDの文字,発売元として「TAM」「株式会社タム」の文字,テクノブレイン社の登録商標である「Lichterfelde」の文字,航空機や空港等の絵などが,それぞれ表記されている。また,箱の側面(3箇所)及び裏面にも,「ぼくは航空管制官」の文字が表記されている。
(2) 判断
 
以上認定した事実,すなわち,@被告ソフトの外箱の表面,側面及び裏面に,「ぼくは航空管制官」の文字が,大きくかつ目立つ色で表記されていること,A被告ソフト及びその外箱には,「ぼくは航空管制官」の文字を除いて他に,被告ソフトと他社の商品とを区別するための標章は存在しないと解されること,B「ぼくは航空管制官」の文字の上方には「航空管制シミュレーションゲーム」と記載されているが,被告ソフトの内容は,同記載によって端的に説明されていると解されること等の点を総合すれば,被告標章「ぼくは航空管制官」部分こそが,自他商品を識別するための標識としての機能を果たしているというべきである。
 
以上のとおり,被告標章は,被告ソフト又はその出所を識別するために付されたものであって,商標的に使用されていると解される。また,上記認定した使用態様に照らすならば,被告標章は,商品の普通名称,品質等を普通に用いられる方法で表示されたものと解することもできない。
 
被告の主張は採用できない。
 
[権利の濫用について]
(1) 事実認定
 
…によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
 
(テクノブレイン社によるテクノブレイン社ソフト販売の経緯)
 
テクノブレイン社は,平成108月,航空管制官の業務に関するシミュレーションゲームである「ぼくは航空管制官」のパソコン版(テクノブレイン社ソフト)を開発し,発売した。テクノブレイン社ソフトは,プレーヤーが,実在する複数の空港を想定して,飛行機離発着等に関する航空管制官の業務を体験するシミュレーションゲームであり,実際の空港や航空機などをデフォルメした画像を通して,各空港における滑走路の状況,気象条件や各航空会社の運行スケジュールなどを考慮しながら,航空管制官としていかに正確かつ適切な運営を行うことができるかを競うものである。テクノブレイン社は,テクノブレイン社ソフトを製作,販売するに際して,実在の航空会社の航空機の機体画像を使用することについて,複数の航空会社からの許諾を得たり,また財団法人航空交通管制協会から監修を受けるなどした。
 
(略)
 
このように,テクノブレイン社発売のテクノブレイン社ソフトは,人気を博し,大ヒット商品となり,著名な大型小売店でのパソコンソフトの部門別週間販売実績で1位となるなどの成績を収めた。また,航空関係など各種雑誌にも,テクノブレイン社によりパワーアップキットなどを含む一連のテクノブレイン社ソフトのシリーズの広告が掲載された。
 
(テクノブレイン社の原告に対するゲーム製作等の許諾)
 
テクノブレイン社は,平成1168日,原告に対し,ゲームソフト「ぼくは航空管制官」の製作,販売に関して許諾を与えた。すなわち,テクノブレイン社は,原告が,ゲームソフト「ぼくは航空管制官」のゲーム内容,グラフィック,音声を使用して,プレイステーション向けゲームソフト「ぼくは航空管制官」を開発して,プレイステーション版ソフトを,非独占的に製作,販売することについて許諾を与えた
 
原告は,上記許諾契約に基づき,テクノブレイン社から製品化に必要な飛行機や飛行場のグラフィック画像や,ゲームシナリオの提供を受けるなどした。また,テクノブレイン社は,航空会社から受けた航空機のグラフィック等に必要なライセンスについて,原告に対する再許諾に関して覚書を締結するなどした。
 
原告は,平成1112月,同許諾契約に沿って,プレイステーション版「ぼくは航空管制官」を発売した。
 
(略)
 
(テクノブレイン社の被告に対するゲーム製作等の許諾)
 
テクノブレイン社は,高性能の携帯用ゲーム機である「ゲームボーイアドバンス」が任天堂より発売されることを知り,「ぼくは航空管制官」をゲームボーイアドバンス版に移植する計画を立てた。テクノブレイン社は,まず原告に対して製作等の許諾を受ける意向があるかについて打診したが,原告が許諾を受ける意思がない旨回答したため,被告に対して許諾することにした
 
被告は,平成12824日,商品展示会「任天堂スペースワールド2000」において,ゲームボーイアドバンス版ゲームソフトについて「ぼくは航空管制官」のタイトルで発売することを発表し,平成13321日,被告ソフトを発売した。
 
(原告の本件商標出願等の経緯)
 
原告は,平成12824日に「任天堂スペースワールド2000」が開催され,被告ソフトの発売が公表され,これを知った直後である平成121012日,テクノブレイン社の許諾を得ずに,本件商標の出願手続を行った。原告は,早期審査の請求を行い,平成13223日に本件商標権は登録された
 
(略)
 
テクノブレイン社は,平成1346日,本件商標につき,法3条,4110号,同19号に該当することを理由として,特許庁に対し,商標登録異議の申立てを行った。
 
平成131226日,本件商標権の登録を維持する旨の決定がされた。
 
テクノブレイン社は,平成13416日,主位的には原告との著作権許諾契約を解除する旨,また,予備的には平成1368日で契約期間が満了することに伴って解約する旨,意思表示をした。
 
(略)
(2) 判断
 
上記の事実によれば,原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は,権利濫用に当たり許されない。すなわち,
 
まず,「ぼくは航空管制官」の標章は,以下のとおり,テクノブレイン社に由来するものである。すなわち,@同標章は,テクノブレイン社が,航空管制官の業務についてのシミュレーションゲームであるテクノブレイン社ソフトとして開発,販売し,大ヒット商品となった結果,テクノブレイン社ソフトを示す標章として周知となったこと,Aこれに対し,原告は,プレイステーション版「ぼくは航空管制官」の開発・販売について,テクノブレイン社から非独占的に許諾を受けたライセンシーにすぎず,原告とテクノブレイン社との著作権許諾契約は,上記プレイステーション版ソフトの開発,製作,販売に限られていること,Bテクノブレイン社は,自ら開発したゲームソフトである「ぼくは航空管制官」について,各種のゲーム機等に対応する各種のソフトの開発,製造,販売を他社に許諾することも自由にできること,C被告は,前記のとおり,テクノブレイン社から,被告ソフトを販売することについて,正当に許諾を受けていること,D原告及び被告は,共にテクノブレイン社のライセンシーという立場であること等の事実に照らすならば,「ぼくは航空管制官」の標章は,テクノブレイン社の商品(又は同社の許諾を受けた商品)であることを示す標章と解すべきであり,原告の独自の商品を示す標章ということはできない(なお,テクノブレイン社と原告との間のプレイステーション版「ぼくは航空管制官」に関する著作権許諾契約は,遅くとも平成1368日までに解除ないし解約され,現在は両者間に有効な契約が存しない。)。
 
次に,原告の本件商標権に基づく請求は,公正な動機に基づくものとはいえない。すなわち,@原告は,被告が平成12824日に,被告ソフトの発売を公表して,発売予定を知った直後の平成121012日,テクノブレイン社の許諾を得ずに,本件商標の出願手続を行ったこと,A原告は,被告ソフトが平成13年春発売予定であることを理由として,早期審査の請求をしていること,B原告は,被告に対して,著作権侵害及び不正競争防止法違反を理由として,二回にわたり警告を発したりしていること等の事情に照らすならば,原告が本件商標を出願し,登録を受けた本件商標権に基づき本訴請求をしたのは,テクノブレイン社から実施許諾を得て,被告ソフトを製造,販売する被告の行為を不法に妨げる目的でされたものとみるのが相当である。
 
原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は,被告ソフトの製造について許諾を与えたテクノブレイン社の標章と同一の標章を自ら商標登録した上,本件商標権に基づいて権利行使されたものであり,また,その目的も,テクノブレイン社のライセンシーの製造,販売を妨げるためにされたものと解されるから,正義公平の理念及び公正な競争秩序に反するものとして,権利の濫用に当たり許されないというべきである。











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