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教科書準拠国語テストにおける同一性保持権侵害性
小学校用国語教科書準拠国語テスト事件B」平成180331日東京地方裁判所(平成15()29709 

 同一性保持権侵害について
 
著作権法201項は,著作者が著作物の同一性を保持する権利を有し,その意に反して改変を受けないことを規定するところ,著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであるから(著作権法211号参照),著作者の意に反して思想又は感情の創作的表現に同一性を損なわせる改変が加えられた場合に同一性保持権が侵害されたというべきである。原告らの本件各著作物は,いずれも児童文学作品等であり,文字によって思想又は感情が表現された言語の著作物であるから,本件国語テストによる別紙(変更内容一覧表)の「変更箇所」欄記載の本件各著作物の変更が,同法201項所定の同一性保持権の侵害に当たるか否かは,原告らの意に反して本件各著作物の思想又は感情の創作的表現に同一性を損なわせる改変が加えられたか否か,すなわち,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせたか否かによって判断すべきである。
 そして,同一性保持権は,著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨で規定された権利であり,侵害者が無断で著作物に手を入れたことに対する著作者の名誉感情を法的に守る権利であるから,著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき,すなわち,通常の著作者であれば,特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは,意に反する改変とはいえず,同一性保持権の侵害に当たらないものと解される。
 
(略)
 
そこで,以下,原告らの主張する変更内容につき,同一性保持権の侵害に当たるか否かを判断する。
 
(略)
 
これらの変更は,本件各著作物にある単語,文節ないし文章を削除し,本件各著作物にない単語,文節ないし文章を加筆し,本件各著作物の単語を全く別の単語に置き換え,又は本件各著作物にある単語を空欄にするなどしたものである。このような変更は,いずれも,文字による表現自体を変更するものであるから,本件各著作物における文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損ない,原告らの人格的利益を害しない程度のものとはいえないから,著作権法201項所定の同一性保持権の侵害に当たるというべきである。
 
被告らは,本件国語テストの変更箇所には,本件各教科書の表記に従い,同教科書に記載されているとおりの変更をしたものがあり,それらは改変に当たらない旨主張する。
 
しかしながら,教科用図書に本件各著作物を掲載するに当たり,学校教育の目的上やむを得ないと認められる用字又は用語の変更その他の改変は,著作権法2021号により,同一性保持権の保護が適用されないが,本件国語テストは,教科用図書ではないから,これと同一に論じることができない。そして,教科用図書への掲載に際して改変することと,本件国語テストにおいて改変することとは,全く別個の行為であって,前者の改変が同一性保持権侵害に当たらない場合があるとしても,後者の改変が当然に同一性保持権侵害に当たらないことにはならない
 
改変に当たるか否かを判断する際に対比すべきは,本件各著作物と本件国語テストであり,その両者の対比において変更箇所があって,その改変に当たるというべきである。
 
もっとも,著作者自身が教科書掲載に当たり著作物の表現を変更し,本件国語テストにおいて教科書の表現どおりにそのまま著作物の表現を変更した場合には,意に反する改変ということはできない。すなわち,当該国語テストが著作者自身において表現を変更した教科書の表現と同一のものである限り,著作者の意に反する改変とはいえない。しかしながら,本件において,学校図書及び光村図書の「白いぼうし」については,著作者である原告A自身が教科書掲載に当たり本件著作物を改稿したものであるが,光村図書の教科書に準拠した本件国語テストに関する別紙…においては,上記教科書の表現と同一ではなく,これを更に変更したものであるから,同一性保持権侵害を免れない。また,同様に,日本書籍の「沢田さんのほくろ」についても,著作者である原告AA自身が教科書掲載に当たり本件著作物を書き改めたものであるが,日本書籍の教科書に準拠した本件国語テストに関する別紙…においては,上記教科書の表現と同一ではなく,これを更に変更したものであるから,同一性保持権侵害を免れない。
 
被告らは,上記の変更は,テスト問題を作成するにあたり,解答に直接必要な箇所のみを掲載するために,直接必要でない部分を掲載の対象から外したり,教科書の掲載外の部分における説明を付記したにすぎず,これらの改変は,教科用教材としての本件国語テストの性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変であり,著作権法2024号により,原告らの同一性保持権を侵害するものではないとも主張する。
 
しかしながら,著作権法2024号は,同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり,かつ,同じく改変が許される例外的場合として同項1号ないし3号の規定が存在することからすると,同項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには,著作物の性質,利用の目的及び態様に照らし,当該著作物の改変につき,同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。本件国語テストは,学年別学期別に編集された教科書準拠副教材であって,教科用図書に準じるという一定の必要性は認められるものの,教科用図書とは異なるものであるから,同項1号に定める場合に当たらないことは明らかである。また,上記改変について,同項1号ないし3号に定める場合と同程度の必要性が存在するとまではいえないし,その他被告らが主張する事情をもってしても,人格的要素が反映された文芸作品であるという本件各著作物の性質に照らし,本件国語テストの発行に当たり上記各著作物に改変を加えるにつき,上記のような必要性が存在するということはできない。したがって,著作権法2024号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するということはできず,被告らの上記主張は理由がない。
 
(略)
 
これらの変更は,本件各著作物にはない挿絵や写真が付加されているものである。そもそも,言語の著作物である本件各著作物と挿絵や写真は,それぞれ別個の著作物であるから,挿絵や写真がなければ著作者の文字による思想又は感情の表現が不完全になるとか,著作者が文字による表現を視覚的表現によって補う意図で自ら挿絵や写真を挿入するなど,文字による表現と挿絵や写真とが不可分一体で分離できない場合に,挿絵や写真を変更することにより,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるなどの特段の事情のない限り,同一性保持権の侵害には当たらないというべきである。
 
別紙…は,いずれも,挿絵又は写真が差し替えられたものであるところ,文字による表現と挿絵や写真とが不可分一体で分離できない場合に当たらず,挿絵や写真を変更することにより,言語の著作物の文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。また,これらの挿絵や写真の付加は,通常の著作者であれば,特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであり,著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものと認められるから,意に反する改変とはいえず,同一性保持権の侵害には当たらないものと解される。
 
(略)
 
これらの変更は,本件各著作物に傍線や波線を付加したものである。このような変更は,いずれも,本件各著作物の文字による表現自体の変更ではなく,傍線や波線等を付加したからといって,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,そもそも改変には当たらない。
 
(略)
 
別紙…の符号は,字体を太字に変更したものである。また,別紙…の符号は,分かち書きにしたものである。別紙…の符号及び別紙…の符号は,段落の上部に番号を付加したものである。このような変更は,いずれも,本件各著作物の文字による表現自体の変更ではなく,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,そもそも改変には当たらない。
 
別紙…は,教師用の注意書を加筆したものであるが,ここにおける文章等の加筆は,注意書として本件著作物の欄外に表示されたものであることが表現形式上明らかであり,本件著作物自体を変更したものとはいえない。よって,このような変更は,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,この変更は,そもそも改変には当たらない。
 
別紙…の変更は,11学期の本件各教科書中の一節「あおいうみがみえた。しろいふねもみえた。」の一部を取り出して,ひらがなを四角いマスの中に書いて練習させるものである。そして,これらの本件国語テストにおけるわずか「あおいうみがみえた。しろいふねもみえた。」の記載から,本件著作物の表現上の本質的特徴を感得することは困難であるから,そもそもこれが本件著作物を改変したものということはできない
 
また,これらの本件国語テストにおいては,左脇又は空欄としたマスの中に,練習すべき文字が別途記載されているから,このような変更は,いずれも,同著作物の文字による表現自体の変更ではなく,文字によって表された思想又は感情の創作的表現の同一性を損なわせるとはいえない。したがって,これらの変更は,同一性保持権の侵害には当たらない。











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