著作権重要判例要旨[トップに戻る]







原盤権の利用許諾の拒絶行為が独禁法違反と認定された事例
「‘着うた’提供事業独禁法違反事件平成220129日東京高等裁判所(平成20(行ケ)19等) 

【コメント】本件は、被告が、「原告ら」(又は「原告ら4社」という。原告ら4社とP6を合わせて「5社」という。)が、いわゆる着うた提供事業に関し、5社の共同出資により運営される会社(P7株式会社。以下「P7」という。)に着うた配信業務を業務委託する一方、共同して、他の着うた提供業者に対してはその事業のために必要な楽曲の原盤権(著作権法96条ないし97条の3に規定する権利に含まれる。)の利用許諾を拒絶している行為(以下「本件違反行為」ともいう。)が不公正な取引方法(「本件告示」)11号に該当し、独占禁止法19条の規定に違反するものであるとして、平成17324日、5社に対し「本件勧告」を行ったが、本件勧告を原告ら4社が応諾しなかったため、審判手続が開始され、当該審判手続を経た後、平成20523日付け審決案が出されたが、原告らが異議を申し立てたため、平成20724日、被告は、5社の行為が本件告示11号に該当し、独占禁止法19条の規定に違反するものであると認定して、同法541項に基づき排除措置を命ずる審決をしたところ(「本件審決」)、原告ら4社が本件審決の取消しを求めて提訴した事案です。

 
なお、「着うた提供事業」とは、「音楽用コンパクトディスク(「CD」)発売用等に製作された原盤を使用して、原盤に録音された歌声等の楽曲(音源)の一部を携帯電話の着信音(着うた)として設定できるように配信する事業」のことです。 


 5社が共同して原盤権の利用許諾を拒絶していたか否かについて
 
[取引拒絶の共同性についての判断基準]
 
独占禁止法19条は「事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない」と規定し,同法29項柱書は「この法律において「不公正な取引方法」とは,次の各号のいずれかに該当する行為であって,公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち,公正取引委員会が指定するものをいう。」と規定し,本件告示1項柱書は,「正当な理由がないのに,自己と競争関係にある他の事業者(以下「競争者」という。)と共同して,次の各号のいずれかに掲げる行為をすること」と規定し,その1号は「ある事業者に対し取引を拒絶し又は…すること」と定めている。ここにいう「共同して」に該当するためには,共同取引拒絶の規制の趣旨が,拒絶者集団が意思の連絡をもって共同で取引を拒絶する行為が被拒絶者の市場における事業活動を不可能又は著しく困難にし,ひいては不公正な取引につながる弊害があるため,その弊害を除去することにあること,しかし,反面において,そのような意思の連絡のない外形的に一致したにすぎない取引拒絶行為をも規制することとなれば,事業者の経済行為の自由に対する過度の規制となり得ること,を踏まえれば,単に複数事業者間の取引拒絶行為の外形が結果的に一致しているという事実だけでなく,行為者間相互に当該取引拒絶行為を共同でする意思すなわち当該取引拒絶行為を行うことについての「意思の連絡」が必要となるものと解すべきである。そして,この場合の「意思の連絡」とは,複数事業者が同内容の取引拒絶行為を行うことを相互に認識ないし予測しこれを認容してこれと歩調をそろえる意思であることを意味し,「意思の連絡」を認めるに当たっては,事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく,他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りるものと解すべきである。
 
(略)
 
[判断]
 
上記の各事実によれば,5社は,着メロ提供事業においては,誰でも容易に音源を作成してユーザーに楽曲のメロディーを提供する事業を開始することができ,原盤権を保有等するレコード会社に利益がもたらされないことに大きな不満を持っていたところ,新規事業である着うた提供事業は,着メロ提供事業とは異なり,原盤に録音された歌声等の楽曲(音源)の一部をユーザーに提供する事業であり,事業を開始するにあたっては楽曲の原盤権の利用許諾を得る必要があることから,原盤権を保有等するレコード会社が事業を行うについて極めて優位な立場にあることを利用し,原盤権を保有等するレコード会社が結束してP7を通じて率先して着うた提供事業という新規市場を開拓することによって,レコード会社以外の者の参入をできるだけ排除し,5社の原盤権に基づく利益を確保することを意図して,着うた提供事業を開始したものということができる(P7は,その設立当初から,P7自体には利益を留保せず,レコード会社に利益を分配することが前提とされていた。そして,5社は,P7による着うた提供事業が軌道に乗った後は,他の着うた提供業者の参入によって着うたの配信価格の安定が脅かされることのないよう,他の着うた提供業者に対して利用許諾の方法では楽曲を提供しないこととし,それに代わる対応策として,P7の運営委員会等においてアフィリエート戦略を検討してきたものと認められる。そして,結果的にも,5社は,他の着うた提供業者に対して,当該業者が着うたの配信価格を設定できる利用許諾の形態での楽曲の提供はほとんど行っていないのである。
 
これらの事情を総合考慮すれば,5社は,それぞれ,他の着うた提供業者が価格競争の原因となるような形態で参入することを排除するためには他の着うた提供業者への原盤権の利用許諾を拒絶することが有効であること(他の業者に対する楽曲の提供を拒絶しきれない場合にはアフィリエートを認めることが対応策であること)を相互に認識し,その認識に従った行動をとることを相互に黙示的に認容して,互いに歩調をそろえる意思であった,すなわち,5社には原盤権の利用許諾を拒絶することについて意思の連絡があったと認めることができるものである。
 
[原告らの主張について]
 
原告P2及び同P3は,着うた提供業者に対する原盤権の利用許諾の拒絶に関して,「原盤権の利用許諾を拒絶することは,著作権法上,原盤権者に認められた正当な権利行使である。」,「原盤権の利用拒絶は,原告P2及び同P3のそれぞれ独自の健全な経営判断に基づくものである。」,…,と主張する。
 
しかしながら,原告P2及び同P3の上記各主張は,要するに,原盤権者の立場から着うた提供業者に利用許諾を拒絶する行為の法的正当性,経済的合理性を強調し,それゆえに原告P2及び同P3による利用許諾の拒絶行為の共同性が否定される,とするものであるが,本件審決は,このような原盤権の利用許諾の拒絶行為を5社が意思の連絡の下に「共同して」行ったことが独占禁止法に違反する違法な行為であると判断しているのであり,先に認定判断したとおり,本件に表れた一切の事情を考慮すれば,5社が意思の連絡の下に共同してP7以外の着うた提供業者に対して利用許諾を拒絶する行為を行っていたことは優に認められるというべきであって,そのような利用許諾の拒絶行為を5社が個別に行っていた場合にはそれが著作権法の観点から適法であって経済的合理性を有する行為であると評価できるとしても,そのことは,本件において5社が意思の連絡の下に共同して利用許諾を拒絶していたとの事実認定やそれが独占禁止法に違反する違法な行為であるとの評価を左右するものではないというべきである。…
 
(略)
 
原告P1は,「本件において5社間に原盤権の利用許諾の拒絶について「意思の連絡」があるというためには,少なくとも,@原盤権の利用許諾の拒絶に関連する5社間の事前の連絡交渉が存在すること,A原盤権の利用許諾の申し込みに対する拒絶行為の一致が不自然なものであること,B他の事業者の行動とは無関係に独自の判断によって原盤権の利用許諾の申し入れに対する拒絶を行ったものではないこと,の3つの要件を全て満たす必要がある。」,と主張する。
 
確かに,原盤権を保有等する5社が個別に特定の着うた提供業者(P7)には業務委託を行いそれ以外の着うた提供業者には利用許諾を拒絶するということは,何ら違法ではなく,自らが出資したP7の利益ひいては自らの利益を図るために,P7にのみ楽曲を提供し他の着うた提供業者には利用許諾を拒絶するという行為は,経済的合理性に適った行為ということもできるから,結果的に5社のいずれもがP7以外の着うた提供業者に利用許諾を拒絶したことは,それ自体は不自然な行為とまではいえないものである。
 
しかしながら,5社それぞれが個別に行う原盤権の利用許諾の拒絶行為が上記のとおり適法かつ自然な行為と評し得るとしても,5社が意思の連絡の下に共同して取引拒絶をすれば,それは独占禁止法19条,29項,本件告示11号に違反する違法な行為となるものであり(5社それぞれが有する著作隣接権に基づく原盤権の利用許諾の拒絶行為も,それが意思の連絡の下に共同してなされた場合には,それぞれが有する著作隣接権で保護される範囲を超えるもので,著作権法による「権利の行使と認められる行為」には該当しないものになる。),そして,意思の連絡があったというためには,前記で述べたとおり,事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく,他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りるものと解すべきであるから,原告P1の上記主張は採用することができないものである。
 
(略)
 
[まとめ]
 
以上のとおりであり,原告らは,原盤権の利用許諾をP7以外の着うた提供業者に対して意思の連絡の下に共同して拒絶していたものであり,それによって公正な競争を阻害するおそれがあり,現在においてもその排除措置の必要性は認められるから,本件審決を取り消すべき事由は認められないものである。原告らの本件各請求はいずれも理由がない。











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