著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著名な著作物の原題と同じ商標に対する商標法417号適用の可否
「『
Anne of Green Gables』商標無効審判事件」平成180920日知的財産高等裁判所(平成17(行ケ)10349 

【コメント】本件商標は、カナダ国の小説家ルーシー・モウド・モンゴメリ(以下「本件原作者」又は「モンゴメリ」という。)が著した著名な小説(邦題「赤毛のアン」。以下「本件著作物」という。)の原題である「Anne of Green Gables」との文字から構成されるものであり、その商標権者は原告である。本件は、被告であるカナダ国プリンス・エドワード・アイランド州が、同商標の所定の指定商品について無効審判請求をしたところ、特許庁が、同指定商品についての商標登録は、我が国と被告を含むカナダ国政府との間の国際信義に反してなされたものであり、商標法417号の規定に違反して無効であるとの審決をしたため、原告が同審決の取消しを求めた事案です。 

 以上のとおり,@本件商標は,世界的に著名で高い文化的価値を有する作品の原題からなるものであり,我が国における商標出願の指定商品に照らすと,本件著作物,原作者又は主人公の価値,名声,評判を損うおそれがないとはいえないこと,A本件著作物は,カナダ国の誇る重要な文化的な遺産であり,我が国においても世代を超えて広く親しまれ,我が国とカナダ国の友好関係に重要な役割を担ってきた作品であること,Bしたがって,我が国が本件著作物,原作者又は主人公の価値,名声,評判を損なうおそれがあるような商標の登録を認めることは,我が国とカナダ国の国際信義に反し,両国の公益を損なうおそれが高いこと,C本件著作物の原題である「ANNE OF GREEN GABLES」との文字からなる標章は,カナダ国において,公的標章として保護され,私的機関がこれを使用することが禁じられており,この点は十分に斟酌されるべきであること,D本件著作物は大きな顧客吸引力を持つものであり,本件著作物の題号からなる商標の登録を原告のように本件著作物と何ら関係のない一民間企業に認め,その使用を独占させることは相当ではないこと,E原告ないしその関連会社と本件遺産相続人との間の書簡による合意内容などに照らすと,原告による本件商標の出願の経緯には社会的相当性を欠く面があったことは否定できないことなどを総合考慮すると,本件商標は,商標法417号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けることができないものであるというべきである。
 
以上判断したとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がないものということができ,審決取消事由に関する原告の主張は,いずれも失当であるか,又はことさら判断する必要がないものであるが,原告の主張のうち以下の主張については,事案に鑑み,念のため,個別的に判断を加えることとする。
 
[著名な著作物の題号等の商標登録の許容性について]
 
原告は,@本件著作物と同様な構成の商標も被告,AGGLA,その他の企業によっていくつか登録されていること,A世界的に著名な著作物の題号,主人公名,そのゆかりの地名等から構成される商標がこれまでに多数登録されてきていること,B他国の著名な文化遺産や自然資産についても,同様に多数登録されてきていることなどを挙げて,本件商標は,何人でも自由に登録商標として採択することができると主張する。
 
確かに,原告の指摘するとおり,「Anne of Green Gables」又は「ANNE OF GREEN GABLES」の文字(標準文字)からなるものの中には,従来商標として登録されているものもあり,世界的に著名な著作物の題号,主人公名等や,他国の著名な文化遺産や自然資産の名称を含む商標にも登録されているものもある。
 
しかしながら,当裁判所は,我が国の商標法がこれを禁ずる明文を欠いていることを前提に検討しているのであって,本件商標を構成する「Anne of Green Gables」がカナダ国の文化資産的性格を有する作品の原題であることから,ただちに,本件商標登録がカナダ国政府との間の国際信義に反すると解しているわけではない。上記判示から明らかなように,当裁判所は,本件著作物の著名の程度,当該国と我が国の関係,本件商標と同一の文字からなる商標のカナダ国における法的保護の状況,著作物の文化的な価値等を管理する団体の有無,著作者ないしその承継人との交渉の経緯,当該著作物と指定商品の種類との関係,その他一切の事情を総合して,事案ごとに判断すべきものであると解した上で,本件について商標法417号に該当するかどうかを判断しているものである。
 
また,従前,他国の著名な著作物の題号について商標登録がされているとはいっても,交通通信手段が飛躍的な発展を遂げ,国際化,ボーダーレス化が急速に進歩している今日,国民の意識,取引の実情等も大きく変化を続けているのであるから,そうした急激な事情の変動は商標登録の許容性の判断にも当然に少なからず影響を及ぼすものであって,過去に商標登録された例が相当数あるからといって,必ずしも決定的な参考例になるものということはできない
 
(略)
 
[観光産業の育成と公益性について]
 
なお,被告は観光産業の保護育成のために本件著作物及びその題号を維持・管理することは公益性の高い公共業務であると主張しているのに対し,原告は,観光産業は収益事業の一つにすぎないと主張して,被告の主張を争っている。
 
この点,地方の観光産業が特定の著作物やその主人公の知名度や人気に依存している場合に,当該地方とは関係のない第三者が当該著作物の題号や主人公の名前を商標登録して独占した結果,当該地方の観光産業全体が深刻な打撃を受けるようなことがあれば,当該商標登録が公序良俗に反するとされることも考えられなくはないが,本件においては,原告が本件商標を我が国で登録することにより,被告州の観光産業が深刻な影響を受けると認めるに足る証拠はない。
 
当裁判所は,前記判示のとおり,原告による本件著作物に関する本件商標登録の出願・登録は,本件著作物,原作者又は主人公の価値,名声,評判を損うおそれがあることについて,公益的な観点から推断したものであり,被告州による観光産業の保護育成の必要性の点は,その理由に用いていない。











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