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パブリシティ権侵害の判断基準(2)
「‘ピンク・レディーダイエット’写真記事事件」平成210827日知的財産高等裁判所(平成20()10063 

【コメント】本件は、女性デュオ「ピンク・レディー」を結成していた芸能人である控訴人らが、出版社である被控訴人に対し、被控訴人が発行する本件雑誌中の記事において控訴人らの写真14枚を無断で使用したことが控訴人らのいわゆる「パブリシティ権」を侵害する不法行為になると主張し、損害賠償等の支払を求めた事案です。
 
原判決は、芸能人等の氏名、肖像の使用行為がそのパブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは、その使用行為の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断すべきであるとした上、本件事案における控訴人らの写真の使用が控訴人らの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としたものと認めることはできないとして、控訴人らの請求をすべて棄却したため、控訴人らがこれを不服として控訴しました。 


 パブリシティ権侵害の有無について
(1) いわゆるパブリシティ権に係る検討
 
氏名は,人が個人として尊重される基礎で,その個人の人格の象徴であり,人格権の一内容を構成するものであって,個人は,氏名を他人に冒用されない権利・利益を有し(最高裁昭和63216日第三小法廷判決参照),これは,個人の通称,雅号,芸名についても同様であり,また,個人の私生活上の自由の1つとして,何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するもの(最高裁昭和441224日大法廷判決参照)であって,肖像も,個人の属性で,人格権の一内容を構成するものである(以下,これらの氏名等や肖像を併せて「氏名・肖像」という。)ということができ,氏名・肖像の無断の使用は当該個人の人格的価値を侵害することになる。したがって,芸能人やスポーツ選手等の著名人も,人格権に基づき,正当な理由なく,その氏名・肖像を第三者に使用されない権利を有するということができるが,著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(以下,この意味での権利を「パブリシティ権」という。)であるということができる。
 
もっとも,著名人は,自らが社会的に著名な存在となった結果として,必然的に一般人に比してより社会の正当な関心事の対象となりやすいものであって,正当な報道,評論,社会事象の紹介等のためにその氏名・肖像が利用される必要もあり,言論,出版,報道等の表現の自由の保障という憲法上の要請からして,また,そうといわないまでも,自らの氏名・肖像を第三者が喧伝などすることでその著名の程度が増幅してその社会的な存在が確立されていくという社会的に著名な存在に至る過程からして,著名人がその氏名・肖像を排他的に支配する権利も制限され,あるいは,第三者による利用を許容しなければならない場合があることはやむを得ないということができ,結局のところ,著名人の氏名・肖像の使用が違法性を有するか否かは,著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要があるのであって,その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべきものということができる。そして,一般に,著名人の肖像写真をグラビア写真やカレンダーに無断で使用する場合には,肖像自体を商品化するものであり,その使用は違法性を帯びるものといわなければならない。一方,著名人の肖像写真が当該著名人の承諾の下に頒布されたものであった場合には,その頒布を受けた肖像写真を利用するに際して,著名人の承諾を改めて得なかったとして,その意味では無断の使用に当たるといえるときであっても,なおパブリシティ権の侵害の有無といった見地からは,その侵害が否定される場合もあるというべきである。
 
この点につき,控訴人らは,パブリシティ権侵害の判断基準として,「当該著名な芸能人の名声,社会的評価,知名度等,そしてその肖像等が出版物の販売促進のために用いられたか否か,その肖像等の利用が無断の商業的利用に該当するかどうか」によるべきであると主張する。しかしながら,出版事業も営利事業の一環として行われるのが一般的であるところ,正当な報道,評論,社会的事象の紹介のために必然的に著名人の氏名・肖像を利用せざるを得ない場合においても,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによって,著名人の氏名・肖像の利用によって出版物の販売促進の効果が発生することが予想されるようなときには,その氏名・肖像が出版物の販売促進のために用いられたということができ,また,営利事業の一環として行われる出版での著名人の氏名・肖像の利用は商業的理由ということができる。そして,控訴人ら主張に係る上記基準における「出版物の販売促進のために用い」ることや「商業的利用」につき,このような場合をも含むものであるとすると,そのような基準に依拠するのでは,出版における正当な報道,評論,社会的事象の紹介のための著名人の氏名・肖像の利用も許されない結果となるおそれも生じることからしても,控訴人らの主張は一面的に過ぎ,採用し得ないというべきである。
 
他方,被控訴人は,パブリシティ権侵害の判断基準として,「その使用行為の目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かにより判断すべきである」と主張する。しかしながら,このうち,その使用行為が「専ら」当該芸能人等の顧客吸引力の利用を目的とするか否かによるべきとする点は,出版等につき,顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば,そのほとんどの目的が著名人の氏名・肖像による顧客吸引力を利用しようとするものであったとしても,「専ら」に当たらないとしてパブリシティ権侵害とされることがないという意味のものであるとすると,被控訴人の主張もまた,一面的に過ぎ,採用し得ないというべきである。
 
そこで,上記説示したところに従い,本件事案におけるパブリシティ権の侵害の有無について検討する。
(2) 本件写真の使用とパブリシティ権侵害の有無
 
前記のとおり,本件記事は,昭和51年から昭和56年にかけて活動して広く世間に知られ,子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その振り付けをまねることが社会的現象にさえなり,また,昭和59年以後数回にわたり期間限定で再結成されてコンサート活動を行ったピンク・レディーの写真14枚(本件写真)を掲載するなどの「『ピンク・レディー』ダイエット」との見出しの本件雑誌の16ないし18頁にかけての全3頁の記事であって,…,以上によると,本件写真の使用は,ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをするという本件記事に関心を持ってもらい,あるいは,その振り付けの記憶喚起のために利用しているものということができる。
 
また,本件写真は,控訴人らの芸能事務所等の許可の下で,被控訴人側のカメラマンが撮影した写真であって,被控訴人において保管するなどしていたものを再利用したものではないかとうかがわれるが,その再利用に際して,控訴人らの承諾を得ていないとしても,前記したとおり,社会的に著名な存在であった控訴人らの振り付けを本件記事の読者に記憶喚起させる手段として利用されているにすぎない
 
以上を総合して考慮すると,本件記事における本件写真の使用は,控訴人らが社会的に顕著な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担を超えて,控訴人らが自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利が害されているものということはできない
 
これに対し,控訴人らは,本件記事においてダイエットを行う記事であるとされた部分を見ると,動きを説明しているのは一部に限られ,ピンク・レディーが演じたダンスの振り付けを知らなければ一連の運動として行うことが不可能であること,読者が本件記事の運動を実践するためにピンク・レディーの楽曲及び振り付けを最も鮮明に想起させるのはピンク・レディーの肖像写真であり,読者もピンク・レディー本人らの振りまねだからこそ実践したくなるものであって,被控訴人はピンク・レディーの肖像に大きな顧客吸引力があることを認識し,これを利用しているものであるということができることなどを主張して,本件記事は実質的にダイエット記事ということができないと主張するが,当時,子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その振り付けをまねることが社会的現象にさえなったピンク・レディーについては,本件雑誌の読者層においてもその楽曲や振り付けを記憶している者が多数存在するものと考えられ,本件記事は,そのような読者層に簡略に楽曲や振り付けを紹介して記憶を喚起してもらった上で,その楽曲に合わせて踊ってもらおうとする程度のものであって,本件記事の説明が簡略であること,被控訴人において,読者がピンク・レディーの楽曲及び振り付けの記憶を思い返す助けや本件記事のダイエットを実践しようとする意欲を起こしてもらうために控訴人らの肖像写真である本件写真を掲載したものであることなどをもってしても,本件記事がダイエット記事であることが否定されるものではなく,控訴人らの主張は採用することができない。なお,控訴人らは,読者等にピンク・レディーの楽曲の振り付けを思い出してもらうために本件写真を利用することも控訴人らの顧客吸引力を利用するものであるかのような主張もするが,読者等の記憶喚起のために控訴人らの写真を利用することが控訴人らの顧客吸引力を利用するものとなるというものではない。
 
さらに,控訴人らは,本件写真…の9枚の写真は,本件記事のダイエット運動とは無関係のステージ写真やリハーサル写真等であって,このようなダイエット運動と無関係な写真が多数使用されていることは,本件記事が実質的には控訴人らの肖像そのものを鑑賞するグラビア記事であったことを示すなどと主張するが,上記のとおり,本件記事におけるこれらの写真の掲載は,読者にピンク・レディーの楽曲の振り付けで踊ってダイエットをすることを紹介し,これを勧めることに関連して,読者にピンク・レディーが活躍したことの記憶を喚起してもらおうとする趣旨によるものと解することができ,本件記事が実質的に控訴人らの肖像そのものを鑑賞するグラビア記事であるということはできない。
 
なお,上記のとおり,ピンク・レディーが昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その振り付けをまねることが社会的現象にさえなったことに照らし,本件雑誌の購入者中には,当時や現在においてピンク・レディーのファンであるなどで,本件記事にピンク・レディーの氏名・肖像が登場したことによって購買意欲を高められ,本件雑誌を購入した者が仮にいたとしても,上記のとおり,本件記事の主題は,ピンク・レディーの楽曲の振り付けで踊ることによってダイエットをすることを紹介して勧める記事ということができ,本件記事における本件写真の使用をもって違法性があるということはできない。
 
また,控訴人らの肖像写真が雑誌に使用されて控訴人らにその使用の対価が支払われたとしても,少なくとも,本件記事における本件写真の使用につき違法とすることができないとの本件の結論に影響するものではない。
(3) 小括
 
以上によれば,本件記事における本件写真の使用によって控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害されたということはできない。

 ⇒著名人の肖像等の無断使用行為が不法行為法上違法となる3類型「『ピンク・レディーdeダイエット』事件(‘ピンク・レディーダイエット’写真記事事件H24-最判)参照











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