著作権重要判例要旨[トップに戻る]







芸能人の氏名・肖像権侵害における財産的・精神的損害の算定例
美容外科ホームページ女優の顔写真等無断掲載事件平成201224日東京地方裁判所(平成20()7828/平成210629日知的財産高等裁判所(平成21()10009 

【コメント】本件は、芸能人である原告が、被告に対し、被告が、その管理運営する「コムロ」美容外科・歯科のホームページに、原告に無断で、原告の氏名及び顔写真並びに原告のコメントとする文書を掲載するなどして、原告の氏名権、肖像権及びパブリシティ権を侵害したとして、不法行為に基づき、財産的損害及び精神的損害等の支払を請求した事案です。

 
本件における事実関係(争いのない事実等)は、概ね、次のとおりです。

原告は、昭和43年にデビューして以来、映画、テレビドラマ、舞台等に出演している女優、タレントである。被告は、医療及び美容のサロンの経営及びコンサルタント並びに広告宣伝活動等を主たる業務とする株式会社であり、コムロの広告宣伝・管理運営業務を行っている。

原告は、平成1641日、当時、コムロの広告宣伝業務を行っていた株式会社「オルモック」との間で、平成1641日から平成173月末日までの1年間、コムロの広告のために自己の氏名及び肖像を使用することを許諾し、出演契約料を年間126万円、広告の範囲を「TVCM,ラジオ,雑誌・ポスター,チラシなどの印刷媒体やインターネットでの広告を含めた全ての広告物」とする広告出演契約(「本件契約」)を締結した。

オルモックは、本件契約に基づき、コムロのホームページに、原告の顔写真とともに、「顔のシワがなくなるだけで,人生が明るくなるんだってこと,実感しました。」との原告のコメント、「女優のAさんがヒアルロン酸注入法でシワ取りしたことがテレビや週刊誌で当時,話題になりました。現在も定期的に来院されております。」との文章を掲載した(以下、このホームページに掲載された広告を「本件広告」という)。

本件契約は、平成1741日、契約期間を同日から平成183月末日までの1年間として、同一内容で更新された。

その後、コムロを経営する医療法人社団「美祥会」の経営が悪化し、被告の支援に基づくコムロの再生案が検討された結果、平成18331日に被告が「コムロ美容外科」の商標を買い取り、第三者である医師にその商標を使用許諾し、当該医師がコムロ美容外科の名称の下、クリニックの運営を継続していくことになった。これに伴い、被告は、平成1841日以降、オルモックからコムロのホームページの管理運営を承継した

本件契約は、平成183月末日をもって終了し、それ以降の期間については、原告とオルモック又は被告との間に広告出演契約は締結されていなかったにもかかわらず、被告は、同年41日以降、原告から掲載中止要求書を受け取った平成20130日までの間(670日間)、自己が管理運営するコムロのホームページに、本件広告の掲載を継続した

被告が上記の期間に本件広告を掲載したことは、少なくとも被告の過失に基づくものである。

 
(注)以下において、【】の部分は、控訴審で追加又は変更された判示部分です。 


 [財産的損害について]
 
本件は,被告が,芸能人である原告の氏名,顔写真等を,本件契約の契約期間が終了したにもかかわらず,コムロのホームページに掲載したことに基づく損害賠償請求であるところ,原告は,女優,タレントとして,広告に出演すること(自己の氏名,写真等を広告に利用すること)を許諾していた場合には,出演料として相当の対価を受けることができたのであるから,自己の氏名,顔写真等を本件広告に無断使用されたことによって原告が受けた財産的損害は,原告が,本件広告に出演することを許諾するとすれば受けることができる対価相当額であると認められる
 
そして,本件における被告の不法行為は,前記のとおり,本件契約の契約期間が終了したにもかかわらず,コムロのホームページに本件広告の掲載を継続したというものであることからすれば,前記の対価相当額は,本件契約によって定められた広告出演等の対価及び本件契約終了後における本件広告の掲載期間を基準として認定することが相当である。もっとも,契約によって定められた広告出演等の対価は,通常は,当該契約において許諾された広告の内容,広告媒体及び広告を行う地域,原告と被告との関係その他の事情等を考慮して決定されるものであることからすれば,本件契約によって定められた対価が直ちに対価相当額として原告の損害となるものではなく,当該対価を基準としつつも,本件契約が許諾の対象とする広告の内容,広告媒体及び広告地域と本件広告の広告内容,広告媒体及び広告地域の異同,当該対価を定めるに当たって考慮された事情の有無等を考慮して,原告の財産的損害である対価相当額を認定するのが相当である。
 
なお,原告は,本件契約料は,コムロ等が実施する広告活動の媒体の数や回数の多寡によって左右されるものではないから,損害賠償の額の算定に当たっても同様に考えるべきである旨主張するが,本件は,本件契約に基づく広告出演料を請求するものではなく,不法行為に基づく損害賠償を求めるものであって,当該不法行為によって生じた原告の損害,すなわち,本件広告の掲載を許諾した場合に原告が実際に受けることができる対価相当額(逸失利益)の範囲を超えて,損害賠償を請求することができるものではないことは当然であるから,原告の主張は採用することができない。
 
そこで,まず,基準とすべき本件契約によって定められた対価の額について検討する。
 
(略)
 
したがって,本件契約によって定められた対価の額は,本件契約料である126万円であると認められる。
 
次に,原告の財産的損害を認定するに当たって考慮すべきその他の事情について,検討する。
 
本件契約が許諾の対象とする広告内容,広告媒体及び広告地域と,本件広告の広告内容,広告媒体及び広告地域とを比較すれば,@本件契約は,広告の範囲を「TVCM,ラジオ,雑誌・ポスター,チラシなどの印刷媒体やインターネットでの広告を含めた全ての広告物」とするものであるのに対し,被告が行った行為は,コムロのホームページに本件広告の掲載を継続したことのみであって,広告媒体が本件契約で許諾の対象とされた媒体のうちの「インターネット」に限定されていること,Aインターネット上のホームページへの掲載は,その性質上,いったん掲載されれば,削除されない限り,掲載が継続され,掲載されている期間は,いつでも,どこからでも,誰からでもアクセスすることが可能であり,かつ,アクセスも容易な媒体であること,B本件契約においては,広告の大きさ,内容等についての規定は設けられていないのに対し,本件広告は,コムロのホームページのトップページではなく,「BUST」,「BODY」等の9種類の治療内容のうちの「FACE」における多数の美顔施術の中の「シワ取り」の治療内容を紹介するページの末尾近くに掲載されたものであって,また,本件広告に掲載された原告の顔写真は,他のモデルの施術前施術後を比較する写真等と比べて相対的に小さく,さらに,本件広告の画面全体において占める割合も,それほど大きなものではないことが認められる。
 
【オルモックは,本件広告の態様以外に,雑誌や新聞折込みチラシ等の媒体において,原告の顔写真,氏名及びコメントを掲載した宣伝広告をしたことがあるが,その他,大量の宣伝広告をしたことはない。したがって,本件契約に基づく広告の態様は,インターネットによる本件広告の占める比重が,総じて高かったといえる。】
 
なお,前記のとおり,コムロによる無償での治療行為の提供は,本件契約によって定められた対価としては認められないものの,それが本件契約料を定めるに当たっての考慮要素となっていたと認められる。
 
そこで,本件契約料である126万円を基準に,上記の事情を考慮すれば,原告の財産的損害は,本件契約によって定められた対価の額の【4分の3】である1年当たり【945000円】を基本として,本件広告の掲載期間である670日間に相当する額である【1734657円】とするのが相当である。
 
【(計算式)945000円÷365日×670日=1734657円】
 (略)
 
[精神的損害について]
(1) 慰謝料請求の可否
 
被告は,芸能人の氏名・肖像は,広く一般大衆に公開されることが前提とされ,かつ,希望されていることから,その使用方法,態様等に照らして,当該芸能人の社会的評価を低下させるような場合でなければ,人格的利益を毀損するものではないと主張することから,まず,この点について検討する。
 
確かに,芸能人の氏名・肖像は,通常,広く一般大衆に公開されることが前提とされており,当該芸能人自身も,そのことを希望している場合が多いものと推認される。
 
しかしながら,芸能人が,どのような企業のどのような商品・サービス等の広告に出演するかや,いったん広告に出演することを許諾したとしても,当該広告に出演することを継続するかどうかは,自己の芸能人としてのイメージや,広告の主体である企業や広告の対象である商品・サービス等に対する社会的評価等の諸般の事情を考慮し,当該芸能人において,自己の意思に基づいて判断・決定をすることができるものである。そして,無断でその氏名,肖像等を広告に使用された場合には,自らの自由な意思に基づいてこのような判断・決定をすることができるという主観的利益が侵害されたものであり,これによる精神的な苦痛は,財産的損害が賠償されたからといって回復されるものではなく,慰謝料によって慰謝されるべきものと認められる
 
したがって,無断でその氏名,肖像等を広告に使用された者が芸能人である場合であっても,当該広告にその氏名,肖像等が使用されたことにより当該芸能人の社会的評価が下がったか否かにかかわらず,当該芸能人は,慰謝料を請求することができると解すべきである。
 
本件においては,本件契約の契約期間終了後の本件広告の掲載が原告の許諾に基づくものではないことに加えて,本件契約の契約期間終了後は,コムロを運営する医師も替わり,原告は,運営主体が変更された後のコムロにおいては治療を受けていないにもかかわらず,本件広告の内容は,いまだに原告がコムロにおいて治療を受けているかのような誤解を与えるものとなっていることからすれば,本件契約終了後に本件広告を掲載したことにより,原告には,慰謝料によって慰謝すべき精神的損害が生じていると認められ,原告の慰謝料請求を認めるのが相当である。
(2) 慰謝料の額
 
上記に記載した事情に加えて,@原告は,本件契約の締結前及び締結中,自らコムロにおいて美容整形に関する治療を受けていることを広告上も明らかにして,コムロの広告に出演しており,本件広告も,本件契約の契約期間中に掲載されていた広告が継続して掲載されていたものであること,本件広告は,経営主体が変更されたとしても,同じコムロの名称を継続して使用している美容整形医院のホームページに掲載されていたものであることからすれば,本件契約の終了後に本件広告が掲載されていたことによって,原告の芸能人としてのイメージが大きく損なわれたとは認められないこと,A被告は,オルモックからホームページの運営を承継したものであって,被告自らが本件広告を作成して掲載したものとは認められず,また,本件各証拠に照らしても,被告が本件契約の終了を知りながら本件広告の掲載を継続したとは認められないこと【(もっとも,被告は原審答弁書において,『被告はコムロ美容整形外科のホームページに原告の顔写真等を掲載することの根拠となる契約が終了していることに気付かず,当該掲載に問題はないと誤解したまま,当該掲載を継続していた」と答弁し,その後,原審被告準備書面(2)においては,『誤解に基づき削除しないままにしていたというだけ』と述べていることに照らすと,被告は,原告の指摘を受ける前からホームページに原告の顔写真等が掲載されている事実を認識していたことを自認していたものと解される。)】,B被告は,原告から本件広告の掲載中止要求を受けた当日に,コムロのホームページから本件広告の記載を削除している【ものの,その掲載中止要求前から本件広告のホームページへの掲載の事実は認識しており,原告との契約内容について調査することにより,掲載中止要求前に掲載を中止することが可能であったこと】ことも考慮すれば,本件における原告の精神的損害を慰謝する慰謝料としては,【50万円】が相当である。











相談してみる

ホームに戻る