著作権重要判例要旨[トップに戻る]







名誉毀損-否定事例-
「『特高警察関係資料集成』等復刻書籍事件」平成210227日東京地方裁判所(平成18()26458等) 

【コメント】本件「1事件」は、原告高麗書林が、「本件発言」及び「本件ファックス送信」が名誉及び信用毀損の不法行為を構成すると主張して、被告不二出版及びその刑事告訴を代理した弁護士である被告Bに対し、謝罪広告の掲載並びに損害賠償金等の連帯支払を求めた事案です。

 
本件における事実関係(争いのない事実等)は、概ね、次のとおりです。

原告高麗書林は、被告Aによって設立された韓国又は韓国語に関する出版及び書籍の輸出入販売を業とする株式会社である。

被告不二出版は、『被告「特高警察関係資料集成」』等、公文書等の歴史資料を復刻した書籍(「被告書籍」)を発行した。一方、原告高麗書林は、『韓国「特高警察関係資料集成」』等の書籍(「韓国書籍」)を発行した。

韓国「特高警察関係資料集成」の第1巻ないし15巻は、版型を異ならせたほかは、それぞれ被告「特高警察関係資料集成」10巻ないし24巻の全版面を複写して製作されたものである。

被告書籍の各解題、解説及び総説部分は、いずれも著作物であり、それぞれその著述者が著作権を有している。

被告不二出版は、被告書籍について、その編著者から、著作権(編集著作権も含む。)の譲渡を受けた。

被告不二出版は、被告書籍について、その編著者から、上記の各著作権譲渡以前の期間に係る原告らに対する損害賠償請求権の譲渡を受け、そのころ、その旨を原告らに通知した。

原告高麗書林は、少なくとも、平成155月から同1611月までの間、韓国書籍を韓国統計書籍センターから購入して日本国内に輸入し、日本国内の大学図書館などに販売した。

平成18711日、被告代表者D及び被告Bは、弁護士会館内会議室において、次のような「本件記者会見」を行った:被告代表者D及び被告Bは、同人らからの通知により集った5社程度の報道関係者等に対し、韓国「特高警察関係資料集成」は、被告不二出版が被告「特高警察関係資料集成」につき有する編集著作権を侵害するものであり、それを知りながら販売している原告高麗書林も被告不二出版の編集著作権を侵害している旨、及び原告高麗書林の著作権侵害について、被告A及び原告代表者Cを著作権法違反で告訴する旨の発言をし(「本件発言」)、両名に対する告訴状の写しを報道関係者等に配布した。

平成18713日、被告代表者D及び被告Bは、本件記者会見に出席した報道関係者等に対し、「高麗書林の海賊版製作及び販売に関る著作権法違反に対し,弊社・不二出版株式会社は本日(713日),告訴状を警視庁に提出しました。」との内容のファックスを送信した(「本件ファックス送信」)。

原告高麗書林の行為は、韓国「特高警察関係資料集成」を輸入した点で著作権法11311号にも当たると考えられるが、被告らが本件記者会見及び本件ファックス送信で摘示したといえる事実は、飽くまで告訴の対象となった同法11312号の情を知っての日本国内での販売に限定されるものと認められる。

また、韓国での複製には日本の著作権法は適用されず、告訴の対象となった犯罪事実も飽くまで11312号であるから、被告らが本件発言及び本件ファックス送信で摘示したといえる事実の中に、原告高麗書林自身の複製への共謀又はその他の関与の事実が含まれているとは認められない。

本件発言及び本件ファックス送信の内容を、その受け手がどのように理解するかの観点から分析すれば、
 
@−ア被告「特高警察関係資料集成」は編集著作物である事実、
 
@−イ被告A及び原告代表者Cが被告「特高警察関係資料集成」につき著作権侵害行為をした事実、
 
A 被告不二出版が被告「特高警察関係資料集成」につき編集著作権を有し、告訴権を有する事実、
 
B 被告不二出版が告訴状を提出した事実に分解することができる。
 
@−ア事実及び@−イ事実の摘示だけでも、出版業を営む原告高麗書林の社会的評価を低下させるものと認められる。これに、A事実及びB事実の摘示が加わることにより、被告Aらの著作権侵害行為が刑事処罰を受ける可能性がある悪性の強いものであることを示し、@−ア事実及び@−イ事実の摘示だけの場合に比し、出版業を営む原告高麗書林の社会的評価を更に低下させるものと認められる。このことは、原告高麗書林の主張のとおり、B事実が受け手によって告訴の「受理」と解された場合に顕著である。しかし、原告高麗書林の社会的評価の低下の大部分は、@−ア事実及び@−イ事実の摘示により生じているものと認められる。

公共性…本件発言及び本件ファックス送信の内容は、書籍の輸入販売業を営む原告高麗書林がその業務において不法行為(著作権侵害行為)をしたことを指摘するものであり、公共の利害に関する事実に係るものである。さらに、公訴が提起されるに至っていない著作権法違反という犯罪行為に関する事実であるから、公共の利害に関する事実に係るものである。

公益目的…D及び被告Bが本件発言及び本件ファックス送信をしたのは、韓国「特高警察関係資料集成」が著作権を侵害する出版物であることを広く世間に訴え、ひいては韓国での同種の違法複製の蔓延に警鐘をならし、違法複製物の我が国への流入により被告「特高警察関係資料集成」を始めとする歴史研究の基礎資料の出版が違法に阻害されることを防ぐことにあったものであり、公益目的がある。 


 [告訴状「受理」の摘示の有無について]
(1) 摘示事実について
 
刑事訴訟法上,告訴の要件が満たされた告訴状が司法警察員又は検察官に提出されれば,告訴は成立する(同法2411項)。しかし,…によれば,実務上,告訴の要件を満たされた告訴状が提出された場合でも,告訴人側が相当程度犯罪を疎明する資料を準備し又は捜査機関側の情報収集行為によって犯罪行為が相当程度確認できるまで,捜査機関が当該告訴状を「受理」せず,告訴前の事前相談の状態にとどめておく取扱いが広く行われており,犯罪の被害者や弁護士にとっては,告訴状が「受理」されることが重要であり,そのため,報道機関等も,告訴が「受理」されたか否かについて関心を寄せていることが認められる。
 
このような背景の下に検討しても,本件ファックス送信の内容は前提事実のとおりであり,「提出しました」と記載されているが,「受理された」とは記載されていないものであるから,本件ファックス通信を読んだ受信者が,本件告訴状が「受理」されたと理解するものとは認められない
 
原告高麗書林は,弁護士が関与した以上,本件ファックス送信に際し,告訴状は受理まではされていないことを明記すべきであった旨主張するが,本件ファックス送信の受信者の多くは報道機関であり,刑事訴訟法及びその実務について相応の理解があると認められることからすると,原告高麗書林主張のような付記が不可欠であったとまで認めることはできず,同原告の上記主張は採用することができない。
 
また,原告高麗書林は,本件ファックス送信によって,実際に告訴が受理されているとの間違った報道がされている旨を主張する。しかしながら,当該記事中に告訴が受理されたとは記載されていない。そして,一般読者の普通の注意と読み方を基準に当該記事内容を解釈しても,一般読者が上記記事を告訴が受理されていると必ず読むものとも認められない。よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) まとめ
 
以上から,本件ファックス送信により摘示された事実は,本件告訴状が「提出された」事実に限られるというべきであり,原告高麗書林の名誉・信用毀損に基づく請求のうち,本件告訴状が「受理」されたことを前提とする部分は,理由がない
 
[真実性の抗弁−編集著作物性について]
 
(略)
 
[真実性の抗弁−編集著作権の帰属について]
 
(略)
 
[真実性の抗弁−原告高麗書林の知情について]
 
(略)
 
[まとめ]
 
以上によれば,被告不二出版が本件発言及び本件ファックス送信により摘示した被告「特高警察関係資料集成」は編集著作物である事実(@−ア事実),被告A及び原告代表者Cが被告「特高警察関係資料集成」につき著作権侵害行為(著作権法11312号)をした事実(@−イ事実),被告不二出版が被告「特高警察関係資料集成」につき編集著作権を有し,告訴権を有する事実(A事実),被告不二出版が告訴状を提出した事実(B事実)は,A事実を除き,真実である
 
事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がない。しかるに,前提事実にて説示したとおり,@−ア事実及び@−イ事実の摘示だけの場合に比し,A事実の摘示が加わることによって,原告高麗書林の社会的評価は更に低下を招くものではあるが,その社会的評価の低下の大部分は@−ア事実及び@−イ事実の摘示により生じているものである。したがって,本件発言及び本件ファックス送信により摘示された事実の重要な部分は,@−ア事実及び@−イ事実であると認められる。そうすると,本件発言及び本件ファックス送信は,前提事実のとおり,公共の利害に関する事実に係り(@−ア事実及び@−イ事実に係る部分のみで公共の利害に関する事実であることは,既に…説示した。),かつ,その目的が専ら公益を図ることにあり,そこにおいて摘示された事実が重要な部分について真実であることの証明があったから,違法性を欠くというべきである(さらに,前記のとおり,D及び被告Bが,Dが被告「特高警察関係資料集成」の共同著作者であると信じたことに,相当の理由がある。)。
 
よって,原告高麗書林の第1事件の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。











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