著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ゲームソフト表示画面の翻案性が問題となった事例
「ファミコン用ゲームソフト『ファイアーエムブレム トラキア776』事件」
平成141114日東京地方裁判所(平成13()15594
※本件の控訴審はこちら
 

 原告ゲームと被告ゲームとの著作物としての類否について
(1) ゲームソフトにおける表示画面の著作物性等
 
本件において,原告らは,原告ゲームのうち別紙対照表13の左欄記載の「トラキア」の戦闘マップ部分,「外伝」の全体マップ部分及び「トラキア」「紋章の謎」「聖戦の系譜」の登場人物等の影像(以下「原告ら著作権主張部分」という。)の著作権(複製権ないし翻案権)を,これと対応する被告ゲームの別紙対照表13の右欄記載の各部分が侵害したと主張する。そこで,別紙対照表13の左欄をみると,原告らは,それぞれの表示画面(静止画面又は一定の動画としての画面)について,著作権侵害を主張していると解される。
 
一般に,電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法211号)である場合には,著作物として著作権法による保護の対象となるものというべきである。すなわち,美術的要素や学術的要素を備える場合には,美術の著作物(著作権法1014号)や図形の著作物(同項6号)に該当することがあり得るものというべきところ,本件のようないわゆるコンピュータゲームないしテレビゲームにおいて画面上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものが存在すると考えられる。
 
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうから,ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない。
 
また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらない。
 
原告ゲームの表示画面に何らかの著作物性が肯定される場合には,被告ゲームの表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ゲームの表示画面における創作的特徴が被告ゲームの表示画面においても共通して存在し,被告ゲームの表示画面から原告ゲームの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ゲームの表示画面の特徴的構成の一部分が被告ゲームの表示画面においても共通して見られる場合であっても,@共通する当該一部分のみで表示画面における創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,A被告ゲームの表示画面に原告ゲームの表示画面にない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面から受ける印象を異にすることとなったときは,被告ゲームの表示画面から原告ゲームの表示画面の創作的特徴を直接感得することができないから,被告ゲームの表示画面をもって原告ゲームの表示画面の複製ないし翻案ということはできない
(2) 著作権侵害の有無についての判断
 
前記(1)において述べたところを前提に,検討する。
 
…によれば,原告ゲーム及び被告ゲームは,いずれもシミュレーションRPGと呼ばれるゲーム分野に属するゲームであるところ,シミュレーションRPGとは,シミュレーションゲーム(経営,戦略,恋愛,育成などの分野において,現実に存在する物や空想上の対象物をゲーム上のルールに従って操作して事件等をゲームで再現するもの)とロールプレイイングゲーム(RPG。物語性があり,キャラクターを成長させながら物語に参加してゲームの結末をめざすもの)とを融合させたタイプのゲームである。そして,…によれば,原告ゲーム及び被告ゲームには,全体の地図を示す全体マップと個々の戦闘場面を示すマップがあり,この2種類のマップを交互に繰り返すことでゲームが進行する。全体マップは,地図の形態をとったマップになっており,目的地となる場所(街など)の位置の確認,アイテム(武器等)の売買,データの保存や読み出しなどを行うことができる。戦闘場面を示すマップ(原告ゲームでは「戦闘マップ」,被告ゲームでは「戦術マップ」と呼ぶが,本判決では,便宜上,以下,双方のゲームにおいて「戦闘マップ」という。)は,その場所の特徴を簡略化したマップになっており,敵との戦闘がメインとなる。全体マップで「移動」のコマンドを選択して目的地へと移動すると,会話を初めとするさまざまなイベントが発生する。移動した場所に敵がいなければイベント終了後に次の目的地へと向かうことになるが,敵がいた場合は全体マップから戦闘マップへと画面が切り替わり戦闘へと突入する。戦闘マップは原告ゲーム,被告ゲームとも数十という規模で存在し,このすべてをクリアすることでエンディングを迎えられる。
 
前記に認定したとおり,原告ら著作権主張部分を含む原告ゲームはシミュレーションRPGというゲーム分野に属するものであるが,一般に,シミュレーションRPGの分野に属するゲームソフトは,将棋ゲーム,麻雀ゲーム等のゲームソフトと異なり,基本的なストーリーの枠内においてプレイヤーの操作により複数の表示画面の展開が生じ得るように構成されており,その表示画面も,ゲームの展開状況を明らかにする補助として,プレイヤーがユニット(登場人物)をどのように操作したいかについての情報を入力したり,プレイヤーが操作しうるユニット全体の位置や個々のユニットの状況を確認したり,味方ユニットが敵ユニットと戦闘している状況を表示したりするためのものである。このような表示画面は,プレイヤーによるユニットの交戦状況の確認の便宜や,プレイヤーによる入力や状況確認の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって,当該ゲームソフトの影像表示の性能,ハードウエアの性能やプレイヤーのユニット操作の利便性(例えばこの観点からは,マップ上における各ユニットは桝目に小さく表示されざるを得ない。)の観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は,通常の映画と異なり,限定的なものとならざるを得ない。
 
このような点を考慮すると,原告ら著作権主張部分の各表示画面については,各表示画面におけるユニットの表示の仕方や情報項目の並べ方などの点において,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められる余地は少ないというべきである。
 
そこで,…に基づき,原告ら著作権主張部分と被告ゲームにおけるこれと対応する表示画面を対比して,両者の間の共通点を抽出し,これらの共通点が創作的要素を有するものであって,原告ゲームにおける創作的表現ないし創作的特徴を感得させるものかどうかを,以下,検討する。
(3) 「トラキア」の戦闘マップ部分と対応する被告ゲームの部分との対比
 
[ゲームソフトの概要]
 
「トラキア」と被告ゲームのゲームソフトの概要が,「戦略性の高い戦闘システムと壮大なシナリオを満喫できるシミュレーションRPG(SRPG)であり,西洋中世をモチーフとしてペガサス,ドラゴン,魔法等も登場するファンタジーの世界を背景とし,架空の大陸における架空の小王国・小公国・小領主国を舞台とする。」という点で共通することは,当事者間で争いがない。また,「トラキア」のゲームソフトの概要が,「架空の大陸における架空の小王国・小公国・小領主国間の戦乱を舞台とする。プレイヤーは,主人公の少年王子と自軍ユニットを,シナリオに従って順次表示される西洋中世風の堅固な要塞,山岳地帯,領主館内,峡谷,森林地帯,民家の点在する村,城内,祭壇等の影像からなる複数のマップ画面上を移動させ,各マップに用意された『戦闘画面』(トップビューによるオンマップバトル画面及びサイドビューによる1対1のアニメーション切換戦闘画面)と『イベント画面』をプレイし,戦闘等を行って仲間を増やし,成長させ,敵側を制圧する。死亡したユニットは原則として生き返らず,主人公の死亡によってゲームオーバーとなる。」というものであることは,当事者間で争いがないところ,原告らは,この点についても「トラキア」は被告ゲームと共通すると主張する。
 
しかし,原告の主張する上記の点は,ゲームの基本的な構成に関するアイデアの段階にとどまるものであって,小説のあらすじと同様,表現それ自体ではない部分であるから,このような部分が共通するからといって表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。また,上記のような構成は,…によれば,「ファースト・クィーン」(平成元年12月ころ発売),…「ドラゴンクエストV」(昭和632月発売)といったゲームにおいても採用されているごくありふれたものにすぎない
 
以上によれば,被告ゲームの概要をもって,「トラキア」の概要の複製ないし翻案ということはできない。
 
[ゲームソフトの登場人物等]
 
(略)
 
[ゲーム内容]
 
(略)
 
[まとめ]
 
以上に認定したとおり,被告ゲームの戦術マップ部分を「トラキア」の戦闘マップ部分の複製ないし翻案ということはできない。
(4) 「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームとの対比
 
[全体マップの概要について]
 
「外伝」が,高い戦闘システムを満喫できるシミュレーションRPGであり,「外伝」のゲームの著作物中には,ゲーム内容の表現形式として,「戦闘マップ」に加えて,主人公等が移動できる全範囲を,全体マップ画面で設定している(縦横3×2画面の計6画面分)こと,全体マップ画面は戦闘が行われるポイントとそれを結ぶルートからなっており,主人公等が移動して敵と遭遇すると直ちに「戦闘マップ」画面に移行すること,敵と遭遇するまでは,全体マップ上で,メインメニューによる行動を選択することができることについては,当事者間で争いがなく,加えて原告らは,「外伝」は,壮大なシナリオを満喫できるものであり,ファイアーエムブレムシリーズの世界観を共通にするゲームの著作物であると主張する。
 
しかし,上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず,表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また,戦闘マップに加えてゲーム全体のマップを表示する点については,…によれば,「ガイフレーム」(昭和633月ころ発売),…「三国志中原の覇者」(昭和637月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである
 
したがって,被告ゲームがこれらの点において「トラキア」と共通点を有するとしても,「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 
[全体マップの表現形式について]
 
(略)
 
[まとめ]
 
以上からすれば,「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームの全体マップ部分とを対比したとき,両者が共通する部分はいずれも表現それ自体ではない部分であって著作権法上保護される部分といえない上,両者が影像として全く相違していることが明らかであるから,被告ゲームの全体マップ部分が「外伝」の全体マップ部分を複製ないし翻案したということはできない。
(5) 「トラキア」,「紋章の謎」,「聖戦の系譜」の登場人物等の影像と被告ゲームの影像との対比
 
(略)
(6) まとめ
 
以上によれば,被告ゲームは,「トラキア」の戦闘マップ部分を複製ないし翻案したものとも,「外伝」の全体マップ部分を複製ないし翻案したものとも,「トラキア」,「紋章の謎」,「聖戦の系譜」の登場人物等の影像を複製ないし翻案したものとも認めることができない。











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