著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権譲渡の黙示の合意の成立を否定した事例(10)
「証券業務データ処理ソフト譲渡契約事件」平成220525日知的財産高等裁判所(平成21(行コ)10001
 

【コメント】本件は、連結親法人である控訴人が、平成1541日から同16331日までの連結事業年度(「本件事業年度」)の法人税について、処分行政庁のした本件連結事業年度分にかかる法人税の更正処分(「本件更正処分」)等の取消しを求めた事案です。

 
本件においては、次のような事実関係がありました。

旧岡三証券は、昭和5571日、「OIS」(控訴人の連結子法人である岡三情報システム株式会社)に対し、同日付け「ソフトウエア所有権の売買契約書」をもって、旧岡三証券のコンピュータ運用部門が開発し、旧岡三証券の証券業務のために用いていたソフトウェア(「本件旧ソフトウェア」)を代金56000万円で譲渡した(「本件旧ソフトウェア売買契約」)。

旧岡三証券は、OISとの間で、昭和5571日付け「委託業務に関する基本契約」(「本件委託業務基本契約」)を取り交わし、OISに対し、旧岡三証券の証券業務に係るデータ処理のほか、本件旧ソフトウェアに新たな機能を追加しバージョンアップをすることなどを内容とするシステム開発を委託した。

OISは、旧岡三証券の委託に基づき、昭和557月から平成1510月までの間、本件旧ソフトウェアに改変を加えるなどして新たなソフトウェアを開発した(「本件ソフトウェア」)。なお、OISが開発した本件ソフトウェアの著作権は、著作権法15条が規定する職務著作としてOISに原始的に帰属した。

控訴人とOISは、平成15101日、本件ソフトウェアの著作権を関連説明資料等とともに30億円で譲渡する旨の「ソフトウェア等譲渡契約書」(「本件譲渡契約(書)」)を取り交わした。また、控訴人とOISは、同月10日、同日付け「覚書」において、本件譲渡契約書による譲渡の対象として、本件ソフトウェアに加え、OISが「日本ユニシス」株式会社から5676万円で取得したソフトウェア(「本件追加ソフトウェア」)を追加する旨の合意をした。

控訴人は、同月27日、OISに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等の譲渡を受ける対価であるとして、合計30億円を支払った。

処分行政庁は、このうち、本件ソフトウェアの著作権の対価分であると解される294324万円(控訴人がOISに支払った上記の30億円から、本件追加ソフトウェアの対価分として、OISが日本ユニシスに本件追加ソフトウェアの対価として支払った5676万円を控除した額)について、実際には著作権の譲渡がされておらず、法人税法81条の62項により損金の額に算入しないとされている「寄附金」に当たるとして本件更正処分をした

控訴人と日本ユニシスは、同月、控訴人が、日本ユニシスに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等を35億円で譲渡する旨合意し(「本件転売契約」)、日本ユニシスは、控訴人に対し、35億円を支払った。

 
本件における争点は、控訴人がOISに対して、本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った294324万円は、法人税法81条の62項及び同条6項が準用する法人税法377項が定める「寄附金」に当たるか否か、という点です。 


 以上の事実を前提とすれば,本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実を認めることはできない。その理由は,次のとおりである。
 
一般的に,著作権は,不動産の所有者や預金の権利者が権利発生等についての出捐等によって客観的に判断されるのと異なり,著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから(著作権法212号,同法17条),ソフトウェアの著作権の帰属は,原則として,それを創作した著作者に帰属するものであって,開発費の負担によって決せられるものではなく,システム開発委託契約に基づき受託会社によって開発されたプログラムの著作権は,原始的には受託会社に帰属するものと解される。
 
また,旧岡三証券とOISとの間の本件委託業務基本契約に基づくデータ処理業務は,上記認定の内容からすれば,情報処理委託契約であると解されるところ,情報処理委託契約は,委託者が情報の処理を委託し,受託者がこれを受託し,計算センターが行う様々な情報処理に対し,顧客が対価を支払う約定によって成立する契約であって,著作権の利用許諾契約的要素は含まれないと解される。
 
本件においては,前記認定のとおり,旧岡三証券とOIS間において,昭和5571日に締結された本件委託業務基本契約にも,著作権の利用許諾要素は全く含まれていないが,それは上記の理由によりいわば当然であり,また,…によれば,そのような場合でも,委託者が,受託者に対し,システム開発料として多額の支出をすることは,一般的にあり得ることと認められるから,単に開発したソフトウェアが主に委託者の業務に使用されるものであるとの理由で,委託者がその開発料を支払っていれば,直ちにその開発料に対応して改変された著作物の著作権が委託者に移転されるということにはならないことは明らかである。著作権はあくまで著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから,例えば,日本ユニシスとOISとの間の平成15101日付「アウトソーシング・サービス委託契約書」において,その第92項に,日本ユニシスが保有するプログラムをOISが改良した場合の改良後のプログラムの著作権法27条及び28条の権利を含む著作権が日本ユニシスに帰属する旨が合意されているように,その譲渡にはその旨の意思表示を要することは,他の財産権と異なるものではない
 
したがって,本件においても,上記のような明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである。
 
そして,本件全証拠を精査しても,一度原始的にOISに帰属した本件ソフトウェアの著作権が,旧岡三証券がその開発費用を支出した都度,本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示的に譲渡されていたことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 
(略)
 
仮に,被控訴人が主張するように,本件ソフトウェアの著作権が,OISから旧岡三証券に著作者人格権を除く著作権を移転させる旨の黙示の合意に基づき,開発若しくは改良の都度,旧岡三証券に移転していたとすると,本件旧ソフトウェアの著作権はOISに残ったままで,それを改良若しくは開発した部分の著作権のみが少しずつ移転していたことになる。
 
しかしながら,旧岡三証券とOISとの間に,そのように著作権の帰属を分断させてまで,改良した部分のみの著作権を改善若しくは開発の都度,少しずつ控訴人に帰属させるという認識があったことを示す証拠は存在せず,また,コンピュータープログラムの著作物にあって,そのような著作権の分属状態は決して正常なものとはいえず,開発委託者と受託者との間でそのような著作権の分属に関する明示の契約があるのであれば格別(その場合でも分属範囲が明示される必要がある。),明示の契約がない状態で,当事者間にそのような著作権の分属状態を容認する意思があったと推認することはできない
 
(略)
 
また,被控訴人は,本件ソフトウェアの黙示の譲渡があった時点において,OISは原著作者としての権利を放棄していたと解することもできるとも主張するが,単に開発費用を委託者が負担したからといって,直ちに委託者に著作権が譲渡されるものでないことは前述のとおりであり,また,明示の譲渡契約が存在しない本件において,開発費用を支出した都度,その部分についての著作権が黙示に譲渡されるばかりでなく,高額な代金で取得した原著作物に基づく権利まで黙示に放棄しなければならない合理的理由は存しないというべきであるから,この点に関する被控訴人の主張も失当である。
 
(略)
 
以上のとおり,本件ソフトウェアの著作権が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に譲渡されたものとは認められないから,本件譲渡契約があえて作出された虚偽の外形であり,旧岡三証券がOISに支払った本件ソフトウェアの譲渡代金が「寄附金」に当たるとの被控訴人の主張は,理由がない。











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