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出版許諾契約における著作者人格権の侵害事例
「当落予想表事件」昭和620219日東京高等裁判所(昭和61()833 

 控訴人は、政治、政党問題の評論家として著名であること、控訴人は、被控訴人の依頼により、来るべき総選挙において全国130選挙区から立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下という趣旨で○△▲の符号を付した控訴人原稿を作成し、右原稿を昭和571213日被控訴人に交付したこと、被控訴人は、本件記事及び本件当落予想表を掲載した本件週刊誌を同月23日日本全国において発売したこと、本件当落予想表には控訴人の氏名は表示されておらず、本件記事冒頭には「…以下は本誌が行つた当落予想…」との記述があること、並びに控訴人原稿に控訴人が記載した符号と本件当落予想表に記載されている符号とは、…のとおり一部異なつていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
 (略)
 
次に、控訴人は、控訴人と被控訴人間に成立した、総選挙立候補予定者の当落予想表作成及び出版に関する出版許諾契約に基づき、被控訴人に控訴人原稿を交付したところ、被控訴人は、本件週刊誌に、控訴人原稿の内容を一部改変したものを本件当落予想表として掲載した旨主張し、他方、被控訴人は、右契約の成立を否定し、控訴人原稿は単なる一取材源として受領したにすぎず、本件当落予想表は被控訴人が独自に取材した結果に基づいて作成したものである旨反論するので、控訴人原稿が被控訴人に交付されるに至つた経緯、本件当落予想表の作成経過等について検討する。
 
(略)
 
前記認定の昭和57126日、Aデスクと控訴人との間に成立した合意の内容、右合意に至る経緯、本件以前に控訴人が週刊サンケイの企画記事のためにした当落予想の取扱い、右合意の際、被控訴人側から控訴人の提供する当落予想に関する記述を被控訴人が独自の取材に基づいて行う当落予想の一つの資料として使用するというような説明はなかつたこと、及び本件企画の担当者であるAデスクやB記者の経歴等からいつて、被控訴人独自で取材し、それに基づいて、総選挙立候補予定者につき全般的、専門的な当落予想をすることは困難であり、そのために政治、政党問題の評論家で選挙予測を専門の一つとする控訴人に右当落予想を依頼するに至つたものと認められることなどを総合すると、右126日控訴人と被控訴人間(契約担当者Aデスク)において、控訴人は総選挙立候補予定者につき当落予想に関する記述(著作物)を作成し、被控訴人はこれを本件週刊誌の記事の一部として複製出版することを内容とする契約が成立したものと認めるのが相当である。
 
(略)
 ところで、出版許諾契約においては、出版者は著作物を原稿の内容のまま複製すべき義務があり、右内容に改変を加えることはできず、もし著作者の承諾なしに改変を加えて複製した場合には債務不履行の責任を生ずるとともに、著作者人格権である同一性保持権(著作権法第20条第1項)侵害の責任を負うべきである。本件において、前記認定のとおり、本件当落予想表には、控訴人原稿におけると同じく、当選圏内は〇、当落線上より上は△、当落線上より下は▲の各符号が立候補予定者氏名の上欄に付されていること、控訴人原稿と本件当落予想表に記載されている総選挙立候補予定者はそれぞれ830名、823名、そのうち〇△▲の符号が付されている立候補予定者数は630名余であるのに対し、控訴人原稿と本件当落予想表に付されている符号の相違(いずれか一方に符号の付されていないもの及び候補者名の記述のないものを含む。)は、被控訴人のミスにより本件当落予想表に符合を付さなかつた和歌山2区の5名を含めて58名分であつて、その余については、両者において付されている符号は同一であり、右相違分は、総選挙立候補予定者数に対し約7%、右符号の付されている立候補予定者数に対し約9.2%であること、本件当落予想表においても、控訴人原稿と同じく、〇の符号は1、△と▲の符号は合計が1として換算し、右により換算したものの和が定員数と同一となるように〇△▲の符号が付されていることなどを総合すると、本件当落予想表は全体としてみるならば、控訴人原稿を複製したものと認めるのが相当であるが、控訴人原稿を一部改変した部分を含むものであることは否定できない
 
また、控訴人と被控訴人との間の契約は控訴人が創作する著作物を本件週刊誌の記事の一部として複製出版するものであり、著作権そのものは控訴人に保有されているのであるから、控訴人に著作者人格権である氏名表示権が保有されていることはいうまでもなく、したがつて、被控訴人が本件当落予想表に著作者として控訴人の氏名を表示しなかつたことも、控訴人の右権利を侵害したものというべきである(前記改変部分には、同一性保持権の侵害と氏名表示権の侵害とが競合していると評価すべきである。)。
 
(略)
 叙上認定したところによれば、被控訴人は、本件週刊誌に、控訴人原稿を一部改変して本件当落予想表として、控訴人の氏名を表示しないで掲載したものであるから、少なくとも過失により控訴人の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を不法に侵害したものというべく、被控訴人は、右侵害により控訴人が被つた精神的損害を賠償すべき義務がある。
 
そこで、損害賠償額につき検討するに、控訴人原稿は、控訴人の専門的な知識、経験等に基づいて作成されたものであるところ、無断で一部改変されたことにより、選挙分析の専門家としての控訴人の自尊心が著しく傷つけられ、心痛の思いを抱かされたことは容易に推測し得ること、控訴人が被控訴人の依頼に応じて本件当落予想を行つたのは、それによつて得られる原稿料のためというよりは、自己の氏名が本件企画の記事中に掲記され、それによつて政治評論家としての信用、名声がより高められ、あるいは維持されることを期待したためであるところ、本件記事に控訴人の氏名が表示されなかつたため、右期待は果たされなかつたこと、被控訴人は、週刊サンケイの昭和58120日号の編集後記欄に、本件記事及び本件当落予想表については控訴人の協力を得た旨を掲載したこと、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、被控訴人の本件著作者人格権侵害により控訴人が被つた精神的苦痛を慰藉するには金20万円が相当であると認める。











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