著作権重要判例要旨[トップに戻る]







譲渡契約の解釈(13)-差押えによる著作権移転の有無が問題となった事例-
情報漏洩対策ソフト業務提携契約事件平成220903日東京地方裁判所(平成21()35164 

【コメント】本件は、「本件基本合意」に基づき、所定のプログラムの著作物(「本件著作物」)に係る著作権が被告から原告に移転したとして、原告が、被告に対し、本件著作権についての移転登録手続を求めた事案です。

 
本件においては、次の事実関係がありました。

基本合意の締結
 
被告は、平成2119日当時、別紙目録記載のプログラムの著作物である情報漏洩対策ソフトMach Lock-STATION Mu(以下「MLSM」又は「本件著作物」といい、その著作権を「本件著作権」ということがある。)の著作権者であった。
 
原告は、平成2119日、被告との間で、以下の内容(抜粋)の業務提携に関する基本合意(以下「本件基本合意」という。)を締結した。
『前文
被告と原告は,被告が製作販売するMLSM(本件著作物)を原告の業務用ソフトウェア製品の保守ソフトに改変(以下「本件改変」という。)し,相互協力の上,拡販体制構築を前提にしたライセンス使用許諾契約を締結すること(以下「本件提携」という。)を目的として以下のとおり合意する。
1条(本件提携の内容)
1 被告及び原告は,本件提携に当たり,本件改変に必要となる企画・研究・開発・設計・販売・運用等の一切の業務(以下「本件業務」という)を,原告被告間。で別途協議の上取り決めるスケジュールと役割分担に基づき遂行する。
2 被告及び原告は,本件業務の遂行に必要な情報を,原告被告別途協議した方法に従って各業務担当者に提供するものとする。
2条(著作権)
1 被告は,原告に対し,被告が本件提携に関するMLSM(本件著作物)のプログラム及び関連文書の著作権を保有し,被告において本件提携に関するMLSM(本件著作物)及び関連文書の更新,改良,変更,販売,リース及び著作権に関する一切の権限を有し,他に譲渡・担保提供等しないことを保証する。
2 本件提携に関するMLSM(本件著作物)及び関連文書の更新,改良,変更,販売,リース及び著作権行使につき第三者より異議,何らかの請求の申出があったとき,又は紛議が生じたときは,被告が責任をもって解決し,原告に何らの負担を及ぼさないものとする。
3条(費用負担)
本件改変を含むMLSM(本件著作物)及び関連文書の更新,改良及び変更に要する費用について,被告は原告よりの要請により費用が発生する場合,事前に原告に承認を得て施行するものとする。
5条(本件業務の遂行等)
1 被告は原告に対し本合意を締結し保証金3000万円の受託後速やかにMLSM(本件著作物)の下記プログラム及び本件提携に必要な関連文書の開示及びMLSM(本件著作物)の原告社内用PC2000台のライセンス供与及び原告の技術員に対する有償インストールライセンス研修を施行するものとする。
 
なお,開示情報は下記
 
@ソースプログラム
 A本件提携に関する必要資料
2 原告は前項に基づき被告より開示・許諾を受けた本件提携関係MLSM(本件著作物)の情報について本合意及び機密保持契約の内容を遵守の上,本件業務遂行に利用するものとし,その結果,原告が本件提携の目的を達成可能と判断したときは,原告は被告に対し,本件提携にかかわるMLSM(本件著作物)及び関連文書の更新,改良,変更,販売,リース及び著作権行使に関する一切の権限について原告被告の共有とするべく,その対価の一部として前項保証金を充当するものとする。なお,当該対価の価格については原告被告別途協議の上,決定するものとする。
3 本合意書有効期間内に,原告にて本件提携の目的を満足する結果を得られないとき,又は前項の原告被告間協議が合意に至らないときは,原告は被告との本件提携を解消するとともに,本件提携に関するMLSM(本件著作物)のプログラムソースコード開示に係わる一切の権限を放棄し,第1項の預託金を被告より無利息にて返還を求めることができる。ただし,当該本件提携契約の締結過程に遂行過程で生じた被告の費用の実費(インストールライセンス講習費用1人当たり33万円)については預託金より相殺するものとする。
9条(契約解除)
1 被告又は原告は,相手方が次の各号の1つに該当するときは,何らの通知又は催告を要さずに,本合意書を直ちに解除できるものとするとともに,かかる事由に該当した当事者は,相手方に対する期限未到来のものも含むすべての債務に関する期限の利益を喪失し,当該債務を直ちに履行するものとする。
 1)差押え,仮差押え,仮処分,公売処分,租税滞納処分等の強制執行その他これに準ずる処分を受けたとき
 
2)会社更生手続の開始,民事再生手続の開始,破産若しくは競売の申立てを受け,又は自ら会社更生手続の開始,民事再生手続の開始若しくは破産の申立てをしたとき
 
3)(以下省略)
2 被告が前項各号の1つにでも該当したときは,本件提携にかかわるMLSM(本件著作物)のプログラム及び関連文書に係る著作権その他一切の権利(著作権法21条から28条所定のすべての権利を含む。)は,原告被告何らの意思表示を要せず当然に被告から原告に移転するものとする。この場合,被告は原告に対し,直ちに前項の権利移転登録に必要な手続をするものとする。』

差押え
 
被告は、平成21713日付け債権差押命令による債権の差押え(「本件差押え」)を受けた。第三債務者である原告は、同月17日、同差押命令の送達を受け、同日、本件差押えの効力が生じた。

処分禁止の仮処分の登録
 
原告は、本件著作権について、被告を債務者として処分禁止の仮処分命令を申し立て、平成21731日、東京地方裁判所は、被告は、本件著作権について、譲渡、質権の設定、著作物の利用許諾その他一切の処分をしてはならないとの仮処分決定をした。
 
これを受け、同年84日、財団法人ソフトウェア情報センターは、本件著作物に係るプログラム登録原簿に、被告に対する上記処分禁止の仮処分の登録をした。 


 [本件差押えによる本件著作権の移転の有無について]
 
本件基本合意92項は,被告が同条1項に掲げる事由に該当した場合には,「本件提携に係わるMLSMのプログラムおよび関連文書にかかる著作権その他一切の権利(著作権法第21条から第28条所定の全ての権利を含む)」が,被告から原告に移転すると規定し,文言上「MLSMのプログラム」には何らの限定や制限が付されていないのであるから,「MLSMのプログラム」は,MLSMの二次的著作物ではなく,MLSMそのもののプログラムを意味すると解するのが相当である。
 また,本件基本合意の前文において,「本件提携」は,MLSMを原告の業務用ソフトウェア製品の保守ソフトに改変し,拡販体制構築を前提にしたライセンス使用許諾契約を締結することと定義されており,原告が被告から使用許諾を受け,被告の製作販売するMLSMを原告の業務用ソフトウェア製品の保守ソフトに改変した製品を販売するという事業につき原告と被告が提携することを意味するものであるから,「本件提携に係わるMLSM」との文言が,MLSMを改変した二次的著作物のみを意味するものと解することはできない。
 
本件基本合意においては,2条において「本件提携に関するMLSM」との文言が,52項,3項において「本件提携に係わるMLSM」,「本件提携に関するMLSM」との文言がそれぞれ用いられているが,いずれもMLSMの改変物である二次的著作物を意味するものではなく,MLSMそのものを意味するものと解される。
 
すなわち,2条は本件基本合意に基づきMLSMを改変する前提として,その改変作業を行う前である本件基本合意締結時点において,被告がプログラム等の著作権を保有することを保証する条項であるから,2条の「本件提携に関するMLSM」がMLSMそのものを意味することは明らかである。
 52項は,被告からMLSMのソースプログラム等の開示を受けた原告が,本件提携の目的を達成可能と判断した場合に,MLSM及びその関連文書の更新,改良等及び著作権行使に関する一切の権限について原告と被告の共有とする際の対価等の条件につき規定するものであるが,本件基本合意の締結後,原告と被告は,MLSMそのもの及び関連文書の著作権を原告と被告の共有とすることを目的に著作権の持分譲渡の対価の額等について交渉を重ねていることからすると,52項の「本件提携に係わるMLSM」はMLSMそのものを意味するものと解される。被告は,「ソフトウェア著作権共有等に関する契約書」記載の契約は原告被告間で締結されておらず,交渉に当たったAは被告の従業員ではなく,本件提携業務に関する権限を有さず,被告の代理人でもないと主張するが,契約締結に至らなくとも上記の交渉が行われたことに争いはなく,上記の交渉は,被告のシニアマネージャーの肩書きを有するAを通じて行われたものであり,Aは被告代表者の了解を得た上で交渉を行っていることから,被告の主張を採用することはできない。
 
また,53項は,被告からMLSMのソースプログラム等の開示を受けた原告が,本件提携の目的を満足する結果が得られない等の場合には,開示されたプログラムソースコードに係わる一切の権限を放棄するという内容の条項であるから,「本件提携に関するMLSM」がソースプログラムが開示されるMLSMそのものであることは明らかである。
 一方で,本件基本合意3条は,「本件改変を含むMLSMおよび関連文書の更新,改良および変更に要する費用」と規定しており,MLSMの改変を意味する場合には文言上明確な区別をしているといえる。
 
このような本件基本合意の各条項の文言からすると,本件基本合意92項の「本件提携に係わるMLSM」がMLSMの二次的著作物を指すと解する根拠はなく,MLSMそのものを意味すると解すべきであるから,被告が本件差押えを受け平成21717日にその効力が生じたことにより,MLSM(本件著作物)に係る著作権(著作権法21条から28条に規定する権利をすべて含む)は。被告から原告に移転したものと認められる
 
被告は,原告は被告に対し3000万円の保証金を支払っているが,その対価として被告からMLSMの原告社内用PC2000台のライセンス供与を受けているのであり,何ら本件取引において先行した資本投下をしているわけではなく,原告の本件著作権の権利移転を正当ならしめる経済的な合理性は見当たらないと主張する。しかし,二次的著作物の利用には原著作物の著作者の許諾が必要であり(著作権法28条),本件基本合意92項は,原著作物であるMLSMの著作権者である被告に破産等の経営状態の悪化を示す事由が生じた場合にMLSMを改変した二次的著作物の利用が制限される可能性があることから,原著作物であるMLSMの著作権を原告に移転させることにより二次的著作物の利用制限のおそれを回避しようとする趣旨の条項と解され,規定の経済的な合理性が首肯し得るのであって,被告の主張は失当である。

 
[本件基本合意の錯誤無効について]
 
被告は,本件基本合意の締結に当たり,MLSMそのものの著作権は被告にのみ帰属し,原告と被告の共有にすることは考えておらず,MLSMの改変物である二次的著作物の著作権を原告と被告の共有にすることを動機として合意したのであるから,被告の意思表示には動機の錯誤があると主張する。
 
しかし,上記に説示したとおり,本件基本合意52項は,被告からMLSMのソースプログラム等の開示を受けた原告が,本件提携の目的を達成可能と判断した場合に,MLSM及びその関連文書の更新,改良等及び著作権行使に関する一切の権限について原告と被告の共有とする際の対価等の条件につき規定するものである。そして,本件基本合意の締結後,原告と被告は,MLSMそのもの及び関連文書の著作権を原告と被告の共有とすることを目的に著作権の持分譲渡の対価の額等について交渉を重ね,被告は,MLSMの著作権を原告との共有にすることを受け入れているが,この交渉の過程において,被告が本件基本合意においてMLSMそのものの著作権を原告と被告の共有にすることは考えていなかったことをうかがわせるような証拠は全くない。被告は,上記交渉に当たったAは本件提携業務に関する権限を有さず,被告の代理人でもないと主張するが,同主張を採用することができないことは,上記のとおりである。
 
上記のとおり,本件基本合意の締結に当たり,MLSMそのものの著作権は被告にのみ帰属し,MLSMの著作権を原告と被告の共有にすることは考えていなかったという被告主張の動機を認めることはできず,また,被告主張の動機が明示又は黙示に表示されていたことを認めるに足りる証拠もない。
 
したがって,被告の錯誤無効の主張(抗弁)は,採用することができない。











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