著作権重要判例要旨[トップに戻る]







教材出版社が加盟する協会の注意義務
日本図書教材協会事件」平成160330日東京地方裁判所(平成14()26178 

【コメント】本件は、原告らが、被告らに対し、主位的に、被告らが訴外会社らに対し誤った説明、指導をしたことが著作権侵害行為の教唆、幇助に当たると主張し、予備的に、被告らの不作為により訴外会社らによる著作権侵害を招いたと主張して、民法709条、7192項に基づき、損害賠償を請求した事案です。

 
原告ら(いずれも詩人ないし童話作家)は、「本件各著作物」の著作権者であり、本件各著作物は、小学校の国語科検定教科書に掲載されています。
 
被告社団法人日本図書教材協会(以下「被告協会」という。)は、学校において使用される図書教材類の出版を業とする教材出版社が加盟する社団法人で、昭和30828日に設立され、昭和33814日に文部大臣から社団法人としての認可を受けました。被告協会は、図書教材類に関する調査研究をなし、その質的向上及び出版倫理の高揚を図るとともに、会員相互の連絡研修を行い、もって学校教育の振興に寄与することを目的としています(定款4条)。
 
教材出版社である株式会社文溪堂、青葉出版株式会社、株式会社日本標準、株式会社教育同人社、株式会社新学社及び株式会社光文書院(以下、併せて「訴外会社ら」という。なお、訴外会社らは、いずれも被告協会に加盟する正会員です。)は、少なくとも昭和55年から平成12年にかけて、小学校において使用される国語テスト(以下「本件各教材」という。)に、本件各著作物の一部を原告らの許諾なく複製し、これを出版しました。原告らは、平成116月、東京地方裁判所に対し、訴外会社らを相手方として本件各教材の出版販売等の差止めの仮処分を申請するとともに、同月、訴外会社らを被告として本件各教材の制作販売の差止め及び損害賠償を請求する本案訴訟を提起しました。東京地方裁判所は、同年12月、上記仮処分申請を却下しましたが、これに対する抗告審である東京高等裁判所は、平成129月、本件各教材の出版販売が著作権侵害に当たるとしてその差止めを命じる旨の決定をしました。上記本案訴訟については、東京地方裁判所は、平成15328日、原告らの訴外会社らに対する本件各教材の出版販売等の差止め及び損害賠償請求の一部を認容しました。 


 [誤った説明,指導による不法行為の成否について]
 
原告らは,被告らが訴外会社らに対して,@教科書掲載作品を本件各教材に複製することは適法引用に当たる,A教科書会社への謝金の支払により作品の著作権者に関する権利処理は一切不要である,B教科書掲載作品の分量の30%の範囲内の複製であれば,著作者の許諾も使用料の支払も不要である,という誤った説明,指導をした旨主張する。
(1) 上記@の説明,指導について
 
被告らが教科書掲載作品を本件各教材に複製することは適法引用に当たるとの上記@の説明ないし指導したことを認めるに足りる証拠はない。
 (略)
 
もっとも,教科書に掲載された著作物の一部を本件各教材のような教材に使用することは引用に当たり,適法であるとの上記被告らの見解は,前記認定の仮処分に関する東京高等裁判所の決定及びその後の本案訴訟に関する東京地方裁判所の判決でも判示されているとおり,法的判断としては誤っていたものである。しかしながら,被告らの有していた見解が誤りであったからといって,訴外会社らの著作権侵害行為に対する教唆ないし幇助行為を行ったということはできない。
(2) 上記Aの説明,指導について
 
被告らが教科書会社への謝金の支払により作品の著作権者に関する権利処理は一切不要であるとの上記Aの説明ないし指導したことを認めるに足りる証拠はない。
 
(略)
 もっとも,上記訴訟上の和解及び基本契約により昭和45年以降平成11年まで被告協会を通じて教学図書協会に対して支払われた礼金ないし謝金には,教科書に掲載された作品の著作者に対する著作権料は含まれていないから,謝金の支払により教科書に掲載された作品を適法に図書教材に複製することができるとの上記被告らの見解は,誤りであったというほかない。しかしながら,被告らの有していた見解が誤りであったからといって,訴外会社らの著作権侵害行為に対する教唆ないし幇助行為を行ったということはできない。
(3) 上記Bの説明,指導について
 被告らが教科書掲載作品の分量の30%の範囲内の複製であれば著作者の許諾も使用料の支払も不要であるとの上記Bの説明ないし指導したことを認めるに足りる証拠はない。
 
(略)
 
[不作為による不法行為の成否について]
(1) 先行行為に基づく作為義務について
 
原告らは,本件各著作物の本件各教材への引用が適法引用に当たるとの見解を示すという先行行為を行った以上は,その誤りを是正すべき条理上の作為義務を負ったのにこれを怠ったことが不法行為に当たると主張する。
 
訴外会社らは,少なくとも平成912月の時点までは,教科書に掲載された作品の一部を本件各教材のような教材に使用することは適法引用に当たるとの見解に基づき,教科書掲載作品の著作者から使用許諾を得る等の権利処理を行ってこなかったことは,前記認定のとおりであり,訴外会社らは,原告らの著作権を侵害したものである。
 
しかしながら,被告らが,本件各著作物の引用が適法引用に当たるとの見解や教科書会社に支払った謝金には作品の著作者に対する著作権料が含まれているとの見解を有していたものの,これを訴外会社らに対し,説明ないし指導した事実が認められないことは,上記で説示したとおりである。したがって,被告らには,そもそもその誤りを是正すべき条理上の作為義務を基礎付ける原告ら主張の先行行為が存在しない。
(2) その余の理由による作為義務について
 
そもそも,被告協会は,訴外会社らの教材出版社を会員として構成される任意団体であり,会員相互の連絡研修等を行うことも目的の1つとしているが,その見解を会員に義務づけたり,著作権者との間で常に契約の当事者となるべき性質の団体ではない。また,被告協会は,本件各教材の企画や内容の決定について,加盟している訴外会社らに対して指導することはなく,これらについては,訴外会社らが個別に行っていた。しかも,被告協会は,本件各教材の企画や内容の決定等について対価を受領しているわけでもないから,教科書に掲載された著作物を本件各教材に使用するか否かやどの程度の分量を使用するかについては,訴外会社らが個別に判断して制作すべきものであり,訴外会社らは,各自の判断により,本件各著作物を使用することなく本件各教材を制作することもできたものである。また,本件各著作物の複製が適法引用に当たるか否かについても訴外会社らが各自判断できたのであり,現に,上記で認定したとおり,被告協会に加盟している株式会社文溪堂は,従前の被告協会の見解にかかわらず,監査の弁護士からの指摘を受けて作品の著作者の許諾を受けることとしたものである。
 
よって,被告らは,訴外会社らの著作権侵害行為を阻止すべき義務を負う立場にはなく,本件各教材の制作に当たり,原告らの許諾を得ることなく本件各著作物を複製したのは,訴外会社ら各自の判断によるものであり,被告らの不作為とは関係がない
 
また,被告らは,少なくとも前記認定の日本ビジュアル著作権協会等からの質問状が会員に送付された平成912月の時点までは,教科書に掲載された著作物の一部を本件各教材のような教材に使用することは適法引用に当たり,教科書会社への謝金の支払により,教科書に掲載された作品を適法に図書教材に複製することができるとの見解を有していたこと及びこの見解が誤っていたことは,前記認定のとおりである。そして,前記認定の裁判所における仮処分却下決定及び和解内容や文化庁著作権課長の見解等ともあいまって,被告らは,上記時点まで上記誤った見解を維持し続けたものである。しかしながら,被告らは,上記時点以前には,長年にわたり,訴外会社らが原告らから使用料を請求されたり警告を受ける等することもなく,自らの見解を改めるべき機会がなかったから,少なくとも上記時点までは,被告らに,上記見解を改めて訴外会社らに対し正しい説明ないし指導を行って著作権侵害行為を中止させることを期待することはできない。しかも,訴外会社らによる本件各教材の出版及び販売によって対価を受領しておらず,これにより営業上の利益を上げているわけでもない被告らに,訴外会社らの著作権侵害行為を是正すべき条理上の作為義務が発生するとはいえない
 
なお,上記で認定したとおり,被告協会は,音楽や写真の教材への使用について,平成4年にJASRACとの間で,平成6年に日本写真家協会との間で,使用料の支払の合意をしているが,…によると,これらはJASRACの管理著作物や写真家の写真一般に関しての合意であり,それらが教科書に使用されている場合の使用料の支払に関するものではないから,平成4年ないし6年の時点で,直ちに被告らに上記見解を改めて正しい説明,指導を行うべき条理上の作為義務が発生することはない。
(3) 平成912月以降について
 
作為義務の発生原因として原告らが主張する先行行為が存在しないことは前記(1)のとおりであり,その余の理由によっても作為義務が発生しないことは前記(2)のとおりである。もっとも,被告らは,少なくとも平成912月の時点では,訴外会社らの行為が適法であるとの見解を有していたが,その時点以降原告らとの関係に思い至ったとも考えられる。しかし,被告協会は,前記認定の日本ビジュアル著作権協会からの質問状が会員に送付された後,平成108月から,著作者の団体と話合いを行い,小学校国語教科書著作者の会,社団法人日本児童文学者協会,社団法人日本児童文芸家協会及び社団法人日本文藝家協会等との間で,著作物使用についての協定書を締結するとともに,過去分使用料の支払に関する協議を行い,被告協会の従来の見解に基づく主張が通らないこと及び協議の経緯等について加盟する教材出版社に通知していることは,前記認定のとおりである。したがって,仮に平成912月以降,被告らに何らかの作為義務が生じたとしても,上記時点以降上記のような措置をとった被告らが原告らに対し,条理上の作為義務に違反したことを理由として損害賠償責任を負う筋合いにはない











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