著作権重要判例要旨[トップに戻る]







模写作品の著作物性(2)
「江戸浮世絵模写作品(書籍)事件」平成180323日東京地方裁判所(平成17()10790)/ 平成180926日知的財産高等裁判所(平成18()10037等)
 

【原審】

 
原告各絵画の著作物性・原告の主位的主張について
 原告各絵画が,本件各原画を模写して作成されたことについては,当事者間に争いがない。「模写」とは,「まねてうつすこと。また,そのうつしとったもの。」(岩波書店「広辞苑」参照)を意味するから,絵画における模写とは,一般に,原画に依拠し,原画における創作的表現を再現する行為,又は,再現したものを意味するものというべきである。したがって,模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのものであり,新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には,原画の複製物であると解すべきである。これに対し,模写作品に,原画制作者によって付与された創作的表現とは異なる,模写制作者による新たな創作的表現が付与されている場合,すなわち,既存の著作物である原画に依拠し,かつ,その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ,その具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,これは上記の意味の「模写」を超えるものであり,その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである。
 機械や複写紙を用いて原画を忠実に模写した場合には,模写制作者による新たな創作性の付与がないことは明らかであるから,その模写作品は原画の複製物にすぎない。また,模写制作者が自らの手により原画を模写した場合においても,原画に依拠し,その創作的表現を再現したにすぎない場合には,具体的な表現において多少の修正,増減,変更等が加えられたとしても,模写作品が原画と表現上の実質的同一性を有している以上は,当該模写作品は原画の複製物というべきである。すなわち,模写作品と原画との間に差異が認められたとしても,その差異が模写制作者による新たな創作的表現とは認められず,なお原画と模写作品との間に表現上の実質的同一性が存在し,原画から感得される創作的表現のみが模写作品から覚知されるにすぎない場合には,模写作品は,原画の複製物にすぎず,著作物性を有しないというべきである。
 原告は,絵画彫刻においては,機械的模写でない限り,模写については模写制作者による創作性が認められることは,模写制作の各過程(認識行為と再現行為)において,それぞれ模写制作者の創作性が発揮されることからも明らかであるから,仮に原画と模写作品が酷似していても,常に創作性が認められると主張する。
 
しかし,著作権法は,著作者による思想又は感情の創作的表現を保護することを目的としているのであるから,模写作品において,なお原画における創作的表現のみが再現されているにすぎない場合には,当該模写作品については,原画とは別個の著作物としてこれを著作権法上保護すべき理由はないというべきである。したがって,原画と模写作品との間に表現上の実質的同一性が存在する場合には,模写制作者が模写制作の過程においてどのように原画を認識し,どのようにこれを再現したとしても,あるいは,模写行為自体に高度な描画的技法が採用されていたとしても,それらはいずれもその結果として原画の創作的表現を再現するためのものであるにすぎず,模写制作者の個性がその模写作品に表現されているものではない
 また,原告は,美術界における模写行為の創作性及びその芸術的意義を強調し,尾形光琳と酒井抱一の各模写作品を比較検討し,その表現上の違いから,尾形光琳らによる創作性の付与を指摘すると共に,尾形光琳の模写作品は重要文化財として高く評価されているし,横山大観らも多くの模写作品を残しているとも主張する。しかし,模写作品が二次的著作物として著作権法上の保護を与えられるべきか否かについては,個々の模写作品毎に,著作権法に基づく法的な判断,すなわち,著作権法における著作物性の概念を前提に判断されるべきであり,本件においては,本件各原画と比べた原告各絵画の著作物性について論じれば足り,美術界において論じられている模写行為の創作性及び模写作品の芸術的意義一般について論じる必要性はないし,また,著名な画家が過去に制作した模写作品の著作物性を本件において論じる必要性もない(尾形光琳と酒井抱一あるいは横山大観の各模写作品の著作物性については,別途詳細に議論されるべき問題であり,本件においては,本訴の訴訟物である原告各絵画の著作物性について検討すべきである。)。原告各絵画が本件各原画の二次的著作物か複製物にすぎないかは,本件各原画と原告各絵画を比較し,原告各絵画について新たな創作的表現が付与されたと認められるか否かにより判断すべきである。
 さらに,原告は,絵画を描くという造形と色彩による表現行為には,極めて個性が現れやすいものであり,手描きのものであれば,その形象のうちに個人的特性を有しているものと解してよいのであり,風景や人物などの「対象をそのままに写しとること」を目的とする写生と模写とは,模写が過去の作品の主題や構図を対象としてとらえる点で,その対象が異なるにすぎないから,模写作品の創作性もまた,写生作品の創作性と同様に考えることができる,と主張する。
 確かに,多数の人が,同一の風景,人物あるいは静物を対象として写生し,これを絵にすれば,構図の類似性があっても自ずから個性が表れるものであり,それぞれのものが別個の著作物として保護されることは当然である。しかし,他人の著作物を模写して,その創作的表現を再現したにすぎない模写作品については,著作権法上は,模写制作者により新たな創作的表現が付与されていない限り,元の著作物の複製に該当するものと解すべきである。原告の主張は,他人の著作物の創作的表現をそのまま再現する行為を新たな創作行為であると主張するものであり,風景や人物あるいは静物を対象としてこれを描写し,絵として描く行為と,他人の著作物を模写し,その創作的表現を再現する行為とを同一に論じることはできない。
 
以上によれば,原告の主位的主張は採用することができない。

【控訴審】

 
[原告各絵画の著作物性に関する控訴人の主位的主張について]
 控訴人は,模写制作の各過程(認識行為と再現行為)において,それぞれ模写制作者の創作性が発揮されることを理由として,機械的模写でない限り,創作性が認められるものとして,模写作品は著作権法上の著作物に該当するものであり,また,原告各絵画の著作物性を判断する際の検討順序としては,まず著作物性の判断をすべきであって,原画の複製物であるかどうかを先に判断すべきではないと主張する。
 
しかしながら,前記引用に係る原判決において詳細に説示するとおり,一般に模写作品とは,原画に依拠して原画における創作的表現を再現したものを意味するものであって,模写制作者により,模写作品に原画に見られない新たな創作的表現が付与されていない限り,原画の複製物にとどまるものとして,著作物性を否定されるものであるところ,本件において,原告各絵画が本件各原画を模写して作成されたものであることは当事者間に争いがないから,原告各絵画の著作物性を判断するに当たっては,本件各原画と比較し,原告各絵画について新たな創作的表現が付与されているかどうかを検討すべきものである。控訴人がるる主張するところは,要するに,模写制作の各過程(認識行為と再現行為)において,それぞれ模写制作者の創作性が発揮されるものである以上,「出来あがったものがたとえどんなに原画と似ていようが」創作性が認められるというのであり,原画と模写作品との間に表現上の同一性が存在しても,原画の複製物ではなく,著作物として保護されるというものであって,著作物が思想又は感情を「創作的に表現したもの」(著作権法211号)であることを無視した独自の見解というほかなく,控訴人の主張は,著作物性の判断に当たっての検討順序をいう点を含め,採用することができない。
 [原告各絵画の著作物性に関する控訴人の予備的主張について]
 
控訴人は,絵画のモチーフと表現方法・手段とは不即不離,表裏一体の関係にあることから,絵画のモチーフが異なれば,それに対応して絵画の表現方法・手段もおのずと異なってくるものであり,@本件原画1と原告絵画1との間では,本件原画1が,黄表紙の挿絵という性格を持ち,そのため,読み物の地の文やセリフの文のスペースを確保する必要があり,また,読み物の場面,すなわち「逃げる小僧,追う主人,止める番頭」という劇的な場面を描くことを目的とするというモチーフを有するのに対して,原告絵画1は,江戸風俗を描くという本来の意図に沿って江戸時代の典型的な酒屋を描く,すなわち江戸時代の酒屋でどのような人達がどのような道具を使ってどういう風に商売をしていたのかを明らかにするというモチーフを有するものであって,このようなモチーフの違いから,両者の間には,別紙「控訴人対比表1」記載のとおりの描き方の特徴の差異が存在するものであって,これによれば,原告絵画1は,江戸風俗の再現という亡A固有のモチーフに基づいて,これと相容れない本件原画1の重要な表現部分を意図的に削り取り,そのモチーフにふさわしい表現方法に置き換えられて表現されており,この点からしても,原告絵画1には本件原画1とは明らかに異質な亡A固有の表現方法が認められる旨,Aまた,本件原画4と原告絵画4との間では,本件原画4が,人情本の挿絵で,絵自体の主題は3人の登場人物たちであり(ただし,模写の対象となったのは,その場面に登場する小道具),当該場面は,後ろにひっくり返らんばかりに反り返った女性が子供を抱き上げた瞬間が,左側の男性の姿勢も含めて,全体として右上に向かってダイナミックな動きで描くというモチーフを有するのに対して,原告絵画4は,江戸風俗を描くという本来の意図に沿って江戸時代の日常生活用具の1つとして「蚊いぶし」を描くというモチーフを有するものであって,このようなモチーフの違いから,両者の間には,別紙「控訴人対比表2」記載のとおりの描き方の特徴の差異が存在するものであって,これによれば,原告絵画4もまた,江戸風俗の再現という亡A固有のモチーフに基づいて,これと相容れない本件原画4の重要な表現部分を意図的に削り取り,そのモチーフにふさわしい表現方法に置き換えられて表現されており,この点からしても,原告絵画4には本件原画4とは明らかに異質な亡A固有の表現方法が認められる旨を主張する。
 しかしながら,仮に模写作品のモチーフが原画のそれと異なることによって模写作品の表現方法・手段が原画のそれと異なるものとなるとしても,その結果として,原画に存しない創作的表現が模写作品に新たに付与されているのでなければ,模写作品は二次的著作物とはならない。すなわち,単にモチーフが違うということのみをもって,模写作品が二次的著作物として原画と別個の著作物と評価されるものではない
 
そして,控訴人がモチーフの違いからもたらされた描き方の特徴と主張する,上記の原告絵画14の本件原画14との表現上の相違点は,いずれも実質的には原審において主張したものと同一であり,前記引用に係る原判決の説示するとおり,これらの相違点をもって本件原画14に新たな創作的表現を付与したものと認めることはできず,原告絵画14は,本件原画14に描かれているものと表現上の同一性の範囲内のものといわざるを得ない。したがって,原告絵画14は本件原画14の複製にとどまるものであって,亡Aにより創作された二次的著作物と評価することはできない。
 
[被控訴人の主張について]
 
被控訴人は,模写において原画の特徴的部分が変更されている場合であっても,「変更」が単なる創作性の削除にすぎず,新たな創作性の付与ではない場合や,「変更」が単なる付加にしかすぎず,新たな創作性の付与でない場合もあることに照らせば,原画の特徴的表現部分の「変更」が必ずしも新たな「創作性の付与」を意味するものではないとした上で,原告絵画2においては,焼継師が幽霊に驚いてる姿という本件原画2の特徴的部分を削除し,これを通常の焼継師に描き換えたものにすぎず,また,原告絵画3においては,高貴な者が焼き継をするという本件原画3の特徴的部分を削除して,これに代えて一般的な町人の顔を付加したものであって,いずれも創作性のない些細な変更を行ったにすぎないから,原告絵画23は,いずれも複製と評価されるべき削除加筆の領域を出るものではなく,二次的著作物ではないと主張する。
 
しかしながら,原告絵画23については,前記引用に係る原判決の説示するとおり,いずれも亡Aの創作的表現が付与されているものであり,本件原画23の二次的著作物として著作物性が認められるものというべきである。
 被控訴人は,上記のとおり,原告絵画23は,本件原画23の特徴的部分を削除した上で創作性のない些細な変更を行ったにすぎないと主張するが,原告絵画2においては,焼継師は首をすくめない状態で右手で天秤棒から右側の木箱をつるしたひもを掴んでいるもので,全身の姿勢において本件原画2とは異なる姿が描かれているものであり,また,原告絵画3においては,焼継師が町人風のまげを結った人物とされているもので,人物画において見る者の注目をひく枢要部である頭部・顔面において本件原画3とは異なる容貌が描かれているものであるから,いずれも,些細な変更にとどまるものではなく,また,上記の変更により,作品全体としても本件原画23とは異なる印象を受けるものであるから,原告絵画23は,亡Aによる創作的表現が付与され,作品全体としても本件原画23と異なる創作的表現を感得することができるものとして,二次的著作物に該当するというべきである。











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