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名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明
「『夕刊フジ』記事事件」平成90909日最高裁判所第三小法廷(平成6()978 

 新聞記事による名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである。ところで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41623日第一小法廷判決、最高裁昭和581020日第一小法廷判決参照)。一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである(最高裁昭和62424日第二小法廷判決、最高裁平成元年1221日第一小法廷判決参照)。そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。
 右のように、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。ところで、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(最高裁昭和31720日第二小法廷判決参照)、そのことは、前記区別に当たっても妥当するものというべきである。すなわち、新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について、そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接的ないしえん曲に前期事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である。
 
以上を本件について見ると、次のとおりいうことができる。
() まず、『Aは極悪人、死刑よ』という本件見出し1は、これと一体を成す見出しのその余の部分及び本件記事の本文に照らすと、乙の談話の要点を紹介する趣旨のものであることは明らかである。ところで、本件記事中では、当時、上告人は、前記殺人未遂被疑事件について勾留されており近日中に公訴が提起されることも見込まれる状況にあったが、嫌疑につき頑強に否認し続けていたこと、乙はかねて上告人と相当親しく交際していたが、同人から、捜査機関の事情聴取に応ずるにも値すべき「事件のこと」に関する説明を受けたことがあること、その上で、乙が、上告人について、『本当の極悪人ね。(中略)自供したら、きっと死刑ね。今は棺桶に片足をのっけているようなもの』と述べたことが紹介されているのである。右のような本件記事の内容と、当時上告人については前記殺人未遂事件のみならず殺人事件についての嫌疑も存在していたことを考慮すると、本件見出し1は、乙の談話の紹介の形式により、上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し、右事実を摘示するとともに、同事実を前提にその行為の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当である。
() 次に、『丙さんも知らない話…警察に呼ばれたら話します』という本件見出し2は、右()に述べた事情を考慮すると、やはり乙の談話の紹介の形式により、上告人が前記の各犯罪を犯したと主張し、右事実を摘示するものと解するのが相当である。右談話は、その後の両名の相当親密な関係に立脚するものであることが本件記事中でも明らかとされており、本件記事が報道媒体である新聞紙の第一面に掲載されたこと、本件記事中には乙の談話内容の信用性を否定すべきことをうかがわせる記述は格別存在しないことなども考慮すると、本件記事の読者においては、右談話に係る事実には幾分かの真実も含まれていると考えるのが通常であったと思われる。そうすると、右見出しは、上告人の名誉を毀損するものであったというべきである。
() 最後に、「この元検事にいわせると、Aは『知能犯プラス凶悪犯で、前代未聞の手ごわさ』という。」という本件記述は、上告人に対する殺人未遂被疑事件についての前記のような捜査状況を前提としつつ、元検事が上告人から右事件について自白を得ることは不可能ではないと述べたことを紹介する記載の一部であり、当時上告人については右殺人未遂事件のみならず殺人事件についても嫌疑が存在していたことも考慮すると、本件記述は、元検事の談話の紹介の形式により、上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し、右事実を摘示するとともに、同事実を前提にその人格の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当である。
 もっとも、原判決は、本件見出し1及び本件記述に関し、その意見ないし論評の前提となる事実について、被上告人においてその重要な部分を真実であると信ずるにつき相当の理由があったと判示する趣旨と解する余地もある。
 
しかしながら、ある者が犯罪を犯したとの嫌疑につき、これが新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない。けだし、ある者が実際に犯罪を行ったということと、この者に対して他者から犯罪の嫌疑がかけられているということとは、事実としては全く異なるものであり、嫌疑につき多数の報道がされてその存在が周知のものとなったという一事をもって、直ちに、その嫌疑に係る犯罪の事実までが証明されるわけでないことは、いうまでもないからである。
 
これを本件について見るに、前記のとおり、本件見出し1及び本件記述は、上告人が前記殺人未遂事件等を犯したと断定的に主張するものと見るべきであるが、原判決は、本件記事が公表された時点までに上告人が右各事件に関与したとの嫌疑につき多数の報道がされてその存在が周知のものとなっていたとの事実を根拠に、右嫌疑に係る犯罪事実そのものの存在については被上告人においてこれを真実と信ずるにつき相当の理由があったか否かを特段問うことなく、その名誉毀損による不法行為責任の成立を否定したものであって、これを是認することができない。











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