著作権重要判例要旨[トップに戻る]







利用許諾契約の解釈(23)
「映画『妻と拳銃』製作資金調達事件」平成201204日東京地方裁判所(平成20()2106/平成210729日知的財産高等裁判所(平成21()10005 

【コメント】本件は、原告が、被告らにおいて、原告が著作権を有する映画作品について、DVDの発売及び予約受付の広告を掲載したことが、原告の著作権(複製権・頒布権)を侵害する共同不法行為に当たると主張して、被告らに対し、不法行為に基づき損害賠償などを求めた事案です。 

【原審】

 
被告らに対する著作権(複製権・頒布権)侵害による損害賠償請求権の有無について
 原告は,被告らが共謀の上,本件雑誌広告を掲載し,本件WEB掲載を行った旨主張し,これらの行為が,原告の映画(「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」)の著作権(複製権・頒布権)を侵害するものである旨主張する。
 …によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 Z(管理人注:原告代表者)は,平成17年夏ころから,「妻と拳銃」と題する映画の製作に取り掛かっていたものの,同映画の製作を続行するために,製作資金を調達する必要に迫られていた。
 そこで,Zは,かねてから知り合いであった,アジアシネマギルドのWに対し,出資者の開拓などを依頼することにし,原告は,Wの所属するアジアシネマギルドに対し,本件ビデオグラム化権A及びB等を販売,譲渡すること(本件映画A及びBの複製・頒布の許諾)について代理権を授与した。
 原告とアジアシネマギルドとは,平成17128日ころ,「営業代行業務委託に関する覚書」と題する書面を作成した。
 Wは,平成1712月ころ,被告イーエスのYや被告イーネットのXの下を訪れ,同人らに対し,Zが現在「妻と拳銃」と題する映画を撮影中であり,製作資金を調達する必要があること,アジアシネマギルドが原告から依頼を受けて,出資者を探していることなどを話し,出資を依頼したことがあった。
 
Wは,平成18111日,被告イーエスのYを訪ね,同人に対し,原告が「妻と拳銃」の製作のために資金を調達する必要があることを話した。
 Yは,Wから,本件ビデオグラム化権A及びBの販売,譲渡(本件映画A及びBの複製・頒布の許諾)について,アジアシネマギルドが代理権を有していることを聞き,本件映画A及びBの複製・頒布の許諾を受けて,これらを複製・頒布することにより,資金の回収を図ることにして,Wに対し,350万円を交付した。
 
Zは,Wから上記350万円を受領し,本件映画A及びBの原盤をWを通じて,被告イーエスに交付した。
 被告イーエスは,本件映画A及びBの原盤を確認し,検討の結果,「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」を商品化することにし,被告イーネットに対し,上記各映画のDVDの販売を委託した。
 なお,被告イーネットのXは,被告イーエスによる金銭の交付及び原盤の受領の経緯を,Yから聞くなどして知っていた。
 被告らは,上記各映画のDVDの発売日を平成18421日にすることに決定し,被告イーネットは,「DVDナビゲーター」4月号に広告を掲載することにし,同年1月下旬ころか同年2月上旬ころには,上記雑誌に広告の掲載を手配した。
 その結果,「DVDナビゲーター」4月号に,本件雑誌広告が掲載され,同雑誌は,同年3月上旬ころには店頭に並べられた。
 
ところが,平成183月下旬ころには,「嵩山少林寺」のDVDが既に他社から発売されたことがあったことが判明し,また,Zが被告らの行為について弁護士に相談をしているとの噂を伝え聞いたことなどから,被告イーエスは,「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」のDVDの発売を中止することにし,被告らは,同月31日,販売店等取引先に対し,上記各映画のDVDの発売中止を告知した。
 
上記認定事実に照らせば,被告らは,本件雑誌広告の出稿当時,被告イーエスにおいて,原告から,「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」を複製・頒布することについて許諾を受けていた可能性が高く,被告らにおいても,許諾を受けたと考えていたことが認められる。実際にも,被告イーエスは350万円を原告に交付し,原告から上記各映画の原盤の交付を受けたのであるから,仮に,上記許諾について明確な合意があったと認められないとしても,被告イーエス及び同被告から販売委託を受けた被告イーネットにおいて,原告から上記各映画の複製・頒布について許諾を受けたものと考えたことについて,少なくとも過失はないというべきである。
 したがって,被告らが,本件雑誌広告の掲載について,不法行為責任(著作権侵害の責任)を負うことはない。
 また,本件WEB掲載については,これが被告らによる行為,あるいは,被告らの委託による行為であることを認めるに足りる証拠は存しない。
 なお,被告イーエスが,上記各映画のDVD等を作製し,あるいは,被告らが,上記各映画のDVD等を頒布したことを認めるに足りる証拠はないから,上記の点においても,複製権や頒布権の侵害はない。
 原告は,複製権・頒布権は,著作権者において,複製・頒布することを妨げることになる一切の行為を排除することを要求する権利を内包するなどと主張する。しかしながら,原告の上記主張は,著作権法が「複製」や「頒布」について,それぞれ定義規定を置いていること(著作権法2115号,19号)を顧慮しない,独自の見解であって,採用の限りではない。
 その他,本件において,被告らによる本件雑誌広告の掲載が,原告に対する不法行為に該当するものと認めるべき事情については,具体的な主張立証がない。

【控訴審】

 控訴人の被控訴人らに対する著作権(複製権,頒布権)及び著作者人格権(公表権)侵害による損害賠償請求権の有無について
 控訴人は,被控訴人らが共謀の上,本件雑誌広告を掲載し,本件WEB掲載を行った旨主張し,これらの行為が,控訴人の映画(「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」)の著作権(複製権・頒布権)を侵害するものである旨主張する。
 また,控訴人は,…に掲載された写真は「嵩山少林寺」「CHARON(カロン)」の原盤から抜き出した画像であって,同部分につき複製権,頒布権の侵害が存することは明らかである上,「CHARON(カロン)」については,当時,ビデオグラムとして未公表であったから,被控訴人らがその存在を公表したことは,控訴人の公表権を侵害するものである旨主張するので,以下,検討する。
 …によれば,以下の事実が認められる。
 被控訴人イーエスは,平成181月中旬ころ,本件合意に基づき,本件映画A及びBの原盤(「ポチの告白」の原盤を除く。)を受領した後,これらを確認し,検討の結果,「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」を商品化することにし,被控訴人イーネットに対し,上記各映画のDVDの販売を委託した。
 なお,被控訴人イーネットのXは,被控訴人イーエスによる金銭の交付及び原盤の受領の経緯を,Yから聞くなどして知っていた。
 被控訴人らは,上記各映画のDVDの発売日を同年421日にすることに決定し,被控訴人イーネットは,「月刊DVDナビゲーター」4月号に広告を掲載することにし,同年1月下旬ころか同年2月上旬ころには,上記雑誌に広告の掲載を手配した。
 
その結果,「月刊DVDナビゲーター」4月号に,本件雑誌広告が掲載され,同雑誌は,同年3月上旬ころには店頭に並べられた。
 ところが,同月下旬ころには,「嵩山少林寺」のDVDが既に他社から発売されたことがあった事実が判明し,また,Zが被控訴人らの行為について弁護士に相談をしているとの噂を伝え聞いたことなどから,被控訴人イーエスは,「嵩山少林寺」及び「CHARON(カロン)」のDVDの発売を中止することにし,被控訴人らは,同月31日付けで,販売店等取引先に対し,上記各映画のDVDの発売中止を告知した。
 CHARON(カロン)」は,平成17年ころから,各種映画祭などに出品,上映されており,新聞・雑誌等でも取り上げられていた。
 前記のとおり,控訴人は,平成181月ころ,被控訴人イーエスとの間で本件合意に至り,被控訴人イーエスに対し,「嵩山少林寺」「CHARON(カロン)」を複製・頒布することについて許諾したものである。
 なお,控訴人は,Wはアジアシネマギルドの社員ではなく,被控訴人らがWの交渉権限を確認せず,Uに対し,会社としての意思確認をしなかったことには重大な過失がある旨主張する。しかし,前記のとおり,Wがアジアシネマギルドの「EXECUTIVE PRODUCER」である旨の名刺を持っており,控訴人はWを通じて被控訴人イーエスと交渉をしていたものである上,控訴人自身も,原審においては,Wに対し,被控訴人イーエスとの交渉権限を与えていた旨主張していたものであって,控訴人の主張の変遷自体に合理的な理由はない(そもそもWに交渉権限がないのであれば,控訴人が主張する「本件売買契約」が成立することもあり得ず,控訴人の主張は矛盾している。)。いずれにしても,Wに交渉権限すらなかったことを前提とする控訴人の上記主張は採用できない。
 以上のとおり,被控訴人らは,本件合意に基づき,本件雑誌広告の掲載を行ったものであり,仮に本件合意が事後的に効力を失ったとしても,被控訴人らが上記広告掲載のための手配をしていた平成181月ないし2月時点において,本件合意が有効であったことは明らかであるから,上記掲載(写真掲載を含む。)は控訴人の著作権を侵害するものではない
 また,本件WEB掲載については,これが被控訴人らによる行為,あるいは,被控訴人らの委託による行為であることを認めるに足りる証拠は存しない。
 
このほか,前記のとおり,「CHARON(カロン)」は,平成17年ころから各種映画祭などに出品・上映され,新聞・雑誌でも取り上げられていたものであるから,本件雑誌広告が掲載された平成183月当時において,既に「CHARON(カロン)」に係る控訴人の公表権を問題にする余地はなかったものであり(著作権法181項参照),この点は,「CHARON(カロン)」がビデオグラムとして未公表であったか否かによって影響を受けないというべきである。
 なお,被控訴人イーエスが,上記各映画のDVD等を作製し,あるいは,被控訴人らが,上記各映画のDVD等を頒布したことを認めるに足りる証拠はないから,上記の点においても,複製権や頒布権の侵害はない。
 
控訴人は,複製権・頒布権は,著作権者において,複製・頒布することを妨げることになる一切の行為を排除することを要求する権利を内包するなどと主張する。しかしながら,控訴人の上記主張は,著作権法が「複製」や「頒布」について,それぞれ定義規定を置いていること(著作権法2115号,19号)を顧慮しない,独自の見解であって,採用の限りではない。
 
その他,本件において,被控訴人らによる本件雑誌広告の掲載が,控訴人に対する不法行為に該当するものと認めるべき事情については,具体的な主張立証がない。











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