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名誉毀損-肯定事例-
「『約束の場所』歌詞事件」平成201226日東京地方裁判所(平成19()4156 

【コメント】本件は、「原告歌詞」を創作した原告が、被告が創作した別紙文章目録記載の文章(「被告表現」=「時間は夢を裏切らない,夢も時間を裏切ってはならない。」)について、被告が、別紙テレビ番組目録記載のテレビ番組(同テレビ番組中の被告と原告との間の紛争を扱った部分を以下「本件各テレビ番組」という。)において、原告歌詞中にある「原告表現」(=「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」)が被告表現を盗作したものである等と原告の名誉を毀損する発言をしたと主張して、被告に対し、原告が原告歌詞の実演をコンピュータのハードディスクに蔵置する方法により原告歌詞の実演の原盤を完成させた行為について、被告が被告表現についての複製権、翻案権及び同一性保持権に基づく損害賠償請求権を有していないことの確認、名誉毀損の不法行為に基づく損害金(慰謝料2000万円と弁護士費用200万円の合計2200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成1932日から民法所定の年5分の割合の遅延損害金)の支払並びに謝罪広告を求めた事案です。 

◆本件被告録画発言について,被告は,情報提供者にすぎないとして,不法行為責任を負わないかについて

1) テレビ番組を放送する放送事業者(以下「テレビ局」という。)は,その放送内容についての編集権を独占しており,いかなる内容の番組を製作,放送するかは,専らテレビ局が決定し,第三者は,テレビ局自体の許諾がない限りこれに関与することはできないのが通常であると認められる。したがって,テレビ局から取材を受けて,テレビ局に対して情報を提供した者は,自己の提供した情報がテレビ局によって編集される過程に,関与することはできず,特段の事情のない限り,自己の提供した情報が,実際に放送されるのか,また,放送されるとしても,どのような内容に編集されて放送されるのかについては,予想ができないものと認められる。このことは,取材の状況をテレビカメラによって撮影し,それを録画するという方法による取材の場合も同様である
 そして,テレビ局は,その放送内容を中立,公正なものとし,その放送によって不当に第三者の名誉を毀損しないよう努めるべき高度の注意義務を課されており,このことは,放送法3条の21項が,「放送事業者は,国内放送の放送番組の編集に当たっては,次の各号の定めるところによらなければならない。」とし,同項4号が「意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」と規定していること,民放連の放送倫理基本綱領も,「放送は,意見の分かれている問題については,できる限り多くの角度から論点を明らかにし,公正を保持しなければならない。放送は,適正な言葉と映像を用いると同時に,品位ある表現を心掛けるようつとめる。また,万一,誤った表現があった場合,過ちをあらためることを恐れてはならない。報道は,事実を客観的かつ正確,公平に伝え,真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない。放送人は,放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために,何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し,取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる。」と規定していること,民放連の「放送基準」も,「(2)個人・団体の名誉を傷つけるような取り扱いはしない。(32)ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり,事実に基づいて報道し,公正でなければならない。(33)ニュース報道にあたっては,個人のプライバシーや自由を不当に侵したり,名誉を傷つけたりしないように注意する。(34)取材・編集にあたっては,一方に偏るなど,視聴者に誤解を与えないように注意する。・社会・公共の問題で意見が対立しているものについては,できるだけ多くの角度から論じなければならない。」と規定していること,民放連の「報道指針」も,「報道姿勢」として,「誠実で公正な報道活動こそが,市民の知る権利に応える道である。われわれは取材・報道における正確さ,公正さを追求する。(2)予断を排し,事実をありのまま伝える。未確認の情報は未確認であることを明示する。」と規定していることからも明らかである。したがって,テレビ局に対して情報を提供する者としても,通常,テレビ局が当該情報を利用した番組を放送するに当たっては,公正,中立性を保持するため,裏付け取材等を十分にするなどして,当該情報の正確性について慎重に吟味した上で,当該情報の利用の可否を決し,さらに,当該情報を利用するとしても,第三者の名誉を不当に毀損しないよう,番組内容を編集,製作していくものと考え,また,このようなテレビ局の行為を前提として,情報を提供するものと解される
 したがって,仮に,情報提供者の提供した情報を利用したテレビ番組がテレビ局によって放送され,同放送が第三者の名誉を毀損するものであったとしても,上記情報提供者が,テレビ局から,事前に,当該テレビ番組の具体的な構成等について説明を受けていたことなどにより,当該テレビ番組の内容が,第三者の名誉を不当に毀損するものとなることについて,取材時に予め具体的に認識していた場合や,上記の認識を取材後に有するように至った場合でも,その内容の修正を求めることができる状況にあった等の特段の事情のない限り,上記情報提供者の情報提供行為と上記名誉毀損の結果との間には,相当因果関係は認められず,情報提供者は,名誉毀損の不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。
2) そこで,本件において,前記(1)の特段の事情が存在するか否かについて検討する。…
 
(略)
 そうすると,本件においては,前記(1)の特段の事情は認められないから,仮に,本件各テレビ番組(原告が,本件被告録画発言を行った番組に限る。)が原告の名誉を毀損するものであったとしても,本件被告録画発言と名誉毀損の結果との間に相当因果関係は認められず,被告は,原告に対する名誉毀損の不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。
 
(略)

◆本件被告発言は,原告の名誉を毀損するかについて

 前記で判示したように,仮に,本件被告録画発言の放送により,原告の名誉が不当に毀損されたとしても,その結果と,被告が上記各番組のための取材において,本件被告録画発言をしたこととの間に相当因果関係は認められないから,被告は,上記各番組の放送についての不法行為責任を負うものではない。
 
そこで,以下では,本件テレビ番組5及び7の放送における,本件被告直接発言が,原告の名誉を毀損するものといえるかを検討する(なお,前記のとおり,生放送の番組中で行われた本件被告直接発言について,被告は,被告が情報提供者にすぎないことを理由に,名誉毀損の不法行為の責任を負わない旨の主張をするものではない。)。
 放送をされたテレビ番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
 また,放送をされたテレビ番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。そして,放送をされるテレビ番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該情報番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該情報番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象を総合的に考慮して,判断すべきである(平成15年最判参照)。
 
上記の観点から,本件テレビ番組5及び7における本件被告直接発言が原告の名誉を毀損したといえるか否かについて,具体的に検討する。
 
(略)
 以上より,一般の視聴者としては,本件被告発言5−@ないし5−Dから,原告が,被告表現に依拠して,被告表現と似た原告表現を作ったという印象を抱くものというべきであり,原告側の意見の紹介やアナウンサー等の発言,テレビ局によるナレーション,フリップ等によって,上記被告発言に基づく印象が覆されるものではない。
 (略)
 
したがって,本件被告発言5−@ないし5−Dによって,原告の名誉は毀損されたというべきである。
 
(略)
 以上より,一般の視聴者としては,本件被告発言7−Aないし7−Cから,原告が,被告表現に依拠して,原告表現を作ったという印象を抱くものというべきであり,原告側の意見の紹介や,他の出演者等の発言,テレビ局によるナレーション,フリップ等によって,上記被告発言に基づく印象が覆されるものではない。
 
(略)
 したがって,本件被告発言7−Aないし7−Cによって,原告の名誉は毀損されたというべきである。

◆本件被告発言は,事実を摘示するものか,あるいは,意見ないし論評の表明に当たるかについて

 
名誉毀損の成否が問題となっている表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかは,当該表現が,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(平成9年最判参照),他方,上記のような証拠等による証明になじまない事物の価値,善悪,優劣についての批評や議論などは,意見ないし論評の表明に属するというべきであるが,当該名誉毀損の成否が問題とされるのが法的な見解の表明である場合は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである(平成16年最判参照)。
1) まず,前記から,原告の名誉を毀損し,かつ,その結果について相当因果関係の認められる本件被告発言は,本件被告直接発言に限定されるものであり,その内容は,以下のとおりである。
 
ア 本件被告発言5−@
 「呆れている」,「何しろそっくりですしそれからこれは私が講演会の演題として延々と使っている私のテーマです。」,「ここまでそっくりだとねいくらなんでもそりゃないよ」
 
イ 本件被告発言5−A
 
「やっぱりその,どこかで見て記憶していたのかもしれないと,いうことで」
 
ウ 本件被告発言5−B
 
「ごめんと一言言ってくれれば…それでいいわけですよ」
 
エ 本件被告発言5−C
 
「そんなこと何も言わなかったですよ」
 オ 本件被告発言5−D
 「一言ごめんといってくれればね,男同士あうんの呼吸で,それでいいと」
 
カ 本件被告発言7−A
 「(A1氏が)何かそういう記憶があったのかもしれんと,それで書いたのかもしれない,というところまでおっしゃったんですね」
 キ 本件被告発言7−B
 
「本人がほぼ認められたんで」
 
ク 本件被告発言7−C
 「それはあのー,そういう能力があればですね。偶然っていうのは。ただ,この本の中にもたくさん書いてますしね,いたるところの講演で10数年しゃべり続けてる訳です。」
2) 本件被告直接発言の意味について
 本件被告直接発言によって示されたこと(摘示事実ないし表明された意見)は,前記で判示したとおり,以下の内容となる。
 ア 本件被告発言5−@について
 
原告が,被告に無断で被告表現を使用し,これと酷似した原告表現を作成したということ
 
イ 本件被告発言5−Aについて
 原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実
 ウ 本件被告発言5−Bについて
 
原告が,被告表現を無断で使用して,被告表現と酷似した原告表現を作成したということ
 
エ 本件被告発言5−Cについて
 被告が原告と電話で話をした際には,原告は,被告表現に依拠せずに原告表現を創作したということは何も言わなかったということ
 オ 本件被告発言5−Dについて
 
原告が,被告表現を無断で使用して,被告表現と酷似した原告表現を作成したということ
 
カ 本件被告発言7−Aについて
 原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実
 キ 本件被告発言7−Bについて
 原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実
 ク 本件被告発言7−Cについて
 
原告は,被告表現に依拠して原告表現を作成したものであるということ
3) 検討
 前記(2)で判示した本件被告直接発言によって示されたことが,事実の摘示に当たるのか,あるいは,意見ないし論評の表明に当たるかについて,以下検討する。
 ア 本件被告発言5−A,5−C,7−A,7−Bについて
 まず,本件被告発言5−A,7−A,7−Bは,原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実を摘示したものであることは明らかである。
 また,本件被告発言5−Cは,原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠せずに原告表現を創作したとは言わなかったという事実を摘示したものであることは明らかである。
 イ 本件被告発言5−@,5−B,5−Dについて
 本件被告発言5−@,5−B,5−Dは,原告が,被告に無断で被告表現を使用し,これと酷似した原告表現を作成したということを示すものであるが,これは,@原告表現と被告表現とが酷似するということ,A原告が,被告表現に依拠して原告表現を作成した事実の,2つの事項を示しているものと解するのが相当である。
 
そして,上記Aの部分は,事実の摘示であることが明らかである。
 これに対し,上記@の部分は,原告表現と被告表現とが酷似するというものであり,判決等により裁判所が判断を示すことができるものであるが,著作物の類似性(実質的同一性)という法的見解と解され,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明に当たると解するのが相当である。
 
そして,同意見ないし論評が前提としている事実は,原告表現と被告表現の各文言(「夢は時間を裏切らない,時間も夢を決して裏切らない」と「時間は夢を裏切らない,夢も時間を裏切ってはならない」)である。
 
ウ 本件被告発言7−Cについて
 本件被告発言7−Cが,原告が,被告表現に依拠して原告表現を作成した事実を摘示するものであることは明らかである。

◆本件被告発言が事実を摘示するものである場合,その摘示事実の重要な部分につき真実であることの証明があるかについて

 本件被告直接発言が事実の摘示により原告の名誉を毀損する場合においては,当該行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり,かつ,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為は違法性がなく,また,当該事実が真実であることが証明されなくても,その行為者において当該事実を真実と信じるについて相当の理由があるときは,当該行為には故意又は過失がなく,いずれのときにおいても,不法行為は成立しないと解すべきである(昭和41年最判参照)。そこで,まず,本件被告直接発言が摘示する事実が真実か否かについて,検討する。
1) 前記で判示したとおり,本件被告直接発言が摘示する事実は,以下の3つに分類することができる。
 
ア 原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実(本件被告発言5−A,7−A,7−B)
 イ 原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠せずに原告表現を創作したとは言わなかったという事実(本件被告発言5−C)
 
ウ 原告が,被告表現に依拠して原告表現を作成したという事実(本件被告発言5−@,5−B,5−D,7−C)
2) 前記(1)の摘示事実のうち,まず,原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実について,真実であることの証明があるか否かについて検討する。
 
(略)
 したがって,原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実の重要な部分について,真実であることの証明がなされたということはできない。
3) 次に,前記(1)の摘示事実のうち,原告が,被告との電話での会話において,被告表現に依拠せずに原告表現を創作したとは言わなかったという事実の真実性について検討する。
 本件電話会話の内容は,前記(2)で判示したとおりであり,原告は,被告に対して,被告表現に依拠せずに原告表現を創作した旨の発言をしていると認められるから,上記摘示事実の重要な部分について真実であることの証明がなされたということはできない。
4) 最後に,前記(1)の摘示事実のうち,原告が,被告表現に依拠して原告表現を作成した事実が真実であるか否かについて検討する。
 ア 被告表現へのアクセスの容易性について
 
(略)
 したがって,被告表現は,前記のとおり,各種媒体で公表されてはいるが,それだけでは,原告が,被告表現に接したものと推認することはできない。
 (略)
 
イ 被告の主張に対する原告の認否
 
被告は,本件電話会話において,原告は,本件被告主張依拠発言をし,被告表現に依拠して原告表現を創作したことを認めた旨主張するが,前記(2)で判示したとおり,本件電話会話において,原告は,本件被告主張依拠発言をしたとは認められず,また,本件証拠上,その他に,原告が,依拠を認める旨の発言をしたとは認められない。
 ウ 原告表現と被告表現との類似性等
 
被告は,原告表現は,依拠しなければ創作できないほどに被告表現に酷似している旨主張するので,この点について検討する。
 確かに,被告表現と原告表現とは,「時間」,「夢」の一方を主語に,他方を目的語とし,「裏切らない」という動詞を使用している点,第1文と第2文で,主語と目的語を入れ替えて,反復させている点で共通しており,上記共通部分は,両表現の特徴的な部分であるといえる。特に,被告表現及び原告表現において,「夢」や「時間」といった抽象的な言葉を主語及び目的とし,それらを入れ替えた2つの文章が,いずれも意味が通じるようになっており,この両表現の共通点は,ありふれたものとはいえず,大きな特徴があるといえる。
 しかしながら,被告表現第2文においては,「裏切ってはならない」となっているのに対し,原告表現第2文においては,「決して裏切らない」となっており,この表現上の相違から受ける印象は相当程度異なる。つまり,「裏切ってはならない」と命令形の文章とすると,裏切ることが少なからずあるが,すなわち,実際には,努力しても夢が叶わないことが少なからずあるが,そのようなことはあってはならないという願望を表しているものと,通常,理解されるのに対し,「決して裏切らない」と断定した形の文章とすると,裏切ることはないこと,すなわち,努力すれば夢は必ず叶うことを表現しているものと,通常,理解されるのであって,両表現から観念される意味合いは相当異なるというべきである。
 また,被告表現及び原告表現とも相当短い文章であり,このように短い文章においては,「裏切ってはならない」と「決して裏切らない」という相違は,必ずしも小さなものではない。むしろ,被告表現第2文が,「裏切ってはならない」という表現となっている点も,被告表現の特徴的な部分であるといえ,このような特徴的な部分を原告表現が有していないこと,上記のとおり,両表現から受ける意味合いが相当異なることからすると,両表現の相違は大きいということができる。
 したがって,原告表現は,依拠したのでなければ説明できないほど,被告表現に酷似しているとはいえず,被告の上記主張は理由がない。
 (略)
 以上より,原告が,被告表現に依拠して原告表現を作成した事実の重要部分について,これが真実であることの証明があったということはできない。
5) 小括
 
したがって,本件被告直接発言が摘示する事実は,いずれも,その重要部分について真実であるとの証明があったということはできない。

◆本件被告発言が意見ないし論評の表明に当たる場合,その前提事実の重要な部分につき真実であることの証明があるか,意見ないし論評としての域を逸脱していないかについて

 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあって,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときは,表明に係る内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきである(平成元年最判,平成9年最判,平成16年最判参照)
 
これを本件についてみるに,前記で判示したとおり,本件被告発言5−@,5−B,5−Dのうちの,原告表現と被告表現とが酷似していることを示した部分は,意見ないし論評の表明に当たるところ,上記発言行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったことは,当事者間に争いがなく,また,同意見ないし論評が前提としている事実は,原告表現と被告表現の実際の文言であるところ,原告表現が「夢は時間を裏切らない,時間も夢を決して裏切らない」というものであること,被告表現が「時間は夢を裏切らない,夢も時間を裏切ってはならない」というものであることは争いがないから,前提事実について,これが真実であることの証明があったものと認められる。また,本件被告発言5−@,5−B,5−Dは,いずれも,意見ないし論評としての域を逸脱していないことは明らかである。
 したがって,本件被告発言5−@,5−B,5−Dのうちの,原告表現と被告表現とが酷似していることを示した部分については,その発言行為は,違法性を欠くというべきである。

◆本件被告発言が摘示した事実の重要な部分が真実であると信じる相当の理由が存在するかについて

 
(略)
 したがって,本件被告直接発言が摘示するいずれの事実についても,被告が,その重要な部分が真実であると信じたことに相当の理由があったということはできない。

◆被告の名誉毀損行為によって原告が被った損害の額について

 本件被告直接発言が摘示した事実は,前記のとおり,原告が被告の作品中に使用した被告表現に依拠して,原告楽曲の歌詞の一部である原告表現を作詞したというものであり,これにより,一般の視聴者に,原告が他人の楽曲を盗作したとの印象を抱かせるところ,前記争いのない事実等で判示したように,原告は,著名なシンガーソングライターであり,一般の視聴者に盗作疑惑を抱かれることは,その活動にとって致命的なものとなりかねないこと,被告が問題とした原告表現は,当時,味の素のテレビコマーシャルに使用されており,話題性が高かったこと,原告楽曲をCが実演した本件CDは,当時,相当にヒットしていたこと,本件テレビ番組5及び7は,いずれも,いわゆるキー局により放送され,その番組の平均視聴率は,本件テレビ番組55.5%,本件テレビ番組78.5%であること等,本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,原告が,本件被告直接発言の放送によって被った精神的損害を慰謝するには,本件テレビ番組5及び7それぞれにつき,100万円が相当と解する。
 なお,諸般の事情にかんがみれば,弁護士費用としては,金20万円を相当とする。

◆謝罪広告の要否及びその内容)について

 民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済として,損害賠償のほかに,それに代え又はそれと共に名誉を回復するに適当な処分を命じ得ることを規定した趣旨は,その処分により,加害者に対して制裁を加えたり,また,加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく,金銭による損害賠償では填補され得ない,毀損された被害者の人格的価値に対する社会的,客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきである。したがって,謝罪広告は,名誉毀損によって生じた損害のてん補の一環として,それを命じることが効果的であり,かつ,判決によって強制することが適当であると認められる場合に限り,これを命じることができると解するのが相当である。
 
本件においては,本件テレビ番組5及び7が放送されてから,本件口頭弁論終結時まで,ほぼ2年が経過していること,…によれば,原告は,本件テレビ番組5及び7の放送後も,その音楽活動において,同放送前と同様,目覚ましい活躍をしているものと認められること,原告は,自ら開設したホームページ上で,被告の各種マスメディアにおける発言に対する反論を行っているところ,同ホームページでの反論は相応の効果を有するものと推測されることなどを総合考慮すると,謝罪広告を命じることは相当ではないものというべきである。











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