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専属実演家契約の解釈
「タレントラーメン店事件」
平成220428日東京地方裁判所(平成21()12902 

【コメント】本件は、俳優・タレントであるAに係る専属実演家契約上のマネジメント業務権を有すると主張する原告(芸能プロダクション会社)が、被告らが原告に無断でAの芸名や肖像等を使用してラーメン店(タレントショップ)を経営したことによってAに係るパブリシティ権を侵害されたとして、被告らに対し、共同不法行為による損害賠償金等の支払を求めた事案です。

 なお、本件において、株式会社「アップ・デイト」(その代表者は原告代表者と同一)は、平成58月、俳優・タレントであるAとの間で、次の内容(抜粋)の専属実演家契約(「本件専属実演家契約」)を締結していました。

『第1条(契約の目的)
 アップ・デイト及びAは,互いに対等独立の当事者として,相互の協力と業務の提携により,Aの実演家としての才能,資質及び技能の向上並びに業績,名声の増大を図り,ひいてはアップ・デイトの業績の増大を実現し,もって相互の利益の増進と発展に寄与するものとします。
2条(専属的出演)
 
Aは,本契約期間中,アップ・デイトの専属実演家として,専らアップ・デイトのためにのみ第4条に定める業務を行うものとします。
3条(独占的許諾)
(1) Aは,第4条によりAが行う歌唱,演奏,演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音,録画,放送,有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については,アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また,アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。
(2) アップ・デイト及びAは,Aの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし,その処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。
4条(Aの業務)
 Aは,第1条の目的を達するため,本契約期間中,下記の各号に定める業務をアップ・デイトの指示に従って行うものとします。
 
 
@ アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作あるいは販売する「CD,MD,ミュージック・テープ,レコード」等への実演
 
A アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作あるいは主催する「コンサート,イベント,催事,舞台」等への出演
 B アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「テレビ,ラジオ,衛星放送,有線放送,CATV」等放送への出演
 
C アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「映画,ビデオ,レーザー・ディスク」等への出演
 
D アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「コマーシャル」への出演(Aの音声等の使用のみを目的とした出演,契約を含む。)
 
E アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画編集する新聞,雑誌,書籍等出版物への掲載を目的とした「取材・撮影,会見」等への出演
 
F アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う「作詞・作曲,編曲,プロデュース」等の業務
 
G アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う執筆等の業務
 
H アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が制作,販売するAの実演あるいはAの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務
 
I その他前各号の業務に付随する一切の業務
5条(アップ・デイトの業務)
 アップ・デイトは,第1条の目的を達するため,本契約期間中,以下の業務をアップ・デイトの判断するところに従って行うものとします。
(1) Aに対し,前条各号の業務を提供するとともに,それらの業務の企画制作,企画調整,スケジュール調整,交渉,営業,プロモーション,出演契約管理等及びその他一切のマネジメント業務を行うこと
(2) 前条各号の業務を目的とした契約を第三者との間で締結するとともに,その対価を請求し,これを受領すること
6条(権利の帰属)
 本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物,商品その他のものに関する著作権,商標権,意匠権,パブリシティ権,所有権その他一切の権利は,本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。
7条(対価の帰属)
 
3条に基づく許諾,処分及び使用並びに第4条と第5条に基づく出演,契約等により第三者から受領すべき対価(出演料,契約料,使用料,印税その他一切の対価)は,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。
8条(Aの肖像等の宣伝利用)
 
アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者は,Aのプロモーションのために,Aの氏名(芸名,通称,愛称,親称等を含む。),肖像,写真,ロゴ,筆跡及び経歴等を自由に,かつ,無償で利用することができ,Aは,これら業務に積極的に協力するものとします。
10条(契約の期間)
(1) 本契約の有効期間は,平成591日から平成7831日までの満2か年間とします。
(2) アップ・デイト又はAが,前項の期間の満了する3か月前までに契約を更新しない旨の書面による通知をしないときは,本契約は自動的に期間満了の翌日から前項の期間と同一期間更新されるものとします。』 


 被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否について
(1) パブリシティ権について
 
人は,その氏名,肖像等を自己の意思に反してみだりに使用されない人格的権利を有しており(最高裁昭和63216日第三小法廷判決,最高裁昭和441224日大法廷判決参照),自己の氏名,肖像等を無断で商業目的の広告等に使用されないことについて,法的に保護されるべき人格的利益を排他的に有しているということができる。そして,芸能人やスポーツ選手等の著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(いわゆるパブリシティ権。以下「パブリシティ権」という。)であると解される。
(2) 原告の地位について
 本件専属実演家契約は,「第3条(独占的許諾)」として「(1)Aは,第4条によりAが行う歌唱,演奏,演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音,録画,放送,有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については,アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また,アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。(2)アップ・デイト及びAは,Aの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし,その処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。」と規定しているが,上記(1)項の趣旨は,Aが実演家として行う実演に係る権利について,アップ・デイトに独占的に許諾したものであると解される。そうすると,続く(2)項において,氏名,写真,肖像等の「処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行う」とあるのは,(1)項の実演に関係する氏名,写真,肖像等の「処分や使用」について定めたものと解するのが相当である。また,「第6条(権利の帰属)」として,「本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物,商品その他のものに関する著作権,商標権,意匠権,パブリシティ権,所有権その他一切の権利は,本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。」と規定しているが,上記「前2条」のうち「第4条(Aの業務)」としては,実演(@〜D)のほか,「『取材・撮影,会見』等への出演」(E),「『作詞・作曲,編曲,プロデュース』等の業務」(F),「執筆等の業務」(G),「Aの実演…氏名…,写真,肖像,ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務」(H)及び「その他前各号の業務(判決注:上記@〜Hの業務を指すものと解される。)に付随する一切の業務」(I)が規定され,「第5条(アップ・デイトの業務)」として,マネジメント業務等が規定されている
 
したがって,本件専属実演家契約の上記規定内容からすれば,Aがアップ・デイトに独占的に許諾した対象は,Aの実演に係る権利に関係するものであり,第6条によりアップ・デイトに帰属することとされる権利も,上記実演(@〜D)及び実演家であるAの活動に関係する上記E〜Iの業務に関するものをいう趣旨と解するのが相当というべきであり,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ぶものと解することはできない
 …によれば,アップ・デイトは,平成1531日以降,本件専属実演家契約に基づくAのマネジメント業務に係る契約上の地位をエターナル・ヨークに譲渡し,エターナル・ヨークは,平成181218日,Aの実演家活動全般に関するマネジメント業務権(本件専属実演家契約によりアップ・デイトが取得した上記契約上の地位)を原告に移譲し,Aもこれに同意したことが認められる。
 
しかしながら,上記経緯により原告が取得したのは,本件専属実演家契約上のアップ・デイトの地位であるから,その内容は,上記に説示したものにとどまり,原告が,Aのパブリシティ権の帰属主体になったものということはできない。そして,原告の取得した地位が上記のものにとどまる以上,本件専属実演家契約は,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまでは及ばないから,被告らがAの芸名や肖像等を使用してラーメン店を経営したことが,原告の上記契約上の地位ないし権利を侵害するものということはできない
(3) Aの許諾について
 また,…によれば,本件において,Aは,ラーメン店の経営に興味を持ったことから,ラーメン,餃子等を扱う飲食店を全国に展開させた経験を有する被告Yと共同してラーメン店「我聞」を立ち上げ,自らを「店長」と称し,被告KNOSの取締役(平成171214日から平成1944日までは代表取締役)にも就任するなど,同店の経営に自ら関与してきたものであり,同店の宣伝,広告のためにAの氏名,肖像等を利用することについては,A自身がこれを許諾していたことが認められる。
 ところで,原告は,上記(2)に説示したとおり,Aのパブリシティ権の主体ではなく,本件専属実演家契約上の地位を譲り受けたにすぎないから,仮に同契約の効力がラーメン店の経営に及ぶとしても,同契約の効力は第三者である被告らには及ばない。そうすると,被告らがAの許諾を得て,Aの芸名や肖像等を使用してラーメン店「我聞」を経営することは,自由競争の範囲内の行為というべきであるから,これが不法行為を構成するというためには,被告らの行為が自由競争の秩序を逸脱したような場合に限られるというべきである。
 
しかるところ,本件全証拠によるも,被告らに自由競争の秩序を逸脱した行為があったものと認めることはできない。
 
したがって,上記の点からも,被告らによるラーメン店「我聞」におけるAの氏名,肖像等の使用が,原告又はエターナル・ヨークに対する不法行為を構成するということはできない。











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