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利用許諾契約の解釈(24)
「小説『イッツ・オンリー・トーク』脚本出版妨害禁止請求事件」平成220910日東京地方裁判所(平成21()24208 

【コメント】本件は、被告の著作に係る小説「イッツ・オンリー・トーク」(「本件小説」)を原作とする映画の製作のために原告Xが執筆した脚本(「本件脚本」)を原告社団法人シナリオ作家協会(以下「原告協会」という。)の発行する「年鑑代表シナリオ集」に収録、出版しようとしたところ、被告から拒絶されたが、被告の拒絶は「一般的な社会慣行並びに商習慣等」に反するもので、上記小説の劇場用実写映画化に関して締結された原作使用許諾契約の趣旨からすれば、本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録、出版することについて原告らと被告との間に合意が成立したものと認められるべきであるとして、原告らが、被告に対し、上記合意に基づき、本件脚本を別紙記載の書籍(「本件書籍」)に収録、出版することを妨害しないよう求めるなどした事案です。

 本件における前提事実は、概ね、次のとおりです。

原告Xは、平成157月ころ、映画監督のA及び映画プロデューサーのBと共同で、本件小説を原作とする映画(「本件映画」)を製作することを企画した。

Bの所属する有限会社ステューディオスリー(映画、演劇、テレビ番組等の企画制作プロダクションとして平成75月に設立された有限会社。以下「ステューディオスリー」という。)及び被告の委託を受けて本件小説の著作権を管理している文藝春秋は、平成15911日、本件映画の原作として本件小説を使用することの許諾を受けるための予約完結権を文藝春秋がステューディオスリーに与えることなどを内容とする契約(著作権使用予約完結権契約)を締結した上、平成1611月中下旬ころ(ただし、契約書上の日付は平成15910日)、以下の内容(要旨を抜粋)の原作使用許諾契約(「本件原作使用契約」)を締結した。

 『第2条(保証)
 1 文藝春秋は,被告より本件小説の著作権の管理を委任されたものであり,被告から本契約を締結する完全なる権限を与えられていることをステューディオスリーに対し保証する。(以下省略)
 
2 ステューディオスリーは,本件映画の製作に際し,著作権を始め,名誉,声望その他被告の著作者人格権を侵害せず,また,本件小説の評価を貶めないことを保証する。
 3条(許諾の条件)
 1 文藝春秋は,ステューディオスリー(将来確定する本件映画のために出資する出資者,共同製作者,配給会社等を含む。)が本契約に基づき,本件映画を日本国内において独占的に製作・封切・配給することを許諾する。
 2 ステューディオスリーが製作する本件映画は,次のとおりとする。
 
題名 未定
 種別 劇場用実写映画
 
フィルム 35o光学フィルム
 
作品 時間約100分(予定)
 
使用言語 日本語
 撮影開始 平成1611
 
公開予定 平成17年秋あるいは平成18年新春(予定)
 
3 ステューディオスリーは,原則として本件映画のネガフィルムを原型のままプリントし,本件映画を配給,頒布し,日本国内の劇場等において上映することができる。
 
ただし,国際映画祭及び国際映画コンクールでの出品・上映は,海外においても行うことができる。
 
4項省略)
 5 ステューディオスリーは,あらかじめ文藝春秋の書面による合意に基づき,別途著作権使用料を支払うことによって,次の各号に掲げる行為をすることができる。
 
ただし,文藝春秋は,一般的な社会慣行並びに商慣習等に反する許諾拒否は行わない
 
(1)(2)号省略)
 (3) 本件映画をビデオ・グラム(ビデオテープ・LDDVD)として複製し,頒布すること。
 
(4) 本件映画をテレビ放送すること。
 
(5) 本件映画を放送衛星又は通信衛星で放送すること。
 (6) 本件映画を有線放送すること。
 
(7) 将来開発されるであろう新しいメディアを含め,既存のメディア(例えば,CD-ROM,ビデオCD,フォトCDなどのデジタル系の媒体を含む。)をもって本件映画の二次的利用をすること。
 
ただし,本項第(2)号から第(6)号を除く。
 
(8) 本契約に基づき作成された脚本の全部若しくは一部を使った,又は本件映画シーンを使用した出版物を作成し,複製,頒布すること
 
(以下省略)
 5条(著作者人格権の尊重)
 
1 ステューディオスリーは,第3条各項の利用に当たって,本件小説の内容,表現又は題名等,文藝春秋の書面による承諾なしで変更を加えてはならない。
 
ただし,映画化に際し,文藝春秋は,より適切な映像表現をする目的でステューディオスリーが本件小説に脚色することを認めるが,その程度は,事前にステューディオスリーが文藝春秋に提出する本件小説の使用範囲,方法,脚色計画の範囲を超えないものとする。
 
2 ステューディオスリーは,本件映画のプロット及び脚本を完成後,直ちに文藝春秋に対し3部提出し,本件映画のクランク・イン前に文藝春秋の了解を得るものとする。
 
3 文藝春秋は,本件映画が本件小説のイメージ又は著作者人格権を損なうと認めるときは,これに異議・修正を申し立てる権利を有する。
 
8条(著作権等の表示)
 
ステューディオスリーは,本件映画の製作及び宣伝物及びプログラムの製作に際しては,スペースに支障のない限り,下記の表示を行う。
 
@ 原作<作者名省略> 『イッツ・オンリー・トーク』文藝春秋刊
 
A 企画協力 文藝春秋』

原告協会の年鑑代表シナリオ集編纂委員会は、平成193月ころ、平成18年度の「年鑑代表シナリオ集」に掲載すべき脚本の一つとして、本件脚本を選出した。そこで、原告協会は、文藝春秋に対し、複数回にわたって本件脚本を「'06年鑑代表シナリオ集」に収録、出版することについての許諾を求めたが、被告がこれを拒絶したことから、平成1993日の理事会決議により、本件脚本を「'06年鑑代表シナリオ集」に収録することを断念した。

原告協会の依頼を受けたステューディオスリーは、平成201120日ころ、文藝春秋に対し、本件脚本を「'07年鑑代表シナリオ集」に掲載することについて、「本件原作使用契約35(8)に該当する利用については,一般的な社会慣行並びに商慣習等に反するものでない限り,許諾拒否はできないものと理解しているので,その契約意図に沿う形で進めたい。利用を許諾することができない場合には,その理由を文書で回答されたい。平成201128日までに連絡がない場合には,本件脚本の掲載に異議がないものと理解して,出版を進めさせていただく。」という趣旨の文書を送付したが、文藝春秋(版権業務部のH)は、同月25日ころ、ステューディオスリーに対し、被告の意向により本件脚本の掲載を許諾することはできない旨を電話で回答した。その後も、原告らは、本件脚本の出版について、被告の許諾を得ることができなかったことから、本件脚本を「'07年鑑代表シナリオ集」に収録することを断念した。 


 上記の認定事実を前提として,以下,争点について検討する。
 
[本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて,原告らと被告との間で合意が成立したかについて]
ア 前提問題
 原告らは,本件原作使用契約35(8)号及び本件ただし書規定を根拠に,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて原告らと被告との間で合意が成立したと主張するところ,被告は,原告らと被告は本件原作使用契約の当事者ではないから,同規定が原告らと被告との間で拘束力を持つことはなく,原告らの主張は前提において失当であると主張するので,まず,この点について検討する。
 
被告が本件小説の使用許諾に関する業務を文藝春秋に委託していたことは当事者間に争いがなく,かつ,被告は文藝春秋を介してステューディオスリーと交渉し,文藝春秋がステューディオスリーとの間で本件小説を翻案した本件映画の製作に係る本件原作使用契約を締結することを承諾していたのであるから,同契約の締結に当たって被告の許諾を要する部分については,被告は,文藝春秋に対しその許諾をする権限を授与していたものと認められる。そうすると,本件原作使用契約は,文藝春秋とステューディオスリーとの間に締結されたものであるが,被告の許諾に関する部分について文藝春秋は被告から授与された上記権限に基づいて契約を締結したものであり,同契約の効力は被告にも及ぶものと解するのが相当である。
 しかしながら,本件原作使用契約35項は,前記のとおり,ステューディオスリーが本件映画や脚本の二次的利用をする場合についての規定であり,本件ただし書規定も,ステューディオスリーによる上記二次的利用の許諾について定めた規定である。したがって,本件原作使用契約の当事者ではない原告らが,被告に対し,上記条項に基づき上記二次的利用の許諾を求めることはできないというべきである。
イ 原告ら主張の上記合意は,本件原作使用契約に基づく二次的利用についての被告の許諾義務を前提とするものである。しかしながら,原告らが被告に対し本件原作使用契約の上記条項に基づき上記二次的利用の許諾を求めることはできない以上,被告にその許諾義務があるということはできず,原告らの主張は,その前提を欠くものというほかない。
 
以上に検討したところによれば,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて原告らと被告との間で合意が成立したと認めることはできないから,その余の点について検討するまでもなく,同合意に基づく原告らの請求は,理由がない。











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