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出版権設定契約における「完全な原稿」の意味が争われた事例
「『読むサプリシリーズ』出版権設定等契約事件」
平成220930日東京地方裁判所(平成21()16620/平成230310日知的財産高等裁判所(平成22()10082 

【コメント】本件は、原告が、被告会社との間で別紙記載の著作物「読むサプリシリーズ」(全24種。以下「本件著作物」という。)について原告が印刷した書籍の在庫本等の被告会社への売買及びその書籍を増刷する出版権の設定を内容とする覚書を締結し、その際、被告A(被告会社の代表取締役)が被告会社の原告に対する上記覚書に係る債務を連帯保証した旨主張して、被告らに対し、上記覚書に係る売買代金及び著作権使用料の残金の連帯支払及び上記書籍の原稿の引渡しを求めた事案です。 

【原審】

1 請求原因(1)の事実は当事者間に争いがない。
 そこで,原告主張の本件覚書23に係る合意の事実について判断する。
(1) …を総合すれば,次の事実が認められる。
 原告は,平成16年ころ,原告の株主である株式会社DHCへ納品することを目的として,日常生活の健康問題について専門医が簡潔に分かりやすくまとめた本件著作物を作成し,書籍として発行することを企画した。
 
原告は,同年6月ころ,Bに対し,上記書籍のデザインデータの作成を依頼し,Bは,平成171月ころ,完成した上記デザインデータをアウトライン化(文字データを線画に変換)したデータを原告に納品した。なお,Bは,原告から,上記デザインデータの作成報酬全額の支払を受けなかったため,そのオリジナルデータ(アウトライン化する前の編集可能なデータ)については,原告に引き渡さずに,自ら保管することとした。
 (略)
 原告は,当初原告書籍をすべてDHCに納品する予定であったことから,原告書籍について各書店で販売する際に必要となる「日本図書コード」(ISBN)(以下「出版コード」という。)を取得しなかったが,DHCから,原告書籍の印刷後に当初の納品予定数を大幅に下回る発注しか受けられなかったため,大量の在庫を抱えることとなった。
 そこで,原告は,同年4月ころから,原告書籍の在庫本について,書店以外(東急ハンズ等)での販売を開始した。
 原告は,平成1711月ころ,「補完代替医療学会」主催のイベントで,原告書籍の宣伝を行っていた際に,被告会社の代表取締役の被告Aがたまたま訪れ,原告書籍に関心を示した。
 
その後,原告の当時の取締役のC及び従業員のDと被告Aが交渉を重ねた結果,原告と被告会社は,本件著作物に関し,平成18130日付け出版契約書(以下「原契約書」という。)に調印した
 原契約書には,次のような条項がある(各条項における「甲」は「原告」,「乙」は「被告会社」をいう。)。
 
「第1条(出版権の設定)甲は,表記の著作物(以下「本著作物」という)の出版権を乙に対して設定する。
 
2.乙は,本著作物を出版物(以下「本出版物」という)として複製し,頒布する権利を専有する。
 3.(略)」
 「第4条(排他的使用)甲は,この契約の有効期間中に,本著作物の全部もしくは一部を転載ないし出版せず,あるいは他人をして転載ないし出版させない。ただし,乙の業務における使用はこの限りではない。
 2.(略)」
 
「第6条(原稿引渡しと発行の期日)甲は,H1823日までに本著作物の完全な原稿(原図・原画・写真などを含む)を乙に引渡す。
 2.乙は,完全な原稿の引渡しを受けた後1カ月以内に本著作物を発行する。
 3.やむを得ない事情があるときは,甲乙協議のうえ,前2項の期日を変更することができる。」
 「第16条(著作権使用料および支払方法・時期)乙は,甲に対して,次のとおり本著作物の著作権使用料を支払う。
 著作権使用料定価の5%,印刷部数1部ごとに14
 支払方法・時期 印刷時に支払う」
 被告会社は,平成183月ころ,原告書籍の在庫本の表紙及び奥書等に,被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シール(「発行:環健出版社」,「発行者:A 発行所:環健出版社」等)を貼付し,これを被告会社の書籍として販売を開始した。被告会社は,上記販売に先立ち,上記書籍について出版コードを取得した。
 (略)
 原告と被告会社は,平成18725日,本件覚書1に調印した
 本件覚書1の前文には,原告と被告会社は,原契約書に付帯して覚書を締結する旨の記載があり,また,本件覚書1には,次のような条項がある(各条項における「原契約」は「原契約書」,「甲」は「原告」,「乙」は「被告会社」をいう。)。
 「第1条(原契約第4条の修正)
 原契約第4条の誤記が訂正されないまま締結されたことに鑑み,原契約第4条第1項を下記のとおりに変更し,また同条第2項を削除する。(以下略)」
 「第2条(原契約第6条の修正)
 原契約第6条を下記のとおりに変更する。
 
 6条(甲出版物の買取りと原稿引渡し)
 1.甲は,甲が既に印刷した本著作物を乙に対し1冊あたり20円(別途消費税)で売却し,乙はこれを購入する。
 2.乙は,甲に対し前項の売買代金に1冊あたり14円(別途消費税)の印税を加算した金額を支払う。
 3甲は,第1項の印刷済み本著作物をすべて売却し,乙が前項の代金を支払った場合,乙に対し本著作物の完全な原稿(原図・原画・写真などを含む。)を引き渡す。乙は,原稿受領後,1ヶ月以内に本著作物を発行する。」
 「第3条(支払義務の確認)
 乙は,甲に対し,原契約にかかわる乙の甲に対する未精算金6085060円(内訳は,本覚書添付の別紙「売掛金表」記載のとおり。)の支払義務があることを認め,契約第16条の特記事項(表中)の支払時期に関する検討及び甲との協議を行う。」
 (略)
 原告,被告会社及び被告Aは,平成1885日,本件覚書2に調印した
 本件覚書2の前文には,原告と被告会社は,原契約書及び本件覚書1に付帯して,原告及び被告会社間の未清算金(未精算金)の処理について覚書を締結する旨の記載があり,また,本件覚書2には,次のような条項がある(各条項における「原契約」は「原契約書」,「原覚書」は「本件覚書1」,「甲」は「原告」,「乙」は「被告会社」,「A」は「被告A」をいう。)。
 「第1条(未清算金の支払)
 原契約第16条に基づき,甲乙間で未清算金の存否及び支払時期について話し合いがもたれ,乙は甲に対し未精算金6085060円の支払義務があることを認め,乙は甲に対し下記の通りこれを分割して支払うことを合意した。(略)」
 「第2条(読むサプリのデータについて)
 甲は原契約第63項にもかかわらず,甲乙間で本覚書が成立し校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿を乙に引き渡す。」
 「第3条(読むサプリ増刷の著作権使用料)
 乙は,第2条が履行され次第,読むサプリ24種を各6,000部を第2刷として増刷する。その際,乙は甲に増刷を申請した段階で甲に対する著作権使用料2016000円(24種×6,000部×14円)を支払う義務があることを認め,これを甲に対し支払う。」
 (略)
 「第5条(原契約及び本覚書の破棄)
 乙は以下の各号のいずれか該当した場合,甲より何等の通知催告を要することなく本覚書に基づく期限の利益を喪失し,未清算金の残金全額を即時に甲に対して支払い,また本著作物の完全な原稿(乙の業務中に複製した物を含む)のすべてを返還しなければならない
 1.月賦金を期限に支払わないとき
 (略)」
 「第6条(保証)
 A(略)は,甲に対し,原契約,原覚書及び本覚書(略)に基づく乙の甲に対する債務一切を乙と連帯して保証する。」
 「第8条(その他)
 本覚書に記載のない事項は原契約及び原覚書に従う。」
 (略)
 原告は,本件覚書2に基づいて原告書籍の校正・修正をするため,原告書籍のデザインデータのオリジナルデータを引き渡すようにBに要請した。これに対しBは,当初は上記デザインデータの作成報酬全額の支払を受けるまでは,引渡しに応じられない旨答えていたが,原告とBが話し合った結果,Bが上記オリジナルデータの引渡しに応じる一方で,原告が被告会社から支払を受ける分割金をBが代理受領することをもって上記デザインデータの作成報酬の支払に充てる旨を合意した。
 原告,被告会社及びBは,平成1888日,本件覚書3に調印した
 本件覚書3には,次のような条項がある(各条項における「甲」は「原告」,「乙」は「被告会社」,「丙」は「B」をいう。)。
 「第1条支払義務の確認
 乙は,甲に対し,「読むサプリ」印税・販売経費について未清算の金6085060円,甲から納品したデータから新たに印刷する24種×6,000部の印税2016000円,合計8101060円の支払義務がある。
 甲は,丙に対し,「読むサプリ」制作費について未清算の金11650000円を支払う義務がある。
 これら,3社の未清算を速やかに解消するため,以下の計画にて支払うものとする。」
 (略)
 Bは,平成18810日ころ,原告に対し,原告書籍の表紙等のデザインデータのオリジナルデータを引き渡した。
 その後,原告は,被告会社の増刷用に上記オリジナルデータを一部修正した。
 原告の従業員のDは,同月21日ころ,上記修正後の表紙等のデザインデータ(ファイル形式が「イラストレーター」(ソフト名)のデータで,編集可能なもの)のCDROM及び原告書籍の本文のPDFデータのDVDROMを被告Aに引き渡した
 被告Aは,その際,上記DVDROMのデータがPDFデータであることを認識したが,原告には本文のデータはPDFデータしかないと聞いていたので,原告に対し,異議を述べたり,抗議することはなかった。
 被告会社は,平成18920日,本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第2刷を発行した。
 (略)
 被告会社は,平成20110日,本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第3刷を発行した。
 
原告は,平成21520日,本件訴訟を提起した。
(2) 前記(1)の認定事実を総合すれば,@原告と被告会社は,平成18130日,本件著作物に関し,原契約書の記載内容のとおりの合意をしたこと,Aその後,原告と被告会社は,被告会社が本件著作物に係る原告書籍の在庫本を1冊当たり34円で買い取り,被告会社が上記在庫本の表紙及び奥書等に被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シールを貼付し,これを被告会社の書籍として販売する旨の合意をし,原告は,上記在庫本,上記修正シール,被告会社の書籍の書店販売用のラック等を被告会社に売却したこと,B被告会社は,平成183月ころ,原告書籍の在庫本に上記修正シールを貼付し,これを本件著作物に係る被告会社の書籍(第1刷)として販売を開始したこと,C原告と被告会社は,平成18725日,本件覚書1の記載内容のとおりの合意をし,これによって被告会社は,原告に対し,同日現在で,上記Aの売却代金等の未清算金として合計6085060円の支払義務があることを認めたこと,D原告,被告会社及び被告Aは,平成1885日,本件覚書2の記載内容のとおりの合意をし,これによって被告会社においては,原告に対し,上記Cの未清算金6085060円を平成189月から平成205月まで21回に分割して支払う旨,原告書籍を校正・修正した原稿のデータを用いて上記Bの被告会社の書籍の第2刷を増刷することについて著作権使用料として合計2016000円(24種×6,0000部×14円)を支払う旨約し,被告Aにおいては被告会社の原告に対する原契約書及び本件覚書12に基づく一切の債務を連帯保証する旨約したこと,E原告,被告会社及びBは,平成1888日,本件覚書3の記載内容のとおりの合意をし,これによって被告会社は,原告に対し,上記Dの未清算金6085060円及び著作権使用料2016000円の合計8101060円を平成188月から平成2010月まで毎月5日に30万円(最終回のみ301060円)ずつに分割(27回)して,原告の指定する預金口座に振り込んで支払う旨約したことが認められ,これを左右するに足りる証拠はない。
 上記認定事実によれば,原告会社と被告らが平成1885日に本件覚書2に係る合意をしたこと,原告会社と被告会社が同月8日に本件覚書3に係る合意をしたことが認められ,これらの合意に基づいて,被告会社は,原告に対し,上記未清算金及び著作権使用料の支払債務を含む本件覚書23の各条項記載の債務を負い,被告Aは,被告会社の上記支払債務を含む本件覚書2の各条項記載の債務について,原告に対して連帯保証したことが認められる
2 次に,原告の被告会社に対する原稿の引渡しの事実について判断する。
(1) 本件覚書22条は,「甲は原契約第63項にもかかわらず,甲乙間で本覚書が成立し校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿を乙に引き渡す。」と規定し,原告会社は,「校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿」を被告会社に引き渡す旨定めている。
 ところで,本件覚書23条は,「乙は,第2条が履行され次第,読むサプリ24種を各6000部を第2刷として増刷する。」と規定していること,被告会社は,平成183月ころ,原告書籍の在庫本の表紙及び奥書等に被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シールを貼付し,これを本件著作物に係る被告会社の書籍(第1刷)として販売を開始したことに照らすならば,本件覚書22条の趣旨は,被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷に用いるために,原告が「校正・修正」をした原告書籍の在庫本の原稿データを引き渡すことにあるというべきである。このような本件覚書22条の趣旨にかんがみると,同条所定の「本著作物の完全な原稿」とは,被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷用に修正した原告書籍の原稿データであって,その増刷(印刷)が可能なデータを意味するものと解するのが相当である。
 そして,@原告会社は,Bから引渡しのあった原告書籍の表紙等のデザインデータのオリジナルデータを被告会社の書籍の増刷用に一部修正したデータ(ファイル形式が「イラストレーター」(ソフト名)のデータで,編集可能なもの)のCDROMを作成し,原告会社の従業員のDが,平成18821日ころ,上記CDROM及び原告書籍の本文のPDFデータのDVDROMを被告Aに引き渡したこと,A被告会社は,平成18920日,本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第2刷を発行したことを総合すれば,被告会社は,上記CDROM及びDVDROMの各データを基に,上記第2刷を増刷(印刷)して発行したものと認められるから,原告会社は,上記CDROM及びDVDROMを被告Aに引き渡すことによって,本件覚書22条所定の「本著作物の完全な原稿」の引渡しを行ったものと認められる
(2) これに対し被告Aの本人尋問における供述及び陳述書中には,本件覚書22条の「完全な原稿」とは,本件著作物に係る原告書籍の本文の内容についても編集が可能なオリジナルデータであり,原告から引渡しのあったDVDROMPDFデータであって,本文の内容を直せないデータであるから,「完全な原稿」とはいえない旨の供述部分がある。
 しかし,被告Aの上記供述部分にいう原告書籍の本文の内容についても編集が可能なオリジナルデータは,本件著作物の改変が可能なデータであって,このようなデータを被告会社に引き渡すことは,被告会社の書籍(第1刷)の第2刷を増刷するために必ずしも必要があるとはいえないものであり,前記(1)認定の本件覚書22条の趣旨を超えるものである。
 加えて,被告Aは,原告の従業員のDから上記DVDROMの引渡しを受けた際,上記DVDROMのデータが本文のPDFFデータであることを認識したが,原告に対し,異議を述べたり,抗議することはなかったことからすると,被告A自身が,本文のPDFデータであっても被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷は可能であり,その増刷のために本文の内容についても編集が可能なデータが必要でないことを認識していたことがうかがえる。
 以上によれば,被告Aの上記供述部分は採用することができない。
 (略)
 他に原告が本件覚書22条所定の「完全な原稿」の引渡しを行ったとの前記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。
3 次に,本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務の額について検討する。
 (略)
 以上によれば,原告は,本件覚書23に係る合意に基づき,被告らに対し,未清算金及び著作権使用料の残金合計5903461円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成21617日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
4 本件覚書25条は,被告会社が未清算金の分割金を期限に支払わないときは,原告から何らの通知催告を要することなく,期限の利益を喪失し,未清算金の残金全額を即時に原告に対して支払い,「本著作物の完全な原稿(被告会社の業務中に複製した物を含む)」のすべてを返還しなければならない旨定めている。
 しかるに,前記の認定事実によれば,被告会社は,上記未清算金の分割金の支払を怠り,残金全額についての履行期が到来していることが認められるから,被告会社は,本件覚書25条に基づいて,「本著作物の完全な原稿(被告会社の業務中に複製した物を含む)」のすべてを返還すべき義務を負うというべきである。
 そして,本件覚書25条の「完全な原稿」とは,2条の「完全な原稿」(前記2(1))と同義であると解されるから,被告会社は,本件覚書25条に基づいて,原告から引渡しのあった被告会社の書籍の増刷用(第2刷用)に一部修正された表紙等のデザインデータのCDROM及び本文のPDFデータのDVDROMを原告に返還すべき義務を負うものと認められる。

【控訴審】

 
当裁判所も,被控訴人の本訴請求は原判決が認容した部分は認容すべきであると判断する。その理由は,原判決…のとおりである。当審において控訴人らが本件の経緯や契約書及び覚書について主張するところによっても,上記判断は動かない。
 
なお,原判決は,請求原因として,原告書籍等の売買契約,本件著作物の出版権設定契約,覚書13の合意,原告書籍等及び本件著作物の原稿の引渡し等の事実を摘示した上で,覚書2及び3の合意に基づく請求と記載している。覚書2及び3は,本件著作物の原稿の返還に係る合意を含むものの,代金等債務については,未払額の確認を内容とするものであって,新規に権利を発生させるものではないから,「覚書2及び3の合意に基づく請求」との整理を形式的にとらえると,代金等債務と性質付けるべき本件訴訟の請求権の特定が不正確であるが,原判決では,請求原因として売買契約,出版権設定契約,覚書1の合意についても摘示し,理由中においても,売買や出版権設定に関する合意がされた事実を認定しているので,当裁判所は,これらも踏まえ,これらの売買や出版権設定を含む一連の合意に基づく代金等請求を認容したものとして原判決を支持するものである。











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