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パブリシティ権侵害の判断基準(3)
「ぺ・ヨンジュン写真掲載事件」平成221021日東京地方裁判所(平成21()4331 

【コメント】本件は、著名な韓国人俳優である原告が、本件雑誌(『ぺ・ヨンジュン来日特報 It's KOREAL7月号増刊』)の、それぞれ、出版社、編集発行人(出版社の代表取締役)及び編集者である被告らに対し、原告の写真等が多数掲載された本件雑誌を出版、販売した被告らの行為は原告のいわゆる「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めた事案です。 

 [原告のパブリシティ権侵害の有無について]
(1) パブリシティ権の意義
 人は,著名人であるか否かにかかわらず,人格権の一部として,その氏名を他人に冒用されたり,みだりにその容ぼう等を撮影されたり,自己の容ぼう等が撮影された写真をみだりに公表されたりしない権利を有する(最高裁昭和63216日第三小法廷判決,同昭和441224日大法廷判決,同平成171110日第一小法廷判決参照。)。
 また,芸能人やスポーツ選手等の著名人については,その氏名,肖像が商品に付されたり,他の事業者のために広告に使用されたり,出版物に掲載されたりした場合に,大衆が当該著名人に対して抱く関心や好感,憧憬等の感情のゆえに,当該商品や出版物の販売促進に有益な効果,すなわち顧客吸引力を生じることは,一般によく知られているところである。このように,著名人の氏名,肖像は,顧客誘引力を有し,経済的利益,価値を生み出すものであるということができるのであり,著名人は,人格権に由来する権利として,このような経済的利益,価値を排他的に支配する権利(以下「パブリシティ権」という。)を有すると解するのが相当である。
 他方,著名人は,その著名性ゆえに,必然的に,著名人としての活動やそれに関連する事項が,一般人よりも社会の正当な関心事の対象となりやすいものである。そのため,著名人は,その著名人としての活動等が雑誌,新聞,テレビ等のマスメディアによって批判,論評,紹介等の対象となることや,そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されることについて,言論,出版,報道等の表現の自由の保障という観点から,これを容認しなければならない場合があるといえる。そして,そのような紹介記事等を掲載した雑誌等の販売に当たって当該芸能人等の顧客吸引力が反映される場合があるとしても,上記の観点から,著名人はこれを容認せざるを得ない場合がある。
 以上の点を考慮すると,著名人の氏名,肖像を使用する行為が当該著名人のパブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは,その使用行為の目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用行為が当該著名人の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断するのが相当である。
 なお,上記の基準は,出版等につき顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば,「専ら」に当たらないとしてパブリシティ権侵害とされることがないことを意味するものではなく,顧客吸引力の利用以外の目的があったとしても,そのほとんどの目的が著名人の氏名,肖像による顧客吸引力を利用するものであるような場合においては,上記の事情を総合的に判断した結果,「専ら」顧客吸引力の利用を目的とするものであるとしてパブリシティ権侵害とされることがあり得るというべきである。
 上記解釈を前提として,被告らが本件雑誌を出版,販売した行為が原告のパブリシティ権を侵害するものか否かについて,検討する。
(2) 原告のパブリシティ権
 前記のとおり,原告は,韓国籍の俳優であり,日本においても,女性を中心に,その人気ぶりがいわゆる「ヨン様」ブームとして一種の社会現象と化しているほど,絶大な人気があり,原告の肖像は,タオル,ハンカチ,Tシャツ,カレンダー,スケジュール帳,写真集等の商品に使用され,写真集を始め多くの商品が多大な売上げを誇っていることが認められる。
 このように,原告の氏名,肖像は強い顧客吸引力を有しており,原告は,パブリシティ権を有すると認められる。
(3) 本件雑誌における原告写真の掲載態様
 (略)
(4) 以上のとおり,本件雑誌は,その表表紙の見出しの主要部分として原告の氏名が用いられてこれが大書され,表表紙及び裏表紙には,原告の顔写真や上半身,全身の写真が,ほぼ全面にわたって多数掲載され(なお,上記写真には,ページの全面又はほぼ全面に掲載された原告の写真の周囲等に掲載された,原告の顔写真等を含む。以下同じ。),原告の氏名及び肖像写真を利用して,購入者の視覚に訴える構成となっている。
 
また,本件雑誌の本文部分も,原告の写真が見開き2ページの全面又は1ページの全面若しくはほぼ全面にわたって掲載され,記事部分がない,又は,記事部分がページの上部,下部等にわずかしかないページが大半(計31ページ)を占めている。そして,…によれば,これらの原告写真は,原告一人を被写体とし,又は,原告を被写体の中心として,原告の顔や上半身,全身をクローズ・アップで撮影したものであり,原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができるものであると認められる。
 これに加えて,前記のとおり原告の氏名及び肖像は強い顧客吸引力を有すること,本件雑誌が上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることなどを併せ考えると,本件雑誌において,その人気ぶりが一種の社会現象となっている原告の本件来日時の芸能活動を紹介するという一面があったことは否定されないとしても,本件雑誌のように表紙及び本文の大部分において,原告の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様での原告写真の使用は,原告の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものと認められ,原告のパブリシティ権を侵害するものというべきである(なお,上記の原告写真のうち…の写真については,ビーオーエフが本件ドラマの記者会見の報道用に配布したものであると認められるが,ビーオーエフにおいて,本件雑誌のように原告のパブリシティ権を侵害するような態様で掲載することまで許容した上で上記写真を配布したものと認めるに足りる証拠はない。したがって,上記写真をビーオーエフが配布したという事実は,上記判断を左右するものではない。)。
 一方,本件雑誌中の,原告の写真よりも記事部分の方が多くを占めているページ,原告の写真の他に共演者等の写真が掲載され,記事部分も相当程度を占めているページに原告の写真を掲載したことや,原告の姿がごく小さくしか写っておらず,原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができるものとはいえない写真を掲載したことについては,原告の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものとまでは認め難いから,パブリシティ権を侵害したとは認められない
(5) 上記のとおり,被告らは,本件雑誌に原告のパブリシティ権を侵害する内容を掲載し,これを発行したことが認められる。
 そして,争いのない事実等によれば,被告Bは本件雑誌の編集発行人として,被告Cは本件雑誌の編集人として,本件雑誌の編集及び発行に関与したものであるから,被告らは,原告のパブリシティ権侵害につき,少なくとも過失があり,原告に対し,共同不法行為責任(民法719条)を負うものと認められる。












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