著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ソフトウェア製作の請負人の瑕疵担保責任が否定された事例
ネット顧客管理ソフト製作委託事件平成150528日東京地方裁判所(平成14()15745 

【コメント】本件は、原告が、被告に対し、「デムシス」という名称のインターネット上で顧客管理を行うアプリケーションソフトウェアの作成を発注し、被告がこれを作成したところ、被告の作成したデムシスに法律上の瑕疵がある(他人の著作権の侵害品である)と主張して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求した事案です。

[参考:民法636条(請負人の担保責任に関する規定の不適用]

前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。 


 [指図どおりの製作か否かについて]
 先に,被告が,デムシスの製作に当たり,原告から指図を受け,その指図どおりに製作したか否かについて判断する。
(1) 事実認定
 …を総合すれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
 (原,被告間のデムシス製作に関する契約を締結するまでの経緯)
 原告は,平成1235日,顧客管理を行うソフトウェアであるハッピーネットを開発したシー・ウェイとの間で,原告がハッピーネットを用いたサービス提供に関する代理店となる旨の契約を締結した。原告は,ハッピーネットのユーザーを募集していたが,平成131月から,シー・ウェイとの合意に沿って,「ハッピーネット」に「デムシス」の商品名(OEM版)を付した旧デムシスのユーザーの募集を開始し,サービス提供業務を行った。
 原告は,平成136月ころ,シー・ウェイとの合意に違反して,旧デムシスのサービスを提供していたことが,同社に発覚し,同社から顧客に対する旧デムシスのサービス提供を停止するよう求められた。当時,旧デムシスについて原告からサービスの提供を受けていた顧客は5社であった。原告は,シー・ウェイに対し,同月11日,上記ユーザーとの契約を同年8月末までに解除することを約した。
 そこで,原告は,旧デムシスを他のアプリケーションソフトウェアに置き換えて上記ユーザーとの契約関係を維持するとともに,新たなユーザーの募集も続けようと企図し,同年7月,被告に対し,旧デムシスに代わるものとして,顧客データベースと連動して,さまざまなバリエーションでメール配信が簡単に行え,来店のお礼,誕生日メール,記念メールなどが自動配信できるアプリケーションソフトウェア(デムシス)の製作を依頼した。
 被告は,上記依頼を承諾し,原告に対し,上記アプリケーションソフトウェアを製作するために必要な仕様書,設計資料の提出を求めたが,原告は,これには応じず,その代わりに旧デムシスのID及びパスワードを交付し,旧デムシスのウェブページを素材として旧デムシスと同一の機能でデザインを変えたものを製作するように求め,デザインについては原告の担当者が作成すると伝えた。なお,デムシスの納期は,同年9月下旬とされた。
 
(被告がデムシスを完成,納品するまでの経緯)
 被告は,平成137月下旬ころ,旧デムシスと同一のデザインのデムシスのデモバージョン1を製作した。これに対し,原告は,平成13820日,トップページと表面上のメニューページを製作し,被告に送信してこれを用いるように指示した。そこで,被告は,同日,デモバージョン1のトップページと表面上のメニューページを原告製作のものに変更したデムシスのデモバージョン2を製作し,これを原告の六本木事務所内に設置されたサーバーに設定し,原告担当者が動作確認を行えるようにした。デモバージョン2は,デモバージョン1のトップページと表面上のメニューページを差し替えたものであり,それよりも下層の各種機能を果たすためのページは,旧デムシスと同一デザインのアプリケーションソフトウェアであった。
 被告は,原告の指示により,平成139月末日ころ,上記デモバージョン2NTT中部テレコンに設置されたサーバーで動作するように設定した。また,その後も,被告は,上記デモバージョン2のバグ修正や保守をしていたが,原告は,平成1310月ころから,デモバージョン2を用いてデムシスの販売を開始した。
 被告は,同年12月,原告からデムシスのバグを指摘され,同月20日にバグを修正した。
 原告と被告は,平成131229日及び平成1414日,デムシスの納品について,次のとおり合意した。
 @ 原告は,平成14120日までにデムシスのデザインを製作し,その後に被告がデザインの変更作業を行う。
 A デムシスの機能(手順を含む。)の変更はない。
 B 被告は,デムシスの仕様書を製作し,原告に提出する。
 C 以上の作業が終わった後,納品とする。
 原告は,上記合意に基づき,デムシスのデザインを製作し,平成14124日,被告に対し,これを用いてデムシスのデザインを変更するように指示し,被告は,同年2月中に原告の指示どおりにデザインの変更を完了した(以下,このデザイン変更後のものを「デムシス完成版」という。)。
 被告は,原告に対し,平成14311日,原告の六本木事務所において,CD-ROMに記録したデムシス完成版,仕様書等を納品した。その際,原告は,被告に対し,訴外クラフトワークスのAを今後のデムシスの開発・変更等の担当者であると紹介した。被告代表者のBらは,原告担当者C及びクラフトワークスのAに対し,納品物,仕様書,プログラムの概要等を説明した。また,原告と被告は,同日,デムシスの納品,検収,修正・改修作業等に関する覚書を製作した。同覚書には,納品物の検収に関して,原告が納品日(平成14311日)より10営業日以内に単独で検収を行い,検査の合否を書面で報告すること,不合格の場合は,被告は速やかに修正・改修を行うこと,検収期間の10営業日を過ぎても書面による検査の合否通知がない場合は,合格したものとみなすこと等の条項が定められていた。
 原告は,被告に対し,デムシス完成版が不合格であるとの通知をしたことはない。
 (シー・ウェイの原告に対する著作権侵害を理由とする権利行使)
 シー・ウェイは,平成1311月ころ,インターネット上で上記デモバージョン2を発見し,原告に対し,ハッピーネットの無断複製又は改変である旨警告した。これに対し,原告担当者は,同月9日,シー・ウェイを訪問し,「『デムシス』開発の動機は,シー・ウェイのハッピーネットがユーザーに好評であったことに目を付けたものであり,平成136月の段階で既に『旧デムシス』により契約した代理店があったため,開発を継続ざるを得なかった」などの説明を行ったことがある。
 シー・ウェイは,平成14115日ころ,東京地方裁判所に対し,原告及びNTT中部テレコンを相手方として,デムシスがハッピーネットについての著作権を侵害するとの理由でデムシスの公衆送信等の差止めを求める旨の仮処分を申し立てた。
 平成1449日,仮処分事件において,シー・ウェイと原告及びNTT中部テレコンは,和解を成立させた。
(2) 判断
 上記認定した事実を総合すれば,デムシスは原告の指図どおり製作されたと解される。その理由は以下のとおりである。すなわち,
 前記のとおり,@原告は,被告にデムシスの製作を依頼した当初から,その製作に必要な仕様書,設計資料を示すことなく,単に,旧デムシスのID及びパスワードを交付して,旧デムシスのウェブページを素材として旧デムシスと同一の機能でデザインを変えたものを製作するように求めたこと,A被告は,旧デムシスのトップページと表面上のメニューページを差し替えただけで,それよりも下層の各種機能を果たすためのページが旧デムシスと同一のデザインであるデムシスのデモバージョン2を製作し,これを,平成13820日,原告の六本木事務所のサーバーに設定し,原告が動作確認できるようにしたこと,B被告は,原告の指示により,同年9月末日ころ,デモバージョン2NTT中部テレコンのサーバーで動作するように設置し,原告は,翌10月から,デモバージョン2を用いた販売活動を始めていること等の経過に照らすならば,デモバージョン2は,正に,原告の指示どおりに製作されたものと認めるのが相当である。
 また,平成1311月,原告は,シー・ウェイから,デモバージョン2がハッピーネットの無断複製又は改変であるとの申し入れを受けたのであるから,原告は,被告に対して,デムシスをそのような疑いを持たれないようなアプリケーションソフトウェアに変更するように指示をすることも可能であったといえる。しかし,その後のデムシスの製作経緯をみても,被告に,そのような観点からの指示を発した形跡は,何ら窺えない。すなわち,@被告は,平成1312月,原告から指摘されたデムシスのバグを修正した。A原告と被告は,平成131229日及び平成1414日,デムシスの納品について,原告において,同月20日までにデムシスのデザインを製作し,その後に被告においてデザインの変更作業を行い,デムシスの機能(手順を含む。)の変更はない旨を合意している。B原告は,この合意に基いて,デムシスのデザインを製作し,被告に対してこれを用いてデザインを変更するように指示し,被告は,同年2月中に原告の指示どおりのデザイン変更を完了してデムシス完成版を製作した。C被告は,原告に対し,平成14311日,CD-ROMに記録したデムシス完成版,仕様書等を納品したが,その際,原告担当者らに対し,納品物,仕様書,プログラムの概要等を説明するともに,原告と被告は,デムシスの納品,検収,修正・改修作業等に関する覚書を製作した。D同覚書には,納品物の検収に関して,原告が納品日(平成14311日)より10営業日以内に検収を行い,検査の合否を書面で報告し,検収期間の10営業日を過ぎても書面による検査の合否通知がない場合は,合格したものとみなすこと等の条項が定められていたが,原告は,被告に対してデムシス完成版が不合格であるとの通知をしたことはない。そうすると,原告は,シー・ウェイからハッピーネットの著作権侵害との警告を受けた後においても,デモバージョン2について,被告に対し,バグを指摘してその修正をさせたり,自ら製作したデザインを用いてデムシスのデザインの変更をさせており,また,完成,引き渡しを受けたデムシス完成版について,検収後に,何ら,不合格であるとの意思を示していないのであるから,デムシス完成版は,原告の指示どおりに製作されたものであると認めるのが相当である。
 
[その他の判断及び結論]
(1) 法律上の瑕疵の有無について
 原告は,被告が製作したデムシスは,ハッピーネットのプログラム及びユーザーインターフェイス画面を無断で複製又は改変したものであり,ハッピーネットについて,シー・ウェイが有する著作権を侵害したものであるから,デムシスには法律上の瑕疵があると主張する。
 しかし,本件において,原告は,デムシスのいかなる部分がハッピーネットについてシー・ウェイが有する著作権を具体的にどのような態様で侵害するかについて,何ら明らかにしない。したがって,原告の請求原因に係る主張は,主張自体が失当であるか,又は立証がないことに帰する。
(2) 結語
 
以上のとおり,被告に製作を依頼したデムシスに法律上の瑕疵があるとの主張は,失当であるのみならず,仮に法律上の瑕疵があるとしても,(上記)において判断したとおり,被告は,デムシスを原告の指図どおりに製作したのであるから,その瑕疵は「注文者の与えた指図により生じた」ということができ,被告は,民法636条本文の規定により,瑕疵担保責任を負うことはない。したがって,原告の本訴請求は理由がないこととなる。











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