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名誉毀損による損害の発生後に被害者が有罪判決を受けた場合、その事実は当該損害賠償請求権の成否を左右するか
「‘ロス疑惑’新聞記事事件②」平成90527日最高裁判所第三小法廷(平成8()220 

一 本件は、被上告人の発行する新聞に掲載された記事が上告人の名誉を毀損するものであるとして、上告人が被上告人に対し損害賠償を請求するものであり、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人の発行する「D」紙の昭和59215日付け紙面に、第一審判決別紙のとおりの記事(以下「本件記事」という。)が掲載された。本件記事は、「『A氏に保険金殺人の計画を持ち込まれた』あるサラリーマン、ショッキングな証言」等の見出しを付した六段抜きの記事である。その大要は、「社会的地位のある人」(「大手の会社に所属するサラリーマン乙さん。本人の希望で特に名を秘す。」と記載されている。)が「確か四年ぐらい前」に上告人から保険金がらみの交換殺人の計画を持ち込まれたと「“証言”」しているというものであり、「乙さんはA氏からこう切り出された。―――『あんたの奥さん、オレが殺すからあんたはオレの女房をやって保険金をガッポリいただくというのはどう?』」といった記載がある。
2 上告人は、本件記事が掲載された後、第三者に依頼して自分の妻を殺害しようとした二つの事件で起訴され、(1)殺人未遂被告事件につき、昭和6287日に第一審で有罪判決を、平成6622日に控訴審で控訴棄却の判決を受け、(2)殺人被告事件につき、同年331日に第一審で有罪判決を受け、いずれも上訴中である。
二 原審は、右事実関係の下において、おおよそ次のように判示して、第一審判決のうち上告人の請求を一部認容した部分を取り消し、上告人の請求を棄却した。
1 本件記事が掲載された新聞が発行された当時、上告人の名誉がこれによりある程度毀損されたことは、認められないわけではない。
2 しかし、上告人が前記の有罪判決を受けている現在の時点では、上告人の名誉すなわち社会的評価は、有罪判決自体によって低下しているものというべきであり、遠い過去の新聞記事である本件記事が上告人の社会的評価に影響するところはほとんどない。また、刑事事件とは別に、民事訴訟において上告人が無罪であるかどうかを審理し裁判することは、刑事裁判制度の役割を否定することにつながりかねない。したがって、本件記事による上告人の社会的評価の低下につきその回復を図ることは、意味がないだけでなく有害であって、許されない。
3 上告人が本件記事により何らかの精神的苦痛を被ったとしても、それは、遠い過去の時点に上告人の名誉を傷つける記事があったことを認識したことによる不快感という程度のものであり、上告人が有罪判決を受けている現状の下では、上告人が本件記事を閲読したことにより賠償に値する精神的損害を被ったとはいえない。
三 しかしながら、原審の右判断のうち2及び3の点は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 不法行為の被侵害利益としての名誉(民法710条、723条)とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことであり(最高裁昭和61611日大法廷判決参照)、名誉毀損とは、この客観的な社会的評価を低下させる行為のことにほかならない。新聞記事による名誉毀損にあっては、これを掲載した新聞が発行され、読者がこれを閲読し得る状態になった時点で、右記事により事実を摘示された人の客観的な社会的評価が低下するのであるから、その人が当該記事の掲載を知ったかどうかにかかわらず、名誉毀損による損害はその時点で発生していることになる。被害者が損害を知ったことは、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点(同法724条)としての意味を有するにすぎないのである。
 したがって、上告人は、本件記事の掲載された新聞が発行された時点で、これによる損害を被ったものというべきである。
2 新聞の発行によって名誉毀損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたとしても、これによって新聞発行の時点において被害者の客観的な社会的評価が低下したという事実自体に消長を来すわけではないから、被害者が有罪判決を受けたという事実は、これによって損害が消滅したものとして、既に生じている名誉毀損による損害賠償請求権を消滅させるものではない。このように解することが刑事裁判制度の役割を否定することにつながるものでないことは、いうまでもないところである。
 ただし、当該記事が摘示した事実と有罪判決の理由とされた事実との間に同一性がある場合に、被害者が有罪判決を受けたという事実を、名誉毀損行為の違法性又は行為者の故意若しくは過失を否定するための事情として斟酌することができるかどうかは、別問題である。
 また、名誉毀損による損害について加害者が被害者に支払うべき慰謝料の額は、事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量によって算定するものであり、右諸般の事情には、被害者の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価が当該名誉毀損以外の理由によって更に低下したという事実も含まれるものであるから、名誉毀損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたという事実を斟酌して慰謝料の額を算定することが許される
3 これを本件について見ると、本件記事が摘示した上告人に関する事実と上告人が受けた前記有罪判決の理由とされた事実とは、同種の事実であるということはできても、その間に同一性があるということはできない。したがって、本件記事が掲載された新聞の発行によって上告人の名誉が毀損された後に上告人が前記の有罪判決を受けたという事実は、これを慰謝料の額の算定要素として斟酌することは格別として、上告人の被った損害を消滅させるものではなく、本件記事による名誉毀損を理由とする上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の成否を左右するものではないというべきである。
四 以上判示したところによれば、本件記事によりその当時上告人の名誉が毀損されたことを認めながら上告人の本訴請求に理由がないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審において更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。











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