著作権重要判例要旨[トップに戻る]







損害の発生を認めなかった事例(3)
「円谷プロ国際契約事件B」平成230727日知的財産高等裁判所(平成22()10080
 

 ⇒「原審」参照

 [事案の概要]
 以下,略語は,原判決と同様のものを用いる。…
 本件は,参加人が,別紙第二目録記載の各著作物(本件著作物)の著作権者である被告に対し,@第1審脱退原告(脱退原告)は,別紙第一目録添付の契約書(本件契約書)に記載された内容の契約(本件契約)に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(本件独占的利用権)の許諾を受けた,A被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の製作後に被告が製作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,B上記Aの被告の行為は,本件契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記Aの第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,C参加人は,脱退原告から,上記の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張して,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求(選択的請求)として,1億円及びこれに対する平成18526日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。
 原判決は,参加人主張の被告の債務不履行のうち,被告が,バンダイ(当審における被告補助参加人。以下「補助参加人」という。)に対し,平成891日から平成91231日まで,別紙一覧表記載(1)の各キャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に属する5個のキャラクターについて韓国等の外国における利用権をライセンスし,当該ライセンス期間を現在に至るまで更新している行為が本件契約の債務不履行に当たり,脱退原告にライセンス料相当額の損害が発生しており,かつ,当該ライセンス料相当額について脱退原告に損失が生じ,被告が利得したと認定した上,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権については一部商事消滅時効が成立するため,不当利得返還請求権に基づく認容額の方がより高額であるとして,参加人の請求のうち,被告に対する不当利得返還請求に基づき16363636円及びこれに対する平成18526日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
 参加人及び被告は,それぞれ控訴し,控訴の趣旨記載の判決を求めた。…
 (略)
 [当裁判所の判断]
 当裁判所は,原判決が認容した部分も含め,参加人の請求には理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の…記載のとおりであるから引用する。
(1) 原判決…の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
 「参加人は,本件契約の第33.1にいう制作権(Production Right)に,本件著作物の二次的著作物を制作する権利ないし翻案権が含まれることを前提として,被告が,本件契約に基づき,本件著作物及びそこに登場するウルトラマンキャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に類似するキャラクター(新ウルトラマンキャラクター)の利用を第三者に許諾してはならない義務を負う旨主張する。しかし,参加人の主張は失当である。制作権(Production Right)の通常の語義からすれば,本件著作物の二次的著作物を制作する権利ないし翻案権が含まれると理解することは困難であり,本件契約において,特に,『制作権(Production Right)』の語にそのような権利が含まれると解すべき事情があるとも認められない。また,本件契約の第33.4に著作権(Copyright)と記載されているところ,『著作権(Copyright)』の語に著作権の支分権である翻案権が含まれるとするならば,同3.3に『複製権』と記載されていることと整合しないから,上記『著作権(Copyright)』に支分権である翻案権が含まれるとは解されない。したがって,被告が,本件契約に基づき,新ウルトラマンキャラクターの利用を第三者に許諾してはならない義務を負うとはいえない。」
(2) 原判決…の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
 「イ 脱退原告の損害
 被告による本件契約の債務不履行は認められるものの,後記のとおり,それにより脱退原告に損害が発生したとは認められない
 ウ 被告の不当利得
 後記のとおり,被告が本件ライセンス契約@を締結しライセンス料を得たことにより脱退原告に損失が発生したとは認められない。」
(3) (略)
(4) 原判決…の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
 「参加人は,本件ライセンス契約H,I,K,M,Nについては,ライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれていることを被告も認めており,上記各ライセンス契約締結行為は本件契約に違反し,脱退原告に,ライセンス料を得る機会を失うという損害が生じたことは明白であるから,『損害が生じたことが認められる場合』(民事訴訟法248条)に該当し,『損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき』として,脱退原告に生じた損害について『相当な損害額』が認定されるべきである旨主張する。しかし,参加人の主張は失当である。上記各ライセンス契約のライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれるとしても,それらの内容,ライセンス対象物全体に占める割合,ライセンス期間,ライセンス料等について明らかにする証拠はない。そうすると,脱退原告がいかなるライセンス料を得る機会を失ったのかが不明であり,脱退原告に損害が生じたとの事実自体を認定するに足りないというべきである。したがって,民事訴訟法248条に基づいて相当な損害額を認定すべきであるとの参加人の主張は採用できない。」
(5) (略)
2 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
(1) 脱退原告に「損害」,「損失」が発生していないとの主張について
ア 認定事実
 …によれば,次の事実が認められる。
 脱退原告,チャイヨ・シティ・スタジオ・リミテッド・パートナーシップ及びツブラヤ・チャイヨ・カンパニー・リミテッドは,補助参加人との間で,平成10129日付けで平成10年契約を締結した。平成10年契約は,次の内容の契約条件を含むものである。
 a 平成10年契約は,チャイヨ・補助参加人間の現在の紛争を排除し,かつ,両当事者間における将来の紛争を回避することを唯一の目的に締結された。平成10年契約は,補助参加人が,被告・チャイヨ間で争いになっている本件契約の有効性を確認するものではなく,かつ,そのように解釈されるべきものでもない。(第1条)
 b チャイヨは,次のとおり表明し保証する。
 平成10129日現在,チャイヨ,その関連会社及び子会社は,バンダイ,その関連会社,子会社,ライセンシー,サブライセンシー,契約者,製造業者,販売代理店,二次販売代理店,エージェント,代表者,役員,従業員,株主,権利承継人,譲受人,またはこれらのために仕事をしているその他一切の個人・法人(すなわち,「バンダイ・グループ」)に対して,タイその他の世界中のいかなる国・地域においても,被告に対する訴訟以外には,民事・刑事を問わず,あらゆる訴訟を同契約書別紙C記載の訴訟を除くほか一切提起しておらず,またいかなる第三者を通じても提起していないことを表明し保証する。(第2.1条)
 c チャイヨ,その関連会社,子会社は,チャイヨ権利(本件契約書記載の一切の権利)に関し,以下のとおり(@)現在又は将来に亘って,バンダイ・グループに対して想定されるいかなる権利の行使も放棄する。(A)現在又は将来に亘って,想定される全世界における一切の法律又は規則に基づく,司法上・非司法上,及び刑事上・民事上のあらゆる訴訟及び請求原因からバンダイ・グループを解放する。(第2.3条)
 d チャイヨは,平成10年契約締結日現在及び将来に亘り,本件契約の…に定めるチャイヨ権利に基づく商品を製造せず,使用せず,販売せず,かつ,平成10年契約の有効期間中,いかなる国・地域においても,チャイヨ権利をライセンスし,譲渡し,質入し,その他の担保に供し又は処分する行為をしないことを保証し表明する。ただし,補助参加人から事前に書面による承諾を得た場合はこの限りではない。上記にかかわらず,チャイヨは,タイ国内において,チャイヨ権利に基づき,玩具以外の商品を製造,販売することができる。(第2.6条)
 補助参加人はチャイヨに対し,所管官庁の承認を得た上で,下記の時点で下記金額をチャイヨ指定の銀行口座に支払う。チャイヨに支払われた金額は,返還されない。
 13千万円 平成10年契約時
 23千万円 別紙C記載の全ての訴訟につき確定的に取り下げられた旨の管轄裁判所又は所管の行政機関が発行し,正式なものとしてB弁護士が納得するに足る文書の写しが,同弁護士に提供された時。
 34千万円 (2)の3千万円の支払から30日以内。(第3.1条)
 f 別紙C(翻訳)の記載は次のとおりである。
 (略)
 脱退原告を含むチャイヨは,平成10年契約に基づき,平成112月ころまでに,補助参加人から合計1億円の支払を受けた
イ 判断
 上記ア認定の事実によれば,脱退原告は,平成10年契約において,補助参加人との間で,チャイヨ権利,すなわち本件契約上の一切の権利に関し,現在又は将来に亘って,バンダイ・グループに対して想定されるいかなる権利の行使も放棄するとともに,現在又は将来に亘って,想定される全世界における一切の法律又は規則に基づく,司法上・非司法上,及び刑事上・民事上のあらゆる訴訟及び請求原因からバンダイ・グループを解放することを約し(第2.3条),平成10年契約締結日現在及び将来に亘り,事前に補助参加人から書面による承諾を得ない限り,本件契約の…に定めるチャイヨ権利に基づく商品を製造せず,使用せず,販売せず,かつ,平成10年契約の有効期間中,いかなる国・地域においても,チャイヨ権利をライセンスし,譲渡し,質入し,その他の担保に供し又は処分する行為をしない(ただし,チャイヨ権利に基づき,タイ国内で玩具以外の商品の製造,販売はできる。)ことを約した上で(第2.6条),補助参加人から,平成10年契約に基づき合計1億円の支払を受けたことが認められる。
 上記の平成10年契約第2.3条の内容からすると,脱退原告は,同契約時以降,本件契約上の一切の権利に関し,補助参加人との間で,平成10年契約とは別にライセンス契約を締結してライセンス料を得ることはできないと解されるのみならず,仮に,平成10年契約以前に,補助参加人が脱退原告の承諾なく本件契約上の権利を利用したために脱退原告がライセンス料を得る機会を逸していたとしても,平成10年契約において,そのライセンス料相当額の損害ないし損失を全て精算する意思の下に,平成10年契約を締結したものと解される。そして,平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した1億円は,同契約の有効期間中,脱退原告が原則として本件契約上の権利に基づく商品の製造,使用,販売をせず,いかなる国・地域においても,同権利のライセンス,譲渡,質入等の処分をしないことの対価であるほか,同契約以前に,補助参加人の行為により脱退原告の本件契約上の権利に関し何らかの損害ないし損失が発生していた場合は,その補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である
 そうすると,脱退原告は補助参加人との間で別途ライセンス契約を締結してライセンス料を得る機会を有しないと解されるから,そうである以上,被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@(そのライセンス期間の更新を含む。)を締結したとしても,脱退原告に,上記債務不履行による損害,又は被告のライセンス料取得による損失が発生したことを認めることはできない
 参加人の主張について
 参加人は,被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@を締結した平成891日から,平成10年契約締結日である平成10129日の前日までの14か月間については,同契約の効力は及ばず,脱退原告が本件契約上の権利に関しライセンス料を受領する機会を有していなかったとはいえない旨主張する。
 しかし,参加人の主張は失当である。上記のとおり,平成10年契約は,その経緯及び内容に照らすと,平成10年契約の前のライセンス行為を含め,ライセンス料相当額の損害ないし損失の全てを対象として,包括的に精算する合意であったと解するのが合理的であるから,脱退原告に損害ないし損失が発生しているとは認められない。
 また,参加人は,脱退原告が平成10年契約において,本件契約に基づく権利を全面的に放棄したものではない,平成10年契約は脱退原告と補助参加人との間の債権契約であるから,脱退原告による権利放棄の効果を被告は主張できないなどと主張する。
 確かに,被告は,脱退原告によるバンダイ・グループに対する権利放棄の法的効果を直接的に受ける者ではない。しかし,前記平成10年契約第2.3条の規定のとおり,脱退原告はバンダイ・グループに対し,本件契約書記載の一切の権利に関して,現在又は将来に亘って,想定されるいかなる権利も行使しない旨を約している以上,脱退原告には,補助参加人の行為による損害ないし損失が生じない結果として,脱退原告の被告に対する請求権の根拠は,失われたものというべきであるから,この点の参加人の主張は,失当である
 参加人は,平成10年契約により,脱退原告が補助参加人に対して負担した債務の内容は,補助参加人の事前の承諾なく他者にライセンスをしないとの義務にすぎず,平成10年契約が,そのような内容である以上,補助参加人が,予め一切の承諾を拒否する意思であったということはあり得ず,承諾を与える可能性があることを前提として,契約を締結したものと解すべきであると主張する。
 しかし,参加人の主張は失当である。補助参加人が脱退原告に対し,脱退原告が第三者にライセンスをすることについて,承諾をし,また承諾する予定があったとの事実は認められないから,脱退原告において第三者からライセンス料を得る機会があったとはいえない。
 参加人は,平成10年契約に基づき脱退原告が補助参加人から受領した1億円は,本件契約上の脱退原告の権利と抵触する権利の許諾を被告から受けていた補助参加人が,被告から許諾を受けた事業を行うことに対し,脱退原告が民事上・刑事上の制裁を求める行為を行わないことの対価として支払ったものであり,脱退原告が補助参加人に対しウルトラマンキャラクターを利用することを許諾する対価ではないから,脱退原告としては,被告が補助参加人から得たライセンス料に相当する金額を補助参加人から更に得る機会がなかったとはいえない旨主張する。
 しかし,参加人の主張は失当である。平成10年契約において,1億円の支払が参加人主張の趣旨でされたことを窺わせる文言はない。上記のとおり,同契約第2.3条の定めからすると,脱退原告はバンダイ・グループに対し,本件契約書記載の一切の権利に関し,現在又は将来に亘って,ライセンス契約に基づくライセンス料の支払請求も含め,想定されるいかなる権利も行使しないとしたことは明らかであるから,脱退原告において,補助参加人から別途ライセンス料を得る機会はなかったというべきである。
 したがって,参加人の主張はいずれも理由がない。
(2) 以上のとおり,脱退原告において,本件契約に基づく被告の債務不履行による損害ないし被告の補助参加人からのライセンス料取得による損失が発生したとはいえないから,脱退原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権は認められない。
3 小括
 以上のとおりであり,被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@を締結し更新したことが本件契約の債務不履行に当たるとしても,それによる脱退原告の損害の発生ないし被告のライセンス料取得による脱退原告の損失の発生は認められない。また,被告が本件ライセンス契約AないしGを締結したことは本件契約の債務不履行に当たらず,被告が法律上の原因なく利益を得たとも認められない。さらに,本件ライセンス契約HないしSに係る参加人の主張は理由がない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,参加人の被告に対する本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求はいずれも認められない。参加人は,その他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。
 [結論]
 
よって,被告の控訴は理由があるから,原判決中被告敗訴部分を取り消し,参加人の請求を棄却し,参加人の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。











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