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差止の射程範囲(10)
「株価チャートソフト『NEW増田足』事件」平成230128日東京地方裁判所(平成20()11762 

【コメント】本件は、「NEW増田足」という名称の株価チャートを作成、分析するためのソフトウェア(「原告ソフト」)を顧客に提供する事業を行っている原告が、「被告ソフト」を制作し、これを複製した上で、自己のホームページ上において顧客への公衆送信を行っている被告会社及びその唯一の取締役である被告A1に対し、被告ソフトに係るプログラム(「被告プログラム」)及びこれにより表示される画面(「被告ソフト表示画面」)は、それぞれ原告ソフトに係るプログラム(「原告プログラム」)及びこれにより表示される画面(「原告ソフト表示画面」)の著作物を複製又は翻案したものであるから、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の原告プログラム及び原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害する旨主張し、著作権法1121項に基づき、被告プログラムの複製、翻案、公衆送信、その複製物の譲渡の各差止めを、同条2項に基づき、被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき、著作権侵害の不法行為による損害賠償及び遅延損害金の支払を、著作権法115条又は民法723条に基づき、原告の名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めた事案です。 

(4) まとめ
ア 以上の検討結果を総合すると,原告は,原告プログラムの著作者であり,これについての著作権及び著作者人格権を有するところ,被告会社の業務として,被告ソフトを制作し,これを複製して,被告会社のホームページ上において公衆送信する被告A1の行為は,原告が原告プログラムについて有する著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)を侵害するものといえる。そして,被告A1が,被告会社の唯一の株主であるとともに,唯一の取締役であり,同社の業務は専ら同人が単独で行っていることからすれば,被告A1が行った上記著作権侵害行為は,被告会社の代表者としての行為(すなわち,被告会社の行為)であるとともに,被告A1個人としての行為でもあると評価することができる(以下においては,被告A1が被告会社の業務として行った行為であって,被告会社の行為であるとともに,被告A1個人の行為でもあると評価されるものを,「被告らの行為」として記述する場合がある。)。
 次に,被告らは,被告ソフトの制作に当たって,原告プログラムの一部に改変を加えており,また,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告ソフトを公衆送信するに当たって,原告プログラムの著作者である原告の名称を表示していないところ,被告らのこれらの行為は,原告が原告プログラムについて有する著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものといえる。
イ 原告の差止請求等の可否
 以上を前提に,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の可否について検討する。
() 被告プログラムの複製の差止請求
 被告らは,被告プログラムについて,記憶媒体に収納するなどの複製行為を行っているところ,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを複製する行為は,原告の原告プログラムに係る複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)を侵害するものといえる。
 したがって,原告は,被告らに対し,著作権法1121項に基づき,被告プログラムの複製(被告プログラムを記憶媒体に収納することを含む。)の差止めを求めることができる。
() 被告プログラムの複製物の譲渡の差止め
 被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して,これを現に保有していることは明らかであるから,被告らは,今後,被告プログラムの複製物を公衆に譲渡するおそれがあるものと認められる。
 被告らが被告プログラムの複製物を譲渡する行為は,原告の原告プログラムに係る譲渡権(著作権法26条の2)を侵害する。
 したがって,原告は,著作権法1121項に基づき,被告プログラムの複製物の譲渡の差止めを求めることができる。
() 被告プログラムの公衆送信の差止め
 被告らは,被告プログラムの公衆送信行為を行っているところ,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを公衆送信する行為は,原告の原告プログラムに係る公衆送信権(著作権法231項)を侵害するものといえる。
 したがって,原告は,被告らに対し,著作権法1121項に基づき,被告プログラムの公衆送信の差止めを求めることができる。
() 被告プログラムの翻案の差止め
 原告は,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づき,被告プログラムの翻案の差止めを求めている。
 そこで,被告らが,被告プログラムの翻案行為を現に行い,又は,これを行うおそれがあると認められるか否かにつき検討するに,まず,被告らが,被告プログラムを改変する行為を現に行っているとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 また,被告プログラムを翻案する行為には,広範かつ多様な態様があり得るものと考えられる。ところが,原告の上記請求は,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,上記のとおり広範かつ多様な態様を含み得る「翻案」に当たる行為のすべてを差止めの対象とするものであるところ,このように無限定な内容の行為について,被告らがこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めることはできないというべきである。
 したがって,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づいて被告プログラムの翻案の差止めを求める原告の請求は理由がない。
() 被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄
 被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して,これを現に保有していることは明らかであるところ,被告プログラムが原告プログラムの複製物又は翻案物と認められることからすると,被告プログラムを収納する記憶媒体は,原告の原告プログラムに係る複製権又は翻案権の侵害行為によって作成された物といえる。
 したがって,原告は,被告らに対し,著作権法1122項に基づいて,被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めることができる。
() 以上によれば,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求は,上記()ないし()及び()の請求については理由があるが,上記()の被告プログラムの翻案の差止めを求める請求については理由がない。
 
なお,本件において,原告は,原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についても主張するが,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の内容は,いずれも被告ソフト表示画面についてのものではなく,被告プログラムについてのものであるから,原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についての原告の主張は,上記差止請求及び廃棄請求の請求原因として述べるものではないものと理解される。











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