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プロサッカー選手のプライバシー権の侵害を認定した事例(2)
「『週刊現代』‘ディープキッス’写真掲載事件」平成161110東京地方裁判所(平成15()23221 

【コメント】本件は、プロサッカー選手である原告が、被告ら(雑誌の出版等を業とする株式会社(被告会社)及び被告会社の出版する週刊誌の発行人)に対し、「週刊現代2003920日号」(「本件雑誌」)の表紙に「AとC「ディープキッス」写真法廷に」と記載し、「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」との大見出しが付された記事(表紙の記載を含め、「本件記事」)を掲載した行為が原告のプライバシー権又は肖像権を侵害すると主張して、不法行為(民法709条、715条)に基づき、損害金等の連帯支払を求めた事案です。 

1 プライバシー侵害又は肖像権侵害について
 
(略)
3 プライバシー侵害について
(1) プライバシー侵害の要件について
 他人に知られたくない私生活上の事実,情報をみだりに公表されない権利ないし利益は,プライバシー権として法的に保護され,公表された内容が,@私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって,A一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり,Bこれが一般にいまだ知られておらず,かつ,Cその公表によって被害者が不快,不安の念を覚えるものであるときは,プライバシー権を侵害する行為となる
(2) 私生活上の事実及び公開を欲しない事実について
 原告指摘箇所(1)(5)は,原告がCと親密な交際関係にあり,原告がCと濃厚なキスをしている様子を内容とするものであるから,私生活上の事実に該当し,一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であると認められる。
 これに反する被告らの主張は採用することができない。
(3) 一般に知られていない事実について
 …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
 上記説示の事実によれば,キス写真は,発行部数13万部強で,主として若い男性を購読層とするBUBKA10月号に掲載されたのみであるから,明らかに一般に知られていない情報であったと認められる。
 また,原告がCと親密な交際関係にあること,同人と濃厚なキスをしたこと及びキスに至る経緯や情況がどのようなものであったかに関する情報も,本件雑誌の発売当時,いまだプライバシー権による保護が可能な程度に一般に知られていない事実であったと認められる。
 被告らは,BUBKA10月号等や東京スポーツによる報道により一般に知られていない事実ではなくなった旨主張する。確かに,BUBKA10月号等だけでなく,250万部の部数を有する東京スポーツへの掲載により,国民のうち相当数の者がCとの交際の事実や濃厚なキスをしたことを知ったことはうかがわれるが,東京スポーツ等の掲載のみからは,立ち読み等があることを考慮しても,国民の半数を遙かに超える者は依然としてこれらの事実を知らなかったものと推認されるところであり,被告らの上記主張は採用することができない。
(4) 不快の念について
 弁論の全趣旨によれば,原告は,本件雑誌でCとの親密な交際及び濃厚なキスの事実を写真付きで報じられたため,不快,不安の念を覚えたことが認められる。
4 肖像権侵害について
(1) みだりに自己の容貌,姿態を撮影されず,撮影された写真を公表されることのない権利ないし利益は,肖像権として法的に保護される
(2) 原告指摘箇所(2)及び(3)中の原告の肖像は,肖像権として法的に保護される。
5 小括
 よって,原告指摘箇所(1)(5)は,プライバシー権の保護の対象になり,そのうち,原告指摘箇所(2)及び(3)中の原告の肖像は,肖像権としても法的保護の対象となり,違法性阻却事由が存在しない限り,被告らの公表行為は不法行為を構成するものとなる。
6 原告の公表容認について
(1) キス写真は,第三者のいるクラブ内で,第三者の見ている状況の下で,クラブ経営者により撮影されたものであり,原告がキス写真の撮影を容認していたことは,当事者間に争いがない。
(2) しかしながら,写真の「撮影」の承諾と「公表」の承諾とは別である。しかも,原告代理人のY弁護士が本件雑誌の発売に先立つ平成1592日,被告会社のD編集長に対し,キス写真及びそれに関連する情報の掲載に同意しない旨を明確に伝えたことは,当事者間に争いがない。したがって,被告ら主張の撮影状況から公表の承諾もあったものと認めることはできず,他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
(3) よって,被告らの原告の公表容認の主張は理由がない。
 (略)
8 抗弁(2)(公共の利害に関する事実の報道)について
(1) 要件について
 本件記事による原告のキス写真の公表等が違法性を欠くか否かは,Cとのキスの事実等を公表されない原告の利益と被告会社が原告のキスの事実等を報道する理由とを比較衡量して判断されるべきであるが,被告らが主張する@その事実が公共の利害に関する事項に関わるか,A専ら公益を図る目的でされたか,B当該公表の取材ないし報道の手段方法がその目的に照らして相当であるか否かの事情は,上記比較衡量の際の事情の一部として検討されるべきものである。
(2) 原告の地位について
 本件雑誌の発売当時,原告は,世界的に有名なプロサッカー選手としての報酬を得ていたほか,多数の広告に出演して多額の広告料を得,また,経営再建中の株式会社東ハトにおいて,Chief Branding Officerの地位にあり,社長と共同してリーダーシップを発揮し,社員の行動規範となる「ブランドブック」作りにリーダーシップを発揮することが期待されており,さらに,同当時,ホームページを開設し,その中で,サッカーという分野を通じて自己の意見を公衆に開示する等していて,現代社会のオピニオンリーダーといえる存在であったことは,当事者間に争いがない。
 被告らは,原告はこのように重大な社会的影響力を持っていたから,その行動全般が批判,論評の対象となってもやむを得ず,原告指摘箇所(1)(5)を公表しても違法ではない旨主張する。
 原告は,単なるプロサッカー選手ではなく,経営再建中の株式会社東ハトの役員を務めていたものであるから,そのような社会的影響の大きい活動に関係する限りで,その行動全般が批判,論評の対象となることは受忍せざるを得ないと解される。
 しかしながら,原告の有名女優であるCとの親密な交際やキスの事実,特に濃厚なキスの事実及びその状況は,極めて私的な事項であり,プライバシー保護が要求される程度が高いものである。これに対し,キスの事実は,不倫行為の一部である等の事情もうかがわれない以上,相当規模の企業の役員につき,経営能力,識見を含む行動全般の批判,論評のためにさほど必要な事実ではない。したがって,原告が公的存在又はそれに近い地位にあることを理由に,原告指摘箇所(1)(5)の公表につき違法性がない旨の被告らの主張は理由がない。
(3) 社会的紛争及び裁判の監視について
ア 公共の利害に関する事項及び公益目的について
 争いのない事実,及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (社会的紛争の存在)
 本件雑誌の発売当時,原告は,コアマガジン社を相手方として,同社がキス写真等をBUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号に掲載した行為が原告のプライバシー権を侵害すると主張して不法行為に基づく損害金の支払を求める訴えを提起しようとする社会的紛争が発生していた。
 (社会の関心)
 裁判制度は,国家意思による社会的紛争の解決を本質とするものであり,国民の監視の下に置かれるべきところ,現在の我が国の社会,文化において,自由な表現行為と有名人のプライバシー権との衝突局面における利益衡量は,表現の自由という民主主義社会で重要な地位を占める権利の限界を論じる上で最も難しい問題の1つであり,国民は,どのような裁判所の判断がされるかについて,大きな関心を抱いている。
 (原告の実績)
 原告には,別件訴訟以前にも,プライバシー侵害の有無等が争点となった訴訟の原告となり(東京地裁平成12229日判決),スポーツ選手のプライバシー権について,訴えの提起という形で自分の主張を広く公衆に伝え,スポーツ選手とジャーナリズムの関係についての議論を進めてきたという実績がある。
 (本件記事の内容)
 本件記事の大見出しは「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」というものであり,また,記事冒頭のリードは「A(26歳)とC30歳)の「ディープキッス写真」をめぐって,騒動が起きている。830日発売の投稿雑誌「BUBKA」10月号に掲載されたものだが,Aの事務所が激怒。裁判に訴えることも辞さない構えなのだ。」というものであり,また記事末尾の締めは「大物同士の「親密交際写真」流出を,裁判所はどう認定するのか。」というものである。
 上記に説示の事実及び証拠を総合すれば,本件雑誌による原告指摘箇所(1)(5)の公表は,公共の利害に関する原告とコアマガジン社との社会的紛争につき公益を図る目的をもってなされたものと認められる。
 原告は,本件記事は,見出しに「裁判に」という文言を用いて,本件記事が社会的紛争を対象としたものであるかのような体裁を取り繕い,読者ののぞき趣味的・好事的興味に訴えかけてその購買意欲をそそる目的で作成された旨主張する。
 確かに,本件記事は,原告とCとの濃厚なキスの場面であると十分判別することができる写真を掲載し,文章でも,キスそのものやそれに至る経緯を微に入り細にわたり記述し,原告のこれまでの女性遍歴を記載するなどしており,原告の事務所が裁判に訴えることも辞さない構えであること等を紹介する本件記事冒頭の8行及びG日大教授の談話を紹介する末尾17行の部分を除けば,ゴシップ記事として十分通用する内容を有しているものであるが,上記の諸事情を併せ考慮すれば,原告が指摘する事実の存在をもって,上記認定を左右することはできない。
イ 公表方法の相当性について
 国民が裁判制度が正当に運営されているか否かを監視するためには,裁判所がいかなる判断を下したかだけでなく,いかなる社会的紛争が法廷に持ち込まれたか,訴訟において当事者がどのような主張や証拠の提出を行い,訴訟手続がどのように進行しているかを知る必要があるところ,原告指摘箇所(1)(本件雑誌の表紙),同(2)(BUBKA10月号の表紙の写真)のうち原告とCとが寄り添って座っている場面を写した写真を掲載した部分を除く部分,同(3)(本件写真)のうち2枚の写真を除く部分,同(4)(本件雑誌本文の大見出し)及び同(5)(本件雑誌の本文)のうち最初の5行の部分は,どのような社会的紛争が法廷に持ち込まれようとしていたかを知らせるものであり,濃厚なキスの状況等を不必要に詳述したものでもないから,原告のCとの親密な交際や濃厚なキスの事実がプライバシーとして保護を要する程度が高いことを考慮しても,公表方法としての相当性を有しているものと認められる。
 なお,本来,裁判に持ち込まれる社会的紛争の報道における必要性の観点からは,原告の名前を匿名にして報じるべきであり,匿名にしていない上記原告指摘箇所は公表方法の相当性を欠くのではないかとの疑問も生ずるが,裁判所が表現の自由に関係する事件について適正な判断を行っているか否かを国民が批判,論評するためには,当該訴訟の原告の地位にある者はどのような理由で有名人であるのか,原告の地位にある者が自己の人気を確立するためにマスコミを利用した事情があるのか等の事実関係の理解が必要であるといわざるを得ず,そのような事実を報じた上で原告を匿名にしたとしても,原告が著名であり,欧州での活躍を含めその活動が広く知られていることからすると,そのような記事に接する一般人は原告が当該訴訟の原告の地位にある者であることを容易に想起することができるものと考えられる。よって,原告の名前を匿名にしなかったことをもって,公表方法の相当性を欠くものと認めることはできない。
 これに対し,原告指摘箇所(2)(BUBKA10月号の表紙の写真)のうち原告とCとが寄り添って座っている場面を写した写真を掲載した部分,同(3)(本件写真)のうち2枚の写真を掲載した部分,及び同(5)(本件雑誌の本文)のうち,最初の5行を除く部分(以下,これらを「侵害部分」という。)は,公表方法の相当性を欠くものといわなければならない。
 すなわち,原告のCとの親密な交際やキスの事実,特に濃厚なキスの事実及びその状況は,極めて私的な事項であり,プライバシー保護が要求される程度が高いものである。しかも,写真は,その情景をそのまま伝えるものであるため,文章による場合に比し,被害者の受ける苦痛がより大きくなると考えられる。これに対し,国民が,原告とコアマガジン社との社会的紛争につき,裁判所が適正な判断を行っているか否かを批判,論評するために,キスの状況やキスに至る経緯を詳細に知る必要はさほどないものである。したがって,原告指摘箇所のうち,キスの状況やキスに至る経緯を写真や文章で詳述した侵害部分は,公表方法の相当性を欠くものである。
ウ 比較衡量
 以上の検討を踏まえ,Cとのキスの事実等を公表されない原告の利益と被告会社が原告のキスの事実等を報道する理由とを比較衡量すると,侵害部分については,公表されない利益が公表する理由に優越しているといわざるを得ない
(4) 侵害についてのまとめ
 以上によれば,違法性阻却事由が存在しない原告指摘箇所を公表した被告らの行為については,プライバシー侵害の不法行為及びその一部については更に肖像権侵害の不法行為が成立する。

2 責任原因,損害について
1 責任原因について
(1) 被告Bについて
 被告Bは,本件雑誌の発行人として,原告のプライバシー権又は肖像権を侵害しないように配慮すべき義務があったところ,被告Bがこれまでの裁判例等に照らしてプライバシー侵害等に当たらないと誤信したことにつき相当な理由があった等の事情も認められないから,被告Bには上記義務を怠った過失がある。
(2) 被告会社について
 被告会社は被告Bの使用者であり,被告Bによる本件雑誌の発行は,被告会社の事業の執行につき行われたものであることは,当事者間に争いがないから,被告会社は,民法715条により,被告Bの過失行為により原告に生じた損害を賠償する義務がある。
2 損害について
(1) 精神的損害について
 本件記事は,冒頭の8行及び末尾の17行を除けば,ゴシップ記事として十分通用する内容を有しているが,全体として見れば,公共の利害に関する社会的紛争を報道するものであることは,前記のとおりである。
 本件雑誌は発行部数約80万部を誇る週刊誌であり,一般書店,コンビニエンスストア等で容易に入手することができ,その宣伝も新聞広告や電車の車両内の中吊り広告等により大々的に行われており,本件雑誌が有する一般公衆に対する情報の伝播力は極めて強いことは,当事者間に争いがない。
 これらの事実に,前記のとおり,原告とCとの親密な交際や両者がキスをした事実は,BUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号だけでなく,発行部数250万部を有する東京スポーツにより既に公表されており,本件記事は,BUBKA10月号の続報的なものであること,キス写真の掲載に当たっては,白黒写真でさほど大きくなく掲載するなど,被告らとしてもそれなりの配慮をしていることを併せ考慮すると,侵害部分の公表により,原告が被った精神的損害を慰謝するには,100万円をもってするのが相当である。
(2) 弁護士費用相当の損害について
 弁論の全趣旨によれば,原告は,本訴原告訴訟代理人Y弁護士らに対し,本訴の提起及びそれに先立つ仮処分の申立てを委任し,日弁連報酬基準規程に基づく報酬の支払を約束したことが認められる。
 本件訴訟の審理の経過,事件の難易,認容額等を考慮すると,被告らの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害額を20万円と認めるのが相当である。
3 損害についてのまとめ
 
以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,民法709条,715条に基づき,損害金120万円及びこれに対する不法行為の日である平成1598日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。











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