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新聞社会長のプライバシー権侵害を認定した事例
ガウン姿の写真掲載事件平成171027日東京地方裁判所(平成16()18022 

【コメント】本件は、被告会社の従業員(カメラマン)が原告の自宅居室内におけるガウン姿を写真に撮り、その写真が被告会社の発行する週刊誌「週刊文春」に掲載されたことにつき、原告が、その写真の撮影及び掲載によりプライバシーを侵害されたと主張して、被告会社及び同誌の編集長である被告Cに対し、不法行為(被告会社については使用者責任)に基づいて、当該写真を「週刊文春」等の出版物に掲載することの差止めと謝罪広告の掲載及び慰謝料の支払を求めた事案です。 

2 プライバシー侵害の有無について
 人がその承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影され公表されないことは,個人の人格的利益として法的保護の対象となるというべきである。
 特に,自宅の室内においては,他人の視線から遮断され,社会的緊張から解放された無防備な状態にあるから,かかる状態の容貌・姿態は,誰しも他人に公開されることを欲しない事項であって,これを撮影され公表されないことは,個人の人格的利益として最大限尊重され,プライバシーとして法的保護を受けるというべきである。
 しかして,本件写真は,前記前提事実のとおり,いずれも自宅居室内でガウンを着ている原告の容貌・姿態を撮影したものであるから,これを撮影し,本誌のような週刊誌に掲載することは,原告のプライバシーを侵害するものというべきである。
 なお,被告らは,いわゆる公的存在の法理を援用して,プライバシーの侵害がないかのように主張するが,公的存在の法理は違法性が阻却されるかどうかの問題であるから,この点については次項において検討する。
3 違法性阻却事由の有無について
(1) 公的存在の法理について
 自己の業績,名声,生活方法等によって公的存在となった者,又は公衆がその行為や性格に興味を持つであろう職業を選択することによって公的存在となった者は,公衆の正当な関心事に係り,かつ,公開を受忍できる相当な範囲において,自己の容貌・姿態の撮影及び公表を黙示に承諾していると評価されることがあるというべきである。
 この点,前記前提事実のとおり,原告は,日本新聞協会会長など様々な公的役職を務めてきた者であり,本件写真の撮影及び公表当時,株式会社読売新聞グループ本社の代表取締役会長・主筆であって,読売巨人軍のオーナーを辞任して間もなかったのであるから,いわゆる公的存在であったといえる。
 しかし,自宅居室内においてガウンを着ている容貌・姿態は,他人の視線から遮断され,社会的緊張から解放された無防備な状態にあって,誰しも公開されることを欲せず,純粋な私的領域に係る事項であるから,公衆の正当な関心事に該当するとは認められない
 よって,原告が,公的存在であるからといって,本件写真の撮影及び公表について黙示に承諾していたとは認めることができない。
(2) 黙示の承諾,プライバシーの放棄について
 上記のとおり,平成16815日の午前中は,本件窓のカーテンが閉められておらず,本件ヘルパーらが何度か本件マンションの前にいる報道陣を眺めており,原告も同日正午前に本件窓越しに報道陣を眺めたのであるが,これらの事実によっては,原告が,本件居室内の容貌・姿態を撮影され公表されることについて,黙示に承諾し,又はプライバシーを放棄していたと推認するには足りない。
 また,仮に,被告らの主張するとおり,原告が,本件マンションの前の公道上やこれに接する遊歩道上に報道陣が集まっていること,本件居室の窓際に立つと報道陣に自分の姿を現認されること,本件居室の窓際は本件マンションの前にいる報道陣から容易にカメラで撮影され得る位置関係にあることを知っていたとしても,自宅居室内は純粋な私的領域であるから,そこにいる自己の容貌・姿態を承諾なくみだりに撮影され公表されるとは予測し難く,撮影され公表されることを受忍することはないというのが通常であり,安易に撮影され公表されないことを期待して当然であるというべきであるから,これらの事実によって原告が黙示に承諾し又はプライバシーを放棄していたと推認することはできない
 他に,本件全証拠を検討してみても,本件について原告の黙示の承諾やプライバシーの放棄があったと認めるに足りる証拠はない。
(3) 違法性の阻却−その2について
ア 言論,出版その他の表現の自由は,民主主義を実現する上で必要不可欠な精神的自由の根幹をなすものであって,最大限尊重すべきものであるから,表現行為が他人のプライバシーを侵害する場合であっても,表現の自由の行使として相当と認められる範囲内においては,違法性が阻却されると解すべきである。
 すなわち,その表現行為が公共の利害に関する事項(社会の正当な関心事)に係り,かつ,その公表された内容が表現目的に照らして相当なものである場合には,当該表現行為が他人のプライバシーに優越する保護を与えられるというべきである。
イ 公共の利害に関する事項(社会の正当な関心事)に係るものであるかどうかについて
 原告は,上記(1)のとおり公的存在であり,しかも,前記前提事実のとおり,読売巨人軍が平成16年秋のドラフト会議で獲得を目指していた明治大学野球部のE投手にスカウトが約200万円の現金を渡していたことが発覚したことを契機に,読売巨人軍のオーナーを辞任したにもかかわらず,本件記者会見に出席せず,本誌が販売された時点においても,なお,その辞任の理由等に関して,自ら記者会見を行わず,取材の受付も行なっていなかったのであるから,原告の動静は国民的な関心事になっていたということができる。
 しかしながら,本件写真のように自宅居室内においてガウンを着ている容貌・姿態は,他人の視線から遮断され,社会的緊張から解放された無防備な状態にあって,誰しも公開されることを欲せず,純粋な私的領域に係る事項である上,上記のような原告の社会的地位や活動とは何ら関連せず,社会の正当な関心事であるということはできない
 よって,本件写真を撮影し,これを本誌に掲載することは,公共の利害に関する事項には該当しないというべきである。
ウ したがって,本件写真を撮影し公表したことについて,プライバシー侵害の違法性は阻却されない。
4 被告らの責任及び原告の被った損害
(1) 被告らの責任
 以上のとおりで,本件写真の撮影及び本誌への掲載は,原告のプライバシーを侵害する違法な行為であるといえる。そして,本件写真の撮影はGの指示によってFが,本件写真の本誌への掲載は被告Cがそれぞれ被告会社の業務の執行につき行ったものであることが明らかである。
 したがって,被告会社は本件写真の撮影,掲載により原告に生じた損害を賠償すべき責任(民法715条)を負うし,被告Cも本件写真の掲載により原告に生じた損害を賠償すべき責任(民法709条)を負うというべきである。
(2) 原告の被った精神的損害及びその慰謝料額
 本件写真の撮影及び本誌への掲載は原告のプライバシーを侵害するものであるところ,前記前提事実のとおり,本件写真が掲載された本誌は,全国で販売され,不特定多数人が閲読するに至ったのであって,この事実及び前記前提事実に証拠を併せると,原告は,本件写真を撮影され公表されたことによって精神的苦痛を被ったと認められる。
 本件写真の撮影方法及び内容等本件に現れた諸般の事情を総合勘案すれば,その精神的苦痛を慰謝するに足りる額は200万円をもって相当と認める。
5 本件写真の掲載差止めについて
 原告主張の如く,プライバシーを侵害する行為についても,その侵害行為が明らかに予想され,その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり,かつ,その回復を事後に図ることが不可能ないし著しく困難になると認められるときは,その侵害行為の差止めが認められるべきであるとしても,被告らにおいて,今後,本件写真を,再び「週刊文春」等の出版物に掲載するなどして公表することが明らかに予想されるとは認め難く(被告らも,本件写真について,もはや出版物に掲載するなどして公表する価値はなくなった旨主張している。),また,本件写真については,仮に今後公表されたとしても,その内容に照らすと,これによる不利益は金銭賠償によって回復を図ることが可能であると考えられるから,原告主張のような差止めを認めることはできない。
6 謝罪広告について
 本件写真が本誌に掲載されたことによって原告のプライバシーが侵害されたのであるが,名誉を毀損された場合と異なり,いったんプライバシーが侵害されると,これを謝罪広告を掲載することによって回復することはできない
 
よって,被告会社に謝罪広告の掲載を命ずることはできない。











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