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地方公共団体の名誉権享有主体性
「『市報べっぷ』訂正記事掲載請求事件」平成141119大分地方裁判所(平成13()93) 

【コメント】本件は、地方公共団体である原告が、同じく地方公共団体である被告に対し、被告の発行する広報誌「市報べっぷ」の記事によって名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、原告の名誉を回復するに適当な処分として、訂正記事の掲載を請求した事案です。 

1 原告の名誉権享有主体性について
(1) 法人も法律上一個の人格者として名誉権の享有主体性を有するところ,地方公共団体は,一定の地域内における行政を行うことを目的として活動する公法人であり,また,国内に多数存在し,行政目的のためになされる活動等は種々異なり,これを含めた評価の対象となり得るものであるから,それ自体一定の社会的評価を有しているし,取引主体ともなって社会的活動を行うについては,その社会的評価が基礎になっていることは私法人の場合と同様であるから,名誉権の享有主体性が認められる
(2) この点,被告は,名誉毀損の保護法益は,本来,私人の権利保護を図るべきものとして生まれたものであり,公権力行使の主体である国や地方公共団体に対する批判・論評に対して観念されたものではないから,地方公共団体に対する名誉毀損はあり得ないと主張する。しかしながら,地方公共団体は公法分野において公権力行使の主体である一方,私法分野においては私権の享有主体でありうる以上,私人と同様に名誉権の保護が図られるべきであるから,被告の主張は採用できない。
 また,被告は,公権力の行使について国民がこれを批判・論評できることが国民主権・民主主義制度の根幹であり,したがって,国や地方公共団体の公権力の行使に対する批判については名誉毀損による保護を受けるものではないと主張する。しかしながら,被告は地方公共団体であり,国民主権ないし民主主義の観点から被告の他の地方公共団体に対する批判・論評を当該地方公共団体の住民その他の国民による批判・論評と同列に扱うことはできない
 したがって,被告の主張は採用できない。
2 本件記述の名誉毀損性について
(1) …によると,本件記述は,上記のとおり,「反対するのであれば,日田市としては,本来,設置許可が出る前に,許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきだったのではないか。」との記載であり,その直後には,「市民にとって欠かせない別府競輪」の項の中で,「日田市のように,最近になってサテライト反対に回った地区がある一方で,別府市に対して場外車券売場設置を要望している地区もあります。」と記述されていることが認められる。そうすると,本件記述は,原告が本件設置許可前に許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきであったのに同設置許可後に初めて明確な反対意思表示をした趣旨の記載であり,原告の反対の意思表示が時機に遅れて適正でないとの印象を与えるものであるから,本件記述は原告の社会的評価を低下させるものと認められ,その名誉を毀損するものである。
(2) この点,被告は,本件は憲法で保障された表現の自由と地方公共団体の名誉の保護との比較考量が問われる事案であり,また,行政という公権力の行使について,これを批判・論評する自由が保障されることが民主主義の根幹であるから,地方公共団体に対する名誉毀損があり得るとしても,その成立範囲は私人の場合に比較して限定されたものと解するべきであり,本件記述は原告及びその行政担当者の行政運営に対して批判・論評をしたものであるから,名誉毀損は成立しないと主張する。しかしながら,地方公共団体についても私人と同様にその社会的評価が保護されるべきであることは前述のとおりであって,批判や論評であっても名誉を毀損することは許されない。そして,被告は地方公共団体であり,国民主権ないし民主主義の観点から被告の他の地方公共団体に対する批判・論評を当該地方公共団体の住民その他の国民による批判・論評と同列に扱うことはできない。また,被告の主張は,地方公共団体の行政運営に対する社会的評価とこれとは別の地方公共団体自体の社会的評価が峻別できることを前提とするものであるが,これらを果たして峻別できるかどうかははなはだ疑問である。これらのことからすると,被告の上記主張は採用できない。
3 本件記述の真実性及び故意・過失について
(1) 被告は,本件記述は,地方公共団体である原告が「サテライト日田」の設置について,通産大臣に対する反対の意思表示を全くしていないとの趣旨ではなく,本件設置許可申請から同設置許可までの3年間に意思表示をしていない趣旨であると主張する。しかしながら,本件記述は「設置許可が出る前に」意思表示をしていないと記述しているに過ぎず,その始期については何ら限定されていないし,先に認定した本件記述の直後の記載を併せて解釈すれば,本件記述の趣旨は上記のとおり理解できるのであって,被告の主張は採用できない。そして,(上記)に判示したとおり,原告は,実際には,本件設置許可に先立って,本件設置許可申請の前後を通じ,通産大臣に対して,書面によるか又は下部機関である九州通産局への口頭の申し入れを通じて,明確な反対の意思表示をしていたのであり,本件記述は真実に反するものと認められる。
(2) そして,…によれば,被告は,通産省(本省及び九州通産局)と設置許可申請の前後を通じ再三にわたって折衝の機会をもっており,通産省を通じて原告の動向を容易に知り得たこと,被告は,原告の動向に重大な関心を持ち,原告とも再三にわたって折衝の機会を持っていたこと,…ことが認められ,以上を総合すれば,本件記述がされた当時,原告が実際には本件設置許可に先立って,同設置許可申請の前後を通じ,通産大臣に対して,書面によるか又は下部機関である九州通産局への口頭の申入れを通じて,明確な反対の意思表示をしていたことを被告は容易に認識し得たと認定でき,本件記述による名誉毀損について少なくとも重過失があると認められる。
4 名誉回復措置の必要性について
 
上記の事実によると,「サテライト日田」の設置に対する反対運動について原告住民の関心の高いことが認められるし,地方公共団体が多数の住民に配布する市報という社会的信頼性の高い発行物に本件記述が掲載されたことにより,原告の社会的評価は大きく低下したと認められる。しかも,上記認定のとおり本件記述が被告の少なくとも重過失によるものであることからすると,本件において原告の社会的評価を回復させるための措置として,本件記述が掲載されたと同一媒体である「市報べっぷ」に別紙1のとおりの訂正記事を掲載させることが相当であると認められる。なお,被告の主張するとおり,原告が本件記述の内容に関して原告の市報に自己の主張を掲載し,また,原告の主張を掲載した新聞報道がなされているが,それらによっては,原告が本件記述が事実でない旨主張している事実は広く知られるものの,本件記述が事実でないと認識されるまでには至らないから,原告の社会的評価が回復されたとは到底いえず,上記訂正記事の掲載の必要性は失われない。











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