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異端団体ではないという社会的評価」に基づく名誉権侵害を肯定した事例
「『極真会館館長』名称使用差止等請求事件」平成180911日大阪地方裁判所(平成16()9616 

【コメント】本件は、原告番号19の原告(以下「原告19」という。他の原告も同様である。)及び原告4が、被告が「極真会館館長」の名称を使用したことにより人格権を侵害されたとして、人格権に基づき、被告が国際空手道連盟極真会館(以下「極真会館」という。)の代表者の地位を示す「極真会館館長」の名称を使用することの差止めを求めるとともに、人格権を侵害されたことにより精神的苦痛を被ったとして、不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、所定の金員の支払を求めた事案です。 

原告19,原告4の差止請求が認められるかについて検討する。
(1) 原告19らは,被告の極真会館館長という名称の使用により,原告19らの名誉権,営業権,教育を行う権利が害されたとして,人格権に基づき,上記名称使用の差止めを求める。
 そこで,この点についてみるに,ある団体が社会的に広く認知されており,当該団体の代表者の立場にあることに対して高い社会的評価が与えられている場合において,その代表者が死亡した後にその代表者の正統な後継者が定められないまま当該団体が分裂したときは,特別の事情がない限り,分裂後の各団体は,それぞれが当初の団体の一分派として,正当な後継者の率いる団体ではないものの,異端者の率いる団体でもないという社会的評価がされるべきものであり,したがって,その団体の代表者の地位にある者は,そのような異端者ではないという社会的評価を受けるべき地位にあるということができる。それにもかかわらず,そのような場合に,分裂後の一団体の代表者の立場にある者が,その一団体としての,又は,その代表者としての諸活動の場面において,正当な理由もなく,自らの率いる団体が当初の団体の正統な後継団体であり,自らが正統な後継者であるという表示をすれば,その表示に触れた一般人の認識においては,他の団体は異端的な存在であると評価するのが通常であって,結果的に,その代表者としての立場にある者も異端者であるとされて,その社会的評価を著しく低下させることになるというべきである。そして,このような社会的評価の低下は,その者の名誉を侵害するものであるところ,一般に,名誉は,生命,身体とともに,極めて重要な保護法益であると解されていることに鑑みると,このような場合,その団体の代表者としての地位にある者は,その人格権としての名誉権に基づき,加害者に対し,現に行われている侵害行為を排除するため,そのような表示をすることの差止めを請求できるものと解するのが相当である。
(2) そこで,これを前提に,被告が極真会館館長の名称を使用することについて,原告19,原告4の差止請求が認められるかを検討する。
 前記のとおり,極真会館は,Zの名声とともに,広く一般世間に認知されており,平成6年時点において,日本国内に総本部,関西本部以外に,55支部,550道場,50万人の会員を有し,世界130か国に1200万人を超える勢力を有していたのであり,Zは,極真会館の代表者として,上記の武道団体の指導的立場にあるものということで,高い社会的評価を受けていたものである。そして,極真会館は,Zが後継者を指名することなく死亡し,以後,複数の団体に分裂し,現時点においても,どの団体が極真会館の正統な後継者たる団体であり,だれがZの正統な後継者かということについては,決着がつかないままとなっているものである。そして,原告19は,その中の一団体である極真連合会における代表者に就任しているものであって,被告が正当な理由もなく,極真会館館長との名称を使用していることにより,その社会的評価が著しく低下しているものというべきであるから,同人の人格権としての名誉権に基づき,被告が極真会館館長という名称を使用することの差止めを認めるのが相当である。これに対し,原告4は,極真連合会の代表者ではないのであるから,原告4が被告の上記名称使用につき,これを差し止める権利を有するということはできない。
 この点につき,被告は,極真会館館長という名称の使用について何らかの人格権を有するのは,Zの正統な後継者として極真会館館長の地位にある者のみであって,原告19は極真会館館長たる地位にないのであるから,極真会館館長という名称の使用について,何ら異議を述べる権利はないと主張する。しかしながら,極真会館館長の地位にある者が,その地位にない者の違法な名称使用につき差止請求権を有することは当然のことであるが,自らは極真会館館長の地位にない者であっても,極真会館から分裂した一分派として,異端ではない団体の代表者に対してされる社会的評価は,異端である団体の代表者に対してされる社会的評価と大きく異なるのであるから,上記のとおり,そのような場合にも,その団体の代表者としての立場にある者は,被告に対し,極真会館館長の名称の使用差止めを求めることができるというべきである。
 また,被告は,α派が極真会館という名称を使用して活動すること自体は,違法となるものでないところ,被告はその組織を代表する地位にあり,極真会館館長という名称は,その地位を表すという意味があるだけであって,Zの人格と関連づける意味はないと主張する。しかし,前記事実からすると,極真会館は,Zの生前においては,Zを抜きにしてその評価をすることはできず,Zの名声が極真会館に対する高い社会的評価に大きく貢献していたことは否定できないところであるし,しかも,前記のとおり,被告は,Zの死後3週間程度の間に,他の支部長らに内密で,緊急に行わなければならない必要性も認められないのに,極真会館の名称などについて,商標登録の出願をしていることに鑑みれば,被告を正統な後継者とすることがZの遺志として確定していたわけではないことについては,被告においてこれを認識していたと考えられるのであって,それにもかかわらず,被告が,Zの正統な後継者として極真会館館長の名称の使用を始めたことからすると,被告自身,Zの遺志に基づきZの正統な後継者であることを強調するために,極真会館館長の名称を使用したと考えられるのであるから,極真会館館長という名称は,単に極真会館の代表者という意味にとどまるものではなく,Zの正統な後継者としての意味があるものというべきである。したがって,Zの正統な後継者でない被告が,Zの正統な後継者であることを示すために,極真会館館長という名称を使用していると認められるのであるから,そのことからしても,被告が極真会館館長という名称を使用することについては,原告19にこれを差し止める権利があるというべきである。
 (略)
◆原告らの損害賠償請求が認められるかについて判断する。
(1) 名誉権侵害の点について検討する。
 原告らは,被告が極真会館館長との名称を使用することで,原告らが異端の団体の指導者であるかのように誤解され,原告らの社会的評価を低下させられたと主張する。
 そこで検討するに,上記のとおり,原告…については,Zの生前,Zの認可により極真会館の支部長の地位にあったもので,極真空手の指導者として極真会館に属するという地位にあったが,現在はいずれもα派に属さないものと認められる。そして,前記のとおりの極真会館についての社会的認識に照らせば,上記各原告は,いずれも極真空手の指導者として,一定の社会的評価を得ていたものというべきである。そして,被告が正当な理由なく,極真会館館長という名称を使用していることにより,上記各原告らの属する団体が極真会館の正統な後継者たる団体ではない,すなわち異端の団体であって,上記各原告らは,異端の団体の指導者であるかのように受け止められ,その社会的評価を低下させており,上記各原告らは,これにより,精神的苦痛を被ったと認めるのが相当である。そして,これを慰謝するに足りる金額としては,一人あたり30万円をもって相当と認める
 
原告…については,Zの生前に分支部長,師範,師範代,指導員の地位にあった者らである。ところで,分支部長については,上記のとおり,支部長の任免にかかるものであって,Zから直接に任命されたものではなく,また,支部の道場において道場を開設する権限も与えられていないものであるし,師範,師範代,指導員の地位にある者らについては,極真会館の中においていかなる地位にあるのかについて具体的な主張はなく,これらの者が道場の開設等の権限が与えられていたと認めるに足りる証拠もないことに照らせば,分支部長,師範,師範代,指導員の地位にあることをもって,極真空手の教授及び普及に努めた極真空手の指導者としての社会的評価を得ていたとまで認めることはできない。したがって,これらの者については,被告が正当な理由なく,極真会館館長という名称を使用していることにより,社会的評価を著しく低下させたとまでは認めることができず,これらの原告らに関する主張は採用できない。
 (略)
(2) 営業権侵害の点について検討する。
 原告らは,α派が原告らの道場近辺にα派の道場を開設するなどして自己の流派における活動をしているところ,その際に被告が極真会館館長という名称を使用することで,被告がZの正統な後継者であってα派の道場が正統な極真会館であり,原告らの道場が極真会館ではないかのような誤解を生じさせ,又は原告らが極真会館に属する旨の原告らの宣伝活動等を妨害して,原告らの道場生を減少させ,もって,原告らにおける空手の教授,各種選手権大会の開催等の営業に支障を生じさせたと主張する。ところで,原告らと団体を異にするα派が各地に道場を開設すること自体は直ちに違法ではないというべきところ,α派が道場を原告らの道場の付近に開設した場合,立地条件や月謝の多寡など多くの要素によって原告らの道場生が減少する可能性があることは否定できないのであり,原告らの道場生の減少と被告が極真会館館長と名乗ることがどの程度の関連性を有していたかということにつき,これを認定するに足りる的確な証拠はない。したがって,α派が原告らの道場の近辺に道場を開設した結果として,原告らの道場の道場生が減少したとしても,そのことと被告が極真会館館長の名称をすることとの間の因果関係を認めることはできないというほかなく,この点に関する原告らの主張は採用できない。
(3) 教育を行う権利の侵害という点について検討する。
 原告らは,α派がいわゆる「K−1」に選手を出場させていることで,極真会館が商業主義的な団体であるとの誤解を与え,また,被告とLとの間に交流があること,指定暴力団山口組最高幹部であったGをα派の開催する全日本空手道選手権大会の顧問に就任させたことで,極真会館に悪印象を与え,これによって,原告らの道場生らに混乱を与え,原告らが極真空手の精神を道場生らに指導するのに支障を生じさせたと主張する。しかしながら,上記のとおり,被告及びα派の上記各活動によって極真会館の社会的評価を低下させたと認めることはできないのであるし,極真会館の評価が低下したとする原告らの主張を前提にしても,原告らは,その道場生に対し,上記のような極真会館の分裂の経緯や,α派と原告らがその理念を異にすること及び原告らの考える極真会館の精神を伝える機会は十分にあるというべきであって,原告らの教育を行う権利が侵害されたと認めることはできない。したがって,これらの点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 被告は,原告らの慰謝料請求権が時効によって消滅していると主張するが,前記のとおり,原告らの名誉権侵害による慰謝料請求が認められる部分については,原告らに現在も名誉権侵害が生じているのであるから,これらの損害が生じていることを理由とする慰謝料請求権が時効により消滅したということができないことは明らかである。











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