著作権重要判例要旨[トップに戻る]







携帯電話用編集ソフトの開発販売契約に基づき納品されたマスターデータに著名タレントの無許可の画像データが格納されていたため問題が生じた事例
「『ケータイ・マスター』開発販売契約事件」
平成221027日東京地方裁判所(平成19()9548等)/平成230427日知的財産高等裁判所(平成22()10085 

【コメント】本件「反訴事件」は、被告が、原告に対し、本件契約(携帯電話の内部メモリ編集ソフトの開発・販売に関する、原被告間の契約)に基づき原告が被告に納入した製品(携帯マスター9)について、原告の不注意により著名タレント2名の肖像を含む画像データ(写真)が無断で格納されていたため、その発売前の回収や事後処理等を余儀なくされたとして、本件契約上の債務不履行による損害賠償請求として所定の金員の支払などを求めた事案です。

 なお、「携帯マスター9に係る製品事故」の概要は、次のとおりです:
『ア 原告は,平成1410月までに「携帯マスター9」を開発し,その複製・量産用マスターデータ(CD-ROM)を被告に納品した。被告は,本件契約に基づき,上記マスターデータを複製し,別途作成したパッケージに説明書等の同梱品と共に梱包した上,合計23575個をソフトバンクBBその他の流通業者に販売し,流通業者は,これらを発売予定日の前日(平成141114日)までに全国の販売店に配送した。
イ ところが,同日夕刻になって,上記マスターデータ中に著名タレント2名の肖像を含む画像データ(写真)9個が誤って格納され,一定の操作によりこれらが表示されることが判明した。これは,原告の開発担当者が「携帯マスター9」の開発中,テスト素材として第三者のインターネットサイトからダウンロードして取得し権利者の許諾を得ることなく使用した画像データを,被告への納品の際に消去し忘れていたことが原因であった(以下,この事故を「本件事故」という。)。そのため,被告は,予定していた平成141115日の「携帯マスター9」の発売を中止し,瑕疵を補修した後の製品(以下,瑕疵を補修する前の製品を「旧版V9」,瑕疵を補修した後の製品を「新版V9」という。)を同年126日に発売した。
ウ 原告は,被告に対し,平成15210日,本件事故による損害の賠償として,13334275円を支払った。』 


【原審】

 [本件事故による損害について,和解が成立したかについて]
(1) …によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 被告は,平成15127日,本件事故による被告の損害を総額45837575円として,これを原告に負担するよう求めた。
イ 原告は,同年210日,被告に対し,上記損害のうち13334275円を振込送金し,被告は,同月14日ころ,これを上記損害金の一部として受領し,損害賠償については引き続き協議する旨の通知をした。
ウ 原告は,同年331日付けで「『携帯マスター910のロイアリティ値引き』について」と題する文書を作成し,被告に対し,携帯マスター910の販売に関して,ロイヤリティの値引き(@携帯マスター9につき,実売本数3万本を超えた部分について1本当たり300円の値引き,A携帯マスター10につき,実売本数3万本まで1本当たり200円の値引き,3万本を超えた部分について1本当たり450円の値引き)による支援を実施することを提案した。同文書の冒頭には「『携帯マスター9』の販売が順調である事,昨年11月に発生した商品回収に関する両者間の損害賠償に付いては合意が成立した事などを考慮して,携帯マスター910の販売に関して,以下のとおり,支援(値引き)を実施するものとする。」と記載され,上記「昨年11月に発生した商品回収」とは本件事故をいうものと認められる。
エ 被告は,原告に対し,同年44日,携帯マスター9のロイヤリティについて,少なくとも1800万円に減額してほしいと要請したが,同年513日,結局,原告の上記ウの提案を基本的に了承する旨返答し,その場合の未払ロイヤリティの支払計画を提示した。
オ 原告は,同年514日,被告の上記支払計画のとおりに合意することを申し入れ,同月15日,「『携帯マスター910のロイアリティ値引き』について」と題する文書に押印した上,これを被告にファクシミリで送信した。
 これに対し,被告は,同日,上記文書に押印して,原告にファクシミリで返信した。
カ 被告は,その後,上記合意に従い,携帯マスター910について,減額されたロイヤリティの額を請求し,原告からその支払を受けた。
 なお,携帯マスター9の実売本数は47668本,携帯マスター10の実売本数は53710本であるから,上記により減額されたロイヤリティの額は,次式のとおり,合計21969900円となる。
 (計算式略)
(2) 上記認定事実によれば,原告は,本件事故による損害賠償金の一部として,被告に対し,13334275円を支払ったほか,本件事故により経済的に打撃を受けた被告の支援名目で,携帯マスター910のロイヤリティを値引きしているが,値引きに至る上記経緯及び同値引きを提案した文書の冒頭に「『携帯マスター9』の販売が順調である事,昨年11月に発生した商品回収(判決注:本件事故)に関する両社間の損害賠償に付いては合意が成立した事などを考慮して,携帯マスター910の販売に関して,以下のとおり,支援(値引き)を実施するものとする。」と記載されていることにかんがみると,この値引きによる減額分合計21969900円は,本件事故による損害賠償に充当する趣旨でされたものと認めるのが相当である。しかし,上記値引きに関する原告と被告の合意は,上記の趣旨にとどまるものであり,それ以上に,原告と被告との間に本件事故による損害賠償の問題をすべて解決する旨の合意が成立したとまでは認められない
 すなわち,上記文書作成当時,いまだ被告の損害額が確定していたとは認められない上,本件事故のような会社間の取引上のトラブルに基づく損害賠償責任について終局的な和解が成立したというのであれば,これに関する正式な合意文書(契約書)が作成され,和解の内容,条件等が具体的に明らかにされるのが通常であると考えられるにもかかわらず,本件においては,このような文書は作成されていないのであって,このことは,本件事故について,いまだ終局的な和解が成立していないことを示しているというべきである。
 この点,原告は,上記文書における「両社間の損害賠償に付いては合意が成立した」という記載を根拠として,原告と被告との間に本件事故に係る終局的な和解が成立したかのような主張をするが,同文書の上記記載は,原告の一方的な認識を示すにすぎないものというべきであり,前示したところに照らし,採用することができない。
(3) 以上のとおり,本件事故について原告と被告との間に終局的な和解が成立したとは認められないから,被告は,いまだ填補されていない損害があれば,その賠償を原告に求めることができるというべきである。
 (略)
 [本件事故による被告の損害について]
(1) …によれば,被告は,本件事故により,次の損害(合計34842965円)を受けたことが認められる。
 (略)
(2) 過失相殺
 原告は,旧版V9について納品時の検査(商法5261項)を怠り,著名タレントの画像データが混入していることを見逃したままパッケージ作成を行うなど,重大な落ち度があったから,被告に生じた損害については,少なくとも5割以上の過失相殺が認められるべきである旨の主張をする。
 しかしながら,旧版V9の納品を受けた被告において,そのプログラム中に上記のような画像データが混入しているか否かという観点から,旧版V9の検査をする義務があるとすることはできない。すなわち,ソフトウェアの受入検査の目的は,@ウイルスの混入がないことの確認,Aプログラムのインストールとアンインストールを正常に行うことができることの確認,B個々の動作が正常に行えることの確認であるから,旧版V9を製品化して販売する被告としては,そのプログラムが正常に作動することや,その動作中に問題が発生しないことなどを検査すれば足りるのであって,個々のフォルダの中に何があるかを確認するというような受入れ検査の目的とは関係のないことについてまで検査をする必要は認められないからである。
 しかるところ,被告は,旧版V9が正常に作動することや,その動作中に問題が発生しないことをテストし,確認しているのであるから,検査義務を尽くしたものとして,過失相殺は認められない。なお,本件事故について作成された被告の報告書には,本件事故の発生原因として,「マスタ受領後の,ジャングル(判決注:被告)内での検証,確認不足」が指摘されているが,これは,原告と被告が「携帯マスター」シリーズについて協働し,良好な関係を構築していた時期に作成されたもので,多分に儀礼的に表現されたにすぎないと考えるのが相当であるから,上記認定を左右するものではない。
(3) 損益相殺
 上記(1)による損害合計は,34842965円であるところ,前記認定のとおり,原告は,被告に対し,平成15210日,本件損害のうち13334275円を賠償したほか,携帯マスター910に係るロイヤリティの減額分として合計21969900円の填補を受けているから,これらを控除すると,被告の本件事故による損害はすべて填補済みとなる。

【控訴審】

 
当裁判所は,本件控訴は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は,…原判決…記載のとおりであるから,これを引用する。











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