著作権重要判例要旨[トップに戻る]







国際社会における著作権保護の普遍性
「北朝鮮映画無許諾放送事件@」
平成191214日東京地方裁判所(平成18()5640/平成201224日知的財産高等裁判所(平成20()10012 

【原審】

 
原告らは,著作権の保護が普遍的な価値を有する命題であると主張する。
 そこで,著作物の保護義務を定めるベルヌ条約3(1)(a)の条項が国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定するものと解し得るか,すなわち,著作権の保護(直接的には,いずれかの同盟国の国民である著作者の著作物の保護という形態)が国際社会全体における普遍的な価値を有しているかについて検討する。
 この点について,世界人権宣言は,272項によって,「すべて人は,その創作した科学的,文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。」と定め,著作権を国際的に保護されるべき人権の一つとして定めている。また,ベルヌ条約は,著作権に対する国際的な保護を図るという目的を有し,その加入に何らの要件の具備も要しない開放条約であり(29条),加盟国の数は,平成198月末の時点で163か国に上り,多くの国が,内国民待遇の原則(5(1))に基づき,著作物の保護に関して自国民と同様の待遇を外国人に与えている。
 これらの点によれば,著作権が国際社会において保護されるべき重要な価値を有していることは明らかである。
 しかしながら,ベルヌ条約自体においても,同盟国の国民を著作者とする著作物(3(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物のうち,同盟国において最初に発行されるか,同盟に属しない国と同盟国において同時に発行された著作物(3(1)(b))等が保護されるにとどまっており,非同盟国の国民の著作物が普遍的に保護されているわけではない。非同盟国の国民の著作物であっても,最初の発行地が同盟国であれば保護されるとされているものの,これは,同盟国において,最初あるいは同時の発行を促すことによって,著作物の普及を促進するとともに,これに伴う経済的な利益を獲得することを企図したものである。そこでは,同盟国という国家の枠組みが前提とされており,前国家的な非同盟国の著作者の自然権を保護するという発想は見られない
 また,同条約の他の条項においても,「映画の著作物について著作権を有する者を決定することは,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」(14条の2(2)(a)),「保護期間は,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」(7(8))などと規定して,著作権の主体や保護期間等について,保護を行う国によって異なり得ることを許容するとともに,5(2)において,著作権の保護の範囲及び著作権を保全するために著作者に保障される救済の方法を,保護が要求される同盟国の法令の定めるところに委ね,その保護の範囲及び方法が国によって異なる事態を想定している。さらに,35(2)は,同盟国がベルヌ条約を廃棄することができる旨を規定し,廃棄により,条約上の権利義務関係から離脱することをも認めているところである。
 以上によれば,著作権の保護は,国際社会において,擁護されるべき重要な価値を有しており,我が国も,可能な限り著作権を保護すべきであるということはできるものの,ベルヌ条約の解釈上,国際社会全体において,国家の枠組みを超えた普遍的に尊重される価値を有するものとして位置付けることは困難であるものというほかない。
 したがって,ベルヌ条約3(1)(a)の条項は,国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定するものと解することができず,北朝鮮との関係で同条項の適用は認められないから,結局,我が国は,同条項に基づき北朝鮮の著作物を保護する義務を負わない。

【控訴審】

 控訴人らは,TRIPS協定91項が,主権国家のみならず,ベルヌ条約を批准することが不可能な独立の関税地域にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは,WTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていることの表れであり,著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有しているものとしてベルヌ条約を締結した国家間においては,国家承認の有無にかかわらず,同条約に基づく義務及び責任を負うと主張する。
 しかしながら,TRIPS協定を含むWTO協定は,ベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定めるTRIPS協定91項に限って独立の関税地域がWTO協定の加盟国となることを認めているわけではなく,WTO協定自体について独立の関税地域が加盟国となることを認めているのであるから,WTO協定の一部であるTRIPS協定がベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定め,これが独立の関税地域について適用されるとしても,そのことから直ちにWTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていたと推認することはできない。そして,ベルヌ条約の解釈上,著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有するものであると解することができないことは,引用に係る原判決が説示するとおりである。
 
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。











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