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名誉毀損-肯定事例(3)-
「週刊誌記事『目撃ッ!“W不倫”スクープ』事件」平成150424日東京地方裁判所(平成14()18096 

【コメント】本件は、原告が、被告の発行した週刊誌に掲載された記事により名誉を毀損され、かつ、肖像権を侵害されたとして、被告に対し、民法709条、710条に基づき、損害賠償金等の支払を求めるとともに、民法723条に基づき、名誉回復処分として謝罪広告の掲載を求めた事案です。 

1 本件記述部分における摘示事実及びこれによる原告の社会的評価の低下
(1) 雑誌の記事による名誉毀損の成否を判断するに当たっては,その記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかにつき当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである。
 そして,一般読者は,雑誌の表紙や目次欄における掲載記事の紹介にも目を通し,その記載内容をも参酌して記事の意味内容を理解するのが通常であるから,これらを一体として摘示事実がどのような事柄であるかを確定する必要がある
(2) ところで,本件記事,本件目次欄及び本件表紙における記述は,前判示のとおりであるが,その中には,丙と原告の氏名を明らかにした上で,「お持ち帰り」及び「W不倫」との表現があり,本件記事においては,本件会合の様子を目撃した者からその一部始終を伝え聞いた本件週刊誌の関係者は「W不倫」を連想した旨が記載されている。
 次に,本件記事の本文中には,@原告が丙の求めに応じて本件会合に出席したこと,Aその終了後に原告を送ろうとする他の男性がいたのに丙が原告を送ると申し出たこと,B原告はその申し出に従って丙の運転する自動車に乗って2人きりで帰ったこと,以上の3点が具体的に記載されているところ,その書きぶりを子細に検討すれば,丙の原告に対する積極的な働きかけがその具体的な言動をもって表現されており,特に,丙の「真意」が明るみに出た行動として,原告を自己の交際相手であるかのように振る舞い,自車の助手席に同乗させ,深夜2人きりで帰っていったことを挙げており,前判示の本件週刊誌関係者の「W不倫」の連想の根拠として位置づけられているとみることができる。
 そして,本件記事の本文において,本件週刊誌関係者の取材に際し,原告の名前が出た瞬間に丙の表情が一転して暗くなったこと,同人の所属事務所を通じて送られてきたコメントでは,原告を議員宿舎まで送ったとされているが,実際には原告が東京都内の別の場所に居住していることなど,丙の言動に疑念を抱かせる点があることが強調されている。
 また,…によれば,本件記事には「オンナに手を出して妻子に捨てられた芸能人」と題する囲み部分が存在し,妻子のある立場にいながら妻以外の女性と不倫な行為をし又はその疑いを持たれたために,妻との離婚を余儀なくされた芸能人の例が複数紹介されていることが認められ,一見して無関係な事例が併記されることにより,かえって丙と原告の場合もこれらと同様であるかのように暗示する効果を生じさせている。
(3) もっとも,本件目次欄及び本件表紙における「W不倫」という言葉には,いずれも疑問符が付されているが,それとともに感嘆符も付されており,ただ単に疑問を呈するような体裁ではなく,幾分かの疑念は留保しつつも,丙と原告との関係を強く読者に訴える効果を伴っているということができる。
(4) 前判示の本件記事,本件目次欄及び本件表紙における各記述は,前述の諸点に照らして考察すれば,ただ単に前判示に係る具体的な行動のみならず,原告と丙が互いに配偶者のいる立場でありながら,本件会合の後,丙の運転する自動車で赴いた場所で不倫な行為に及んだことを摘示していると認められる。
 なお,本件記事の本文中には,原告が丙との不倫な行為を否定する旨の回答をしたとの記述があるけれども,通り一遍に紹介しているのみで,その前には具体的な根拠をもって丙の回答の真偽が疑わしい旨を記載していることと対比すれば,本件記事の言わんとする趣旨が不倫な行為の存在を指摘することにあるものと理解されるのであり,これをもって本件記事の摘示する内容が変わるものではない。
(5) 以上を前提として,本件週刊誌について一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば,本件記事,本件目次欄及び本件表紙が相まって,読者をして原告が丙と不倫な行為をしたものと認識させたであろうと推認するに難くないというべきである。
 この点に関し,被告が指摘するように本件記事においては,丙を主体とし,原告をその交際の対象としているかのような表現をとっているが,不倫という事柄の性質上,原告が夫以外の男性と親密な交際をしていることが摘示されている以上,それだけで原告の社会的評価に影響を及ぼすことはいうまでもない。
 そして,一般に,不倫な行為は,配偶者のある男女が配偶者以外の男女と性的な関係も含む親密な交際をすることを指し,社会生活上道徳に反する行為とされているばかりでなく,法律上も配偶者の権利を侵害するものとして不法行為を構成することがあるので,このようなことを行ったと公表されることにより原告の社会的評価が著しく低下したことは明らかであるといわなければならない。しかるところ,「X」は,その発行部数が通常でも約55万部に達し(なお,…によれば,本件週刊誌は合併号であって,通常よりも発行部数が多いと認められる。),主として女性購読者の一般的な認識の形成に対する影響力も無視できないから,原告の人格や資質に対する社会的評価も相応に影響を被ったものとみて差し支えない。
(6) さらに,前判示のとおり,本件目次欄及び本件表紙と同様の惹句が全国紙の朝刊又は夕刊の広告欄に掲載されており,その文言に照らせば,本件記事と同様に若干の疑念を留保しつつも,丙が原告と不倫な行為に及んだことを摘示し,これを各新聞購読者に認識させるものである。
 そして,本件各広告は,前示の原告に係る情報を本件週刊誌の読者のみならず,さらに広く全国紙の購読者に伝達するものであって,その膨大な発行部数にかんがみると,広告が掲載されたことによる影響は広範囲にわたって生じているとみることができる。
(7) 以上によれば,原告の社会的評価は,本件記述部分が流布されたことにより相当程度低下したと認めることができ,被告が主張するように軽視できるものではない。
2 名誉毀損についての違法性又は故意若しくは過失の存否
(1) 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合であって,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為に違法性がなく,不法行為は成立しないものと解される。そして,仮に摘示事実が真実であることが証明されなくとも,行為者においてその事実を真実と信じるについて相当な理由があるときは,その行為には故意又は過失がなく,結局,不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
(2) 事実の公共性について
 本件記述部分が摘示する事実(以下「本件摘示事実」という。)は,原告と丙が不倫な行為に及んだこと及びその根拠となるべき具体的行動に係る3点であり,もとより原告の私生活上の行状に関する事実である。
 しかし,そのような事実であっても,摘示の対象とされる者の社会における立場及びその者の活動の性質並びにこれらを通じて社会に及ぼす影響力などのいかんによっては,その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として,公共の利害に関する事実に当たる場合もあると解されるので,以下に検討する。
 前判示の事実のほか,…によれば,原告は,約100万人の門弟を有する華道家元戊総務所において青年部代表を務め,傘下の支部に設置されている青年部を統括し,かつ,家元等に代わって行事を執り行ったり,講演をするなどの活動をしていること,かつて衆議院議員の公設秘書を務めていたことがあることから,その経験を活かして著作活動を行っていること,各種商品の広告に出演することがあることが認められる。
 これらの各事実によれば,原告は,単に私的団体における一職員であるに止まらず,多数の門弟を有し,その存在及び活動が一定の社会的影響力を有する伝統文化の継承団体の幹部職員の地位にあり,実際にもその地位に基づく諸活動を行っているほか,政治に関わる著作も有しているのであるから,社会的な活動を伴う公的な側面をも併せ持っているとみることができる。そして,このような原告について不倫な行為があった旨及びそれに関わる具体的行動を摘示することは,社会的な活動に携わる者としての資質に疑問を呈し,ひいては原告の前示活動に対する批判ないし評価の一資料となり得るものと考えられるから,本件摘示事実は,公共の利害に関する事実に当たるものと認められる。
(3) 目的の公益性について
 前判示(2)の本件摘示事実の性質に照らせば,これを掲載した本件週刊誌を発行し,これに伴って本件各広告を全国紙に掲載することの主な目的は,公益を図ることにあったと認めることができる。
 なお,商業出版を業とする被告が売上げの増加を図ることは当然のことというべきであり,このことが直ちに目的の公益性を否定する理由とはならない。また,被告が本件記述部分を掲載した目的が原告に対する単なる人身攻撃にあることを窺わせる証拠もない。
 そうすると,被告において公益を図る目的を有していたことは肯認できる。
(4) 摘示事実の真実性について
 …によれば,原告について前判示に係る具体的な行動があったと認めることができるものの,原告と丙が不倫な行為に及んだことについては,被告においても,これを真実であるとは主張していない。
 ところで,本件摘示事実のうち,原告の社会的評価に重大な影響を及ぼすのは,いうまでもなく原告が不倫な行為をしたとの点であるから,本件記述部分については,その重要な部分において真実であることの主張・立証がないことに帰する。
 したがって,本件記事等の掲載についての違法性は阻却されないというべきである。
(5) 誤信の相当性について
 …によれば,被告の契約社員であるaは,平成14730日午後10時から翌31日午前1時ころまでの間,取材のため本件会合の行われた飲食店に居合わせ,前判示に係る原告の行動を目撃していたこと,その際の具体的な状況としては,本件会合の途中で丙の携帯電話に連絡が入り,その後,原告が本件会合に参加したが,原告の会話の相手は丙にほぼ限られており,本件会合の終了後,原告は,酒酔い状態であった丙の運転する自動車の助手席に乗り,2人きりで立ち去ったこと,aの取材により丙の妻子はそのころハワイに滞在中であることが判明したこと,他方,被告の記者であるbが同月31日から同年82日までの間に丙の自宅に赴き,同人に事実確認を求めたものの,原告との関係について返答を得られなかったことから,同人の所属する芸能事務所に取材をしたところ,本件会合の後,丙は衆議院議員宿舎まで原告を送ったとの回答があったこと,次いで,aが華道家元戊総務所の東京事務所(以下「戊総務所東京事務所」という。)に電話で取材をしたところ,原告は前示議員宿舎には居住していないとの回答があったこと,そこで,aとbは,丙の所属する芸能事務所の説明と戊総務所東京事務所の説明とが相違していると考え,丙と原告とは不倫の関係にあると疑われても仕方がない状況にあるとの判断から,そのほかには丙の妻の所属事務所のコメントを求めただけで,事実関係について前示のほかにはほとんど裏付取材しないまま,本件記事の原稿を執筆し,その後,被告の担当者において,本件目次欄及び本件表紙の構成を決定し,本件週刊誌を発行するとともに,本件各広告をそれぞれ掲載したことが認められる。
 そこで,以上の取材経過を前提に検討すると,aが目撃した事実から原告と丙が気軽に会食をし,車に同乗して帰宅するような親しい関係にあることは推認できるものの,被告の執筆担当者において,原告と丙が本件会合の終了後にどこへ行って何をしたのかを具体的に確認できなかった上に,戊総務所東京事務所からは不倫関係を否定するコメントがあったのであるから,被告の執筆担当者としても,少なくとも原告と丙に対し本件会合の後の行き先について取材を尽くした上で,さらに両者に直接取材するなどして,不倫な行為を具体的に推認させる根拠となる事実を確認していなければ,本件記述部分のうち最も重要な部分である原告と丙との関係について心証を得られなかったはずである
 ところで,既婚の女性にとって不倫関係を疑われることは,その身辺及び関係者の心情に極めて重大な影響を及ぼし,しかも,これが公刊物に掲載されて社会に流布することとなれば,人生の有様までも左右しかねない結果を招来することが十分予想されるところである。
 したがって,このような重要な事柄について執筆し,記事や目次等として掲載するためには,事実関係を誤認しないように慎重な調査が必要とされるというべきである。
 ところが,被告の行った調査は,前判示の程度であって,事実関係を解明するのに必要な裏付取材としては不十分であるといわざるを得ない
 そうすると,本件記述部分のうち不倫関係の存在については,これが真実であると信じるにつき相当な理由があるとすることはできない
 (略)
4 損害発生の有無及びその数額
(1) 前判示1のとおり,本件記事等による原告の社会的評価の低下は決して小さいものではない上,その記述の内容はいわれのない不倫行為に及んだことを摘示するものであり,しかも,全国的に販売されていて多数の読者を有する本件週刊誌にこれらの記述が記載されたばかりでなく,膨大な購読者を有する全国紙に本件各広告が掲載されたことなど諸事情に照らすと,原告の受けた精神的な苦痛は察するに余りあるといわなければならない。
 そうすると,本件記事に摘示されている本件会合への出席及びその際における具体的行動についてはこれを認めることができることを考慮してもなお原告の受けた精神的苦痛の程度は大きかったものと認められ,この精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料としては250万円とするのが相当である。
(2) …によれば,原告は,被告による名誉の毀損に対してその被害回復のために本件訴訟を提起することを余儀なくされ,本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起及び追行を委任したことが認められるところ,本件訴訟の性質,審理の経過及び結果等の諸般の事情に照らすと,弁護士費用のうち50万円が被告による不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。
5 謝罪広告の要否
 前判示4の原告の被った社会的評価の低下という被害を回復するには,損害賠償金の支払では十分ではなく,少なくとも本件週刊誌を読んで本件記事等の内容を直接に認識した読者に対しては,本件記述部分のうち丙と不倫な行為をしたことについては事実でないことを知らしめる必要があり,かつ,原告に対しても,名誉を毀損したことを謝罪させるのが相当である。もっとも,その方法としては被告が本件記事を掲載した「X」誌に別紙記載の謝罪広告を同記載の条件で1回掲載することが相当であり,同誌の目次欄に掲載すべきことまで指定し,また,表紙に掲載させる必要まではないと考えられる。
 
他方,本件における名誉侵害の程度にかんがみると,その回復のためには,前判示の損害賠償金の支払と「X」誌に謝罪広告を掲載させることをもって足り,読売新聞,朝日新聞及び毎日新聞の各朝刊全国版社会面広告欄に別紙の謝罪広告を同記載の条件で掲載することを命じるまでの必要はないと判断される。











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