著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著名人の肖像権侵害を否定した事例(2)
「タレント弁護士‘直撃’取材事件」
平成200717日大阪地方裁判所(平成19()8101 

2 事案の要旨
 本件は,原告が,テレビ局社屋から出てきて,タクシーに乗り込む際に無断で写真撮影されたこと等について,取材方法としての社会的相当性を逸脱する行為であり,これにより原告の肖像に関する人格権ないし人格的利益を侵害されたとして,被告株式会社光文社(以下「被告会社」という。)及び同社の雑誌記者である被告Aに対し,不法行為(被告会社については使用者責任)に基づいて,連帯して慰謝料30万円の支払(上記不法行為の日である平成19619日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求める事案である。
 (略)
6 当裁判所の判断
1 認定事実
 …によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,大阪弁護士会に所属する弁護士であり,また,本件取材当時,タイタンという芸能事務所にマネージメントを依頼し,相当数のテレビ番組等に出演し,時事問題等についてコメントする等していた。
(2) FLASHでは,政治家,芸能人等の過去の失言について,その失言によるその後の影響及び現在の意見等を記事として掲載することとし,原告については,平成15105日に同原告がTV番組内でした「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」という発言を取り上げることとし,被告Aが担当することとなった。なお,同発言により,原告は同番組を降板した。
 被告Aは,原告に対し事前に取材依頼をしても,その取材内容からすると原告から断られる可能性があると考えたこと,また,事前に取材内容を知らせてしまうと,原告側で準備されてしまい,原告の率直な生の意見を聞けなくなる可能性が高いと考え,事前の取材依頼をせず,いきなり取材を敢行することとした(「直撃」という取材方法)。また,その取材を受けた際の困惑ないし驚愕を含めた原告の表情が撮影できれば,ドキュメンタリー性が高まるなどと考え,同時に写真撮影をすることとした。
(3) 被告A及び同行のカメラマンは,平成19619日午前1140分ころ,読売テレビ関係者通用口の敷地外で,上記取材をすべく,番組の収録を終えて出てくる原告を待っていた。
 被告Aは,原告が上記通用口から出てくるのを見かけるや,「Gさん。」と声をかけながら,同行のカメラマンとともに読売テレビの敷地内の本件車寄せまで駆け寄り,同時に同カメラマンにおいて一眼レフカメラでフラッシュをたきながら複数回原告を写真撮影した。
(4) 原告は,被告Aと応対することなく,タクシーに乗り込んだが,その後も原告に対する写真撮影は継続された。被告Aは,原告のマネージャーに対し,取材の趣旨を説明し,同時に同マネージャーと名刺交換をした。
 
原告のマネージャーは,取材を中止してほしい旨伝え,被告A及び同行のカメラマンはこれに応じ,取材及び撮影を止めた。
(5) FLASHでは,平成19710日・17日号において,「その後どーなった!?み〜んな直撃したッ」「有名人100発失言大追跡!」と題する特集記事(以下「本件特集記事」という。)を組んだが,原告に関する記事及び写真は掲載しなかった。
 同特集記事では,原告のケースと同様に「直撃」という方法によって,取材時に撮影した写真を用いたものがある一方で,過去の写真を用いたものもあった。
2 当裁判所の判断−争点1について
(1) 人は,その承諾なしに,みだりにその容ぼう,姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有すると解される。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(最判平成171110日判決)。
(2) これを本件についてみるに,前記1認定のとおり,本件取材は原告に何の事前連絡もなく,いきなり取材を実施する「直撃」と称するもので,また,その取材(撮影)態様も,番組の収録を終えてテレビ局から出てきたばかりの原告に対し,「Gさん」と声をかけながら,いきなりフラッシュをたきながら複数回写真撮影を敢行し,原告のマネージャーに中止を申し入れられるまで撮影を継続した等というものであり,原告にとってみれば,問答無用の形で撮影をされたという感覚を持つとともに,かかる取材方法に対し,戸惑いのみならず憤りを覚えたであろうことは至極もっともである(原告がその日のうちに本件を提訴していることからも,その点が十分窺われるところである。)。
 しかしながら,一方で,原告は,本件当時,弁護士として相当数のテレビ番組等に出演し,時事問題等についてコメントする等しており,全くの一私人とは立場を異にしていたというべきであり,その言動については相当程度の社会的影響力があったと考えられる。また,その取材目的も,原告が平成15105日にTV番組内でした「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」とする発言に関するものであるところ,かかる発言が本件当時から約38か月前になされたものであるとはいえ,その発言内容や原告の上記社会的地位及び活動内容等に鑑みれば,その真意や現在の意見等を取材するという目的は,原告の主張するように専ら読者の興味をそそり,又は,営利目的に出ただけのものなどということはできず,相応の合理性及び公共性を有するものというべきである。
 ただ,本件取材目的を達するために本件撮影をする緊急性・必要性があったかどうかについては,現に本件特集記事において過去の写真が使われた例も相当数あることや,上記発言が38か月以上も前になされたものであること及び上記取材目的に照らしても,原告に取材目的を告げる前に(あるいはそれと同時に),原告が眩しいと感じる程にフラッシュをたきながら複数回写真撮影をする必要がいかほどあったのかは疑問を呈さざるを得ず,単に被写体である原告が困惑したり,驚愕する表情を撮影し,これを紙面に掲載することで読者の関心ないし好奇心を引くという意味合いが多分に強いものであったというべきである。
 しかしながら,一方で,被告Aが供述するように,かかる状況により撮影された写真を添付することにより,記事にドキュメンタリー性をもたせるという側面も写真週刊誌等の媒体における表現方法として一概に否定できないところもあり,また,本件取材(撮影)の時間及び場所に照らしても原告との関係では著しく相当性を欠くとまではいえず(原告の主張する「撮影の禁止された他人の敷地内」という撮影場所については,読売テレビとの関係で違法行為となるか否かは格別としても,原告との関係では公道その他のオープンスペースでの取材と格段の差異があるとまではいい難い。),さらには,前記のとおりの原告の社会的地位及び活動内容並びに取材目的に照らせば,このような撮影方法が「非礼」なものであることは格別としても,原告にとって社会生活上受忍限度を超えるであるとか,あるいは,金銭的慰謝の措置を講じるだけの違法性を有するものとまでいうことは相当ではない
(3) 以上検討したところによれば,原告においては,本件取材,ことに本件撮影により相当の憤りを覚えたことは想像に難くはないものの,一方で,原告の当時の社会的地位及び活動内容並びに本件取材の目的及び必要性等に鑑みれば,本件撮影を含む本件取材によって,社会生活上受忍の限度を超えるだけの人格的利益の侵害が原告に生じたとまでいうことはできない
3 結論
 
以上によれば,原告の請求はその余の点を判断するまでもなく,理由がないので,これを棄却することとする。











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