著作権重要判例要旨[トップに戻る]







万国著作権条約における内国民待遇の原則
Tシャツの図案原画複製
事件昭和560420日東京地方裁判所(昭和51()10039 

【ポイント】ここでの論点は、万国著作権条約によりわが国が保護義務を負う著作物に該当するための要件、すなわち、ある創作物が万国著作権条約第2条(内国民待遇の原則)第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国の法令で判断するべきか、それとも、保護が要求されている締約国の法令により判断すべきか、という点です。

 なお、アメリカ合衆国は、本件の後の1989年にベルヌ条約に加盟しました。従って、アメリカ合衆国の国民(法人)が著作者であった「本件原画」は、現在であれば、ベルヌ条約によりわが国が保護義務を負う著作物に該当することになります。 


 そこで、次に、本件原画が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するか否かを検討することになるが、同条約第2条第1は、「いずれかの締約国の国民の発行された著作物及びいずれかの締約国で最初に発行された著作物は、他のいずれの締約国においても、その締約国が自国で最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護を受けるものとする。」と規定しており、前記のように、本件原画は万国著作権条約の締約国であるアメリカ合衆国の国民(法人)により制作され、同国で最初に「発行」(同条約第6条参照)されたものであるから、本件原画が右第2条第1項の規定にいう「著作物」に当たるとすれば、「いずれかの締約国の国民の発行された著作物」及び「いずれかの締約国で最初に発行された著作物」に該当し、わが国においても「自国で最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護」を受けることになる(いわゆる内国民待遇の原則)ところ、各締約国の法令により保護を受ける著作物の範囲は各締約国ごとに異なりうるから、ある創作物が右第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国(同条同項にいう「いずれかの締約国」すなわち、その創作者がその国民である締約国及びそれが最初に発行された締約国。以下同じ。本件ではアメリカ合衆国。)の法令により判断するのか、保護が要求されている締約国(同条同項にいう「他のいずれの締約国」。本件ではわが国。)の法令により判断するのか、が問題になるので、この点につきまず検討する。「万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律」(以下、「特例法」という。)は、万国著作権条約の実施に伴い、著作権法の特例を定めることを目的として(第1条参照)、昭和31428日から施行されたものであるが、その3条第2は「万国条約の締約国の国民の発行されていない著作物又は万国条約の締約国で最初に発行された著作物で、その締約国の法令により保護を受ける著作物の種類に属しないものは、万国条約第2条の規定に基く著作権法による保護を受けないものとする。」と規定(右に「万国条約」とは「万国著作権条約」をいう。特例法第2条第1項)している。この規定は、著作物の保護期間についての相互主義を定める万国著作権条約第4条第4項前段の規定(「締約国は、いずれの著作物についても、発行されていないものの場合にはその著作者が国籍を有する締約国の法令により、及び発行されたものの場合にはそれが最初に発行された締約国の法令により当該著作物の種類について定められている期間より長い期間保護を与える義務を負わない。」)の解釈上、わが国の著作権法により保護される著作物の種類に属するものであつても、例えばアメリカ合衆国の法令により著作物として保護されない種類のものは、アメリカ合衆国の法令上保護期間の全く存しない著作物とみて、結局、発行されていないアメリカ合衆国国民の、又はアメリカ合衆国で最初に発行されたかかる種類の著作物は、わが国においても保護する義務がないこととなるので、この事理を明らかにすべく明文化したものと解される(第24回国会参議院文教委員会会議録第5号昭和31228日参照。)。
 右特例法第3条第2項の規定は、内国民待遇の原則を定めた前記万国著作権条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは保護が要求されている締約国の法令により判断することを当然の前提としたうえで、同条約第4条第4項前段の定める保護期間についての相互主義の適用の一場面を明文化したものということができる。けだし、同条約第2条第1項にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するのであれば、同条約第4条第4項前段の規定についての前記のような解釈の下に特例法第3条第2項の規定を創設する必要はないからである。また、もし同条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するとすれば、保護が要求されている締約国の法令により著作物として保護されていないものも、本国で著作物として保護されている限り、保護が要求されている締約国においても著作物として保護されることになるが、同条約第2条第1項の定める内国民待遇の原則とは、まさに、自国で最初に発行された自国民の著作物に与えていると同一の保護を、他の締約国の国民の発行された著作物及び他の締約国で最初に発行された著作物に与えるというものであつて、自国民に与えている以上の保護を与えるというものではないから、保護が要求されている締約国(自国)においてすら著作物として保護されていない種類のものを保護するというような結果を招来する解釈は採りえない。
 してみれば、ある創作物が万国著作権条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国の法令ではなく、保護が要求されている締約国の法令により判断すべきものといわなければならない(本国において著作物として保護されていない種類の創作物は、たとえ保護が要求されている締約国の自国民が制作したならば著作物として保護されるものであつても、結局、保護が要求されている国においても保護されない結果となるのは、同条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するからではなく、保護期間についての相互主義を定める同条約第4条第4項前段の規定の解釈のためである。)。
 
以上によれば、本件原画が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するための要件は、第一に、本件原画がわが国の著作権法上客観的に著作物性を有するものであり(万国著作権条約第2条第1項)、第二に、本件原画が本国であるアメリカ合衆国の法令上保護される著作物の種類に属すること(特例法第3条第2項、万国著作権条約第4条第4項前段)ということになる。











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