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俳優である被害者の名誉毀損につき、加害者の自発的な取消謝罪記事掲載があってもなお謝罪広告を命じた事例
「『週刊実話』‘婚前同棲説’記事事件」昭和441225?東京高等裁判所(?昭和43()2735 

一、本件記事による名誉毀損
 被控訴人cが昭和36年早稲田大学を卒業し、劇団「俳優座」の正座員で舞台のみならず、映画、テレビなどで活躍しており、数多くの作品に出演しているが、いずれも清廉真摯な青年像を演じできたもので、すがすがしい正義感を持つた真面目な青年としてのイメージをフアンから抱かれていること、被控訴人dが昭和35年早稲田大学を卒業し、劇団「三十人会」の幹部で、主としてNHK関係の子供向放送番組の出演者として親しまれ、真面目で礼儀正しい人として知られてきていることは、いずれも、当事者間に争いがない。
 また、控訴会社が書籍雑誌などの出版ならびに販売を目的とする会社で、雑誌「週刊実話」を発行しているが、昭和42920日ごろ、「週刊実話」昭和42102日号の第12頁以下において「話題の焦点cの〃婚前同棲説〃を心配する母親」と題し、4頁にわたり、原判決添付の本件記事を掲載したこと、控訴人aは、同誌の編集兼発行人であり、右記事の掲載を決定し、かつ右のタイトルを執筆したこと、本件記事のうち前書き部分は、控訴会社記者eが、本文は控訴会社記者の控訴人bが、夫々執筆したことは、当事者間に争いがない。
 そして、本件記事のうちタイトルの「cの〃婚前同棲説〃を心配する母親」との部分、…という記載、その後に続く数人の談話形式の部分および…本件記事中に東京都港区j町「fマンシヨン」の間取りを寝室洋間と区別して掲載している部分は、控訴人らが結婚前であるにもかかわらず同棲生活をしているということを露骨に描写するものであることは明白であつて、本件記事のタイトルには婚前同棲ではなく婚前同棲説との表現がされ、前文には「同棲生活に入つていたという」と断定を避けた用語が選ばれているものの、通常人が本件記事を全体として通読するときは、控訴人らが結婚前に同棲しているという印象を受けることはまことに明らかというほかはない。
 一般に、ある者についての事実の摘示がその者に対する社会的評価としての名誉を毀損するものであるかどらかは、その社会の一般人の社会観念を基準として決めなければならないところ、わが国において、一般人の倫理観は、結婚前の同棲生活を常態とみなすほどには至つておらず、かかる行為はふしだらなこととされている。したがつて、このような同棲生活をしていることが流布されると、その者の社会的評価が低下することは否めない。ことに、被控訴人らのように、真面目な折り目正しい青年俳優としての印象をフアンから抱かれている者にとつては、かかる記事がその社会的評価の低下に及ぼす影響は著しいものがあると考えられる。さすれば、本件記事の掲載発行は被控訴人らの名誉を毀損するというべきである。
二 違法性など
1) 記事の公知性
 控訴人らは、本件記事が掲載された「週刊実話」発行当時には、既に右の事実が一般に知られていたと主張する。しかし、…によつても、被控訴人両名の結婚が予定されている旨の記事が、以前に控訴人ら主張の週刊誌に掲載(本件記事の掲載された週刊実話の発行に先立つて)発行されたことが認めうれるに止まり、それ以上に、被控訴人らが同棲生活をしている旨の記事を掲載した週刊誌、雑誌等が発行された事実は認めうれないし、次に記す通り、被控訴人両名の同棲の事実はなかつたのであるから、もとよりこれを公知の事実とする証拠もない。
2) 記事の真実性
 控訴人らは、本件記事の内容が真実であると主張する。しかし、本件記事は、その事柄の性質上公益に関するものではないから、真実の証明があつでも違法性を阻却しないのみならず、被控訴人らが結婚前同棲としていたことを認めるに足る証拠は全くない。…
3) 真実と信ずるについての相当性
 控訴人らは、本件記事を真実であると信ずるについて過失がなかつたと抗争する。しかし、原審における控訴人bの供述によつても、本件記事本文は控訴人bが執筆したが、(この点は前記のとおり当事者間に争いがない)その記事の一部は控訴会社のp記者が取材し、また、他の一部は他から提供されたいわゆる資料原稿(他社の者に依頼して得た資料となる原稿の意)および記者仲間の評判によつて執筆したというだけであつて、これのみによつては、本件記事の取材経過において本件記事を真実であると信ずるについて相当の理由があつたということは到底できない。… してみると控訴人bの取材方法は人の名誉に関する記事を雑誌に掲載するためのものとしては甚しくずさんなものというほかはない。よつて控訴人a、同bは本件記事を真実と信ずるにつき過失があつたといわなければならない。
4) プライバシーと法的保護
 控訴人らは被控訴人らが有名な俳優であるから、被控訴人らについて、その私生活における恋愛、結婚の問題は公共の利害に関する事実であり、控訴人らは専ら公益を図る目的をもつて、本件記事を編集、執筆、掲載したと主張する。しかし、本件記事がその事柄の性質上公益に関するものでないことはさきに説示したとおりであるのみならず、本件記事は単にプライバシーの侵害というものではなく、事実無根の婚前同棲という名誉毀損の記事が問題とされているのであるから、控訴人らの右の主張はもとより採用のかぎりではない。
 さらに、控訴人らは、被控訴人らが有名な俳優であることを理由に、被控訴人らにつき本件記事程度の事実を摘示することは法的制裁の対象とならないと主張する。しかし、有名人でしかも俳優であつても、人間として、結婚前同棲したといわれることがその者の名誉を毀損することに変りはない。控訴人らの右の主張は採用に値しないことが明らかである。
三、各控訴人の責任
 控訴人aおよび同bが本件記事の掲載または執筆に関うしたこと、また、これを真実と信ずるにつき控訴人aは雑誌編集兼発行人として、控訴人bは雑誌記者として、いずれも過失があること、しかも右控訴人両名がいずれも控訴会社の被用者と解すべきことは前認定事実から明らかであるから、右控訴人両名の行為は控訴会社の業務の執行としてなされたものと解すべきである。そうすると控訴人a、同bはいずれも不法行為者として、控訴会社は、被用者のした不法行為につき使用者として、それぞれ、被控訴人らに対し本件記事につき不法行為の責を負わなければならない。
四、損害と賠償の方法
1) 謝罪広告
 被控訴人らがいずれも俳優であつて、私生活上の品性、声望等に関する社会の毀誉褒賄が直ちに公的な生活に敏感に反映することを免かれない立場にあることは、さきに述べた通りであるから、かかる者に対する名誉毀損がなされた場合、その救済には金銭賠償のみでは不充分であつて、名誉回復のため控訴人らをして謝罪広告を為さしめるのが適当である。ところで、控訴人らは、控訴人らが自発的に週刊実話昭和44714日号第117頁において、本件記事全部を取り消し、謝罪の意を表したから、被控訴人らの請求するが如く、あえて、日刊紙上に、改めて謝罪広告をする必要はないと抗争する。控訴人らが自発的に「週刊実話」昭和44714日号第117頁に本件記事全部を取り消し、謝罪の意を表する謝罪広告を掲載したことは被控訴人らの明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。しかし、週刊誌の記事などいわゆるマスコミの方法で名誉を毀損された場合、その名誉を回復するための謝罪広告は、相当規模の大きいマスコミの手段にようなければ、その効果が充分でないことは、多言を要しないであろう。ところが、前記のとおり、本件記事が週刊実話昭和42102日号に掲載されているのに、謝罪広告は約2年後の同誌昭和44714日号にはじめて、掲載されたばかりではなく、…によれば、本件名誉毀損記事が表紙および目次にも表示され、巻頭に写真付で4頁にわたつて、極めて派手に掲載されているのに対し、取消謝罪文は表紙にも目次にも表示されず、巻末に近く約5分の2頁の誌面にひつそりと掲載されているだけであり、さらに、本件記事がその掲載当時スポーツニツポン、報知新聞、内外タイムス、サンケイスポーツ等の各新聞紙上に大々的に広告されたのに対比し、本件記事の取消および謝罪文を載せたことを広く一般に知らせる方途が全く講ぜられていなかつたことを参酌すれば、右控訴人らの自発的の取消記事および謝罪記事によつて本件記事により低下した被控訴人らの人格的評価の回復がなされたとみることはできない。そこで、控訴人らに命ずべき謝罪広告の内容、規模、回数について検討するのに、これらは、名誉毀損の態様、被害者の評価の低下、広告の掲載により行為者の負担すべき費用など一切の事情を参酌して決めるのが相当である。この観点に立つて見るに、謝罪広告の案文は、被控訴人らの請求する原判決添付の謝罪広告案文の本文末尾に、「将来再びこのような行為をしないことを誓います。」とあるのは、あたかも、控訴人らの本件行為が故意に出たことを前提としたものの如き感をうえないではなく、上来説示したところにそぐわない憾があるので、これを「今後、このような行為のないように、努力します。」と改めるのが相当であり、かように改められた謝罪広告を命ずることが、被控訴人らの申立の範囲を逸脱しないものと考えられるし、又これが控訴人らの良心に反し、その人格を傷つけるものでもないことは、乙第四号証(控訴人らが任意になした記事の取消および謝罪広告)の内容に照らし、これを肯定することができる。次に謝罪広告の規模回数であるが、被控訴人ら主張の三新聞紙にその申立字数の謝罪広告を掲載するときは、各誌ごとに控訴人ら主張の費用を要し、その合計額が1396,500円になることは当事者間に争いがない。このことと本件記事の内容、その掲載が「週刊実話」という一週刊誌になされたこと、その掲載につき娯楽新聞紙などに派手に広告されたこと、右記事が被控訴人らの名誉感情をそこない、且又その社会的評価の低下を生ぜしめたであろうことなどを参酌すれば、本件名誉回復処分としでは、全国的規模を有する一般向けの日刊新聞一紙の社会面に別紙のとおりの謝罪広告を一回掲載すれば十分であり、その紙面の大きさや活字の大きさは被控訴人らの請求するところが相当と考えられる。してみれば朝日・読売・毎日のいわゆる三大紙の一つである朝日社会面に前記の謝罪広告を一回掲載すべきことを命ずることが相当といわねばならない。
2) 慰藉料
 先ず、控訴人らは、一般に芸能界で活躍する人々には、相当範囲まで取材に協力する義務があり、多くの俳優は私生活を発表してその人気を高め、維持しているのが常態であるのに、被控訴人cが芸能界で生計を維持し有名にもなりながら、控訴会社の取材に全く応じようとしなかつたのであり、したがつて、これによつて生じた結果については、被控訴人側にも責任があるから、賠償額算定について斟酌すべきであると主張する。しかし、有名人でかつ俳優であつでも、結婚前同棲したといわれることがその者の名誉を毀損することはさきに説示したとおりであり、俳優が芸能界で生計を維持し有名になつたからといつて、恋愛結婚前同棲等私事に属する取材に応ずべき筋合はなく、仮りに、多くの俳優が私生活を発表してその人気を維持向上しているとしてもこの事理にかわりはないから、控訴人らの主張は採用のかぎりではない。
 
…によれば、被控訴人らが結婚問題等私的な事柄に関して一切公開を拒否しできたことを認めることができる。このことと前認定の諸事情とを考慮すれば、本件記事の掲載によつて被控訴人らの蒙つた精神的苦痛の大きかつたことは察せられるが、他方、…によれば、被控訴人らはその後結婚し、これを新聞記者会見の方法により公にしている事実を認めることができ、また、控訴人らが自発的に本件記事全部を取り消し謝罪の意を表する謝罪広告を掲載した週刊実話を発行したことは前叙のとおりである。そこで、これら一切の事情と別紙謝罪広告の掲載を命じたこととを勘案すれば、被控訴人らの蒙つた精神上の苦痛を慰藉するためには、各被控訴人につきそれぞれ10万円をもつてするのが相当である。











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