著作権重要判例要旨[トップに戻る]







未承認国の国民の著作物はわが国で保護されるか
「北朝鮮映画無許諾放送事件@」
平成191214日東京地方裁判所(平成18()5640/平成201224日知的財産高等裁判所(平成20()10012 

【コメント】本件は、北朝鮮の国民が著作者である映画を、被告が、その放送に係るニュース番組で使用したことについて、原告朝鮮映画輸出入社(「原告輸出入社」)が、被告の当該行為は、同映画の著作権者である原告輸出入社の著作権(公衆送信権)を侵害するなどと主張して、被告に対し、本件各映画著作物について放送の差止め等を請求した事案です。

 本ケースでの主要な論点は、我が国が国家として承認していない北朝鮮がベルヌ条約に加入したことにより、我が国と北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係が生じるか、という点です。この点について、原告らの主張は、ベルヌ条約3(1)(a)が、いずれかの同盟国の国民である著作者の著作物は、この条約によって保護される旨を規定しており、北朝鮮がベルヌ条約に加入したことにより、既に同条約に加入している我が国との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生じ、北朝鮮は我が国にとってベルヌ条約の同盟国と認められるから、本件各映画著作物は、著作権法63号にいう「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たる、というものでした。これに対し、被告は、我が国は北朝鮮を国家として承認していないから、我が国と北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係は生じず、我が国は、ベルヌ条約上北朝鮮の著作物を保護する義務を負わない、として、原告らの前記主張を争いました。そのため、本件各映画著作物が著作権法63号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たるか否かの解釈問題として、我が国が国家として承認していない北朝鮮がベルヌ条約に加入したことにより、我が国と北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係が生じるか否かが問題となったわけです。

 なお、本件で、裁判所は、「日本国と北朝鮮との間におけるベルヌ条約に基づく権利義務関係の存否等」及び「我が国と台湾との間におけるTRIPS協定に基づく権利義務関係の存否等」について、必要な調査を外務省及び文部科学省に嘱託しました。これに対する回答は、以下の通りです。

◆北朝鮮のベルヌ条約加入に関する政府機関の見解

外務省の回答:「我が国は北朝鮮を国家として承認していないことから,2003年に北朝鮮がベルヌ条約を締結しているものの,北朝鮮についてはベルヌ条約上の通常の締約国との関係と同列に扱うことはできず,我が国は,北朝鮮の『国民』の著作物について,ベルヌ条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務をベルヌ条約により負うとは考えていない。他方で,多数国間条約のうち,締約国によって構成される国際社会(条約社会)全体に対する権利義務に関する事項を規定していると解される条項についてまで,北朝鮮がいかなる意味においても権利義務を有しないというわけではない。具体的にどの条約のどの条項がこれに当たるかについては,個別具体的に判断する必要がある。また,北朝鮮において我が国国民の著作物が保護されるか否かについては,北朝鮮法上の問題と考えられる。」

文部科学省の回答:「我が国は北朝鮮を国家として承認していないことから,2003年に北朝鮮がベルヌ条約を締結しているものの,我が国は,北朝鮮の『国民』の著作物については,ベルヌ条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を負うとは考えておらず,著作権法における『条約によりわが国が保護の義務を負う著作物』ではない。… 北朝鮮において,我が国民の著作物が保護されないかどうかは,北朝鮮法における問題である。北朝鮮に限らず,外国においても可能な限り広く我が国の著作物が保護される方が望ましいものの,著作権は各国政府によって政策的に保護されるものであるので,必ずしも保護されるとは限らない。」

◆台湾のTRIPS協定加入に関する政府機関の見解

(注)台湾はWTO協定に加入し、これにより、TRIPS協定は、平成1411日、台湾について効力を生じました。一方、北朝鮮は、WTO協定に加入していません。

外務省の回答:「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(以下「WTO協定」という。)は,第121において,『国(State)』のみならず『独立の関税地域(separate customs territory)』もWTO協定に加入することができるとしており,国家以外の存在であってもWTO協定上の権利義務関係を有することができることを特別に認めるものとなっている(WTO協定に加入した独立関税地域がWTO協定上の『加盟国(Member)』であることは,第16条の『注釈』において,『世界貿易機関の加盟国である独立の関税地域(separate customs territory Member of the WTO)』とされていることからも明らかである。)。したがって,当該規定から,WTOに加盟している独立関税地域との間では,国家として承認しているか否かにかかわらず,WTO協定上の権利義務関係が存在する。台湾は,WTO協定第121にいう『国(State)』としてではなく,『台湾,澎湖諸島,金門及び馬祖から成る独立関税地域』(以下『独立関税地域台湾』という。)という名称で,『独立の関税地域』としてWTO協定に加入し,同協定上の『加盟国(Member)』となっている。したがって,我が国と独立関税地域台湾との間には,WTO『加盟国(Member)』間に生じるWTO協定上の権利義務関係が存在する。知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(以下『TRIPS協定』という。)との関係については,同協定はWTO協定の一部であるので,我が国と独立関税地域台湾との間には,TRIPS協定第9条に基づく権利義務関係(同条に基づきWTO『加盟国(Member)』が負うベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を含む。)が存在し,これに基づく我が国国内法制上の取扱いにおいても,独立関税地域台湾はWTO『加盟国(Member)』のうちの『国(State)』と同様に扱われる。北朝鮮については,WTOにいかなる形でも加盟していないため,我が国として,TRIPS協定(同協定第9条に基づきWTO『加盟国(Member)』が遵守する義務を負うベルヌ条約の条項を含む。)に関し,以上に述べたような取扱いをすべき根拠はない。」

文部科学省の回答:「我が国と台湾との関係において,TRIPS協定第9条がベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定めていることにより,これら条項は,我が国の著作権法第5条及び第6条第3号に規定する『条約』に該当すると考えている。北朝鮮と台湾との間で異なる取扱いをする法的根拠は該当する『条約』の有無である。」 


【原審】

 
北朝鮮の著作物である本件各映画著作物が,我が国の著作権法による保護を受けることができるか否かは,前記で述べたように,本件各映画著作物が著作権法63号にいう「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たるか否か,すなわち,我が国が未承認国である北朝鮮に対してベルヌ条約上の義務を負担するか否かの問題に帰着する。
 そこで,この点についてみると,現在の国際法秩序の下では,国は,国家として承認されることにより,承認をした国家との関係において,国際法上の主体である国家,すなわち国際法上の権利義務が直接帰属する国家と認められる。逆に,国家として承認されていない国は,国際法上一定の権利を有することは否定されないものの,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないものと解される。
 この理を多数国間条約における未承認国の加入の問題に及ぼすならば,未承認国は,国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,同国を国家として承認していない国家との関係では,国際法上の主体である国家間の権利義務関係が認められていない以上,原則として,当該条約に基づく権利義務を有しないと解すべきことになる。未承認国が多数国間条約に加入したというだけで,承認をしない国家との間でそれまで存在しないとされていた権利義務関係が,国家承認のないまま突然発生すると解するのは困難である。
 我が国は,北朝鮮を国家として承認しておらず,我が国と北朝鮮との間に国際法上の主体である国家間の権利義務関係が存在することを認めていない。したがって,北朝鮮が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,我が国と北朝鮮との間に当該条約に基づく権利義務関係は基本的に生じないから,多数国間条約であるベルヌ条約についても,同様に解することになる。
 もっとも,未承認国であっても,国際社会において実体として存在していることは否定されないから,国際法上の主体である国家間の権利義務関係が認められないからといって,未承認国との関係において条約上の条項が一切適用されないと解することが妥当でない場合があり得る。
 我が国の外務省も,前記のとおり,未承認国である北朝鮮との関係では,我が国がベルヌ条約上の義務を負うことはないとしつつ,「多数国間条約のうち,締約国によって構成される国際社会(条約社会)全体に対する権利義務に関する事項を規定していると解される条項についてまで,北朝鮮がいかなる意味においても権利義務を有しないというわけではない。具体的にどの条約のどの条項がこれに当たるかについては,個別具体的に判断する必要がある。」との見解を示している。
 (略)
 原告らは,TRIPS協定が台湾に発効したことにより台湾の著作物が我が国において保護される旨の文化庁の見解は,同じ未承認国である北朝鮮の著作物に関する同庁の見解と明らかに齟齬しており,未承認国である台湾の著作物を保護するのであれば,北朝鮮の著作物も保護すべきである旨主張する。
 しかしながら,WTO協定は,121項において,「すべての国又は対外通商関係その他この協定及び多角的貿易協定に規定する事項の処理について完全な自治権を有する独立の関税地域は,自己と世界貿易機関との間において合意した条件によりこの協定に加入することができる。」とし,また,16条の「注釈」において,「この協定及び多角的貿易協定において用いられる「国」には,世界貿易機関の加盟国である独立の関税地域を含む。この協定及び多角的貿易協定において「国」を含む表現(例えば,「国内制度」,「内国民待遇」)は,世界貿易機関の加盟国である独立の関税地域については,別段の定めがある場合を除くほか,当該関税地域に係るものとして読むものとする。」と規定しており,主権国家のみならず独立の関税地域もWTO協定に加入することができ,同協定の加盟国となり得ることを前提としている。また,WTO協定の規定を受けて,同協定の一部であるTRIPS協定1条の脚注1も,「この協定において,「国民」とは,世界貿易機関の加盟国である独立の関税地域については,当該関税地域に住所を有しているか,又は現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有する自然人又は法人をいう。」と定めている。これらの規定によれば,WTO協定及びTRIPS協定が,国家として承認されていないものでも,一定の要件の下で「独立の関税地域」として加入することができる旨定めていることは明らかである。前記によれば,台湾については,これらの規定にいう「独立の関税地域」として,WTO協定に加入したものであると認められる。そして,TRIPS協定91項は,「加盟国は,1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」と定めていることから,「独立の関税地域」である台湾と我が国との間でTRIPS協定に基づく著作権の保護関係が生じたものであるということができる。これに対し,北朝鮮は,WTO協定に加入していないことから,我が国との間でTRIPS協定に基づく著作権の保護関係は生じていない
 以上のとおりであるから,我が国が未承認国である台湾の著作物を保護するからといって,当然に北朝鮮の著作物も保護すべきであるということはできず,この点についての文化庁の見解に齟齬があるとはいえない。原告らの上記主張は失当である。
 (略)
 原告らは,北朝鮮映画が,既に,国際市場において取引されていることから,国際市場においては,ベルヌ条約の加盟国が国家承認の有無にかかわらず相互の著作権を尊重し合うことが暗黙の前提とされている旨主張する。しかしながら,私人間においては,契約自由の原則により,国家承認の有無にかかわらず,ある国の映画について著作権の存在を前提とした契約を締結することは自由である。このような私人間の契約において未承認国の映画が取引の対象とされたからといって,国家間の権利義務関係として未承認国の著作物の著作権を保護すべき条約上の義務が発生しているということができないことは明らかである。
 原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
 (略)
 なお,北朝鮮の著作物について,非同盟国の国民の著作物として,いずれかの同盟国において最初に発行されたものである場合(ベルヌ条約3(1)(b))等に,我が国がベルヌ条約上保護の義務を負う場合はあり得るものの,原告らにおいて,この点についての主張,立証はない。
 以上のとおりであるから,我が国は,北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係を有するものではなく,北朝鮮に対し,ベルヌ条約3(1)(a)に基づく義務を負うことはない。したがって,本件各映画著作物は,著作権法63号の「条約により我が国が保護の義務を負う著作物」とはいえないから,本件の差止請求及び損害賠償請求は,その前提を欠くことになる。

【控訴審】

 
もとより,多数国間条約の条項のなかには,ジェノサイド条約(「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」)における集団殺害の防止(1条)や拷問等禁止条約(「拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」)における拷問の防止(2条)のように,条約当事国間の単なる便益の相互互換の範疇を超えて,国際社会における普遍的な価値の実現を目的とし,国際社会全体に対する義務を定めたものが存在する。このように,条約上の条項が個々の国家の便益を超えて国際社会全体に対する義務を定めている場合には,その義務の主題である普遍的な価値が国際社会全体にとって重要性を持つものであるため,すべての国家がその保護に法的利益を持つことから,例外的に,未承認国との間でも,その適用が認められると解される。このように,当該条項が,個々の条約当事国の関係を超え,国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定する普遍的な価値を含むものであれば,あらゆる国際法上の主体にその遵守が要求されることになり,その限りでは,国家承認とは無関係に,その普遍的な価値の保護が求められることになる。











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