著作権重要判例要旨[トップに戻る]







「著作物」に要求される創作性の程度(9)-表現物の機能性との関係-
「浮遊体験装置‘スペースチューブ’事件」平成240222日知的財産高等裁判所(平成23()10053等) 

 控訴人は,そのような控訴人装置の創作性として,@「閉じた空間・やわらかい空間」であること,A「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること,B「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること(控訴人装置の上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有すること)を主張する。
 もっとも,控訴人装置は,体験型装置として用いられており,控訴人も,争点(4)において,不正競争防止法213号の「商品」に該当すると主張するものであって,実用に供され,又は産業上利用されることを目的とする応用美術に属するものというべきであるから,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美的特性を備えている場合に限り,著作物性を認めることができるものと解すべきである。
 そこで,以下,上記観点をふまえ,控訴人主張に係る@ないしBの各要素に基づき,控訴人装置の創作性について検討する。
 [@「閉じた空間・やわらかい空間」であることについて]
() 閉じた空間」とは,控訴人装置が使用されている際の人によって広げられていない部分の空間の性質を示すものであり,使用時において中に入った人によって開かれていくという構想は,控訴人が控訴人装置で実現しようとした,控訴人装置によって構成された空間の性質に関する思想ないしアイデアである。著作物としての表現は,そのような思想ないしアイデアそのものではなく,それらが具体的に表現された控訴人装置の形状,構成に即して把握すべきものであるから,「閉じた空間」という空間の性質を創作性の根拠とする控訴人の主張は採用することができない
 また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,2枚の布を合わせることにより「閉じた空間」としたことに創作性があるとも主張する。しかしながら,この2枚の布を合わせたという平面的な構成は特徴のある表現ということはできず,創作性を認めることはできない
() やわらかい空間」とは,控訴人装置の中に人が入った使用状態において,中に入った人が周囲の空間が固定的ではなく,自在に変形するものと感じられる空間であるという思想ないしアイデアであり,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない
 また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,伸縮性・弾力性のある布を使用し,ロープを使用して床からの高さを50センチメートルないし1メートルとして,空間に浮遊させて設置することにより,「やわらかい空間」としたことに創作性があるとも主張する。しかし,そのうち,「やわらかい空間」自体は思想又はアイデアにすぎないことは前記のとおりであり,また,伸縮性・弾力性のある布を使用していることは,実際に控訴人装置が使用される際に機能を発揮する構成にすぎない
 したがって,いずれも,控訴人装置の創作性を基礎付けるものということはできない。
 [A「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であることについて]
() 浮遊を可能にする空間」であることは,控訴人が本件において著作物であると主張する控訴人装置そのものに表現されたものではなく,控訴人装置の中に人が入って使用された際,中に入った人が浮遊していると感じる状態になること意味するものであり,控訴人装置の機能を示すものにすぎない
 したがって,当該要素は,控訴人装置自体に表現されたものではないから,これを控訴人装置の創作性の根拠とする控訴人の主張は採用することはできない。
 また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,左右と下からの強い反力を持たせて「浮遊を可能にする空間」とし,これによって「新しいバランス」を与え,「全身的な身体感覚の回復」を図るものであり,バランスの取り方次第で浮遊可能となるように布の張りを調整しているとも主張する。
 しかしながら,浮遊を可能とすることや,新しいバランスを与えること,全身的な身体感覚の回復を図ることは,いずれも控訴人装置の使用時における機能であって,控訴人装置に表現されたものとはいえない。また,布の張り方自体は布の形状を形成し,その機能を発揮させるための方法にすぎず,このような点に創作性を認めることはできない
() 「宙吊り」は,控訴人装置の空間における配置を示すものであるが,それ自体では控訴人装置が空間に存在するという抽象的な観念を示すものにすぎず,具体的な表現を示すものとはいえないから,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。
 また,控訴人装置を宙吊りにしたことは,装置の機能を発揮させるための構成であるともいうことができる。いずれにせよ,創作的表現と認めることはできない。
 [B「日本的美しさをもつ空間」であることについて]
() 日本的美しさをもつ空間」であるということそれ自体は,控訴人の思想又はアイデアを示すものであって,ここに創作性の根拠を認めることはできない
 また,控訴人は,ロープの「ずらし方」に創作性があると主張するが,それは,本体部分の布の形状を形成するための方法にすぎず,表現と認めることはできないし,張られたロープ自体の形状に創作性を認めることもできない。
 (略)
() 控訴人は,控訴人装置は,「空間の生け花」と称され,日本的な独特な表現であるとして評価されており,控訴人装置の見た目の美しさ,控訴人装置内に入った際に体験者が感じる擬似的無重力環境という異次元空間の感覚が控訴人装置の最大の特徴であり,このような独特な空間構成力によって,控訴人装置は,国内外のどこにもない空間として成立しているなどと主張する。
 しかしながら,体験者が控訴人装置内に入った際に感じる感覚については,控訴人装置の機能を示すものにすぎない
 また,著作権法によって保護すべき「著作物」であるか否かは,あくまで創作性の有無によって判断すべきであって,控訴人装置に対する評価が控訴人の主張するようなものであったとしても,前記判断が左右されるものではない
 (略)
 [控訴人のその余の主張について]
() 控訴人は,前記@ないしBの要素のほかに,控訴人装置の軽さや色についても,創作性の根拠として主張する。
 しかしながら,控訴人装置の軽さは,素材の性質であって,控訴人装置の創作物として鑑賞するときに,その創作性の対象として認識されるものではない。また,控訴人装置の本体部分及び二重化部分が白色の素材で構成されていることについては,その色の選択について創作性を認めることはできない。控訴人は,恐怖感や不安感を低下させるために色の選択をしているのであって,当該選択には創作性があるとも主張するが,それは控訴人装置の使用時にその機能を十分発揮させるための色の選択の根拠を述べるのみであって,控訴人装置自体の創作性の根拠となるものではない
() 控訴人は,控訴人装置の大きさについても創作性があると主張するが,控訴人が大きさについて選択の根拠として挙げる控訴人の芸術家としての感性については,その具体的な内容が不明であり,そこから創作性を根拠付けることはできない。
() また,控訴人は,2枚の布を接ぎ合わせた形状についても,創作性があると主張するが,そこに製法としての特殊性があるとしても,それが控訴人装置の創作性を根拠付けるものとはいえない











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