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具体的金額の定めがないCD原盤制作契約における報酬額の基準
CD原盤制作契約事件」平成230721日東京地方裁判所(平成21()37303等) 

 原告X1の本件CDの原盤の制作代金請求(主位的請求)について
ア 本件制作契約@の成否
 原告X1は,原告X1と被告は,平成2041日ころ,原告X1が,被告が作詞作曲し,歌唱した楽曲について,@販売目的のないCDの原盤の制作の場合,簡易なレコーディングによる制作で,マスタリング込み,CD200枚のコピーという条件で,制作代金は60万円,A販売目的のCDの原盤の制作の場合,プロデュース,アレンジ,演奏料が1曲当たり30万円(「歌入れ」に係るレコーディング代は別途),トラックダウン,マスタリング等のエンジニア料が1曲当たり5万円の約定で,CDの原盤を制作する旨の契約(本件制作契約@)を締結した旨主張する。
 これに対し被告は,本件制作契約@の締結の事実を否認し,被告は,被告が,原告X1に対し,60万円の予算内で,販売目的のCDの原盤の制作及び商品の作成・納品の発注をし,原告X1が,これを受注した旨主張して争っている。
() そこで検討するに,原告X1主張の本件制作契約@については,これが締結されたことをうかがわせる契約書その他の書面は作成されていない
 もっとも,原告X1の供述中には,@原告X1は,Zから,自分の友達に,ギター1本でいいから,人に聞かせて分かる程度のところまででいいから,簡単な録音ができないかという話があり,できることはやりますよと答えた後,具体的な金額を聞かれたので,販売目的でないことを条件に,原告X1がギターの伴奏をつけて歌を同時に録る簡易レコーディングしたものをCDR200枚コピーして60万円が目安であると回答した,A原告X1は,平成204月,原告X1の自宅で被告と最初に会った際に,被告から,被告がギターを弾ければ,被告がギターを弾いて歌う歌を,原告X1がアコースティックギター1本の伴奏をつけて,大体10曲程度録音し,CD-Rに大体200枚位焼いて60万円位で引き受けるという話の確認をとった,B原告X1は,同年415日の最初のレッスンの際,被告から,アコースティックギター1本の伴奏による簡易レコーディングではなく,ちゃんとした「オケ」を作ってくれとの依頼を受けたときに,被告に対し,「金額が上がりますよ,大丈夫ですか」,「制作費は,販売目的でない場合であっても,100万を超えますよ」などと言って被告に確認をとり,また,Zに対し,制作費が100万円を超えるが大丈夫なのかと言って,Zからも被告に確認をとってもらったところ,Zから,大丈夫だと言われたので,引き受けることとした,C原告X1は,上記Bのとおり,アコースティックギター1本の伴奏による簡易レコーディングから条件が変わったときに,制作費は,100万は超えるが,10曲で200万にはいかないだろうと予想し,被告にもそれを伝えた,D被告は,まず最初,ドラムがあって,キーボードやギターがたくさん鳴っている,いわゆる一般に世の中で売られているような音にしたいと言うので,それに対しては一応制作費がこれだけ大きくなるけど大丈夫かと言ったら,いくらかかっても構わないということだったので,そのように制作することとし,その後は,様々な外国のアーティストの資料を持ってきて,このような音に作ってくれというように次第に要求がエスカレートしていった,E原告X1は,上記Dのような経過の中で,被告に対し,何度か,原告X1が正式に受けると130万円であると伝えた旨の供述部分がある。
 しかるところ,原告X1の上記供述部分は,原告X1が,平成204月に,被告と最初に会った際に,被告に対し,原告X1がアコースティックギター1本の伴奏をつけて被告が歌う歌を大体10曲程度録音する簡易レコーディングによる制作で,CDRに大体200枚位焼いて60万円位で引き受けるとの確認をとり,その後,同月15日に,簡易レコーディングによる制作からきちんした「オケ」作りをする制作に条件が変わったときに,被告に対し,制作費の金額が上がることを確認し,制作費は100万は超えるが,10曲で200万にはいかないだろうと予想し,被告にもそれを伝え,その後,被告に対し,何度か,原告X1が正式に受けると130万円であると伝えたというものであって,平成204月の時点において,原告X1が被告に対し,販売目的のCDの原盤を制作する場合の制作費が,プロデュース,アレンジ,演奏料が1曲当たり30万円,トラックダウン,マスタリング等のエンジニア料が1曲当たり5万円となるとの条件を提示したというものではなく,ましてや,被告がその条件を承諾したというものでもないから,原告X1の上記供述部分を前提としても,原告X1主張の本件制作契約@の締結の事実は認められない。
 また,原告X1の上記供述部分における原告X1が,アコースティックギター1本の伴奏による簡易レコーディングから条件が変わったときに,「金額が上がりますよ,大丈夫ですか」,「制作費は,販売目的でない場合であっても,100万を超えますよ」などと言って被告に確認をとり,また,制作費は100万は超えるが,10曲で200万にはいかないだろうと予想し,被告にもそれを伝え,さらに,その後,被告が制作費がいくらかかっても構わないと原告X1に述べたとの部分(上記BないしD)は,これに反する被告の供述部分があること,前記認定の原告X1と被告間の交渉経過における被告の言動と合致しないことに照らし,採用することができない(なお,証人Zは,証人尋問において,Zが,原告X1から依頼を受けて,被告に対し,CDの制作費用の点について確認した際に,被告は,金額の問題ではなく,100万円でも200万円でもいいものができればお金を支払う旨述べたので,それを原告X1に伝えた旨供述しているが,これに対し被告は,Zにそのようなことを述べたことはない旨供述し,両者の供述に食い違いがあるが,いずれにしても,被告が直接原告X1に対し制作費がいくらかかっても構わないと述べたものと認めることは困難である。)。
 他に原告X1主張の本件制作契約@の締結の事実を認めるに足りる証拠はない。
() 他方で,被告は,原告X1が,被告から,60万円の予算内で,販売目的のCDの原盤の制作及び商品の作成・納品することを受注した旨主張する。
 この点について被告は,@被告は,Zから,被告のオリジナルCDアルバムの制作について,原告X1が,総額60万円以内の予算で,演奏や音源作りを行い,CD2000枚をプレスすることができると言っていると聞き,原告X1と会ってみることにした,A被告は,原告X1がプロでビジネスで音楽をやっている方だと紹介されたので,被告がCDの制作を一括して依頼しているということは,原告X1において,被告が歌う楽曲を録音する,そこに原告X1が演奏したものを録音し,録音した素材を編集したり,調整をしてCDの原盤を制作する,その原盤を基にプレスし,でき上がったCDを被告に納品するという一連の作業を行うのが音楽業界の常識だと考えていたので,原告X1と初めて面談した際に,原告X1に対し,委託の条件や委託業務の内容について,細かい話をしたり,確認をすることはしていない,B被告が原告X1と初めて面談した以降,原告X1から,CD制作の一括受注の制作費が60万円以上かかるという話は一切出ていないし,また,被告が原告X1に発注したのは,友人のZの紹介であれば悪い人ではないと思ったことと,60万円という金額が被告にとって安く,制作費を出して自主制作するには出せる範囲だなと思ったことが一番の決め手である,C他の業者に依頼した場合の制作費は,インディーズ系とか,ピンからキリまであるが,100万円位と聞いていた旨供述している。
 しかるところ,被告の上記供述を前提としても,被告は,原告X1と面談する前に,Zから,被告のオリジナルCDアルバムの制作について,原告X1が,総額60万円以内の予算で,演奏や音源作りを行い,CD200枚をプレスすることができると言っていると聞いて,原告X1と会ってみることにしたというにすぎず,その際に,Zに対し,その予算の範囲内で制作されるCDの原盤の音源の具体的な内容やプレスされるCDの具体的な内容について確認をしたというものではないし,被告が原告X1と面談した際に,原告X1に対し,これらの具体的な内容について確認して,CDの制作を依頼したというものでもない。
 また,制作されるCDに収録される曲数,録音する伴奏の演奏の内容,録音の回数等によって原盤の制作時間や制作作業の内容等が異なり,それに伴って原盤の制作に要する費用に違いが生じることや,プレスされるCDについても,ジャケットデザインの内容やCDの包装の方法・内容等によってプレスに要する費用に違いが生じることは,当然想定されることであり,制作されるCDの原盤の音源の具体的な内容やプレスされるCDの具体的な内容がいかなるものとなっても,原告X1が,総額60万円以内の制作代金でCDの原盤の制作及びCD200枚のプレスを受注する意思を有していたものとは到底考えられない。このことは,前記認定の本件CDの原盤制作が開始された経緯及び原告X1と被告間の交渉経過等に照らしても,明らかである。
 そして,被告が,Zから,総額60万円以内の予算で,演奏や音源作りを行い,CD200枚をプレスすることができると言っていると聞いた当時,Z及び原告X1のいずれに対しても,被告が制作しようと考えているCDの音源の具体的な内容やCDのジャケットデザイン等の具体的な内容について伝えていなかったのであるから,被告がZから聞いた原告X1が述べたとする内容は,原告X1が制作代金の一応の目安を示したものと理解するのが自然であり,また,被告が当時からアニメーション作品,CG,ゲームソフトなどの企画制作等を業とするIGの取締役の地位にあったことに鑑みると,被告においてそのように理解することに困難があったものとは認め難い。
 したがって,被告の上記供述を前提としても,原告X1が,被告から,60万円の予算内で,販売目的のCDの原盤の制作及び商品の作成・納品することを受注したとの被告の上記主張を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
() 以上のとおり,原告X1主張の本件制作契約@の締結の事実は,認められない。
イ 本件制作契約Aの成否
 次に,原告X1は,原告X1と被告は,平成2041日ころ,原告X1が,被告が作詞作曲し,歌唱した楽曲についてアレンジ,演奏,レコーディング,トラックダウン,マスタリングをして,CDの原盤を制作し,被告が原告X1に対し相当な額の報酬を支払う旨の契約(本件制作契約A)を締結した旨主張する。
() そこで検討するに,前記の認定事実を総合すれば,被告は,平成2041日ころ,原告X1に対し,被告が作詞作曲し,歌唱する楽曲についてCDの原盤を有償で制作することを依頼し,これを受けた原告X1は,その制作を開始し,本件CDの原盤を制作したことが認められるが,その制作の対価である報酬の具体的金額については,原告X1と被告間で明確な合意がされたものということはできず,そのような明確な合意がないまま,原告X1が被告の要望に従って本件CDの原盤の制作作業を進め,これを完成させたものといえる
 このような場合,有償の双務契約であるCDの原盤の制作契約を締結する当事者の合理的意思としては,その報酬額は,制作されたCDの原盤の内容,制作作業の内容,制作時間等を考慮して客観的に相当と認められる額とする考えであったと認めるのが相当である。
 したがって,原告X1と被告間において本件制作契約Aが成立したものと認められる。
() この点について被告の供述中には,CDの原盤の制作及び商品の作成・納品の費用が60万円以上かかるのであれば,原告X1に発注をすることはなく,他の業者に頼んでいた旨の供述部分があるが,被告の供述を全体としてみても,本件CDの原盤の制作が開始され,その完成に至るまでの間に,被告が,原告X1に対し,直接その旨を述べたり,制作費用の上限が総額で60万円であり,それを超える費用が必要となるのであれば制作をとりやめる旨を原告X1に明言したことをうかがうことはできない。また,前記のとおり,原告X1が,総額60万円以内の予算で,演奏や音源作りを行い,CD200枚をプレスすることができると述べたとの点は,原告X1が制作代金の一応の目安を示したものと理解するのが自然であり,被告においてそのように理解することに困難があったものとは認め難い。
 したがって,被告の上記供述部分は,原告X1と被告間において本件制作契約Aが成立したとの前記認定を左右するものではなく,他にこれを左右する証拠はない。
ウ 相当な報酬額
 そこで,本件制作契約Aに基づく相当な報酬額について判断する。
()a 前記の認定事実によれば,@原告X1は,平成20415日から,被告が作詞作曲し,歌唱した楽曲について,CDの原盤の制作を開始し,平成2112日ころ,本件CDの原盤(11曲収録)を完成させ,その後これを被告に引き渡したこと,A原告X1が行った制作作業は,被告が作詞作曲した楽曲の編曲,伴奏の演奏,各種楽器の演奏(Wによるパーカッションの演奏を含む。)の録音(「オケ録り」),被告が歌唱する歌の録音(「歌入れ」),トラックダウン,マスタリング,マスリングした音源のCDRへの記録等であり,制作開始から完成まで9か月を要し,歌入れの回数は33回に及んでいること,B原告X1が作成し,被告に示した契約書案の「制作費目録」には,編曲料が1曲につき3万円,エレクトリックギター演奏料,アコースティックギター演奏料,キーボード演奏料,ベースギター演奏料が1曲につき各5000円,コンピュータープログラミング料が1曲につき1万円,オペレーター料及び録音機材使用料が「¥50.000/13:00〜Locked out」,トラックダウン料が1曲につき2万円,マスタリング料が5万円であるとの記載があること,C被告は,原告X1に対し,本件CDのレコーディング料として合計30万円を支払い,このほか,Wに対し,パーカッションの演奏料として5万円を支払ったことが認められる。
 また,原告X1の供述中には,原告X1が正式に発注を受けるときの販売目的のCDの楽曲のプロデュース料は通常1曲当たり30万円で,マスタリング等のエンジニア料は通常5万円で報酬を請求している旨の供述部分があり,…によれば,原告X1が「プロデュース・演奏・編曲料」等の名目で1曲当たり約30万円を請求している例があること(ただし,具体的なプロデュース作業の内容,演奏内容等は定かでない。)がうかがわれる。
 以上の諸点に加え,本件CDの収録曲11曲の各楽曲ごとの作業内容,本件CDの原盤の制作経緯及び原告X1と被告間の交渉経過等本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,原告X1が契約書案の「制作費目録」で示した編曲料,各演奏料,コンピュータープログラミング料,トラックダウン料,マスタリング料はいずれも客観的にみて相当な金額であり,他方で,レコーディング料(「オケ録り」及び「歌入れ」を含む。)は,被告が既に支払った30万円が相当であり,「制作費目録」記載のオペレーター料及び録音機材使用料は,このレコーディング料に含まれるべきものと認められるから,本件CDの原盤の制作の対価として被告が原告X1に支払うべき相当な報酬額は,123万円と認めるのが相当である。
 (計算式・8万円(1曲当たりの編曲料,各演奏料,コンピュータープログラミング料,トラックダウン料の合計額)×11曲+マスタリング料5万円+レコーディング料30万円)
b なお,被告提出の(証拠)(「コロムビアミュージックカスタム」のウェブページ)の3枚目には,個人向けCD制作について,「製造費はマキシシングル500枚で約50万円です」との記載があるが,一方で,「レコーディングは演奏者の人数や制作時間によって変わってきますので詳細はご相談ください。」との記載もあること,また,「マキシシングル」の収録曲数は最大4曲程度であり,本件CDの収録曲数(11曲)より少ないこと,「コロムビアミュージックカスタム」で制作されるCDは,既存のコロムビアの楽曲を歌唱するユーザーの歌を録音するというもので,新たに楽曲を編曲し,各種楽器の演奏を録音するなどして制作された本件CDとは異なることに照らすならば,(証拠)記載の上記製造費をもって,被告が原告X1に支払うべき相当な報酬額の基準とすることはできない。
() そして,前記()a認定の相当な報酬額のうち,被告は30万円を支払っているから,その残額は93万円となる。
エ 小括
 
以上によれば,原告X1の請求は,被告に対し,本件制作契約Aに基づく制作代金93万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成21103日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。











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