著作権重要判例要旨[トップに戻る]







野球選手契約に用いられる統一契約書の条項が問題となった事例(2)
プロ野球ゲームソフト・カード事件平成200225日知的財産高等裁判所(平成18()10072 

3 本件契約条項の解釈について
(1) 本件訴訟の対象は,本件記録によれば,一審被告である各球団が一審原告である各選手との間で,「プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードについて球団が選手の氏名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないこと」の確認を求める訴訟であるところ,その消極的確認訴訟としての適否はともかく,本件記録によれば,一審原告たる各選手が各球団に最初に入団しその後毎年更新してきた各選手契約のうち平成1712月から平成181月にかけて更新された平成18年度の各選手契約16条(その内容は,各選手・各球団・各年度とも同じであり,かつ統一契約書16条とも同じ)に基づく契約上の義務として,球団が上記使用許諾権限を有しないことの確認を求めるものと解される。
 そして,本件のように契約書が作成された場合の具体的契約条項の解釈に当たっては,最も重視されるべきはその契約文言であり,そのほか,そのような契約条項が作成されるに至った背景事情,契約締結後における契約当事者の行動等を総合的に判断して,その文言の正確な意味を判断すべきものである。
 また,人は,生命・身体・名誉のほか,承諾なしに自らの氏名や肖像を撮影されたり使用されたりしない人格的利益ないし人格権を固有に有すると解されるが,氏名や肖像については,自己と第三者との契約により,自己の氏名や肖像を広告宣伝に利用することを許諾することにより対価を得る権利(いわゆるパブリシティ権。以下「肖像権」ということがある。)として処分することも許されると解される。
(2) そこで,以上の見地に立って,本件契約条項の意味について判断する。
ア 各選手・各球団・各年度に共通の本件契約条項は,昭和26年に制定された統一契約書第16条と同じく,前記のとおり,「第16条(写真と出演)球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお,選手はこのような写真出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し立てないことを承認する。※(加入)(1項)なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な分配金を受けることができる。※(2項)さらに選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,テレビジョンのプログラムに参加し,写真の撮影を認め,新聞雑誌の記事を書き,これを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。※(3項)」(ただし,(1項)(2項)(3項)は説明の便のため付したもの)というものである。
イ また前記認定のとおり,統一契約書が初めて作成された昭和26年当時の本件契約条項に相当する規定は,米国メジャーリーグの大リーグ契約条項を参考にして起草されたものであった。なお,当時,我が国においては,「パブリシティ」(選手の氏名及び肖像が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利)という概念及びその用語になじみがなく,大リーグ契約条項を参考に本件契約条項に相当する規定を起草するに際し,英語の「publicity purposes」を「宣伝目的」と翻訳したものである。
 そして,前記認定のとおり,統一契約書が制定される以前から,球団ないし日本野球連盟が他社に所属選手の氏名及び肖像を商品に使用すること(商業的使用ないし商品化型使用)を許諾することが行われており,本件契約条項に相当する当初の規定も,かかる実務慣行のあることを前提にして起草されたものである。したがって,統一契約書が制定された昭和26年当時,選手の氏名及び肖像の利用の方法について,専ら宣伝のために用いる方法と,商品に付して顧客吸引に利用する方法とを明確に峻別されていたとは考え難く,「宣伝目的」から選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用の目的を除外したとする事情を認めることはできない。
 また前記認定のとおり,各球団においては,本件契約条項に基づいて,各球団が所属選手の氏名及び肖像の使用を第三者に許諾し得るとの理解の下に,長期間にわたり,野球ゲームソフト及び野球カードを始めとする種々の商品につき,所属選手の氏名及び肖像の使用許諾を行ってきたものである。このように,野球ゲームソフト及び野球カードについては,長きにわたり選手において自らの氏名及び肖像が使用されることを明示又は黙示に許容してきたのであり,同時に,これらの商品は消費者の定番商品として長らく親しまれ,プロ野球の知名度の向上に役立ってきたものである。
 そして,前記認定のとおり,各球団は,許諾先から受領した使用料の全部又は一部を氏名及び肖像の使用がされた選手に対して分配してきたが,選手会ないし選手らのうちの一部の者が各球団による氏名及び肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは,選手側から明示的な異議はなかったものである。
 このような事情からして,本件契約条項1項に「球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」とあって利用の態様に限定が付されていないことにもかんがみると,同項にいう「宣伝目的」は広く球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的をいい,「宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」とは,球団が自己ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的でする利用行為を意味するものと解される。そして,選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用は,球団ないしプロ野球の知名度の向上に役立ち,顧客吸引と同時に広告宣伝としての効果を発揮している側面があるから,選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用も,本件契約条項の解釈として「宣伝目的」に含まれるというべきである。
 のみならず,本件契約条項が選手の肖像の利用に関する,球団と所属選手との間に存する唯一の定めであり,前記認定の統一契約書制定前に販売された玩具の例をみても明らかなように,選手の肖像を広告宣伝に利用する場合でも,販売する商品に商業化目的で利用する場合でも,肖像に当該選手の氏名を付して利用する形態が多く存在することにかんがみると,本件契約条項1項の「肖像権,著作権等」のうちには,氏名を利用する権利も含まれると解すべきである。
ウ 以上によれば,本件契約条項により,商業的使用及び商品化型使用の場合を含め,選手が球団に対し,その氏名及び肖像の使用を,プロ野球選手としての行動に関し(したがって,純然たる私人としての行動は含まれない),独占的に許諾したものと解するのが相当である(なお,上記のとおり純然たる私人としての行動についての権利は選手個人に留保されているから,選手から球団に上記権利が譲渡されたとまで解することはできない)。
(3) 控訴人らの主張に対する判断
 (略)
4 本件契約条項による契約は不合理な附合契約であり民法90条に違反し無効であるかについて
(1) 当裁判所も本件契約条項が不合理な附合契約として民法90条により無効となるものではないと解するものであり,その理由は,原判決…記載のとおりである。なお,当審における控訴人らの主張にかんがみ,以下のとおり付加する。
(2) (略)
オ 上記認定の事実及び前記2で認定した各事実によれば,@本件契約条項は,2項における分配金の定めとともに,写真出演等に関する選手の肖像権等が球団に属し,宣伝目的のためこれを球団において使用することができることを定めるにすぎず,その規定自体から不合理かつ不公正で公序良俗に反する内容であるとは言い難いこと,A本件契約条項に相当する規定の置かれている統一選手契約様式についても,毎年選手との間で契約が締結ないし更新されることを前提として,上記のとおり,傷害補償・移転費等,選手に必要な補償,費用等について選手にとって有利な形で何回も改正されてきているほか,参稼報酬減額の場合の制限,選手が希望した場合の任意引退の規定など,選手契約の根本に係る部分についても規定が追加されてきていること,B上記で認定したとおり,選手会と野球機構らとの間で選手関係委員会等の会合が継続的に開かれ,そこにおいて選手契約と係わる部分についても話合いがされ,統一契約書様式の改訂に実現したものもあること,C被控訴人タイガースとR元選手との間の肖像権等についての契約によれば,契約に当たって球団の事前の承認は要求されているものの,R選手の企画会社に同選手の肖像権,著作権等に関しての企画紹介業務を行うことを許容していること,等の事情もあり,これらに照らせば,本件契約条項を前提とすると選手が肖像権管理に関し全く関与することができないと認めることもできない。
 以上によれば,本件契約条項が民法90条により無効であるとは到底いうことができない。
(3) 控訴人らの主張に対する判断
ア 控訴人らは,選手において氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することが不可能であり,そうした事例がないとしながら特約の締結も不可能ではないとした点に原判決の誤りがあると主張する。
 確かに,選手契約において,選手の氏名ないし肖像の利用に関する特約が締結された事例は証拠上見当たらず,また野球協約472項には,野球協約の規定及び統一契約書の条項に反しない範囲での特約の記入が認められているにすぎないとはいえる。
 しかし,そもそも氏名及び肖像の選手の使用に関する特約について,何らの形でも特約の締結が不可能であるとは統一契約書様式,野球協約の規定から認めることはできない。控訴人らの主張する氏名及び肖像に関する特約が,あくまで控訴人らの主張し要求している内容,すなわち複数球団にまたがる選手肖像の利用について選手会にその権限の委任を可能とする内容,すなわち本件契約条項の内容に反することを前提とするものであれば,そうした内容での特約の締結は,個々の選手契約を前提として可能といえないのは,上記野球協約の規定からすればむしろ当然ということになるが,これは,上記のとおり統一契約書様式が数度にわたり改訂されていることによると,その改訂等に関する問題というほかなく,特約の締結可能性の問題とはいえない。
 控訴人らの主張は採用することができない。
イ また,控訴人らは,金銭(分配金)が支払われたとしても,選手の意思が反映されない点で依然として問題が残るとも主張する。
 しかし,控訴人らが問題とするゲームソフト,野球カードについての肖像権等の使用許諾は,商業的利用に関するもので,それ自体金銭の受領が本質的な問題であるから,選手に対して分配金が支払われていることを本件契約条項の有効性の判断についての補強理由の一部とした原判決の認定に何ら問題はない。
 控訴人らの主張は採用することができない。
ウ さらに控訴人らは,球団が肖像権を管理すべき合理性はないとして原判決を論難する。
 しかし,選手が商業的利用も含め自らの肖像権を生来的に有することは所論のとおりであるが,これを自らの判断で契約により球団等の第三者にその管理を委ねることも許されるのであり,本件は,前記のとおり,そのような意味における肖像権が選手から球団に対し契約により独占的利用を許諾したと認めることができるのである。そして,選手の肖像ないし氏名の宣伝目的での使用を球団が一括管理することを前提とした本件契約条項の内容が,それ自体として不合理といえないことも前記のとおりである。
 したがって,控訴人らの主張は採用することができない。
5 本件契約条項は独占禁止法違反として無効となるかについて
(1) 当裁判所も本件契約条項が独占禁止法の観点からして民法90条により無効となるものではないと解するものであり,その理由は原判決…記載のとおりである。
(2) なお,当審における控訴人らの主張にかんがみ,以下のとおり付加的に判断する。
ア 独占禁止法19条に違反した契約の私法上の効力については,原判決も指摘するように,その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として,同条に反するからとの理由で直ちに無効となると解すべきではない。けだし,独占禁止法は,公正かつ自由な競争経済秩序を維持していくことによって一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものであり,同法20条は,専門的機関である公正取引委員会をして,取引行為につき同法19条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し,その違法状態の具体的かつ妥当な収拾,排除を図るに適した内容の勧告,差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによって,同法の目的を達成することを予定しているのであるから,同法条の趣旨にかんがみると,同法19条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである(最高裁昭和52620日第二小法廷判決参照)。
 そして,本件契約条項が公序良俗に反するとはいえないことは前記4のとおりであり,そうすると,当審における控訴人らの共同の取引拒絶に該当するとの主張も含め,控訴人らの独占禁止法違反の主張については採用の限りではない。
 (略)
6 結論
 以上のとおりであるから,控訴人らの請求はいずれも理由がない。
 
よってこれと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。











相談してみる

ホームに戻る