著作権重要判例要旨[トップに戻る]







「公共ノ利害ニ関スル事実」(刑法230条の21項)の意義
「『月刊ペン』事件」昭和560416日最高裁判所第一小法廷(昭和55()273 

 しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決が維持する第一審判決の認定事実の要旨は、「株式会社Aの編集局長である被告人は、同社発行の月刊誌『月刊ペン』誌上で連続特集を組み、諸般の面から宗教法人Bを批判するにあたり、同会における象徴的存在とみられる会長Cの私的行動をもとりあげ、第一 昭和513月号の同誌上に、『四重五重の大罪犯すB』との見出しのもとに、『Cの金脈もさることながら、とくに女性関係において、彼がきわめて華やかで、しかも、その雑多な関係が病的であり色情狂的でさえあるという情報が、有力消息筋から執拗に流れてくるのは、一体全体、どういうことか、ということである。…』などとする記事を執筆掲載し、また、第二 同年4月号誌上に、『極悪の大罪犯すBの実相』との見出しのもとに、『彼にはれつきとした芸者のめかけDがaにいる。…そもそもC好みの女性のタイプというのは、@やせがたでAプロポーシヨンがよくBインテリ風―のタイプだとされている。なるほど、そういわれてみるとお手付き情婦として、二人とも●●党議員として国会に送りこんだというDEも、こういうタイプの女性である。もつとも、現在は二人とも落選中で、再選の見込みは●●党内部の意見でもなさそうである。…』旨、右にいう落選中の前国会議員DB員Fであり、同Eは同会員Gであることを世人に容易に推認させるような表現の記事を執筆掲載したうえ、右雑誌各約3万部を多数の者に販売・頒布し、もつて公然事実を摘示して、右3月号の記事によりC及びBの、4月号の記事によりC、F、G及びBの各名誉を毀損した。」というのであり、第一審裁判所は、右の認定事実に刑法2301項を適用し、被告人に有罪の判決を言い渡した。
 そうして、原審弁護人が、「被告人は、宗教界の刷新という公益目的のもとに公共の利害に関する事実を公表したものであるから、事実の真実性の立証を許さないまま名誉毀損罪の成立を認めた第一審判決は審理不尽である。」旨主張したのに対し、原判決は、被告人の摘示した事実は、Bの教義批判の一環、例証としての指導者の醜聞の摘示であつたにしても、Cらの私生活上の不倫な男女関係の醜聞を内容とすること、その表現方法が不当な侮辱的、嘲笑的なものであること、不確実な噂、風聞をそのまま取り入れた文体であること、他人の文章を適切な調査もしないでそのまま転写していることなどの諸点にかんがみ、刑法230条ノ21項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたらないというべきであり、したがつて、いわゆる公益目的の有無及び事実の真否を問うまでもなく、被告人につき名誉損罪の成立を認める第一審判決は相当である、として右主張を排斥した。
 ところで、被告人が「月刊ペン」誌上に摘示した事実の中に、私人の私生活上の行状、とりわけ一般的には公表をはばかるような異性関係の醜聞に属するものが含まれていることは、一、二審判決の指摘するとおりである。しかしながら、私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法230条ノ21項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合があると解すべきである。
 本件についてこれをみると、被告人が執筆・掲載した前記の記事は、多数の信徒を擁するわが国有数の宗教団体であるBの教義ないしあり方を批判しその誤りを指摘するにあたり、その例証として、同会のC会長(当時)の女性関係が乱脈をきわめており、同会長と関係のあつた女性二名が同会長によつて国会に送り込まれていることなどの事実を摘示したものであることが、右記事を含む被告人の「月刊ペン」誌上の論説全体の記載に照らして明白であるところ、記録によれば、同会長は、同会において、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であつて、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつたばかりでなく、右宗教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動等を通じ、社会一般に対しても少なからぬ影響を及ぼしていたこと、同会長の醜聞の相手方とされる女性二名も、同会婦人部の幹部で元国会議員という有力な会員であつたことなどの事実が明らかである。
 このような本件の事実関係を前提として検討すると、被告人によつて摘示されたC会長らの前記のような行状は、刑法230条ノ21項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたると解するのが相当であつて、これを一宗教団体内部における単なる私的な出来事であるということはできない。なお、右にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきものであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではないと解するのが相当である。
 
そうすると、これと異なり、被告人によつて摘示された事実が刑法230条ノ21項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」に該当しないとの見解のもとに、公益目的の有無及び事実の真否等を問うまでもなく、被告人につき名誉毀損罪の成立を肯定することができるものとした原判決及びその是認する第一審判決には、法令の解釈適用を誤り審理不尽に陥つた違法があるといわなければならず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決及び第一審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。











相談してみる

ホームに戻る