著作権重要判例要旨[トップに戻る]







三次元画像の改変を同一性保持権侵害と認定した事例
「マンモス3DCG事件平成231129日東京地方裁判所(平成22()28962/平成240425日知的財産高等裁判所(平成23()10089 

【コメント】本件は、原告が、「本件書籍」を発行及び頒布した被告に対し、本件書籍の本文中に掲載された「被告各画像」は、原告が「マンモス」の標本のX線CTデータ等を基に3次元コンピュータグラフィックス(以下「3DCG」という。)により作成した著作物である「本件各画像」を原告に無断で一部改変して複製したものであり、かつ、本件書籍の表紙カバーに原告の氏名が表示されていないから、被告による本件書籍の発行及び頒布は、原告が本件各画像について有する著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の侵害に当たる旨主張して、著作権法1121項に基づき、本件書籍から被告各画像を削除しない限り本件書籍の発行又は頒布の差止めを、同条2項に基づき、本件書籍からの被告各画像の削除を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。 

【原審】

 [本件各画像の著作者人格権侵害の成否について]
(1) 同一性保持権侵害の成否
ア 前記で述べたとおり,被告画像1は,本件画像1について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したもの,被告画像2は,本件画像2について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したもの,被告画像3は,本件画像1につき,「<>IHDMI,JikeiUniv,A1」の表示及び黒色の背景を削除し,カラー画像を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を加えて複製したものである。
 そこで,被告が,被告各画像を本件書籍に掲載するに当たり,本件各画像に上記の各改変を加えたことが,原告の意に反するものか否かについて検討する。
() 被告画像1及び2について
 前記で述べたところによれば,本件各画像における色彩は,本件各画像のいずれにおいても,その創作性を基礎づける重要な表現要素の一つを成すものというべきであるから,著作者の承諾なくカラー画像である本件各画像を白黒画像に改変することは,特段の事情のない限り,著作者の意に反する改変(著作権法201項)に当たるものというべきである。
 しかるところ,前記で認定した原告と被告間の交渉経過等によれば,被告から原告に対し,本件各画像を複製して本件書籍の本文中に掲載するに当たっての具体的な掲載態様の説明が行われた事実はなく,当該画像が白黒画像とされることが初めて原告に示されたのは,原告が平成218月末ころに本件ゲラ刷り原稿の送付を受けた時点であることが認められ,また,その後,原告から被告に対し,被告画像1及び2の掲載態様を含む本件ゲラ刷り原稿の内容につき,これを了承する旨の意思が示された事実も認められないことからすると,原告が,被告画像1及び2における本件各画像の改変を承諾していたものと認めることはできない。
 したがって,被告画像1及び2における本件各画像の改変は,本件各画像の著作者たる原告の意に反する改変に当たるものと認められる。
() 被告画像3について
 前記で述べたところによれば,本件画像1における色彩及び色調の明暗は,それぞれその創作性を基礎づける重要な表現要素の一つを成すものというべきであるから,著作者の承諾なくカラー画像である本件画像1を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を行うことは,特段の事情のない限り,著作者の意に反する改変(著作権法201項)に当たるものというべきである。
 しかるところ,前記で認定した原告と被告間の交渉経過等によれば,被告から原告に対し,本件画像1を複製して本件書籍の表紙カバーに掲載することについての説明が行われた事実はなく,原告は,本件書籍が発行されるまで,本件画像1の複製物が本件書籍の表紙カバーに掲載されることを知らなかったものと認められることからすると,原告が,被告画像3における本件画像1の改変を承諾していたものと認めることはできない。
 したがって,被告画像3における本件画像1の改変は,本件画像1の著作者たる原告の意に反する改変に当たるものと認められる。
イ これに対し被告は,図版や学術雑誌等とは異なる通常の単行本である本件書籍の編集上の必要性を根拠として,被告各画像における本件各画像の前記アの各改変が,著作権法201項の適用除外規定である同条24号の「やむを得ないと認められる改変」に当たる旨を主張する。
 しかしながら,前記で認定したとおり,被告各画像の本件書籍への掲載は,原告の許諾なくその著作物たる本件各画像を複製するものであって,原告の著作権の侵害に当たることからすれば,そもそも被告各画像を本件書籍に掲載すること自体が許されない行為であり,その掲載に当たっての編集上の必要性なるものによって,本件各画像の改変が正当化されるべき理由はない
 したがって,被告各画像における本件各画像の上記の各改変は,著作権法2024号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるものではなく,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ 以上によれば,被告各画像を掲載した本件書籍を発行及び頒布する被告の行為は,原告が本件各画像について有する同一性保持権の侵害に当たるものと認められる。
 (略)
 [原告の損害額について]
(1) 不法行為に基づく損害賠償義務
 前記のとおり,被告は,被告各画像を掲載した本件書籍を発行及び頒布したことにより,原告が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(本件各画像についての同一性保持権,本件画像1についての氏名表示権)を侵害したものであり,その侵害について,被告には少なくとも過失があったものと認められるから,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,原告が上記侵害行為により受けた損害を賠償する義務がある。
(2) 著作者人格権侵害による慰謝料
 そこで,被告の上記著作者人格権侵害行為によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額を算定するに,@被告各画像における本件各画像の改変は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素である色彩に関わるものであり,特に,被告画像3における本件画像1の改変は,色彩のみならず,色調の明暗にも及び,改変の程度が大きいこと,A被告画像3を本件書籍の表紙カバーに掲載することについては,事前の交渉過程において,被告から原告への何らの申出もなく,原告は本件書籍の発行によって初めてこれを知ったこと,Bまた,本件書籍の表紙カバーにおける被告画像3の掲載は,被告における本件書籍の販売戦略に寄与する面が大きく,被告は,原告の人格的利益を侵害することによって営業上の利益を得ているものといえること,C更には,本件書籍発行後の原告に対する被告の対応を見ると,原告の正当な権利に基づく抗議に対して,「こうしたあまりに性急な態度は,(会話を録音していたことも含め)最初から問題解決を目的としない単なるクレーマーとの誤解を招きかねませんし,社会常識的にも非礼かと思います。」などと不適切な言辞を用いて原告を非難する書面を送付している事実もあることなど,原告が受けた精神的苦痛が小さなものではないことをうかがわせる事情がある。
 他方で,前記で認定した原告と被告間の交渉経過等によれば,そもそも本件各画像を複製して本件書籍に掲載すること自体については,原告も基本的にはこれを了承する方向で対応し,自ら本件各画像のデータファイルを被告に提供したという経過があり,それにもかかわらず,被告が原告の求めた最終的な確認の手続を怠ったがために紛争に至ったというのが本件の実情であって,その意味で,本件は,全くの第三者による無断の改変の案件とは異なる一面もあるものといえる。
 以上のような諸点に加え,本件審理の経過,その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
 本件事案の性質・内容,本件訴訟に至る経過,本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば,被告の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,20万円と認めるのが相当である。

【控訴審】

 [本件各画像の著作者人格権侵害の成否について]
(1) 同一性保持権侵害の成否
ア 控訴人画像1及び2について
() 前記のとおり,控訴人画像1は,本件画像1について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したもの,控訴人画像2は,本件画像2について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したものである。
() 控訴人は,カラーで掲載することは,許諾の条件にはなっておらず,被控訴人の意に反する改変とはいえないと主張する。
 しかしながら,本件各画像における色彩は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであり,カラー画像である本件各画像を白黒画像に改変することは,著作者の許諾が認められない以上,著作者の意に反する改変(著作権法201項)に当たるものというべきである。
 なお,控訴人から被控訴人に対し,本件各画像を複製して控訴人書籍の本文中に掲載するに当たっての具体的な掲載態様の説明が行われた事実はなく,当該画像が白黒画像によって掲載されることは,被控訴人が平成218月末ころにゲラ刷り原稿の送付を受けた時点で初めて被控訴人に明らかになったものであり,その後,被控訴人から控訴人に対し,これを了承する旨の意思が示された事実も認められない。
 したがって,控訴人画像1及び2における本件各画像の改変は,本件各画像の著作者たる被控訴人の意に反する改変に当たるものと認められる。
イ 控訴人画像3について
 控訴人画像3は,本件画像1につき,「<c>IHDMI,Jikei Univ, Y」の表示及び黒色の背景を削除し,カラー画像を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を加えて複製したものである。
 前記アに述べたとおり,本件画像1における色彩及び色調の明暗は,その創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであるから,著作者の許諾なくカラー画像である本件画像1を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を行うことは,著作者の意に反する改変(著作権法201項)に当たるものである。
ウ 控訴人の主張について
 控訴人は,図版や学術雑誌等とは異なる通常の単行本である控訴人書籍の編集上の必要性を根拠として,控訴人各画像における本件各画像の改変が,著作権法2024号の「やむを得ないと認められる改変」に当たる旨を主張する。
 しかしながら,そもそも,控訴人各画像の控訴人書籍への掲載は,被控訴人の許諾なくその著作物たる本件各画像を複製するものであって,控訴人各画像を控訴人書籍に掲載すること自体が許されない行為であり,編集上の必要性なるものによって,本件各画像の改変が正当化されるべき理由はない
エ 小括
 以上によれば,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行する控訴人の行為は,被控訴人が本件各画像について有する同一性保持権の侵害に当たるものと認められる。
 (略)
 [被控訴人の請求権]
 前記のとおり,控訴人は,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行及び頒布したことにより,被控訴人が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(本件各画像についての同一性保持権,本件画像1についての氏名表示権)を侵害したものである。
 よって,著作権法1121項に基づき,控訴人画像を削除しない控訴人書籍の発行又は頒布の差止めを求める被控訴人の請求は,理由がある。また,同条2項に基づき,控訴人書籍からの控訴人画像の削除を求める被控訴人の請求も,理由がある。さらに,控訴人は,その侵害について,少なくとも過失があったものと認められるから,被控訴人に対し,民法709条に基づき,被控訴人が上記侵害行為により受けた損害を賠償する義務がある。
 [被控訴人の損害額について]
(1) 著作者人格権侵害による慰謝料
 控訴人各画像における本件各画像の改変は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素である色彩に関わるものであること,特に,控訴人画像3については,色彩のみならず,色調の明暗をも改変して,かつ,被控訴人の氏名を表示することなく,控訴人書籍の表紙カバーに掲載したこと,控訴人書籍発行後の対応についても,被控訴人の正当な権利に基づく抗議に対して,不適切な言辞を用いて原告を非難する書面を送付したこと,その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用
 本件事案の性質・内容,本件訴訟に至る経過,本件審理の経過,本件訴訟において認容される請求の内容等諸般の事情に鑑みれば,控訴人の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,20万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
 
以上によれば,被控訴人は,控訴人に対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償として合計50万円及びこれに対する不法行為の後である平成2297日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。











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