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名誉毀損における真実性の証明についての判断の基準時
「北海道新聞‘殴打事件’記事事件
平成140129日最高裁判所第三小法廷(平成8()576 

1 本件は,上告人の発行する新聞紙に掲載された記事が被上告人の名誉を毀損するものであるとして,被上告人が上告人に対して不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟である。原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
1) 上告人は,日刊紙「北海道新聞」を発行する新聞社である。
2) 昭和56813日,米国ロス・アンジェルス市内のホテルにおいて,当時の被上告人の妻甲が何者かに凶器で殴打されて負傷する事件(以下「殴打事件」という。)が発生した。
3) 被上告人は,殴打事件について,殺人未遂罪で起訴され,昭和6287日,東京地方裁判所において有罪判決を受けた。東京高等裁判所は,平成6622日,被上告人の同判決に対する控訴を棄却した。
4) 上告人は,昭和60912日付けの北海道新聞紙に…「本件記事」を掲載した。
 本件記事は,全体として見るときは,被上告人が甲に掛けられた生命保険金を目当てに殴打事件を敢行した犯人であることを推測させる内容であり,被上告人の名誉を毀損する。
 本件記事の掲載は,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
2 原審は,次のように判断して,本件記事の内容が真実であるとは認められないとし,被上告人の請求を一部認容した。
 名誉毀損における真実性の証明は,その行為当時におけるそれであることを要し,かつ,それをもって足りる。本件名誉毀損の成否判断の基準時は,本件記事が掲載された昭和60912日であるから,本件記事内容の真実性の証明も概ね上記掲載当時に存在した資料に基づいてされたものであることを要する。
 殴打事件についての有罪判決は,同年10月に被上告人が起訴された後,昭和628月に刑事第1審判決が出されるまでの間の審理を経て収集された証拠に基づいて下されているから,上記有罪判決の存在をもってしても,本件記事掲載当時においてその内容の真実性の証明がされたことにはならない。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 民事上の不法行為たる名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,上記行為は違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,上記行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない(最高裁昭和41623日第一小法廷判決参照)。
 裁判所は,摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかについては,事実審の口頭弁論終結時において,客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも当然に許されるというべきである。けだし,摘示された事実が客観的な事実に合致し真実であれば,行為者がその事実についていかなる認識を有していたとしても,名誉毀損行為自体の違法性が否定されることになるからである。真実性の立証とは,摘示された事実が客観的な事実に合致していたことの立証であって,これを行為当時において真実性を立証するに足りる証拠が存在していたことの立証と解することはできないし,また,真実性の立証のための証拠方法を行為当時に存在した資料に限定しなければならない理由もない。他方,摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由が行為者に認められるかどうかについて判断する際には,名誉毀損行為当時における行為者の認識内容が問題になるため,行為時に存在した資料に基づいて検討することが必要となるが,真実性の立証は,このような相当の理由についての判断とは趣を異にするものである。
 これを本件について見ると,原審は,真実性の証明はその行為当時におけるそれであることを要するとして,殴打事件の有罪判決が名誉毀損行為後に収集された証拠に基づいて出されていることを理由に,同判決を本件における真実性立証のための証拠とはなし得ないとしているのであり,本件記事に摘示された事実の真実性を認定する際の立証の対象又は立証のための証拠の範囲について,判断を誤ったものであるといわなければならない。
4 以上によれば,原審の判断には,不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,その余の上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,本件を原審に差し戻し,更に審理判断させるべきである。











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