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プライバシー権侵害-否定事例(2)-
「セルロースファイバー記事事件」平成240206日東京地方裁判所(平成23()5864 

【コメント】本件は、原告が、被告風土社の発行した「チルチンびと 別冊安成工務店」(以下「本件雑誌」という。)に掲載された「本件記事」は、被告デコス及び被告安成工務店と競争関係にある原告の営業上の信用を害する事実を告知又は流布し(不正競争防止法2114号)、かつ、原告の氏名権及び肖像権を侵害するものに該当するところ、本件雑誌は、被告デコス及び被告安成工務店の宣伝のため、同被告らの依頼及び資金提供のもとで発行されたものであるから、被告らは、共同して、前記不正競争行為又は氏名権等侵害の不法行為に及んだものであると主張し、被告らに対し、連帯して、不正競争防止法4条に基づく損害賠償及び氏名権等侵害の共同不法行為責任(民法709条、710条及び719条)に基づく損害賠償として所定の金員の各支払などを求めた事案です。

 なお、「前提事実」として、以下参照:

       原告は、平成167月ころ、被告デコスの取締役副社長に就任し、平成215、上記取締役副社長を退任したものである。
       被告デコスは、建築資材の製造販売等を目的とする株式会社であり、セルロースファイバー断熱材をブローイングして充填する方式による住宅断熱施工法(「デコスドライ工法」)に関し、工務店らとの間で施工代理店契約を締結し、ノウハウの開示等の対価として加盟金、ロイヤルティー等を受領するほか、同工法に使用するセルロースファイバー断熱材等を製造し、上記工務店らに販売納入する事業を行っている
       本件記事中には、「デコスでは,メーカーとして断熱材を販売するうえ,施工現場に足を運び,改良や研究を重ねてきた。『どのようにリサイクルできるのか』という工務店側の声に応えた今回の試みの成功から,『エンドレスにリサイクルできますね』とデコス副社長のAさんは語る。」との記載がある。また、本件記事中には、「デコスの副社長であり,日本セルロースファイバー断熱施工協会のAさん(左から2番目),デコスの皆さん。」との説明文の右側に、被告デコス従業員と並んで立っている原告の写真(横約5p/縦約3pの人物写真の中に、原告の全身が横約1p/縦約3pの大きさで、そのうち顔の部分については5o前後の大きさで写っているもの。)が掲載されている。
 ・  被告デコスは、平成229月、原告に対し、「平成22823日,貴殿が,『地産エコ断熱協会』なる団体を立ち上げ,セルロースファイバー断熱材の製造機械の販売,及びかかる断熱材を用いた施工のノウハウの提供を内容とする営業活動を開始するとの新聞報道がなされました。…このような事態は,大変遺憾であります。なぜならば,弊社及び弊社の施工代理店と弊社元取締役である貴殿による営業活動が,早晩,市場において競合することになるからです。」と記載し、原告がセルロースファイバー事業に関するノウハウの提供等を行うことは、被告デコスの特許権侵害、原告と被告デコスとの間の業務委託契約上の秘密保持義務違反、不正競争防止法217号所定の不正競争行為に該当すること、平成229月に「地産エコ断熱協会」主催により開催された事業説明会において原告が被告デコス在任当時に撮影した写真を使用したことが被告デコスの著作権を侵害することなどを記載した「ご連絡」と題する書面を送付した。 


 本件記事は原告の氏名権又は肖像権を侵害するものかについて
(1) 氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,その人格の一部になっているものであるから,人は他人に自己の氏名を無断で使用されないことについて不法行為法上の保護を受け得る人格的な利益を有するものというべきであり(最高裁昭和63216日第三小法廷判決),他人が氏名を無断で使用し,これによってその氏名を有する者の利益が害され,それが違法と評価されるときは,その行為は氏名権を侵害するものとして不法行為に該当することとなる。
 また,人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないこと及び自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有し(最高裁平成171110日第一小法廷判決),他人がみだりに写真を撮影し,公表することにより,その者の利益が害され,それが違法と評価されるときは,その行為は肖像権を侵害するものとして,不法行為に該当することとなる。
 そして,氏名の使用や撮影された写真の公表が違法といえるか否かは,被侵害利益の程度や侵害行為の態様を総合考慮して,その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるか否かを判断して決すべきである(前掲最高裁平成171110日判決参照)。
(2)ア そこで,本件についてみると,前記前提事実のとおり,本件記事は,原告の氏名をその本文及び写真説明文中に各1回使用し,かつ,原告の容ぼうの写った写真1枚を掲載したものであることが認められる。また,被告らが,本件記事の掲載に当たり,原告から上記氏名及び肖像の利用に関し承諾を得ていないことについては当事者間に争いがない。
 しかし,本件記事が平成2031日に発行された本件原記事を本件雑誌に再掲載したものであることは前記前提事実のとおりであり,原告は,本件原記事の掲載に当たっては,氏名及び肖像の利用を承諾していたものと認められる。そして,前記前提事実のとおり, 被告風土社は,平成16年ころから,設計事務所や工務店等からの依頼を受けて,雑誌「チルチンびと」本誌及び別冊の既刊記事の中から,上記依頼に係る設計事務所等に関する記事を抜き出してまとめ,広告用冊子として発行する業務を開始していたというのであるから,原告は,本件原記事への氏名及び肖像の掲載を上記のとおり承諾するに当たり,同記事が再掲載される可能性があることを認識することが可能であったものと考えられる。また,本件原記事は,被告安成工務店らの進める事業プロジェクトを取材し,その内容を肯定的な表現により紹介するというものであって,このような内容の記事が公刊された場合,当該企業の宣伝広告のため,同企業が,事後に当該記事を利用することがあり得ることは,当然に予測し得るものであるということができる。
 そうすると,原告は,本件原記事における氏名及び肖像の利用を承諾するに当たり,少なくとも,原告が被告デコスにおける勤務を継続する限りは,本件原記事が再掲載され,又は,事後に,被告安成工務店らの宣伝広告のため,本件原記事が利用される可能性があり得ることを前提に,上記可能性を含めて承諾していたものと解するのが相当である。
イ もっとも,本件雑誌は,原告が被告デコスの取締役を退任し,同被告と競業する事業を開始した後に発行されたものであり,その記事本文において,原告が被告デコスの副社長として被告デコスの工法を評価する旨の記載がされ,同様の肩書の記載により紹介された原告の写真が掲載されているのであるから,本件雑誌の発行時点においては,原告の肩書について事実に反する記事を掲載すること及びその写真を掲載することを原告が当然に承諾していたものとみることはできない。
 しかし,仮に,原告が本件記事の掲載を承諾していたものとみることができないとしても,本件においては,その掲載された記事の内容は原告の承諾を得て既に発行されたことのある「チルチンびと」の記事と同内容の記事をそのまま抜粋して掲載したものにすぎない。
 また, 争点(1)に関する判断でみたとおり, 原告は,地産エコ断熱協会の事業活動に関して活動するに当たり,被告安成工務店らと無関係であることを強調するなどの行動を取っておらず,むしろ,被告安成工務店らとの関連性が依然として存続していることをうかがわせるような書籍を配布するという行動を取っているものであり,その自ら配布していた書籍の奥付には,原告の経歴について,その末尾に「()デコス取締役副社長」との表示が,あたかも原告が現在その職にあるとみられるような態様で記載されているのである。そうすると,本件雑誌に,原告の氏名及び写真が掲載され,そこに「デコス副社長A」との記載があったとしても,それは原告が本件雑誌の発行のころ,自ら積極的に配布していた書籍における記載と内容が異なるものではないのであるから,この点からみても原告の不利益が大きいものということはできない。
 さらに, 掲載された写真の大きさは前提事実のとおりであって,写真についての説明文を見なければ原告であるかどうかも識別が難しい程度の大きさのものにすぎない。
 以上の事実に照らすと,本件記事の掲載によって原告の人格的利益が侵害される程度は小さいものといわざるを得ない。
 他方,被告らが,本件雑誌の作成を企画したのは,平成223月ころのことであって,原告が地産エコ断熱協会の事業についての関与を始めた同年8月ころより前のことであって,被告らが地産エコ断熱協会の事業に何らかの影響を与えるために企画したものとは認められない。また,本件雑誌において原告に関する記事が掲載されているのは76頁と77頁の2箇所のみであり,それらはいずれも既に発行されたことのある「チルチンびと」の記事から抜粋されたものにすぎず,そのうち,76頁の原告の写真は前記のとおりの大きさであって,その写真からだけでは直ちに原告であるか否かを判別できない程度の態様での使用である。また,77頁の「デコス副社長のAさん」との記載は,「エンドレスにリサイクルできますね。」というデコス工法の利点を評価した発言の主体として記載されているものであるが,その発言内容は短いものであり,前記原告が自ら配布している書籍の記載内容等に照らせば,その発言の主体として原告の氏名及び旧肩書きが表示されたとしても,原告に大きな不利益を与えるような態様での使用とはいえない。
 そうすると,本件記事のうち,原告を,被告デコスの副社長として,その写真を掲載し,また,その氏名を紹介する部分が,本件雑誌の発行の時点において事実に反するものとなっており,被告らはこの点についてより慎重な配慮をすべきであったとはいえるとしても,上記のとおりの事実関係に照らせば,原告が侵害された利益は小さいものであり,他方,被告らの侵害の態様も害意に基づくなどの悪質なものとはいえず,その侵害内容も限定されたものであって,被告らによる,原告の氏名権,肖像権の侵害は社会的に受忍すべき限度を超えるものということはできず,被告らの行為を違法なものと評価することはできないものというべきである。
(3) したがって,本件記事における原告の氏名及び肖像の利用は,原告の氏名権及び肖像権を侵害する違法な行為であるとはいえず,これに反する原告の主張は採用できない。











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