著作権重要判例要旨[トップに戻る]







1131項関係(7)-「情を知って」の意義-
「‘北朝鮮の極秘文書’書籍事件」平成240910日知的財産高等裁判所(平成24()10022等) 

2 事案の概要
1 原告は,次の原告書籍につき編集著作物の著作権を有すると主張し,韓国の高麗書林名義で出版された次の韓国書籍について,原告に無断で原告書籍の一部を掲載したものであり,被告らが韓国の高麗書林と共謀して同書籍を製作・販売したことにより著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたなどと主張して,被告会社と,韓国書籍が出版された当時の被告会社の代表取締役であった被告Yに対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得返還を請求する(本訴事件)。
 (略)
 これに対し,被告らは,原告の執筆した日刊・大阪日日新聞の記事や,原告が朝鮮史研究会の会場において来場者に配布したビラ等に,被告らが原告書籍を無断で盗用し,著作権侵害の海賊版(韓国書籍)を製作・販売したかのような内容が記載されていることによって,名誉及び信用を毀損されたと主張して,謝罪広告の掲載と不法行為に基づく損害賠償を求めている(反訴事件)。
2 原判決は,本訴につき,多数の文書を収録した部分(原告書籍収録文書)と原告が執筆した解説文(原告書籍解説)からなる原告書籍に関して,原告書籍収録文書が編集著作物であることと,韓国書籍の解説文が原告書籍解説の翻案であることを認めた上で,被告らには韓国書籍を販売したことについて過失があるとして譲渡権侵害の不法行為を認め,30万円の限度で請求を認容した。反訴については,記事等の内容が真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえないとして,損害賠償請求を各33万円の限度で認容し,謝罪広告請求はその必要がないとして棄却した。
 (略)
4 当裁判所の判断
1 原告書籍収録文書の編集著作物該当性,翻案権侵害の有無,著作者人格権侵害の有無について
(1) 当裁判所も,原告書籍収録文書は編集著作物であって,韓国書籍収録文書は原告書籍収録文書の複製物に当たり,また,韓国書籍解説は原告書籍解説の翻案権を侵害するものと判断する。その理由は,原判決…のとおりである。
(2) …によれば,韓国書籍には,原告書籍の著作者である原告の氏名が表示されておらず,また,韓国書籍の解説文は,原告書籍解説から,原判決別紙「原告書籍解説から削除した部分一覧表」記載の点を削除したものであることが認められる。
 したがって,韓国書籍は,原告の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)についても侵害するものである。
2 被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したかについて
(1) …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
(2) 原告は,被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したと主張する。そして,上記(1)のとおり(特に,後記3(2)で摘示する事実のとおり),被告らと韓国高麗書林との深い関係を示す多数の間接事実が認められる。しかしながら,被告らが,韓国書籍の製作について,韓国高麗書林と共謀,共同,協力等をしたことに関する具体的な事実を認定するに足りる証拠はない。また,上記認定事実によれば,Bは,韓国書籍が出版される前の平成104月に,ソウル市内で原告書籍の貸出しを受けており,かつ,長年にわたって韓国の書籍の輸出や韓国高麗書林名義での書籍の出版を営んできた者である。このような事実と,日本で発行された書籍の無断複製本を韓国で製作するに当たっては,日本の書籍の存在及びその内容を知り,複製用に書籍を入手する必要があるものの,このような情報及び書籍の入手等の作業は,必ずしも被告らの助けがなくても可能であること,無断で翻案したことが発覚しないように,著作者が判明しないよう原告書籍解説を改変する作業も被告らの協力を必須とするものではなく,日本語を韓国語に翻訳する能力を有する者であれば特殊な能力がなくても可能であると考えられることなどを併せ考慮すれば,上記のとおり多数の間接事実が認められることを考慮したとしても,被告らが韓国高麗書林と共謀するなどして韓国書籍を製作したとまでは認められない。
 (略)
(3) したがって,韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したことを原因としては,被告らが,原告の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したと認めることはできない。
3 被告らが著作権等侵害の「情を知って」韓国書籍を販売したか(著作権法11312号)について
(1) 韓国書籍が原告書籍の複製権及び翻案権を侵害し,また,原告の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)も侵害するものであることは,上記1で判示したとおりである。
(2) 上記2(1)で認定した事実関係,特に,被告YとBとは兄弟であること,Bが創業した高麗図書貿易と被告会社との取引が長期にわたっていること,被告会社は,Bの営む韓国高麗書林による不二出版書籍無断複製本の発行に先立ち,これと近接した時期に不二出版書籍を購入していること,その後,被告会社が不二出版書籍無断複製本を韓国から輸入していることなどを総合すると,被告Y及び同被告が代表取締役であった被告会社は,遅くとも不二出版書籍無断複製本を輸入した時点で,それが不二出版書籍の著作権を侵害するものであること,すなわち,韓国高麗書林が,数年にわたり,複数の日本の書籍の著作権を侵害する無断複製本を発行し続けていることを認識していたものと認められる。これらの事実関係に加え,被告YとBとの関係が決裂したと被告らが主張する平成元年以降も,韓国高麗書林が不二出版書籍無断複製本のうち朝鮮軍概要史の表紙に被告会社と同一のロゴを使用し,また,被告会社が不二出版書籍無断複製本の輸入を継続し,同じく韓国高麗書林が発行する韓国書籍についても輸入・販売していることなどの諸事情を併せ考慮すると,被告Y及び同被告が代表取締役であった平成15430日までの被告会社は,本件の韓国書籍についても不二出版書籍無断複製本と同様に,韓国高麗書林が著作者に無断で複製及び翻案したことを知り,当該著作者の著作権及び著作者人格権についても侵害する行為によって作成した物であることを認識した上で,これを輸入・販売していたと認めるのが相当である。さらに,被告Yが代表取締役を退任した平成15430日より後の被告会社の行為についても,代表取締役が被告Yの子たるAであり続けたこと,そのAは平成81127日(韓国書籍の輸入・販売よりも前である。)から平成15430日までの間も被告Yと共に同社の代表取締役であったこと,代表取締役を退任した被告Y自身,その後も同社のいわゆる会長であり続けたことなどの事実を総合すると,平成15430日までと同様に,韓国書籍について,韓国高麗書林が他人の著作権及び著作者人格権を侵害する行為によって作成した物であることを認識した上で,これを輸入・販売していたと認めるべきである。
(3) したがって,韓国書籍の輸入・販売に係る著作権法11312号に基づく権利侵害についての原告の主張は理由がある。なお,この権利侵害に基づく請求と選択的併合の関係にあると理解される譲渡権侵害の請求については判断しない
4 消滅時効の成否について
 被告らは,原告が,平成1444日,同年81日ころ,平成17723日のいずれかの時点において,被告らが原告書籍の著作権及び著作者人格権の侵害による損害の発生と加害者について認識していたので,消滅時効が完成した旨主張する。
 しかしながら,著作権法11312号に関しては,単に侵害品を販売したというだけでは侵害とみなされず,「情を知って」販売した場合に初めて侵害とみなされるのであるから,単に侵害品が販売されている事実を認識しただけで権利行使が可能になったということはできない。そして,被告らの主張する時点において,被告らが「情を知って」販売したことまで原告が認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,同条項に係る請求権の時効消滅に関する被告らの主張は理由がない。
5 原告の損害について
(1) 著作権侵害による損害
ア 逸失利益について
 …によれば,@原告書籍は,平成8年に初版が50冊発行され,定価が268000円(税込)とされたこと,A原告書籍は,原告がコピー機で印刷を行い,その他の作業や販売をあゆみ印刷工芸社や夏の書房に依頼したため,売上高10272426円に対して,夏の書房への支払額が定価の10%,あゆみ印刷工芸社等への支払額が3751205円であり,その他にコピー機のリース料やメンテナンス料(月額で24025円程度)を支払った残額が原告の利益となること,B被告会社は,平成10年夏ころから平成16122日にかけて,韓国書籍を21セットのほか,ばら売りで1セットのうち5冊販売したことが認められる。
 上記@,Aの事実によれば,原告は,コピー機を使用して初版50冊を印刷したものであるところ,50冊程度の印刷にさほど多くの時間は要しないと考えられること,コピー機は他の用途にも用いることができる汎用の機械であることを考慮すると,原告書籍の売上高10272426円に占める原告の利益は,10272426円×(10.1)−3751205円=5493978円からコピー代の実質と推認すべき1万円を控除した5483978円となる。
 したがって,著作権法1141項に基づく損害額は,次のとおり,3123759円となる。
 268000円×5483978円/10272426円×(2156)セット=3123759
イ 実損及び慰謝料について
 当裁判所も,原告の主張する実損及び慰謝料(著作権侵害に係るもの)については認められないものと判断する。その理由は,原判決…のとおりである。
ウ 弁護士費用について
 原告が弁護士を選任して本件訴訟を追行していること,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は31万円と認める。
(2) 著作者人格権の侵害による慰謝料
 韓国書籍に原告の氏名が表示されておらず,また,韓国書籍の解説文が原告書籍解説の一部を削除したものであることは,上記1(2)で判示したとおりであるが,他方で,…によれば,原告書籍は,米国国立公文書館等に所蔵された文書を収録した合計約1500頁の原告書籍収録文書と,合計18頁の原告書籍解説からなるものであり,韓国書籍に収録された文書とその掲載順序は,原告書籍収録文書と同じであることが認められる。このように,原告書籍の大部分は公文書館に収蔵された資料を収録したものであること,その資料収録部分と同じ資料がそのまま韓国書籍に掲載されており,原告書籍から削除されたのは18頁の原告書籍解説部分の一部分にとどまること,その他本件に現れた一切の事情を総合すると,原告の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は,20万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
 
したがって,被告らは,原告に対し,上記(1)ア及びウ並びに(2)の合計額である3633759円及びこれに対する被告会社が韓国書籍を販売した最後の日である平成16122日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払う義務がある。











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