著作権重要判例要旨[トップに戻る]







社交ダンスの振付けの著作物性
「『Shall we ダンス?』振付け二次利用事件」
平成240228日東京地方裁判所(平成20()9300 

【コメント】本件は、映画「Shall we ダンス?」のダンスシーンで用いられたダンスの振り付けを創作したと主張する原告が、被告による上記映画のビデオグラムの販売・貸与、テレビでの放映等の二次利用によって原告の有する上記ダンスの振り付けに係る著作権(複製権、上映権、公衆送信権及び頒布権)が侵害されたと主張して、被告に対し、損害賠償等を請求した事案です。 

 本件映画のダンスの振り付けに著作物性が認められ,同振り付けが本件映画に複製されているといえるかについて
(1) …によれば,次の事実が認められる。
ア 社交ダンスとは,競技ダンスとパーティーダンス(ダンスパーティーなどで踊られるダンス)を含む概念である。競技ダンスは,ダンスのステップ(2歩以上の足の運び方の組合せのことをいう。社交ダンスの用語では,「フィガー」ないし「フィギュア」ともいうが,以下,当事者の主張にならい「ステップ」という言葉を用いる。)を適宜自由に組み合わせて踊り,その技術の高さを競い合う競技(スポーツ)であり,モダン(スタンダードともいう。)5種目(ワルツ,タンゴ,スローフォックストロット,クイックステップ,ヴェニーズワルツ)とラテン5種目(チャチャチャ,サンバ,ルンバ,パソドブレ,ジャイブ)のダンスから成るものである。パーティーダンスは,パーティーなどにおいて即興で踊られるダンスで,原則として,基本的なステップをつなげて踊られるものである。パーティーダンスでは,ブルース,スクエア・ルンバ,マンボ,ジルバ等のダンスも踊られる。
 社交ダンスには,様々なステップがある。社交ダンスの基本となるステップは,Imperial Society of Teachers of Dancing(以下「ISTD」という。)が発行する社交ダンスの教科書である「The Ballroom Technique」や,ISTDのラテン・アメリカン・ダンス委員会が監修する各ラテン種目の教科書などに掲載されている(以下,これらの社交ダンスの教科書(以下,単に「教科書」という。)に掲載されているステップを「基本ステップ」という。)。
 
また,基本ステップ以外にも,メダルテスト,競技会,デモンストレーション等で広く一般に使用されるようになったステップも数多くあり,このようなステップの一部はISTDの元会長であるDが著作した「ポピュラーバリエーション」に掲載されており(以下,ポピュラーバリエーションに掲載されているステップを「PVのステップ」という。),これに掲載されていないステップも数多くある。
 社交ダンスは,原則として基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであるが,競技ダンスでは,基本ステップを構成する諸要素にアレンジを加えて踊ることは一般的に行われており,また,ある種目の基本ステップを,種目を超えて用いることも一般的に行われている。さらに,他の種類のダンスの動きを参考にするなどして,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることも行われている。
 社交ダンスの振り付けとは,このような既存のステップを選択して組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことをいう。
イ 原告は,本件映画のダンスシーンで用いられた本件振り付けを考案し,原告自ら,又は他のダンス教師を通じて,役者らに上記振り付けを教授し,役者らは,上記振り付けをそれぞれのダンスシーンで演じた。
ウ 本件映画は,アマチュアの社交ダンスを題材とした映画であり,原告が考案した本件振り付けに関連する映像が現れるシーンは,ダンス教室でのレッスンのシーン,ダンスサークルのダンスパーティーのシーン,ダンスホールでのダンスのシーン,アマチュアダンスの競技会のシーン,ブラックプールでの競技会のシーン及びダンスホールでのダンスパーティーのシーンである。
(2) 社交ダンスの振り付けの著作物性について
社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであることは前記(1)アのとおりであり,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは,ごく短いものであり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから,これらに著作物性は認められない。また,基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり,前記のとおり基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと,基本ステップにアレンジを加えたとしても,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない
 社交ダンスの振り付けにおいて,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあることは前記(1)アのとおりであるが,このような新しいステップや身体の動きは,既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当でない
 以上によれば,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には,著作物性は認められないというべきである。
イ 前記(1)アのとおり,社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。
ウ 以上を前提に,以下,本件振り付けの著作物性について判断する。
(3) 符号1ないし21の振り付け,又は符号1ないし21の振り付けのうち本件映画に再製されていると認められる部分に,著作物性が認められるか
ア 符号1の振り付けについて
 (略)
ニ 以上のとおり,符号124151618ないし21の振り付けに著作物性は認められず,また,符号35ないし911ないし1417の振り付けのうち,本件映画に再製されていると認められる部分の振り付けに著作物性は認められない。そして,符号10の振り付けは,本件映画に再製されているとはいえない。
 なお,原告は,本件振り付けと本件映画で使用されている音楽が調和していることも,本件振り付けに著作物性が認められることの根拠として主張しているが,振り付けが音楽と調和するか否かは,振り付け自体の著作物性の判断を直ちに基礎付けるものではないから,原告の上記主張は,本件振り付けの著作物性についての上記判断を左右するものではない。
 よって,原告の符号1ないし21の振り付けの著作権(各符号の振り付け自体の著作権)に基づく主張は,いずれも理由がない。
(4) 原告が主張する振り付けの組合せに著作権が認められるか
ア 原告が主張する同時に踊られるダンスシーン相互の組合せについて
() 原告は,符号18ないし20の振り付けの組合せについての著作権を主張する。
 符号18ないし20の振り付けのいずれにも著作物性が認められないことは,上記(3)のとおりである。そして,これらの振り付け自体に,原告が主張するそれぞれの振り付けの印象が表現されているとは認められず,著作物性のないこれらの振り付けの組合せによって独創性が認められるほどの顕著な特徴を有することになるということも困難である。
 よって,原告の,符号18ないし20の振り付けの組合せについての著作権の主張は失当である。
() 原告は,符号12ないし14の振り付けの組合せについての著作権を主張する。
 符号12ないし14の振り付けは,その一部分しか本件映画に再製されておらず,再製されていると認められるいずれの部分についても,著作物性が認められないことは,上記(3)のとおりである。そして,符号12ないし14の振り付けのうち再製が認められる部分自体に,原告が主張するそれぞれの振り付けの印象が表現されているとは認められず,著作物性が認められない振り付けの一部分の組合せによって,独創性が認められるほどの顕著な特徴を有することになるということも困難である。
 よって,原告の,符号12ないし14の振り付けの組合せについての著作権の主張は失当である。
 なお,原告は,符号12の振り付けと符号13の振り付けの創作性に関し,マッチョとまりかのペアが青木のかつらをずらす場面は,原告が事前に動きを計算して振り付けをしたからこそ実現できたものであると主張する。しかし,上記のかつらをずらす動きはC監督のアイデアであり,そのアイデアを表現する手段である符号12の振り付けと符号13の振り付けのうち,本件映画への再製が認められる個々の部分には著作物性が認められず,再製が認められる部分の組合せにも著作権が認められないのは上記のとおりであり,これにかつらをずらすという単純な動きが加わったとしても,これによって著作物性が発生するものでないことは明らかである。
 (略)
ウ 以上のとおり,原告の振り付けの組合せによる著作権の主張は,いずれも理由がない。











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