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未完成のフィギュア原型の出来高に係る請負代金請求権の有無が問題となった事例
「未完成のフィギュア原型請負代金等請求事件」
平成240515東京地方裁判所(平成22()17142/平成241017知的財産高等裁判所(平成24()10051 

【コメント】本件は、被告からフィギュア(アニメーションの人気キャラクターの像)の原型の製作を請け負った原告が、被告に対し、原告の製作に係る未完成のフィギュアの原型の出来高について請負代金を請求し、また、被告が原告を欺き原告から製作途中のフィギュアの原型を取り上げたこと、その取り上げた原型を廃棄したこと及び被告が第三者に対し原告が一方的にフィギュアの製作業務を放棄した等と虚偽の事実を告げて原告の名誉、信用を毀損したことが不法行為に当たるとして損害賠償を請求した事案です。 

【原審】

2 原告の被告に対する本件各請負契約に基づく,本件各物件の出来高に係る請負代金請求権の有無について
(1) 本件請負契約1について
ア 前記…のとおり,被告代表者は,平成22312日,原告に一方的に被告の仕事を辞めるようにと告げており,これは,本件各請負契約の注文者である被告が原告に対し解除権(民法641条)を行使したものということができる。このように,本件各請負契約は本件各物件が完成する前に解除されているものの,前記…及び後記イ,(2)アによれば上記解除の時点において,本件各物件の製作は相当程度進行していたことが認められるのであり,このような場合においては,既に製作された部分に対する請負契約の解除は許されず,請負人である原告は,被告に対し,本件各請負契約が解除された時点における本件各物件の完成度に応じた出来高に係る請負代金請求権を有すると解するのが相当である。
 これに対し,被告は,原告が製作した本件各物件は,版権元や玩具メーカーの監修を経ていないから経済的な価値は認められないと主張する。しかしながら,本件各物件は,玩具メーカーのフィギュアの原型であり,その製作が途中までしか進行していないものであっても,その後さらに手を加えることによって利用することも可能なものであるから,版権元等の監修を経ていないからといって,経済的な価値がないものということはできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 平成22312日の時点における本件物件1の完成度について
 上記アのとおり,本件請負契約1は,平成22312日に解除されているため,この時点における本件物件1の完成度について検討する。
() フィギュアの原型の製作過程一般について
 …によれば,フィギュアの原型の製作過程について,次の事実が認められる。
 まず,①フィギュアの設定のイラスト等の資料を見ながら,設定と同じポーズの大まかな形を作り,体全体のバランスを整える。次に,②裸体の状態で体の各部分を作り込む。③裸体の状態がおおむね完成したら,服や髪の毛などのパーツを取り付けていき,さらに細部を作り込んでいく。その後,④版権元の監修を受け,さらに細部の修正を行い,表面処理を行って完成に至る。
() …によれば,本件物件1は,平成22310日の時点において,服,髪の毛,マント,武器などの各パーツが取り付けられた状態まで製作が進んでおり,全体の印象としてはバンプレストのラフイラストや設定の資料に沿った,キャラクターの特徴を捉えたものとなっていたこと,もっとも,それぞれのパーツはまだ細部の作りが粗く,手袋,ベルトの金具,脚部の長方形のパーツ,靴のリボンなどいまだ製作がされていないものもあり,武器についても刃の反対側の突起の部分や下端の突起の部分が製作されておらず,さらに細部について作り込まれることが必要な状態であったこと,また,原告は,同日から翌11日のバンプレストへの訪問に備え,さらに本件物件1の製作を進めていたことが認められる。
 そして,前記…のとおり,同月11日にバンプレストの担当者は,本件物件1について,表情の修正や下半身を太くすることを求めていたものである。
 以上を踏まえると,平成22312日の時点において,本件物件1は,上記()のフィギュアの原型の製作過程の③の段階に入っていたといえるが,表情の修正や下半身を太くすることが求められていることや,各パーツの製作やさらなる細部の作り込みが必要であったことに照らすと,上記時点における本件物件1(一つの武器を持つ原型本体)の完成度は7割と認めるのが相当である。
 なお,原告は,形状の異なる武器の先の製作も請け負っていたが,上記時点において,この武器の先が製作されていたことを認めるに足りる証拠はない。
 (略)
ウ 本件物件1の出来高に係る請負代金について
() 原告と被告との間で,本件請負契約1について請負代金の額が合意されていたことを認めるに足りる証拠はない。
() 前記…のとおり,被告が最終的にバンプレストに納入した本件物件1に関し,原型本体につき60万円,二つの武器につき20万円(一つの武器につき10万円)が支払われていた。また,上記…のとおり,被告に所属する原型師は,玩具メーカーから被告に支払われる代金の8割の金額を被告から支払われている。そして,上記イのとおり,平成22312日の時点で,原型本体と一つの武器から成る本件物件1の完成度は,7割であったと認められる。
 以上の事情を総合すれば,原告が製作した本件物件1の平成22312日の時点における出来高に係る請負代金の額は,392000円((60万+10万)×0.8×0.7)と認めるのが相当である。
エ よって,原告は,本件請負契約1に基づき,被告に対し,本件物件1の出来高に係る請負代金として,392000円を請求することができる。
(2) 本件請負契約2について
ア 平成22312日の時点における本件物件2の完成度について
() 前記…のとおり,本件請負契約2は,平成22312日に解除されているため,この時点における本件物件2の完成度について検討する。
() …によれば,本件物件2は,平成22312日の時点において,服,髪の毛,メガホンなどの各パーツが取り付けられた状態まで製作が進んでおり,全体の印象としてはセガの企画書や画像資料に沿った,キャラクターの特徴を捉えたものとなっていたこと,もっとも,それぞれのパーツはいまだ細部まで作り込んだものとはなっておらず,頭部のリボン,腕章などいまだ製作がされていないものもあったことが認められる。また,この時点において,本件物件2の発注に含まれていた交換用腕パーツが製作されていたことを認めるに足りる証拠はない。以上を踏まえると,平成22312日の時点において,本件物件2は,上記(1)()のフィギュアの原型の製作過程の③の段階に入っていたといえるが,各パーツの製作やさらなる作り込みが必要であったこと,交換用腕パーツが製作されていなかったことをも併せ考慮すると,上記時点における本件物件2の完成度は7割と認めるのが相当である。
イ 本件物件2の出来高に係る請負代金について
 原告と被告との間で,本件物件2の請負代金について明確な合意がされたことを認めるに足りる証拠はないものの,前記…のとおり,被告は,セガから提示された本件物件2の製作代金が52万円であることを原告に口頭で伝えている。また,前記…のとおり,被告に所属する原型師は,玩具メーカーから被告に支払われる代金の8割の金額を被告から支払われている。そして,上記アのとおり,平成22312日の時点での本件物件2の完成度(原型本体と交換用腕パーツを併せた全体の完成度)は,7割であると認められる。
 以上の事情を総合すれば,原告が製作した本件物件2の平成22312日の時点における出来高に係る請負代金の額は,291200円(52万×0.8×0.7)と認めるのが相当である。
ウ よって,原告は,本件請負契約2に基づき,被告に対し,本件物件2の出来高に係る請負代金として,291200円を請求することができる。
(3) 本件各請負契約に基づく本件各物件の出来高に係る請負代金請求権のまとめ
 以上によれば,原告は,被告に対し,本件各請負契約の出来高に係る請負代金として合計683200円及びこれに対する平成22313日(本件各請負契約が解除され,原告が被告に対し本件各物件を引き渡した日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求することができる。
3 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無について
(1) 原告は,①被告が本件各請負契約を平成22312日に解除した際に原告に本件各物件の引渡しを求めたことが,詐欺の不法行為に当たり,②被告が,原告が製作した本件各物件を廃棄したことが不法行為に当たると主張する。
 しかしながら,前記…で認定したとおり,原告は,被告から本件各物件の製作をやめるよう告げられて本件各請負契約を解除された際,本件各物件の製作に係る工賃の支払を被告に求め,支払を拒絶されたものの被告の求めに応じて製作途中の本件各物件を被告に引き渡していることに加え,原告が本件訴訟において被告に対し本件各物件の出来高に係る請負代金の請求をしているのであり,このような事実関係の下では,本件各物件の所有権は,上記引渡しの時点において,被告に移転したものと解するのが相当である。そうである以上,被告が本件各物件の引渡しを受けたことや,引渡しを受けた本件各物件を廃棄したことは何ら違法ではなく,原告に対する不法行為が成立する余地はないというべきである。
 したがって,原告が主張する上記不法行為に係る損害賠償請求は理由がない。
(2) 被告による原告の名誉,信用毀損に基づく慰謝料請求権について
ア 被告が,①平成223月中旬ころ,バンプレストの担当者に対し,原告が一方的に本件物件1の製作業務を放棄したと告げたこと,また,②平成223月中旬ころ,セガの担当者に対し,原告が一方的に本件物件2の製作業務を放棄したと告げたことは,当事者間に争いがない。
 しかしながら,前記…のとおり,本件各請負契約は,被告の解除権の行使によって終了したものであり,原告は被告に対し,本件各物件の製作を終えたら被告の仕事を辞めたいと述べていたにとどまるのであって,原告が本件各物件の製作業務を一方的に放棄したということはできない
 したがって,被告が上記①,②の各事実をバンプレストの担当者やセガの担当者に告げたことは,原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉,信用を毀損するものであるということができる
 そして,上記名誉,信用毀損行為の態様等に照らすと,これらの名誉,信用毀損行為によって原告が被った精神的損害に対する慰謝料額は,10万円とするのが相当である。
 よって,原告は,被告に対し,上記名誉,信用毀損行為の慰謝料として10万円を請求することができる。
イ 被告は,被告によるバンプレストやセガへの説明は正当な業務行為であり,違法性がないと主張するが,上記アのとおり被告は事実と異なった内容を各社に伝えているため,その説明が正当な業務行為に当たるとはいえない。
 (略)
(3) 弁護士費用について
 原告は,弁護士を選任して本件訴訟を追行しており,本件事案の内容,認容額,訴訟の経過等を考慮すると,上記(2)の名誉,信用毀損行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,1万円が相当と認められる。
(4) 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権のまとめ以上によれば,原告は,被告に対し,名誉,信用毀損行為に基づく損害賠償として,11万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成221224日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。

【控訴審】

 
当裁判所も,①被控訴人の控訴人に対する本件各物件の完成度に応じた出来高に基づく請負代金請求については,合計683200円及びこれに対する平成22313日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,②被控訴人の控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求については,名誉,信用毀損行為に係る慰謝料10万円及び弁護士費用相当損害金1万円の合計11万円並びにこれに対する平成221224日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由があるものと判断するが,被控訴人のその余の請求は,当審で追加された予備的請求を含めて理由がないものと判断する。その理由は,後記のとおり原判決を訂正し,後記のとおり付加するほかは,原判決…記載のとおりであるから,これを引用する。











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