著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権譲渡の黙示の合意の成立を否定した事例(12)
「幼児教育教材文庫シリーズ挿絵事件」平成240329日東京地方裁判所(平成23()8228 

【コメント】本件における原告らは、いずれも画家であり、被告が平成17年に発行した「本件第1書籍」の挿絵に用いられている絵画(以下「本件第1原画」という。)、及び、被告が平成20年に発行した「本件第2書籍」の挿絵に用いられている絵画(以下「本件第2原画」という。)の著作者です。
 本件は、原告らが、@被告は、原告らに無断で本件第1書籍を増刷し、増刷した書籍を販売しており、本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害している、A上記のような被告の態度に照らすと、被告は、本件第2書籍についても、今後、原告らに無断でこれを増刷し、本件第2原画に係る原告らの著作権(複製権)を侵害するおそれがある、と主張して、被告に対し、著作権(複製権ないし譲渡権)に基づき、本件第1書籍の印刷、出版、販売又は頒布の差止め及び本件第2書籍の印刷、出版の差止め(著作権法1121項)を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として所定の金員の支払を求めた事案です。 


1 被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたかについて
(1) 認定事実
ア …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
イ 被告は,本件第1書籍の初版の1万冊については,その出版・配本を開始した平成17年から4年が経過する平成20年には当然に増刷が行われるはずであったものであり,このことは原告らも承知していたと主張し,被告代表者の供述中には,これに沿う部分がある。
 しかしながら,被告において「石井式青い鳥文庫シリーズ」を制作するに当たって,画家との間で挿絵の制作依頼の交渉を行っていたのは,前記認定のとおりBであり,被告代表者が画家と直接交渉した事実はない。そして,B及び同人と交渉した画家たち(原告A2,原告A10)は,いずれも,Bは,上記絵本の制作依頼を行った当時,絵本の印刷部数は1万冊であること,及び,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する際に画家たちに対して新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を話しただけで,絵本の増刷予定の有無等の話はせず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等を確認することはなかったと供述している。
 また,「石井式青い鳥文庫シリーズ」は,前記認定のとおり,被告が,登龍館との業務提携の解消後に自社において初めて絵本を制作するという企画であり,当時,被告の社内には,絵本の制作に関与した経験を有するものがほとんどおらず,それ故に,被告の従業員ではないBに対して上記企画への協力を依頼せざるを得ない状況にあったものである。このような事情に照らすと,Bが平成16年から平成17年にかけて画家たちと交渉していた当時は,そもそも,被告において,当初の計画どおり平成174月までに上記絵本を無事制作することができるかどうかということについてすら,確実な見通しが立っていない時期であり,印刷費用の見積もり等を考慮して絵本の印刷部数(1書籍当たり1万冊)こそ決めたものの,この絵本がどの程度売れるのか,販売先の幼稚園等は次年度以後も継続して絵本を購入してくれるのかという点について,これを予測することは困難な状況にあったことがうかがえる。
 このような本件第1書籍の制作に至る経緯や,原告らは本件以前に絵本の挿絵を制作した経験がなかったことなどの事情を考慮すると,Bが原告らに本件第1原画の制作を依頼した当時,Bから絵本の増刷の有無等の話がされず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等について特段確認をしなかったとしても,格別不自然であるとはいえない
 したがって,被告代表者の上記供述は,これに反する前掲各証拠に照らし採用することができない(なお,被告代表者は,平成205月に被告代表者の経営する幼稚園の新園舎の落成式があり,原告A2がそのお祝いに訪れた際,Bから,本件第1書籍をようやく増刷することができるようになった旨の話があり,同原告もこれを喜んでいたとも供述するものの,B及び原告A2は,この事実を否定しており,他に同事実を認めるに足りる証拠はないので,同供述を採用することもできない。また,被告代表者は,Bは本件増刷に関与しており,本件増刷の事実を当初から認識していたとも供述するが,仮に,Bが本件増刷に関与していたとしても,本件増刷が行われたのは本件第1書籍の出版から3年以上後のことであり,Bが本件増刷をするに当たって,原告らにその事実をあらかじめ伝えていたことなどを認めるに足る証拠もない以上,上記事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものとはいえず,上記認定を左右するものではない。)。
ウ 被告は,原告A10及び原告A13は,本件第2原画の制作を依頼された際,これらの書籍の挿絵は顧客から特に不評なので,増刷をせずに描き直す必要がある旨,被告から説明を受けていたものであるから,少なくとも同原告らは,他の書籍(原告第1書籍)が増刷となることを知っていたはずであるとも主張する。また,被告代表者の供述及びCの供述中には,これに沿う部分がある。
 しかしながら,原告A10及び原告A13に対して本件第2原画の制作を依頼した際の被告側の担当者はBであるところ,B及び原告A10は,いずれも,上記依頼の際に他の書籍の増刷の話などはされなかったと供述する。また,被告が原告A10及び原告A13に対して本件第2原画の制作を依頼した経緯は,前記認定のとおり,原告第1書籍と同時期に発行された一部の書籍の挿絵が顧客に不評であるため,挿絵を差し替える必要が生じたというものであるから,Bから上記依頼をするに当たってその理由を説明するにしても,他の書籍の増刷予定等の話をしなければならない必然性は認められない。
 したがって,被告代表者及びCの上記供述は,これに反する前掲各証拠に照らし採用することができない。
エ 被告は,さらに,一般的に絵本の原画は出版社の買取りとなり,その版権(再版権)は当該出版社に帰属するものとして取り扱われる慣行があると主張し,被告代表者の供述及び登龍館の元従業員であるHの陳述書中には,これに沿う部分がある。
 しかしながら,被告代表者の上記供述等については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,かえって,…によれば,他の出版社の制作した絵本の中には,原画の著作権が画家(著作者)に帰属するものとして取り扱われているものが少なからず存在することがうかがえる。したがって,被告代表者等の上記供述を採用することはできない。
(2) 上記(1)アの事実関係によれば,本件第1原画の制作に当たって,原告らが被告に対して上記原画の著作権を黙示的に譲渡したと認めることはできない
 なお,…によれば,被告は,本件第1書籍を発行した後,平成18年から平成21年までの間,被告において本件原画の中から適宜選定した絵を題材としたカレンダーを制作しており,同カレンダーの制作に当たって,事前に原告らの承諾を得ることはなかったこと,被告は,上記のとおり選定された原画の作者である原告らに対して上記カレンダーを配布していたものの,原告らから,上記カレンダーの制作について抗議を受けたことはなく,むしろ,原告A10ら一部の原告からは,選定についてのお礼やカレンダーの追加配布の注文を受けていること,が認められる。
 他方,原告A2及び原告A10は,同原告らが上記カレンダーの制作について被告に特段抗議をしなかったのは,上記カレンダーは取引先等の関係者に配布するために制作されたものであって,販売目的のものではないと認識していたためであると供述し,また,原告A10は,同原告が被告に礼を述べたのは,数ある原画の中から自己の作品を選んでもらったこと及びカレンダーを送ってきたことに対して感謝の意を表したものにすぎないと供述している。そして,上記カレンダーの体裁や,同カレンダーが原告らに配布された当時,原告らと被告との間で本件増刷の問題は顕在化しておらず,両者の間に特段の問題はみられなかったことなどに照らすと,原告A10らの上記説明は,あながち不自然であるとはいえない。
 したがって,被告が原告らに対して上記カレンダーを配布していたなどの事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものではなく,同事実は,上記(1)アの認定を左右するものではない。
 また,被告は,本件画料の金額(50万円)は本件書籍の初版1万冊が販売された場合の被告の売上げの1割を超えるものであることなどから,同金額は本件原画に係る著作権譲渡の対価として低廉とはいえないと主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,@本件原画は,画家である原告らが,被告の依頼を受けて,本件書籍のために,書籍1タイトル当たり10枚の原画を新たに制作したものであること,A本件書籍は,幼児向けの絵本であり,かつ,そのすべてのページに本件原画が使用されているものであって,絵の重要性は高いといえること,B本件書籍の構成は,見開きのページの全面に本件原画を用い,見開きの右側のページの一部分に文章を挿入するというものであり,本件書籍の大部分を本件原画が占めていること,C本件書籍の単価は430円であり,初版として1万冊が印刷され,幼稚園等向けに販売が予定されていたこと,などの諸事情を考慮すると,本件画料を,原告らの主張するとおり本件書籍の初版1万冊の印刷及び販売に当たっての許諾料であると考えたとしても,特段不合理であるとはいえない。したがって,本件画料の金額等の事実は,上記(1)アの認定を左右するものではない。
(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認められる。また,被告は,原告A2から本件第1書籍を増刷しないよう警告を受けた後も,広英社に依頼して本件第1書籍の一部の増刷を行ったほか,原告らから本件訴えが提起された後も,増刷された本件第1書籍の販売を継続し,本件訴訟においても,被告は原告らから本件第1原画に係る著作権の譲渡を受けたものであるなどと主張して,著作権侵害の有無を争っていることが認められる。
 したがって,被告において,今後も,本件第1書籍を増刷して同書籍を販売するおそれがあると認められる。また,このような被告の行動に照らすと,被告において,今後,本件第2書籍を原告らに無断で増刷するおそれがあるものと認められる
 よって,原告らは,被告に対し,著作権法1121項に基づき,本件第1書籍の印刷,出版,販売又は頒布の差止め及び本件第2書籍の印刷又は出版の差止めを求めることができる。
2 原告らの損害について
(1) 著作権侵害による損害について
ア 前記1(1)で認定した事実関係によれば,被告は,原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を合計269000冊増刷したものであり,これにより,原告らは,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権)を侵害され,損害を被ったものといえる。
 また,被告は,書籍の出版事業等を業とする者として,本件第1書籍の増刷に当たり,本件第1原画の著作権の帰属について十分な検討をするとともに,本件第1原画の著作者である原告らの認識を確認するなどの調査を行えば,本件第1原画の著作権が原告らにあること(原告らから被告に著作権が譲渡されていないこと)を認識することが可能であったにもかかわらず,必要な検討及び調査を行うことなく,上記侵害行為を行ったものである。したがって,被告は,本件増刷を行ったことにつき,少なくとも過失があったというべきである。
イ 前記1(1)で認定ないし説示した,本件第1原画の制作に至るまでの経緯,石井式漢字教育における絵本(漢字仮名交じり絵本)の役割(絵本の文章部分の重要性),本件第1書籍の販売価格,本件第1書籍における本件第1原画の重要性,本件画料には原画の制作料の意味合いも含まれているとうかがえること,などの事情を総合的に考慮すると,本件第1書籍を1冊増刷するに当たって原告らが受けるべき著作権料相当額は,30円と認めるのが相当である。
ウ したがって,本件第1原画の著作権(複製権)の行使につき原告らが受けるべき金銭の額に相当する額は,別紙第1損害金計算表の「著作権侵害による損害」欄記載のとおりであると認められる。
(2) 弁護士費用について
 
原告らは,弁護士を選任して本件訴訟を追行しており,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,別紙第1損害金計算表の「弁護士費用」欄記載のとおり,上記(1)の損害額の1割に相当する金額と認められる。











相談してみる

ホームに戻る