著作権重要判例要旨[トップに戻る]







芸能人の「氏名・肖像利用権」に基づく差止請求を認めた事例
「おニャン子クラブ事件」平成030926日東京高裁裁判所(平成2年(ネ)4794 

一 控訴人らが、フジテレビが昭和6041日から放映したテレビ番組「夕やけニャンニャン」の中での募集に応じたいわゆるテレビタレントであり、「おニャン子クラブ」と命名されたタレント集団に属し、同番組に出演することを通じてその氏名・肖像が全国的に広く知られるに至った事実は当事者間に争いがない。控訴人が、控訴人商品、すなわち、被控訴人らの氏名及び肖像写真が表示してあるカレンダーを販売した事実及びその態様等に関する認定は、原判決記載のとおりである(。)
二 控訴人商品の販売行為の差止請求権等について
 原判決…を次のとおり改める。
 前記一の事実によれば、被控訴人らはいわゆる芸能人であり、その芸能人としての評価は、自己の出演、所属プロダクションやマスメディアを通じての宣伝活動等により、広く全国にその氏名・肖像が知られ、大衆の人気を博することによって高められるのであり、被控訴人らも、このように自己の氏名・肖像が知られることにより評価が高められることを望んでいるものと推認して差支えない。そして、かように氏名・肖像を利用して自己の存在を広く大衆に訴えることを望むいわゆる芸能人にとって、私事性を中核とする人格的利益の享受の面においては、一般私人とは異なる制約を受けざるを得ない。すなわちこれを芸能人の氏名・肖像の使用行為についてみると、当該芸能人の社会的評価の低下をもたらすような使用行為はともかくとして、社会的に許容される方法、態様等による使用行為については、当該芸能人の周知性を高めるものではあっても、その人格的利益を毀損するものとは解し難いところである。
 反面、固有の名声、社会的評価、地名度等を獲得した芸能人の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがあることは、公知のところである。そして、芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。したがって、右権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記のように、控訴人は被控訴人らの氏名・肖像が表記されたカレンダーを、被控訴人らに無断で販売し、将来も無断のまま販売するおそれがあるというところ、控訴人商品の一部であることが認められる(証拠)によれば、右カレンダーは、年月日の記載以外は殆ど被控訴人らの氏名・肖像で占められており、他にこれといった特徴も有していないことが認められることからすると、その顧客吸引力は専ら被控訴人らの氏名・肖像のもつ顧客吸引力に依存しているものと解するのが相当である。そうすると、被控訴人らは、控訴人の控訴人商品の販売行為に対し、前記の財産的権利に基づき、差止請求権を、また、侵害物件である控訴人商品については差止めを実効あらしめる必要上廃棄請求権を、それぞれ有するものと解すべきである。
 
控訴人は、芸能人の氏名・肖像に差止請求権等を肯定するに当たっては著作権法及び独占禁止法等が規律する特別の法領域の基本的法理に対する考慮が不可欠であるところ、これを著作権法の観点からみると、右差止請求権等を肯定することは、著作隣接権にとっての究極的な保護法益を害するものでさえある実演行為の非本来的、似而非的利用行為に、著作権に類似する無体財産権を付与するに等しいと主張する。
 もとより、法解釈において関連する法領域の法理に考慮を払うべきことはいうまでもないところであるが、著作権法によって認められているいわゆる無体財産権は、同法によって認められた格別の法的効力を有するものであるところ、芸能人が有する顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を支配する財産権に差止請求権を肯定したからといって、右差止請求権等は著作権法上の権利とは関わりなく認められる性質のもので、これをもって無体財産権を創設したに等しいとはいえない。のみならず、著作権法をみてもかかる財産権の承認を妨げる法的根拠を見出すことはできないし、両者はその成立の基礎を異にするものというべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。
 なお、独占禁止法との関係は後述するとおりであり、また、控訴人の主張は、いずれも人格権ないし人格的利益に基づく差止請求権等に対する主張であるから、判断の要をみないものである。
 そうすると、控訴人らの氏名・肖像利用権に基づく控訴人商品の販売差止め及びその廃棄を求める請求は、理由があるが、その製造行為の差止めを求める部分は理由がない。
 なお、原判決は、被控訴人らの人格権に基づく差止請求権等を認容している。しかし、前記のように被控訴人ら芸能人にあっては、その社会的評価の低下をもたらすような氏名・肖像の使用をされない限り、その人格的利益の毀損は発生しないものと解すべきところ、後記三、2に説示するように控訴人による被控訴人らの氏名・肖像の使用はいまだ人格的利益の毀損の域にまでは達していないものというべきであるから、原審が被控訴人らの人格権に基づく差止請求権等を認容した点は失当といわざるを得ない(したがって、いずれも人格権ないし人格的利益に基づく差止請求権に関する控訴人の主張は判断の要はなく、また、独占禁止法との関係は後に判断する。)。
三 損害賠償請求権について
1
 氏名・肖像利用権侵害に基づく損害賠償請求について

 (略)
 右認定の事実によれば、カレンダーに氏名・肖像を使用させる場合、被控訴人らはフジテレビとの関係においては前記認定のような特別な経緯から通常と異なる算定方法により使用料を受け取っていたが、かかる特別の事情のない業者にカレンダーヘの氏名・肖像の使用を許諾する場合の使用料は、前述したような通常の算定方法によるのが相当というべきであるから、これによれば、被控訴人らはそれぞれ控訴人に対し、使用料対価相当の損害賠償金として各自15万円及び不法行為後の日である昭和61108日から支払い済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有するものというべきである。
 控訴人は、かかる財産的価値に不法行為上の保護を与えることは、不法行為の名において、氏名・肖像の顧客吸引力という無体物の上に特別の財産権を承認すること、すなわち、1種の無体財産権を新設することにほかならないから許されないなどと主張するが、かかる主張が失当であることは、既に差止請求権等に関する判断において説示したところに照らして明らかである。
2 人格的利益の侵害に基づく損害について
 原判決…までを次のとおり改める。
 原判決は、控訴人による氏名・肖像の無断使用により人格的利益の侵害を受けたとする損害賠償請求を認容するので、この点について判断するに、…によれば、控訴人の販売に係るカレンダーには、被控訴人らの実演肖像写真が表示されていることが認められるが、その表示態様は、格別、被控訴人らの人格を毀損するおそれがあるものとは認められない。そして、前記当事者間に争いがない事実によれば、被控訴人らは、昭和61年当時、人気タレント集団である「おニャン子クラブ」の構成員であったことからすると、前記のような態様の氏名・肖像の表示それ自体によって人格的利益の侵害を受けたものとは認めがたく、本件証拠を精査してもかかる利益の侵害を受けたことを窺わせる証拠はない。かえって、被控訴人らは、前記のようにその氏名・肖像の使用許諾を専らフジテレビに一任していたことに如実に現れているように、前記のような態様の使用については、経済的利益の確保以外については格別の考慮を払っていなかったことが窺われることからすると、かかる態様による無断使用による被侵害利益の実質は経済的利益の侵害であり、特段の事情がない限り、右経済的被害が填補されれば、損害は回復されたものと解するのが相当である。
 そうすると、被控訴人らの人格的利益の侵害の事実が認められないことに帰するから、この点に関する被控訴人らの請求を認容した原判決は失当である。この点を指摘する控訴人の主張は正当というべきである。
四 独占禁止法違反の主張について
 原判決…を次のとおり改める。
 控訴人は、被控訴人らの自己の氏名・肖像のカレンダーへの排他的独占的使用許諾権の行使は、必然的に、フジテレビ以外の事業者の当該カレンダー製造販売活動を排除し、右会社をして当該カレンダーの取引分野における競争を実質的に制限する事業活動を行わしめているから、独占禁止法3条前段に違反すると主張する。
 そこで、右主張について検討するに、被控訴人らが独占禁止法21項所定の事業者に該当するとしても、同法3条前段の私的独占の禁止に違反するというためには、被控訴人らの前記使用許諾行為が「他の事業者の事業活動を排除し、又は支配する」(同法25項)ことを要するので、この点を検討してみるに、…によれば、フジテレビは被控訴人らからの委託に基づき、同人らの氏名・肖像等の使用許諾業務を独占して行っている事実が認められるところであるが、かかる独占的使用許諾委託契約は、被控訴人らが財産権の主体として当然に有する使用許諾権の行使をフジテレビに委ねたというにすぎず、かかる行為があったからといって、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配するものでないことはいうまでもないところである。したがって、控訴人の前記主張は、独自の見解であり、その余の点について判断するまでもなく、採用できない。
五 クリーンハンドの法理違反の主張について
 原判決…に改行して、次のとおり付加する。
 控訴人は、被控訴人らの氏名・肖像使用許諾契約は、独占禁止法3条前段の私的独占に該当する行為の共謀又は幇助に当たる行為であるとし、被控訴人らは右違反行為に加功し、その事業による利益を利得する事業をしている者であるから、右共謀、幇助によって排除を受けている控訴人の同種の実演写真等の使用に対する本件差止請求は、違法行為の共謀、幇助者に、その違法行為の法律効果を認めるに等しい結果となって、クリーン・ハンドの原則に反すると主張する。
 しかし、被控訴人らの氏名・肖像使用許諾契約が独占禁止法3条前段に該当しないことは前項に述べたとおりであるから、右主張は既に前提において誤っており、失当である。
 また、控訴人は、被控訴人らは、所属プロダクションによりパブリシティーの価値を奪取されているのであるから、所属プロダクションに対してパブリシティーの権利の奪取の差止めを求めるべきであり、これを黙認しながら控訴人に対してのみ、人格的利益の物権的排他性を主張するのは、クリーンハンドの原則に反し許されないと主張する。
 しかし、被控訴人らと所属プロダクションとの関係はともかくとして、そもそも控訴人は、被控訴人らの固有する財産的権利を同人らに無断、かつ、無償で自己の営利目的に供し、利益を得ていたものであり、しかも、右行為は正当であるとの主張を維持していることはその主張自体から明らかであるから、かかる行為に対する被控訴人らの本訴請求がクリーンハンドの原則に反し許されないとは到底解されず、右主張は採用の限りではない。
 
さらに、控訴人は、人格権としての排他性を根拠とする差止請求権等を、人格的利益と無関係な経済的利益の確保のために認めることは、権利の乱用であり、クリーンハンドの法理に反するとも主張するが、前記説示のとおり、人格権に基づく差止請求権等を肯定したものではないから、右主張は前提において失当である。











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