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韓国音楽著作権管理団体の信託契約約款の解釈(信託譲渡の有無)が問題となった事例
KOMCA著作権信託契約事件」
平成240531東京地方裁判所(平成21()28388 

【コメント】本件は、「本件各楽曲」を作詞又は作曲した原告らが、被告らが、本件各楽曲のデータを作成し、これを被告らの製造に係る業務用通信カラオケ装置の端末機に搭載されたハードディスクに記録し、又は当該端末機を通信カラオケリース業者等に対して出荷した後に発表された本件各楽曲(新譜)のデータを被告らの管理するセンターサーバに記録し、当該端末機にダウンロードさせた行為が、本件各楽曲について原告らが有する複製権(著作権法21条)又は公衆送信権(同法231項)を侵害する旨主張して、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案です。
 原告らは、いずれも大韓民国(韓国)の国籍を有する作詞家又は作曲家です。そして、原告らは、社団法人韓国音楽著作権協会(「KOMCA」)との間で、KOMCAが制定した所定の著作権信託契約約款に基づいて、原告らの作詞又は作曲に係る楽曲について著作権信託契約(以下「本件各信託契約」と総称する。)を締結していました。
 なお、KOMCAと社団法人日本音楽著作権協会(「JASRAC」)は、平成19年(2007年)1210日、KOMCAが管理する韓国の楽曲の日本国内における管理をJASRACが行い、JASRACが管理する日本の楽曲の韓国国内における管理をKOMCAが行う旨の相互管理契約(以下「本件相互管理契約」という。)を締結し、同契約は、平成20年(2008年)11日に発効していました。 


1 本件の準拠法について
 本件は,韓国人である原告らが,日本法人である被告らに対し,原告らが作詞又は作曲した本件各楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償を求める点において,渉外的要素を含むものであるから,準拠法を決定する必要がある。
 本件各楽曲は,原告らが作詞又は作曲した音楽の著作物であり,その著作者である原告らが韓国人であるところ,日本と韓国は,「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(昭和5036日条約第4号)」(以下「ベルヌ条約」という。)の「同盟国」であるから,ベルヌ条約3(1)()及び著作権法63号により,本件各楽曲は,我が国の著作権法の保護を受ける。
 原告らの著作権侵害に基づく損害賠償請求については,その法律関係の性質が不法行為であると解されるから,法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号。以下「通則法」という。)附則34項により,なお従前の例によることとされた同法による改正前の法例11条によってその準拠法が定められることになる。そして,本件において,「原因タル事実ノ発生シタル地ノ法律」(同条1項)は,本件各楽曲の楽曲データを複製し,かつ,公衆送信する行為が行われたのが日本国内であること,我が国の著作権法の保護を受ける著作物の侵害に係る損害が問題とされていることから,日本の法律と解すべきであり,日本法が適用される
 さらに,本件においては,原告らとKOMCAとの間の信託譲渡に伴う本件各楽曲の著作権の帰属について争いがあるところ,信託譲渡に伴う著作権の帰属について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,信託譲渡の原因関係である法律行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきものと解する。
 すなわち,本件の著作権の信託譲渡の原因行為である法律行為の成立及び効力については,通則法附則33項により,なお従前の例によることとされた同法による改正前の法例7条(以下,単に「法例7条」という。)によって適用されるべき準拠法を決定し,本件著作権の譲渡(移転)の第三者に対する効力に係る物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,保護国の法令である我が国の著作権法が準拠法となるものと解される(東京高等裁判所平成13530日判決(平成11年(ネ)第6345号)参照)。
 そして,原告らとKOMCAが著作権信託契約約款に基づき締結した本件各信託契約は,韓国人である原告らと韓国の著作権管理団体であるKOMCAが韓国で締結した契約であり,原告らとKOMCAとの間には,著作権信託契約の成立及び効力についての準拠法は韓国の法律とする旨の合意が存在するものと認められるから,法例71項により,その準拠法は,韓国の法律である
 以上を前提に,本件の各争点について判断する。
2 争点2(本件相互管理契約発効前における本件各楽曲の著作権の信託譲渡の有無)について
 本件の事案に鑑み,争点2から判断することとする。
 被告らは,原告らが,KOMCAとの間で,KOMCAの著作権信託契約約款に基づいて,原告らの作詞又は作曲に係る楽曲について本件各信託契約をそれぞれ締結したことにより,日本を含む全世界における本件各楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡され,原告らは本件各楽曲の著作権を喪失した旨主張する。
 そこで,以下においては,本件に適用のある著作権信託契約約款について検討した上で,本件相互管理契約発効前に原告らが日本を含む全世界における本件各楽曲の著作権を信託譲渡したかどうかについて判断する。
(1) 本件に適用のある著作権信託契約約款
ア 前提事実
() KOMCAは,昭和48年(1973年)37日,その会員との間で締結する著作権信託契約の内容を定めることを目的として,著作権信託契約約款(昭和48年約款)を制定し,その後,著作権信託契約約款は,数次にわたり変更がされ(昭和61年約款,昭和62年約款,平成3年約款,平成5年約款,平成7年約款,平成11年約款,平成14年約款),平成21318日から,平成21年約款が施行されている。
() 原告らは,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款(原告5,原告8及び原告9は昭和48年約款,原告6及び原告7は昭和61年約款,原告1及び原告3は昭和62年約款,原告4は平成11年約款,原告2は平成14年約款)に基づいて,原告らの作詞又は作曲に係る楽曲について本件各信託契約をそれぞれ締結した。
イ 本件に適用のある著作権信託契約約款について
 本件各約款には,信託の効力の発生時期に関する特段の定めがないことからすると,委託者と受託者との間で著作権信託契約が締結されたことによって信託の効力が生じるものと解されるから,信託の対象となる信託財産の範囲を定める約款は,原則として,原告らがKOMCAとの間でそれぞれ本件各信託契約を締結した時点において適用されている約款である。
 一方で,原告らの本訴請求は,被告らに対し,被告らが平成4年又は平成6年から平成191231日(本件相互管理契約の発効日の前日)までの間に行った本件各楽曲の著作権侵害行為の不法行為に基づく損害賠償を求めるものであり,上記期間内の各侵害行為が行われた各時点における本件各楽曲の著作権の帰属が問題となるから,上記期間の終期よりも後に定められた平成21年約款は,本件では適用されないものと解される。
 ところで,平成14年約款234項は,同条1項の規定により著作権信託契約約款を変更した場合について,KOMCAがその変更を公告した日から3か月が経過しても,委託者が解除権の行使をしないときには,「第1項の変更事項を委託者が承諾したことと見做す,本約款施行以前の規定によって信託契約を締結した委託者は別途の手続きなしに本約款によって信託契約が締結されたことで見做す。」と定めている。これと同趣旨の規定が,昭和62年約款(254項),平成11年約款(234項)にも存在することからすると,本件では証拠提出のない平成3年約款,平成5年約款及び平成7年約款にも,同趣旨の規定が存在するものとうかがわれる。
 そして,前記ア()のとおり,原告らは,KOMCAとの間で,それぞれ昭和48年約款,昭和61年約款,昭和62年約款,平成11年約款又は平成14年約款に基づいて本件各信託契約を締結したものであるが,平成14年約款に至る各約款に変更があった際に公告された変更事項に異議を述べて,著作権信託契約の解除権を行使することをしていないこと(弁論の全趣旨)に照らすならば,原告ら(ただし,平成14年約款に基づいて契約締結をした原告2を除く。)は,KOMCAとの間で,各約款の変更事項をその変更の都度承諾したものとみなされ,平成14年約款に基づいて著作権信託契約が締結されたものとみなされるので,平成14年約款が施行された以降は,すべての原告らとの関係において同約款が適用されることになる。
 そうすると,本件においては,原告らとKOMCAとの間の本件各信託契約の契約内容を規律する著作権信託契約約款が平成14年約款であることを前提に検討して差し支えないものと解される。
(2) 本件各信託契約により信託譲渡された著作権の対象範囲(本件各楽曲の日本における著作権の信託譲渡の有無)
ア 平成14年約款の解釈等
() 平成14年約款は,「本約款は音楽著作物の著作権を委託する作詞者,作曲者,編曲者,音楽出版者等著作権を所有している者を″委託者(甲)″といい,音楽著作物の著作権を保護してその利用の円滑をはかるために設立された社団法人韓国音楽著作権協会を″受託者(乙)″といい,著作権信託契約の内容を決めることを目的とする。」(1条),「委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契約期間中信託財産として受託者に著作権を移転して,受託者は委託者のために信託著作権を管理してこれによって得られた著作物使用料等を委託者に分配する。」(21項),「委託者はいかなる場合にも第1項によって受託者に信託した著作物一体を第三者に利用承諾することができない。」(同条5項),「受託者は外国地域に対する信託著作権の管理を外国著作権管理団体等に再委託することができる。」(6条),「著作物使用料は受託者が主務官庁の承認を受けた著作物使用料徴収規定及び分配規定によって徴収し分配する。」(7条)と規定し,また,「委託者は信託著作権に対して民事,刑事上の訴訟等を提起できず,受託者が提起した訴訟等に関して合意または取下げ等ができない。」(11条)と規定している。
 これらの規定は,平成14年約款に基づいて締結された著作権信託契約においては,委託者は,委託者が現に保有する音楽著作物の著作権及び将来保有することになる同著作権を受託者であるKOMCAに信託譲渡し,KOMCAは,これらの著作権を信託財産として委託者のために管理し,徴収した著作物使用料等を分配するものとし,外国地域に対する管理においては,自ら管理するだけではなく,外国著作権管理団体等に再委託することによって管理することができるものとし,一方,委託者は,KOMCAに信託譲渡した著作物を第三者に利用許諾することができず,同著作物の著作権に関し民事訴訟等を提起することができないことを定めたものと解される
 加えて,平成14年約款には,21項の規定により信託譲渡される著作権の範囲及び内容を制限することを定めた明文の規定がないことを併せ考慮すれば,上記信託譲渡される著作権は,韓国国内及び国外を問わず,委託者が現に保有し,将来保有することになるすべての著作権を意味するものであって,地域的な限定はないものと解される
 このような解釈は,@KOMCA作成の平成22年(2010年)63日付け意見書に,本件各約款に基づきKOMCAに信託されている著作権は,韓国国内の著作権のみならず,KOMCAが相互管理契約を締結している著作権管理団体が存在しない外国を含む全世界の著作権であり,日本に関する著作権についても,JASRACとの本件相互管理契約の発効前から,KOMCAが本件各約款に基づき保有しており,委託者が保有していたものではなく,当該委託者との間で,本件相互管理契約締結後に,別途の追加的な契約や合意がされたことはない旨の記載があること,AKOMCAは,本件相互管理契約発効前の平成163月ないし平成181月までの間,日本の会社3社(タニー,ソフトバンクメディア,アミュー)との間で,KOMCAが委託者から信託を受けた音楽著作物について,それら音楽著作物の一定の態様での使用を許諾する旨の「音楽著作物の使用に関する契約」を締結し,会員から信託譲渡された著作権を行使していることにも合致するものである。
 (略)
() 以上のとおり,平成14年約款は,信託譲渡の対象となる信託財産の範囲について,地域的なものを含めて何らの制限をすることなく,委託者が現に保有するすべての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同著作権をその対象とすることを定めたものと解される。
 また,平成14年約款21項と同様の規定が,昭和48年約款2条,昭和61年約款2条,昭和62年約款21項,平成11年約款21項にも置かれており,これらの各約款にも,信託譲渡される著作権の範囲及び内容を制限することを定めた明文の規定がないことに照らすならば,上記各約款は,平成14年約款と同様,委託者が現に保有するすべての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同著作権をその信託譲渡の対象とすることを定めたものと解される。
 そうすると,原告らが,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款(昭和48年約款,昭和61年約款,昭和62年約款,平成11年約款又は平成14年約款)に基づいて本件各信託契約をそれぞれ締結したことにより,本件相互管理契約発効前の各契約締結時点で,原告らが保有するすべての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同著作権が原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められ,その信託譲渡の対象には本件各楽曲の著作権も含まれるから,本件各楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められる
イ 原告らの主張について
 原告らは,@著作権信託契約約款に基づく本件各信託契約を締結した当事者である原告ら及びKOMCAの意思は,著作権信託契約約款の「業務管轄地域」に関する規定(昭和62年約款10条,平成11年約款10条,平成14年約款10条,平成21年約款11条。以下「業務管轄地域規定」という。)に「業務管轄地域」として記載された地域に限定された著作権を信託譲渡の対象とするものである,A業務管轄地域規定によれば,KOMCAは,相互管理契約を締結した著作権管理団体が存在しない外国地域においては,そもそも業務を遂行することができず,委託者である原告らが,KOMCAが業務を遂行することのできない外国地域における著作権まで信託譲渡するとは考えられないから,KOMCAの業務管轄地域外における原告らの著作権は,本件各信託契約の締結後も,原告ら自身に留保されており,本件相互管理契約発効前には,日本における本件各楽曲についての著作権は原告らからKOMCAへ信託譲渡されていない旨主張する。
 しかしながら,以下のとおり,原告らの主張は理由がない。
() 平成14年約款の業務管轄地域規定(10条)は,柱書きで「受託者は次の地域で業務を遂行する。」とし,「次の地域」として,「1.韓国内」,「2.外国著作権管理団体等に管理を委託した場合においてその外国著作権管理団体等の業務執行地域」と規定している。
 これと同様の業務管轄地域規定が,昭和62年約款10条,平成11年約款10条にも置かれている(なお,昭和48年約款及び昭和61年約款には,このような業務管轄地域規定が存在しない。)。
 原告らは,業務管轄地域規定によれば,KOMCAは,相互管理契約を締結した著作権管理団体が存在しない外国地域においては,そもそも業務を遂行することができず,委託者である原告らが,KOMCAが業務を遂行することのできない外国地域における著作権まで信託譲渡するとは考えられない旨主張する。
 しかしながら,平成14年約款には,KOMCAが外国著作権管理団体等に管理を委託していない場合に,当該外国地域においてKOMCAが業務を遂行することができないことを明示した規定は存在せず,また,「外国地域に対する管理」に関する6条は,「受託者は外国地域に対する信託著作権の管理を外国著作権管理団体等に再委託することができる。」というものであり,その文言上,あくまで,KOMCAが信託譲渡を受けた著作権を,外国地域での管理のために外国著作権管理団体等に再委託することができる旨を規定しているにすぎず,KOMCAが,ある外国地域において信託著作物を管理するに当たって,当該外国地域の著作権管理団体等に管理を委託しなければならないことを義務付けたり,KOMCAが当該外国地域において著作権を自ら行使することを禁じているものとはいえない。
 また,実際にも,KOMCAは,本件相互管理契約発効前の平成163月ないし平成181月までの間,日本の会社3社の間で,KOMCAが委託者から信託を受けた音楽著作物について,それら音楽著作物の一定の態様での使用を許諾する旨の「音楽著作物の使用に関する契約」を締結し,会員から信託譲渡された著作権を行使していることは,前記ア()のとおりである。
 さらに,原告らが主張するように,業務管轄地域規定によって,信託譲渡の対象となる著作権の範囲がKOMCAの業務管轄地域におけるものに限定されるとの解釈を採用した場合には,例えば,韓国国内で管理をしていた信託著作物について,KOMCAが外国地域にある著作権管理団体等にその管理を委託する旨の契約を新たに締結する場合には,委託者とKOMCAとの間で,当該外国地域における著作権の著作権信託契約を改めて追加的に締結しなければならなくなるものと解されるが,そのような手続は煩雑であるし,実際に原告らその他のKOMCAの会員(委託者)とKOMCAとの間で,そのような追加的な著作権信託契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると,平成14年約款10条は,KOMCAが外国著作権管理団体等に管理を委託していない場合に,当該外国地域においてKOMCAが業務を遂行することができないことまでを定めたものと解することはできない。結局のところ,平成14年約款は,KOMCAが,外国著作権管理団体等に管理を委託せずに,自ら外国地域で著作権を行使することを禁止せず,これを許容していながら,そのような権利行使をする場合と業務管轄地域規定との関係についての明確な定めを欠いている点で不備があるといわざるを得ないが,このことは,上記認定判断を左右するものではない。
 (略)
エ 小括
 以上によれば,原告らが,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款に基づく本件各信託契約をそれぞれ締結した時点で,日本を含む全世界における著作権が,原告らからKOMCAに信託譲渡され,これにより本件各楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められる。
(3) まとめ
 以上のとおり,原告らは,本件相互管理契約発効前に本件各楽曲の著作権を本件各信託契約に基づいて信託譲渡し,これを保有していなかったから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告らに対する本件各楽曲の複製権又は公衆送信権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない
 
なお,付言するに,本件各楽曲の著作物使用料や使用料相当の損害金等の収受及びに分配の問題は,本来,原告らとKOMCAとの間の本件各信託契約の債務の履行に関する問題であり,仮に本件相互管理契約の発効前の日本における本件各楽曲の利用について著作物使用料等の未収受があるとすれば,それは,本件各信託契約に係る法律関係の下において原告らとKOMCAとの間で解決すべき問題であると解される。











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