著作権重要判例要旨[トップに戻る]







一般不法行為の成否-否認事例(29)-
「錦絵・浮世絵世相史事件」平成240705日大阪地方裁判所(平成23()13060 

【コメント】本件は、原告が、被告に対し、@被告が執筆した「江戸のニューメディア 浮世絵 情報と広告と遊び」と題する単行本(「本件単行本」)の記述、A被告が執筆した「大江戸浮世絵暮らし」と題する文庫本(「本件文庫本」)の記述、及びB被告が出演した「NHKウィークエンドセミナー 江戸のニューメディア 浮世絵意外史」と題するテレビ番組(「本件番組」)での発言について、いずれも原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し、又は一般不法行為が成立すると主張して、損害賠償金等の支払を求めた事案です。 

 一般不法行為の成否について
(1) 原告は,原告の祖父P3は,長年の調査・研究により,「浮世絵版画は美術品として作られたものではなく,かわら版から発展したものであり,江戸時代の庶民の玩具であり,幕末期以降は事件報道を行うことにより一種のジャーナリズム的役割を果たした」旨のユニークな結論にたどりついたところ,被告は,上記P3の労苦にただ乗りして,名声を上げ,かつ経済的利益を上げたことから,不法行為が成立すると主張する。
(2) この点,著作権法は,著作物の独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているが,同法下では,思想又は感情を創作的に表現したものについて,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利が認められる一方,何びとかが,何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を公表した後に,それと同一の事実について同一の見解を表明することは禁止されていない。このような著作権法の規定に鑑みると,ある著作物の中に,先行著作物と何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を共通にする部分があったとしても,創作的な表現としての同一性が認められないのであれば,著作権法が規律の対象とする権利あるいは利益とは異なる法的に保護された利益を違法に侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
 そこで検討するに,被告著作物部分が,原告記述部分の複製又は翻案に当たらないことは既に述べたとおりである。原告は,被告において,被告著作物部分が原告記述部分に依拠することを示さず,「近世錦繪世相史」(原告著作物)を参考文献として示さなかった点を指摘するが,本件において主張,立証されたところを見ても,被告著作物と「近世錦繪世相史」(原告著作物)とは,その具体的論述の内容や順序において相当程度に異なっているから,著作権法上の引用には当たらず,出所を明示すべき場合にも当たらない(著作権法321項,48条)。両著作物の間で浮世絵又は錦絵に対する理解ないし位置付けという点で共通する面があることは否定できないが,このような事実関係の下で不法行為の成立を認めることは,結局,著作権法によって禁止されていない歴史的事実及びそれに対する見解の表明をもって違法とするに等しく,採用できない。
 また,原告は,著作権とは性質の異なる経済的利益を問題とするようでもあるが,P3が,上記歴史的事実及びそれについての見解を公表したのは,昭和10年頃に発行された「近世錦繪世相史」においてであって,本件番組の放送(平成3年)並びに本件単行本及び本件文庫本の発行(平成4年,平成14年)までには少なくとも60年弱が経過していることからすれば,これら被告の行為が,原告の何らかの経済的利益を侵害するものであったとは認められない。さらに,原告は,被告が名声を上げたことを問題とするようであるが,本件番組の放送並びに本件単行本及び本件文庫本の発行によって原告の何らかの名誉等が侵害されたとも認められない。
(3) したがって,本件において,原告の法的保護に値する利益が違法に侵害されたとは認められず,一般不法行為も成立しない。











相談してみる

ホームに戻る